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ウルトラマンカイナ

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銀華編 ウルトラクルセイダーファイト 中編


 BURK日本支部の地下基地に設けられた、広大な格納庫。そこに眠っていた、数十mにも及ぶ巨大な砲台が天へと向けられ、「発射」の時を迎えようとしていた。

「システムオールグリーン。隊長、いつでも発射可能です」
「よし……駒門隊員には気の毒だが、これも政府の決定だ。我々BURK日本支部には、命令に従う義務がある。……予定時刻通りに、シルバーブルーメへの砲撃を開始するぞ。いいな、お前達」
「……了解しました」

 その最終調整を終えつつある隊員達の報告を耳にした隊長格の男は、同胞を犠牲にしなければならない現実を受け止めながらも、BURK隊員としての責務を果たそうとしている。彼の視線の先に聳え立つ砲台は、宇宙から迫りつつあるシルバーブルーメを迎え撃つための、最後の希望なのだ。

 ――シルバーシャーク砲。
 かつてウルトラマンAと、当時の防衛チーム「TAC(タック)」が共闘していた時代に初めて実戦投入された、大型のレーザー砲だ。

 20世紀から始まったその技術の系譜は現代のレーザー砲にも活かされており、当初は車両で運搬出来る程度の大きさだったのだが、現在運用されている最新型は非常に大型化されたものとなっている。

 当然ながら射程距離も火力も当時のものを遥かに凌駕しており、大気圏外を浮遊している宇宙怪獣を地上から狙撃することも可能となっているのだ。
 政府から直接の命令を受けた部隊の隊員達は、地下に格納されていたその超兵器を目覚めさせようとしていた。

「相手はあのウルトラマンレオですら、地上への被害を阻止出来なかったと言われている円盤生物だ。ウルトラアキレスが敗れた今、地上を守れるのは我々BURKと……このシルバーシャーク砲しかないのだ」
「隊長……」
「……弘原海は絶対に俺を許さんだろう。だが、それで良い。この砲撃で地球が救われるというのならば、俺はBURKの隊員として喜んで業を背負う」

 だが、政府からの勅命という錦の御旗を渡されてもなお、隊員達はどこか躊躇いがちな表情を浮かべていた。琴乃はその美貌とスタイルもあって、他部隊の隊員達からも絶大な人気を集めていたのである。
 隊長格の男も、弘原海の怒りと悲しみを承知の上で、自分に言い聞かせるかのような言葉を並べていた。例え誰にどれほど恨まれようと、自分達は命令を実行するしかないのだと。

「そこまでだ! お前達、即刻発射を中止しろッ! 駒門隊員が助けを待っているというのに、シルバーシャーク砲を撃たせるわけにはいかないッ!」
「……!?」

 するとそこへ――他部隊の隊員達が毅然とした佇まいで、格納庫内へと駆け込んで来た。
 政府の勅命により、シルバーシャーク砲の運用を託されたこの部隊以外は、格納庫からの退去を命じられているはず。にも拘らず11名もの男性隊員達が、ここへ一斉に突入して来たのだ。

「お、お前達は……!」

 その顔ぶれを目にした隊長格の男は、部下達と共に瞠目してしまう。彼ら11名は紛れもなく、半年前のホピス星調査に参加していた、「BURK惑星調査隊」の元選抜メンバーだったのだ。

「嵐真君とリーゼロッテ達が立ち上がっているという時に、全てをぶち壊すような真似をさせられるか……! 皆、全力で止めるぞ!」
「……お前の暑苦しい振る舞いには毎度反吐が出る思いだが、今回ばかりは同意せざるを得んな。政府の犬に成り下がったBURK隊員など、畜生にも劣る」
「こいつらとも握手さえすればダチになれる……と言いたいところだが、その前にちょ〜っとばかしケンカする必要がありそうだなぁ? いっちょ俺達でかましてやろうぜ、士道(しどう)! 鶴千(つるせ)!」

 熱く拳を握り締める士道剣(しどうつるぎ)の隣で、冷たく毒を吐く鶴千契(つるせけい)。そんな2人の間に立ち、獰猛な笑みを浮かべている手力握人(てぢからあくと)

