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人を呪わば

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第二章

「全国大会にも出ている」
「そこでもいいとこ行ってますね」
「国体にも出ているしな」
「そっちも凄いですね」
「彼が大学に残ってくれるならな」
 長内は語った。
「私も嬉しいですが」
「それでもですか」
「彼のあの目を見ているとな」
 怨みや憎悪が見えるそれをというのだ。
「どうもだ」
「心配ですか」
「怖いと言うかな、何もなければいいがな」
 野上のことをこう言うのだった、彼は一八〇を優に越える引き締まった身体に鋭い切れ長の目にだった。
 引き締まった唇に頬がすっきりした顔と高い鼻と濃い眉を持っていた、日々学問とフェシングに励んでだった。
 文武両道で知られていた、大学を卒業すると院に残ってだった。 
 そこで博士課程まで進み修士課程でも博士課程でもだ。
 優秀な論文を発表し二十代後半で準教授にまでなってだった。
 研究は有名でフェシングの選手としても有名だったが。
 ある日だ、小学校の同窓会で出てだった。 
 かつて自分をいじめていた者達の前に出てだ、見下して問うたのだった。
「君達は今何かしているのかな」
「えっ、お前野上かよ」
「昔はあんなに小さかったのにか」
「随分でかくなったな」
「また変わったな」
 彼等は久し振りに見た野上に声をかけられまずはその変貌に驚いた、そして。
 そこである同級生から彼のことを言われて尚更驚いた。
「おいおい、大学の先生かよ」
「今はそうなのか」
「それでフェシングの全国大会にも出てるってか」
「凄いなそりゃ」
「また随分立派になったな」
「それで君達は何をしているのかな」 
 野上は今は自分より背が低くなっている彼等を見下ろしてまた問うてきた、何時の間にか距離を詰めてそうしてきていた。
「一体」
「いや、俺サラリーマンだよ」
「俺工場で働いてるよ」
「俺は実家の店手伝ってるよ」
「俺は中学校の先生してるぜ」
「名刺あったら貰えるかな」
 野上はそれぞれの今を語った彼等に無表情で申し出た。
「よかったら」
「ああ、いいぜ」
「それ位はな」
「じゃあ渡すな」
「そうするな」 
 彼等は社会人の挨拶と思ってそれぞれの名刺を彼に差し出した、だが野上は貰うとだ、こう言った。
「これでいい、使わせてもらう」
「使う?何だよ」
「どういうことだよ」
「名刺貰ってどうだっていうんだよ」
「一体」
「俺は君達にいじめられていた」
 このことをだ、野上は言った。 
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