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終局の続き

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(壱)長い夜

 
前書き
2006年執筆の古い作品です。シンちゃんの未練が生んだ【終局の続き】がテーマになっています。一見、本編準拠のように見えますが、その実全然違う話になっています 

 



アスカ、再び <noch einmal von vorne anfangen.>












――――――ホテルのロビーのような広い部屋に、黒服にサングラスの男が一人きり・・・・受話器を手に、何者かと通話していた





『・・・そうだ・・・その問題に関しては既に委員会と政府に話はつけてある。計画のメドは、君の持つアダム如何による・・・・・・ああ、全ては予定通りだ・・・・』



















            (壱)長い夜

















――――――南シナ海にて。月明かりに照らされた太平洋艦隊が、静まり返った夜の海をゆっくりとすべってゆく。







『あ~あ、つまんない。もう三ヶ月も船で揺られてるんだもの。退屈で死にそうだわっ』






ニミッツ級と思しき大型空母のデッキの上に仰向けになりながら、彼女、惣流・アスカ・ラングレーはこぼしていた。


彼女は、マルドゥック機関が選んだ二番目の適格者、エヴァンゲリオン弐号機パイロット、セカンド・チルドレンだった。






ドイツで竣工した初の正式タイプ(プロダクションモデル)である弐号機の日本での就役が決定したのは今から4カ月前の事。





次々と襲来する使徒に対抗するための戦力補強・・・・・・・というのがネルフ・・・・いや、碇ゲンドウの委員会に対する要請であったが、それは付随的な要因に過ぎず、真の目的は他にあった





いずれにせよ、エヴァ搬送をパイロット抜きで行うわけにはいかなかったため、彼女もドイツから長旅に付き合わされる羽目なっていたのだが、もうウンザリといった様子だった。