「……全く。政府の決定に逆らえ、とは綾川司令官も無理難題を仰る。一度、この現場をご覧になって頂きたいものだ」
「良いではないか、多月(たつき)。どの道、この決定を容認出来る利口な人間など、我々の中には1人もいなかったのだ。好き放題に暴れられる、良い機会を貰ったと考えようではないか」
「ふっ……それもそうだな。たまには綾川司令官にも、喧嘩っ早い部下を持った上官の苦労というものを味わって頂くとしよう」

 綾川司令官から通達された命令の内容に辟易する多月草士郎(たつきそうしろう)と、そんな彼をフォローする木場司(きばつかさ)

「さぁーて、どいつからブッ飛ばしてやろうかな? 嵐真とリーゼロッテ達が頑張ってるって時に、水差すような真似しやがって……全員タダじゃ置かねぇぞッ!」
「やれやれ……私としては、このような豪快過ぎるやり方は不本意なのだがね。元調査隊メンバーが、荒島(あらしま)君のようなタイプばかりだと思われるのは心外だよ」
「ここに来る途中、警備兵達を一瞬で投げ飛ばしてた人が何を言ってんですか……。(かのう)先生が『その気』になったら、誰にも止められないって皆も分かってるんですからね?」

 拳や首の骨を鳴らし、好戦的な微笑を溢している荒島真己(あらしまみこと)。そんな彼の隣でため息を吐きながらも、静かに臨戦態勢に入っている叶亥治郎(かのうげんじろう)

「シルバーシャーク砲を撃たせてしまったら、せっかくの『両面作戦』も水の泡になってしまう……! 俺達に希望を託してくれた綾川司令官のためにも、絶対に負けられないッ!」
「……ふん。まさか機械のような奴と言われて来たこの俺が、よりによって政府の決定にまで逆らうことになるとはな。俺も随分と、甘くなったものだ」

 シルバーシャーク砲の巨大な砲身を、剣呑な表情で一瞥している日ノ出新(ひのであらた)氷川雄一郎(ひかわゆういちろう)

「……目ん玉開いてよーく見ときな、前田(まえだ)。対テロ部隊で嫌というほど叩き込まれた、対人戦闘のイロハってヤツをよ」
「はい……! 勉強させて貰います、シゲタさんッ!」

 対テロ部隊に所属していた頃の経験に基づき、無駄のない構えを取っているシゲタと、四股を踏みながら彼の佇まいをつぶさに観察している前田力也(まえだりきや)

 彼ら11名の男達は皆、調査隊時代に装備していた赤と黒の隊員服をその身に纏い、白のヘルメットを被っている。それは政府の命令に背いてでも、かつての仲間を絶対に救うという固い決意を示していた。

「馬鹿な……! お前達、駒門隊員のためとはいえ……政府の決定に逆らうつもりなのか!? これは国家に対する重大な叛逆だぞッ!?」

 そんな男達の姿を目の当たりにした隊長格の男は、わなわなと肩を震わせている。政府の命令に反くBURK隊員など、前代未聞であった。
 だが、士道達は彼の剣幕を目の当たりにしても全く動じていない。彼らは皆、全て承知の上でここに来ているのだから。

「ハッ、政府の決定だぁ? そんなもん知らねぇな、俺達の上官(カシラ)は綾川司令官なんだぜ? その綾川司令官が、お前達を止めろって言ってんだよッ!」
「綾川司令官の命令だと……!? そんなはずはない! この決定には司令官も納得されていたはずだ! だから我々はッ……!」
「今、シルバーシャーク砲を使わずに奴を倒すための『両面作戦』が始まっているんだ! 駒門隊員を殺したくないという気持ちが僅かでも残っているのなら……今すぐ発射を中止しろッ!」

 政府の圧力がどれほど強くとも、あくまで指揮系統を握っているのは綾川司令官なのだと豪語する荒島。そんな彼に続く士道も綾川司令官の代弁者として、隊長格の男に発射の中止を要求している。

