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イベリス

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第六十五話 静かにはじまってその六

「夏バテになるわ」
「しっかり飲んで食べると夏バテにならないのね」
「結局はね、だから咲も冷奴が好きなら」
「どんどん食べればいいのね」
「あと茹で卵も好きでしょ」
「それもね」
「それも食べてね、兎に角熱いものは食べにくくても」
 それでもとだ、また酒を飲んだ娘に話した。
「しっかりとね」
「食べることね」
「そうしてね、それとデザートに西瓜あるから」
「西瓜あるの」
「それも食べてね」
「西瓜はあまり栄養ないのよね」
「けれど水分があるから」 
 むしろ水分だけと言っていい、だからこそ英語でウォーターメロンと呼ばれるのだ。
「食べてね」
「西瓜はいいのね」
「いいわよ、あと瓜もね」 
 これもというのだ。
「夏は出してるでしょ」
「あとトマトもね」
「お野菜の中でもこうしたものをね」
「よく食べることね」
「そうしてね、あと生姜も出すわ」
 これもというのだ。
「だからね」
「生姜も食べるのね」
「そうしてね」
「生姜もいいのね」
「生姜も身体にいいから」
 豆腐やトマトの様にというのだ。
「食べてね、梅干しもね」
「ああ、梅干しね」
 見ればそれも食卓にある、咲はそれはお茶漬けにして食べるつもりだ。兎角今は冷奴やサラダを肴にストロングを飲んでいるのだ。
 五〇〇ミリリットルの二本目も空けて三本目に入ってだ、咲は言った。
「まあこれでね」
「お酒は終わりね」
「そうするわ」
「それがいいわ、三本も空けたら」
 五〇〇のストロングをというのだ。
「もう充分よ」
「そうよね」
「それで止めてね、それで落ち着いたら」
「お風呂ね」
「入りなさい」
「清潔にしないとね」
「女の子だから特によ」
 娘に強い声で言った。
「匂いがきついから」
「女の子の体臭ね」
「それは甘く見たらいけないから」
 だからだというのだ。
「毎日ね」
「シャワーもいいけれど」
「湯舟の方が汚れが落ちて」
 そうなってというのだ。
「そしてね」
「匂いもよね」
「落ちるから」 
 シャワーの方がというのだ。
「だからね」
「お風呂ね」
「暑くてもね」
 それでもというのだ。
「できたらね」
「お風呂がいいのね」
「そうよ、ジェームス=ボンドよりもね」
「007ね」
「あの人冷水シャワー好きなのよ」
「女好きで美食家だけじゃないの」
 007即ちジェームス=ボンドの個性である、紅茶嫌いと共にイギリスのスーパースターを形付けている。 
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