ヴィルヘルムスハーフェンを出港する時も






『ずえ――――――――ったいに飛行機で行くっ!!』






と言い張っていたのだが、加持が弐号機搬送に随伴すると聞き、渋々了承したのだった





実際、長期の船旅というものは実に退屈なものである。目新しいのはせいぜい初日だけで、2~3日もすると海ばかりの景色にうんざりさせられる。


アスカのような跳ねっ返りには、とても耐えられるものではなかった





『食べ物も飽きたし、シャワーも一日一回しか浴びれないんだもの・・・・もうサイアクっ!』





出航直前に継母に持たされた山のようなおやつが唯一の楽しみだったのだが、それもとうに底をついていた








それでもこの船旅に同行した理由は、やはり加持にあった




極東の島国から来たというその男は、アスカが物心ついた頃からセカンド・チルドレンのお目付け役として何かと世話をやいてくれていた。


アスカの心の裏側をそれとなく理解し、その強烈な自尊心を受け止めやさしく包み込む事が出来るのは彼だけだった。




彼はいつも飄々として一見軽そうに見えるのだが、加持が傍にいると、不思議とトラブルに巻き込まれる事がなかった。


ごくたまに何か問題が起きたとしても、彼がほんの少し動くだけでまるで何事もなかったかのようになる。





《・・・・アタシ・・・加持さんに守られてる・・・》





そうアスカは実感する。両親の愛情が希薄だった事もあり、アスカは誰よりも加持を信頼し懐いていた。





それに・・・・・・彼は顔が良かった。幼い頃から身近に加持を見て育ってきただけに、他の男はどうしても見劣りしてしまう。


年頃になるに連れて、アスカの中で加持の存在が“保護者”以上の意味を持つようになったのも無理からぬ事だった




となれば、誰にも邪魔されずに加持と長時間ふたりきりでいられるのはまたとないチャンスだった。












・・・・月が・・・・甲板に寝そべる二人を照らしていた・・・・












《今夜こそは・・・・なんとしても加持さんをモノにしなくちゃ・・・・》





日本に着くまでの間に、何とか加持との間に“既成事実”を作ろうと企むおませな碧眼の少女は、まだほんの13才だった





そんなアスカの気持ちを知ってか知らずか、加持はいつもこの小さなレディのアタックをそれとなくかわしていた。


こと女性関係に関しては浮名に暇がない彼だけに、アスカの恋の駆け引きなど児戯に等しかった




・・・・・・それに・・・・・




悲しいかな、アスカは話題を“闘い”に振ると簡単に釣られてしまう・・・・例え相手が愛しき加持であったとしても、勝負事になると目の色が変わる


加持にしてみれば、アスカの追撃をかわす事はネコじゃらしでネコをあしらうようなものだった









『・・・これはこれは・・・お姫様はずいぶん退屈と見えますな・・・・』




『・・・まあね・・・・まぁ、もっとも加持さんがアタシのお相手をしてくれるんだったら、退屈しなくても済むんだけどなぁ♪』





それとなくモーションをかけるアスカ。駆け引きと言うより、直球である。





『俺が?・・・・チェスの相手はしてるだろ?』



『もう、チェスのお相手じゃないってばあ!』



『126戦やって126連敗・・・・少しは手加減してくれよ・・・』




加持はアスカの自負心をくすぐる




『ふふっ、だって加持さん弱いんだもの☆』



『チェスじゃアスカにかなわないからな・・・・将棋だったらいいぞ?』



『今日はパス・・・・まだ加持さんに勝つ方法が見つかってないんだもん☆』





アスカはチェスの世界では『ein brachliegendes schoenes Maedchen.(眠っている美少女)』の異名で知られた存在である。


アスカ9才の時、勉強の息抜きでたまたまネット対戦した相手を下した事で一躍注目を浴びた


その相手とは、世界チャンピオンよりも強いと言われるチェス専用スーパーコンピューター『DEEP DUEL』であった。



オリンピック出場のオファーもあったが




『ただのゲームに入れ込む程ヒマじゃないわ!』




と、一蹴したという。


周囲の落胆振りは想像に難くない。確かにこの小さな美しき天才を引き込めたら、チェス界がどんなに華やぐだろう。


だがアスカにとって、チェスは加持との余暇を楽しむための、ただの暇つぶしのボードゲームに過ぎなかった




そのアスカが、『将棋』では加持に全く歯が立たない。普通チェスで強ければ、将棋でもある程度強いものである。


加持もアマ三段の腕前であったとはいえ、その程度では相手にならないハズなのだが・・・・




そこにこそ、“アスカ”という人間が端的に表れていた。








『持ち駒を使わないからさ・・・・何故使わないんだ?』








『だってぇ・・・・・捕虜なんて使えるわけないじゃない!いつ裏切られるかわかったもんじゃないわっ!』



『・・・・いくらアスカでも、それは無理ってもんさ・・・それじゃあ、いつまでたっても勝てないぞ・・・』



『勝てるわよっ!!!』





それは無理だった。





将棋は、相手から取った持ち駒を自分の駒として盤上に打ち直すことが出来る為、チェスとは比較にならない無限の変化と選択肢が生まれる。


アスカは自分が持ち駒を使わない事を前提に加持の差し手を読むのだが、歩の交換に応じただけでいきなり劣勢に立たされる



プログラムでチェスの世界チャンピオンは創れても、将棋の名人は創れない。無論アスカもそのことは十分承知している。



なのにアスカは、将棋が取った駒を再利用出来るところが気に入らない。





『裏切るなんて、美しくないわ・・・・趣味じゃない・・・』





それが“裏切り”行為と重なって見えるらしいのだが、何故アスカがその事に異様に神経を尖らせるのか・・・・・アスカを幼い頃から見てきた加持でさえ、その理由はわからなかった




・・・・しかも





アスカはタダでは転ばない



盤上に放たれた駒は、マジックで一つ残らず






『Verraeter!!(裏切り者!!)』






と、したためられた。


最も悲惨だったのは加持に取られた後にアスカを投了に追い込んだ飛車だった。

裏切りと敗北の悔しさで顔を真っ赤にしながら『負けました』と言って投了した後、加持のグラスに注がれたスコッチの中に飛車を放り込み、火を放った。



さすがの加持も、これにはびっくりした。


あわてて火を消し止めたものの、飛車は黒焦げの焼死体となっていた





“裏切りは万死に値する”





それ以来、アスカは二度と飛車を使わなくなった・・・・というか、飛車は一個しかなくなってしまったのだが。


他の駒も、一局打つたびにアスカか烙印を押すので、王将以外の駒は皆“耳なし法一”のようになってしまい、この三ヶ月間でもはやどれが何の駒だか見分けがつかなくなっていた