「ど、どうすればいいんだよ、俺達……。両面作戦なんて、聞かされてないぞ……!」
「俺達だって、駒門隊員を殺したくなんかねぇよ……! 俺なんて、まだ1回も声掛けたことねぇんだぞ……!」
「ち、ちくしょう、どうすりゃ良いんだ……! 俺だって、あのおっぱい揉みてぇよッ……!」
「だけど、政府の命令に逆らうわけには……!」

 政府に命じられるまま、シルバーシャーク砲の発射準備を終えようとしていた隊員達は、互いに不安げな表情で顔を見合わせていた。
 琴乃を犠牲にしない方法が本当にあるというのなら、自分達の行いは本当に正しいのだろうか。その疑問から抜け出せなくなっているのだ。

「……ええい、お前達! こんな奴らの戯言に何を躊躇っている!? 我々はBURK隊員として、命令を遵守しなければならない立場なんだぞ! 迷うことはない、全員即刻つまみ出してやれッ!」
「りょ、了解ッ! うおぉおおッ!」

 だが、自分達はあくまでBURK日本支部の隊員。ならば、最上位の存在である日本政府の命令には服従せねばならない。

 葛藤の果てにその結論に至った隊長格の男は、怒号を飛ばして部下達に「排除」を命じてしまう。彼に命じられるまま、士道達を基地から追い出そうとする部下達は、その表情に迷いの色を残していた。
 「仲間殺し」を忌避するあまり、光線銃を抜こうともしない。その程度の覚悟しか持ち合わせていない連中に、元調査隊メンバーのフィジカルエリート達が押し負ける道理などない。仲間の犠牲と引き換えに得る勝利など、誰一人として(・・・・・・)望んではいないのだから。

「へへっ、後に退けなくなったからって実力行使かぁ? 上等だぜ、政府の犬っころ共がよぉッ!」
「……駒門隊員のことは、嵐真君とリーゼロッテ達がきっとなんとかしてくれる! 行くぞ皆ッ!」
「いちいち仕切るな、鬱陶しいぞ」

 好戦的な笑みを浮かべて拳を鳴らす荒島が真っ先に飛び掛かる中、士道と鶴千も仲間達を率いて走り出して行く。かくして地下の格納庫を舞台に、シルバーシャーク砲を巡る隊員同士の大乱闘が繰り広げられたのだった――。

 ◇

 ――そして。そんな男達の戦いを、遥か遠くの宇宙から静かに見守っている者達が居た。

 半年前、ホピス星で士道達と共にキングジョーと戦っていた、12人のウルトラ戦士。彼らは今もこの世界の果てから、かつての戦友達の生き様を見つめていたのである。

 ウルトラマンシュラ。
 ウルトラマンメディス。
 ウルトラマンミラリ。
 ウルトラマンアトラス。
 ウルトラマンヴェルゼ。
 ウルトラマンリード。
 ウルトラマンポーラ。
 ウルトラマンヘリオス。
 ウルトラマンアルミュール。
 ウルトラマンブフ。
 ギガロ。
 そして――彼らを引き連れていた、ブルーマン。

 彼ら12人は、地球と宇宙の両方で展開されている人間達の戦いを見つめ、安堵の表情を浮かべていた。
 かくなる上は再び掟を破ってでも、自分達が動かねば――そう思っていた彼らは、人間達の底力に確かな「希望」を見出したのである。

 世界の平和は、その世界に生きる者達の力で掴み取ってこそ価値がある。そのように語っていた宇宙警備隊隊長の言葉も、今なら理解出来る。
 ウルトラマンカイナも、ウルトラアキレスも、彼らに続くことになる次代のウルトラマン達も、まだまだ戦士としては未熟。だが、だからこそ地球人達と共に成長し、新たな可能性を切り開いて行けるのだろう。

『……シュウワッチッ!』

 ならば自分達はこれ以上、この次元の宇宙に干渉するべきではないのかも知れない。その結論に達したシュラ達は互いに頷き合うと、両手を広げて次元の彼方へと飛び去って行く。

 ――士道達を信じると決めたからこそ、彼らは光の国へと帰って行くのだ。
 BURKの隊員達ならば、この先に待ち受けている「最大の侵略」にも、絶対に屈しないのだと。
 
 

 
後書き
 
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