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展覧会の絵

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第七話 老婆の肖像その四

「本当によ」
「どうしても嫌なの?トマト」
「好きじゃないって言ってるだろ」
「けれど。トマトのお料理も私よく作るから」
「だよな。イタリア料理とかでな」
「それだと食べてくれるわね」
「ああ、それだと何とか食えるからな」
 イタリア料理にすればだというのだ。特にだった。
「パスタとかだとな」
「望スパゲティ好きだしね」
「マカロニとかもな。麺類全体が好きだからな」
「だから。全く食べられないって訳じゃないから」
「それでだっていうんだな」
「そう。食べてね」
 こうだ。春香は俯いたまま望に言っていく。そしてだ。
 今度はだ。こんなことを言ったのだった。
「それと。今度スペイン料理も作るから」
「スペインかよ」
「そう、スペイン料理ね」
 それを作るというのだ。
「今度食べてね」
「スペイン料理って何あるんだよ」
「パエリアとか。それは知ってるわよね」
「あの御飯使った料理かよ」
「そう。あれにもトマト使うけれど」
「本当にトマト尽くしだな」
「じゃあ食べる?」
 上目遣いになってだ。それで望に問うたのだった。
「食べてくれるかしら」
「食うよ。仕方ないな」
「お願いね。それじゃあね」
「今日は料理部の部活なんだな」
「それで遅くなるから」
「じゃあ待つな。校門のところでいいよね」
「・・・・・・ええ」
 力ない声でだ。春香は望の言葉に対して頷く。だがその言葉の色は虚ろで焦点も定まっていない。しかし望はこのことにも気付かないのだった。
 そしてその春香はだ。こうも言うのだった。
「じゃあお願いね」
「わかったさ。それでな」
「それでって?」
「何時位になるんだよ。こっちも部活遅くなるかも知れないけれどな」
「わからないの」
 またしても俯いて答える春香だった。
「それが」
「何だよ。わからないのかよ」
「ええ。御免なさい」
「わかったよ。じゃあ俺部活が終わってから校門に行くからな」
「有り難う。けど」
 春香は何かを言おうとした。そしてだ。
 望はこのことにはふと気付いてだ。それで問うたのだった。
「けど?何だよ」
「あっ、ええと」
「ええと?何かあるのかよ」
「何もないわ。それでもね」
 何もないと断ってもだ。それでもだった。
 残念な顔でだ。そしてこう言ったのだった。
「御免なさい」
「いや、そこで御免なさいってな」
 どうかとだ。望は首を捻りながら春香に言い返す。
「訳がわからないっていうか筋が通らないだろ」
「そ、そうかしら」
「春香何か俺に謝る様なことしたか?」
「そ、それは」
 春香は望の今の言葉に顔を青ざめさせる。そしてだ。
 その顔を青から白にさせてだ。そのうえで何か言おうとした。
 だがそれは喉のところで止めてだ。こう言ったのだった。
「何も」
「ないよな。俺の方が多いよな」
「そ、そうよね」
「そうだろ?まあ何かわからないけれどいいさ」
 望は春香のその話を打ち切らせた。意識せずに。
 そのうえでだ。こう春香に告げたのだった。
「じゃあ放課後校門でな。待ってるからな」
「ええ。私が先にいてるかも知れないけれど」
「その時はその時でな」
「お願いね。待ってて」
 ここでは切実な声で返す春香だった。そんな二人をだ。 
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