『戦いは、勝つか負けるかよっ!・・・敵の軍門に降ったら潔く首を刎ねられるべきだわっ!!』






鼻息を荒くするアスカに、加持ははぁと溜息をつく



《・・・やれやれ・・・それじゃあ“お姫様”じゃなくて“ハートの女王様”だよ・・・》


その度に加持は苦笑した。だがこのようなアスカの奇行を笑って受け止められる自分を不思議にも思っていた。並みの男ではとても付き合いきれないだろう。


《・・・・何故だろうな・・・・アスカが何をしても、まるで怒る気がしない・・・》























『・・・・静かだな・・・・』





加持は、子供の相手をするのに少し疲れたようだった。寝返りを打ち、アスカに背を向ける。

目の前には、夜の海に反射した月の灯りが波の間に間にゆらゆらとゆらめいていた





《・・・・将棋の・・・駒・・・・か・・・・・》





”裏切り者!!”





・・・アスカの言葉が加持の心に突き刺さる。





《・・・考えてみれば、俺の人生は裏切りの連続だったような気がするな・・・・いや・・・今も、そうか・・・・》





特務機関ネルフ 特殊観察部所属 加持リョウジ・・・・同時に日本政府内務省 調査部所属 加持リョウジ・・・・・そして、ある人物を監視する為にゼーレの密命を受けネルフに送り込まれた彼は、3つの立場を揺れ動く三重スパイであった・・・・

彼が“動く”という事は、いずれかの組織の密命を受けている事を意味し、同時にそれは他の二つの組織を裏切っている事でもある

・・・・・・そして今回の船旅は、彼にとってもう二度と後戻りする事の出来ない所へ“踏み出した”危険な片道航路だった





《・・・贖罪・・・・・真実・・・・・・俺は・・・・本当にこれでよかったのか?》








迷いは、捨てたはずだった。








なのに、日本に近づくにつれてアイツの事ばかり頭に浮かぶ・・・





決意が・・・揺らぐ





アイツと暮らした日々・・・・薄汚れた自分の人生の中で、そこだけが輝いていた







『・・・もう一度・・・・』







一瞬そんなことを考えて、すぐに打ち消す


そんな事は、アイツと暮らしている時に何度も考えた事だ


どんなに激しく求め合っても、どんなに忘れようとしても、忘れる事が出来ない・・・・



事が済み、疲れ果てて自分の腕の中で寝息を立てるアイツ・・・・そんな幸せの中にあっても、ふと気がつけば、枕元に立っている亡霊が自分を睨んでいるような気がする・・・・











”兄ちゃん・・・・どうして僕たちを売ったの?”











