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子牛が似ているもの

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第一章

                子牛が似ているもの
 この時クレタの王ミノスは父であるゼウス譲りの厳めしく茶色の鳥の巣の様な髪と髭を持つ顔を厳めしくさせていた。
 そのうえで廷臣達に玉座から問うた。
「我が子グラウコスは見付からぬか」
「はい、どうしても」
「見付かりませぬ」
「ハーデス神の神殿で酒を飲まれて暴れられて」
「ハーデス神のお怒りを買って何かに姿を変えられた」
「そのことはわかるのですが」
「父上がわしに教えて下さった」
 ゼウスがとだ、ミノスも述べた。
「そこまではな、しかしな」
「はい、そこからはです」
「ゼウス神もご存知ではなく」
「後はです」
「どうすればよいのか」
「ここはだ」
 ミノスは玉座で考えつつ話した。
「神託を伺うか」
「そうしますか」
「デルフォイに人をやり」
「そうして確めますか」
「そうしよう、デルフォイで伺えばな」
 神託をというのだ。
「わからぬことはないな」
「はい、確かに」
「そうすればです」
「まさにわからぬことはありません」
「何一つとして」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「ここはそうしよう」
「わかりました、ではです」
「すぐにデルフォイに神託を伺いましょう」
「その様にしましょう」
 廷臣達も頷いた、そうしてだった。
 ミノスはすぐにデルフォイに人をやり神託を伺った、するとその神託は。
「王の牧場の中に朝は白昼は赤夜は黒に毛の色が変わる雄の子牛がいますが」
「あの子牛か、気付けば牧場にいたが」
 ミノスは神託を聞いた者にはっとした顔で応えた。
「あの子牛がグラウコスであったか」
「はい、その子牛が何に似ているか言い当てますと」
 そうすればというのだ。
「子牛はグラウコス様に戻られるそうです」
「そうなのか、しかしだ」
 ミノスは苦い顔で述べた。
「あの牛が何に似ているか」
「それはですね」
「わからぬ、色が一日のうちに変わる牛なぞだ」
 それこそというのだ。
「他にはおらぬ」
「左様ですね」
「そんな牛は他にもおらぬ」
 一切というのだ。
「そうだな」
「左様ですね」
「どうもです」
「そう言われますと」
「我等も心当たりがありませぬ」
 廷臣達も口々に言った。
「それはです」
「ハーデス神もきついお仕置きをされましたな」
「これはまた」
「全くだ、どうして神々はこう悪戯好きなのか」
 ミノスは苦い顔でこうも言った。 
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