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赤い尻

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第二章

「誰も。私もです」
「そうか、ではだ」
「いざという時は我々が出る」
 二頭の龍は棗仙にこう申し出た。
「我等のうちどちらかが出てもだ」
「猿なぞ何でもない」
「それこそ斉天大聖様でもないとな」
「あの方だけは流石に無理だがな」
 天界で暴れ回ったこともある彼はというのだ。
「あの方のお力はまた違う」
「二郎真君や哪吒様でも後れを取られた」
「そして釈尊が出られたのだ」
「そこまでの方だからな」
「我等の王四海龍王の方々ですら敵わぬ」
「勝てるのは関帝様位か、しかしだ」
 それでもと言うのだった、二頭は。
「斉天大聖様は今は天界におられる」
「ここにはおられぬ」
「普通の猿達ならな」
「我等の敵ではない、力を少し使えば」
 龍の神通力、それをというのだ。
「楽に追い払える」
「だから安心せよ」
「お二方のお力を使うことも」 
 どうかとだ、棗仙は申し訳なさそうに答えた。
「畏れ多いです」
「我等がこの辺りを治めているからな」
「気にせずともよいが」
「それでもです」
「そうか、ではだ」
「ここは力ではなく知恵を使うか」
 二頭は棗仙の言葉を受けてだった。
 それぞれ顎に手を当てて考えだした、そして棗仙を含めて共に考えて一つの知恵を出してそうしてだった。
 その知恵を仕掛けた、やがて猿達は彼等が危惧した通りにだった。
 棗林に来て棗の実を全て喰わんとしてきた、彼等は喜び勇んで林に飛び込んできたが。
「ウキャッ!!」
「ウキッ!!」
 棗の実、林にあるその全てがだった。
 鈴の様に鳴った、突然鳴ったその音に驚いてだった。
 林に飛び込んだ猿達は皆思わず尻餅を付いた、それで音に驚いて。
 慌てて林から退散した、こうして棗の実は無事だった。棗仙はそれを見届けて青龍と白龍に対して言った。
「お二人の知恵のお陰です」
「猿達が来れば実が鈴の様になる」
「林の全ての実がそうなる様にしたが」
「それが効を奏したな」
「そうだな」
「はい、これでです」
 棗仙は笑顔で言った。
「猿達は退きました、そして」
「猿達がああして雪崩れ込むとな」
「その時はああして実が全て鈴の様に鳴る」
「そうなるからな」
「もう大丈夫だ」
「そうですね、ですが猿達が少しずつ来てです」 
 ここで棗仙はこうも言った。
「程々に食べるなら」
「実は鳴らない」
「その様にするな」
「棗の実は誰もが食べられるものですから」
 そうしたものだからだというのだ。
「それで、です」
「そうか、ではな」
「その様にもしよう」
「宜しくお願いします」
 棗仙は龍達の言葉に笑顔で頷いた、こうしてだった。
 この辺りの棗の実は誰もが食べられ猿達も貪ることはなくなった、だが猿達は尻餅を付いたのでそれ以降尻が赤くなってしまった。猿が今も尻が赤いのはその為だという。中国に伝わる古い話の一つである。


赤い尻   完


                    2022・2・15 
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