『・・・・すまない・・・』





・・・・何も・・・・・言い返せなかった・・・・・





その朝、加持は彼女のアパートから姿を消した


そして、他の女を手当たり次第に口説き、そして快楽に溺れるままに抱いた







・・・・・アイツを忘れるために・・・・







・・・・・嫌われる・・・ために・・・・








《・・・・・俺は・・・幸せになってはいけない人間なんだ・・・・》








この日を境に加持はある“決意”をし、自らを死地へと追い込んでゆく事になる・・・・





アスカに近づき、お目付役の任に就いたのもこの日の為に他ならなかった・・・・だがそんな事とは知らず、アスカは自分を信頼しなついてくれている・・・・


自分の行動の顛末は、そう遠くない将来においてアスカを裏切り、傷つけるとわかっている・・・・・それでも、加持は自分を止められなかった






《・・・もうすぐ日本に着く・・・・・・葛城・・・・・・俺は・・・・・》






かつて恋人と呼んだその女性の顔が目に浮かびかけた・・・











ふと、目の前が暗くなる





目の前の月に浮かんでいた微笑が、“あどけない天使”へと変わる。


暗闇の中で、二つのアクアマリンの宝石がきらきらと輝く・・・・鼻先がつきそうな位に近づき、甘い吐息が口元をくすぐる・・・・




不覚にも、加持はドキリとする





『・・・無視されるなんていや・・・・お願い・・・アタシを・・・見て・・・』





アスカは瞳を潤ませ、加持を見つめていた・・・





『・・・アスカ・・・・』





一瞬言葉を失う





ほんの少しだけ顔を赤らめながら、加持は目をそらす。暗がりが、加持の顔色の変化を覆い隠していた・・・


《・・・子供だとばかり思っていた・・・・・いつのまにか・・・・・》





もう立派なレディだなと加持は思う











『・・・・向こうに着けば、すぐに新しい友達が出来るさ・・・サード・チルドレンは、男の子だそうだからな・・・』



仰向けになって加持は話題を変えた。アスカの、あまりにもストレートな想いが眩しかった。



《・・・・似ているな・・・・・・アイツに・・・・》



アスカを見つめるその瞳はこの上もなく優しげだったが、それはアスカではなく、その向こう側にいる誰かを見ているようだった


アスカには、その瞳に何が映っているのか・・・・なんとなく想像がついていた。




《・・・あの女ね・・・・生き方・・・わざとらしい、アイツ!》




でも、それは口にできなかった・・・・もし違っていたら・・・・もし口にすれば、加持はあの女の事を思い出す・・・・それだけは絶対にイヤだった






『・・・・同じ年頃の男の子なんでまだ子供だもの・・・・・・私が好きなのは・・・・・・・・加持さんだけよ・・・』






そう言うとアスカはデッキに横たわる加持の傍に寄り添い・・・・・・・そして、一見着痩せして見えるがその実厚い彼の胸板にそっとその身を重ねる


月明かりに照らされたアスカのブロンドの髪がきらきらと輝き、まるで天使の羽根を閉じるかのように加持の胸元にふわりと降り注いだ











《・・・・・加持さん・・・・・》











《・・・・まいったな・・・・これは逃げられそうにない・・・・》











今宵のアスカは、いつにもまして美しかった。加持への恋心が、ほんの13才の少女をひとりの女へと背伸びさせていた・・・・



瞳の碧が、心なしか潤んでいるように思えた・・・・この娘にこんな風に迫られて、堕ちない男なんて世界中を捜したっていないとさえ思える・・・



もし、あの忌まわしい“事件”がなかったら・・・・・このあどけない、とびきりチャーミングな少女の誘惑に抗えなかったかも知れない・・・・









《・・・いや、それはないな・・・それなら今頃アイツと安アパートで暮らしてるさ・・・多分、子供と一緒にな・・・・・》






突然、水を浴びせられたように正気に戻る・・・・アイツの、ふてくされた顔が目に浮かんだ・・・・思わず噴出しそうになるのを堪えて、アスカに言った。













『・・・腹・・・・空かないか?・・・』







肩透かしを食らわせる加持。憤りのあまり、アスカの顔が見る見る赤くなってゆく







『・・・・もう!!!・・・加持さんてばぁ!ちゃんとアタシの方を見てよっ!!・・・アタシもう13才なのよ!』




《・・・・やっぱり・・・まだ子供だな・・・・》




心の中で呟いたつもりだったが、顔に出ていた





『オトナよっ!!・・・・・・・もう加持さんの望む事だって・・・・その先だって・・・・・出来るんだから・・・』





恥ずかしさのあまり、アスカは加持と目線を合わせられなかった。頬を赤く染め、少し口ごもりながらも大胆な求愛を試みる


そんなアスカを加持はいとおしいと思う。


彼にしてみれば、アスカはかわいい妹か娘のようなものだった。それだけに、自分のような男に関わって欲しくなかった




『・・・・それは、アスカにとって一番大事な人のためにとって置くんだな・・・』











《・・・・加持さん・・・・アタシの気持ち、全然わかってない・・》











アスカは急に悲しくなった。アスカにとって、一番大切な人は加持に他ならなかった。


例え想いを添い遂げられなかったとしても、初めての人は加持・・・そう決めていた・・・

















『・・・碇・・・シンジくんていったかな・・・・』



加持はとっておきの話題に振ることにした。



『もう、またそうやってはぐらかす!・・・どうせ大した事ないんでしょ!眼中にないわよっ!』


『・・・・ところが、そうでもないんだな、これが・・・』


『どういう事?』






『・・・報告によると、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は70を軽く超えていたそうだ・・・・』

















『・・・・・うそ・・・・・』

















『・・・・うそじゃないさ。ろくに訓練も受けずに、既に三体の使徒を倒している・・・』


『嘘よ絶対!!・・・あり得ないわ、そんな事っ!!』


《このあたしだって、5歳の頃から訓練を受けてやっと60だってえのに、そんな事って・・・》





『・・・俺もつい最近報告を受けて知ったんだ。何しろ、前例のない事だからみんな大騒ぎでね・・・』


『知らない・・・あたしそんな話聞いてない・・・』




加持からサードチルドレンの実力を知らされ、アスカは激しく動揺した。


三ヶ月前に行われた弐号機の最終起動実験では、アスカは62.7%という素晴らしい数値を挙げていた。


また、インダクションモードによる射撃訓練においてもほぼパーフェクトな成績を上げ、操縦技術も含め、ネルフドイツ支部でも絶賛されていた。


自他共に認める、理想的なパイロットであった





それだけに、よもや自分を上回るパイロットがいるなどとは、夢にも思っていなかった。





『・・・彼の戦闘データと、その時の映像が送られてきてるんだが、見るかい?』



加持はポケットからPDAを取り出すと、



『見せてっ!!!』



アスカは加持から端末をひったくる様に奪うと、サードチルドレンのテストデータを閲覧した。



『第3使徒サキエル戦におけるシンクロ率79.3%・・・・・アタシより17も上!?』



にわかに信じがたい数値にアスカは驚愕した


半信半疑ながら、サード・チルドレンの戦闘映像を流す



『・・・・これって・・・・!!』



初号機の動きをひとめ見ただけで、それが嘘ではないことがわかる



『くっ!!』



ギリと歯軋りをする。 硬く握られたこぶしが、悔しさのあまり打ち震えているのに加持は気付く





《・・・これだ・・・この闘争心・・・》





一瞬あっけにとられた加持だったが、そんなアスカを見ていると胸が痛む



《・・・・・アスカは子供の頃からそうだったな・・・・》



アスカは大変な負けず嫌いの性格だった・・・・いや、負けることが許されないと思い込んでいた・・・・ 人に無理だと言われても、



『そんなの、やってみなけりゃわからないじゃない!』



と言って、自分で試してみるまでは決して納得しない。


それは時として大きな失敗をする事もあったが、自分に限界を敷かない彼女の生き方は、結果として彼女自身を大きく成長させてきた。


わずか13才でドイツのESMT(European School of Management and Technology)を卒業し、エヴァパイロットとしても一線級の技術を有する彼女は今や怖いものなしだった。


まるで世界が自分のために回っていると錯覚しているのではないかと思われるくらい、アスカは自信に満ち溢れていた。




だが・・・・・・











《・・・・・最近のアスカは、すっかり成長が止まってしまったな・・・・・》











シンクロ率も、三ヶ月前のドイツでのテストで既に頭打ち状態だった。





理由はわかっている。




自他共に認めるナンバーワンとなった時点で、アスカには努力する理由がなくなってしまったからである。


彼女にとって、エヴァに乗る事は自分自身を認めてもらう手段でしかなかった




だが、碇シンジの出現で、アスカが再び努力する理由が出来た事になる





《・・・・それと、もう一つ・・・・》





煙草を燻らせながら、加持はため息をつく



《・・・だが、こいつばかりはどうにもならないかも知れないな・・・・》



アスカは、エヴァ・パイロットとしての適性に重大な問題を抱えていた


それは、ずっとアスカを見続けてきた加持だけが知る、致命的な欠陥であった











《・・・・碇シンジくん・・・・・か・・・・・》





《・・・彼が・・・アスカのいい刺激になってくれればいいんだが・・・・・》





《・・・・彼が付いていれば、アスカも死なずに済むかもしれない・・・・・・・・》





《!?》





加持は自分の脳裏に浮かんだ考えが奇妙である事に気付いた

















《何故アスカが死ぬなんて考えたんだ?》

















『・・・・・・・・・・やれやれ、どうかしてるな俺も・・・』


そう言うと加持は、初号機の戦闘映像に目を白黒させるアスカを、ただぼんやりと眺めていた
















2006/1/21
 
 

 
後書き
今読み返してみると、時の流れを感じずにはいられません。執筆当時は不可能だと言われていた名人を越える将棋プログラムは、今では実現しています。なのでその辺りについては生暖かい目で見てもらえると助かります。 
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