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ドリトル先生のダイヤモンド婚式 

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第九幕その四

「絶望的な時代の中でよくも悪くもとんでもないカリスマと政治力と指導力を見せたヒトラーに惹かれたハイデッガーとはね」
「あの教壇の教祖って胡散臭いだけだよね」
「ヒトラーみたいな能力はとてもない」
「そんな人だったね」
「言ってることはあらゆる宗教の自分に都合のいい部分の切り取りだったよ」
 その教祖の主張はというのです。
「そしてそんな人が物欲塗れで私利私欲だけで平気で大勢の人を殺す」
「そんな人がどうして偉大か」
「最も浄土に近いか」
「そんな筈ないわよね」
「どう考えても」
「そんなことは子供でもわかるよ」
 それこそという言葉でした。
「もうね、けれどね」
「吉本隆明にはわからなかった」
「そんなことも」
「それじゃあね」
「どうしようもないね」
「しかも学生運動で研究室を荒らされた教授さんがこれまで必死に集めて読んだりして大事に保管していた沢山の本がぼろぼろにされたのを見て悲しんでいて自分は図書館で仕事の合間に並んで本を借りているんだ、そんなの何だとも言ったことがあるよ」
 先生は吉本隆明のこのお話も皆に紹介しました。
「図書館で借りるだけの本と必死に集めて愛読して大事に保管していた本の違いもわからなかったんだよ」
「色々酷いね」
「そうした本が荒らされたらどんなに悲しいか」
「自分の子供みたいなものよね」
「そんなこともわからないなんて」
「人として思想家としてどうなのかしら」
「そうした人が言うことなんてね」
 先生は難しいお顔で前を見て言いました。
「もうね」
「たかが知れてるね」
「もう一切聞く価値がない」
「そんなものだね」
「人の痛みもわからない」
「そして本物と偽物がわからないんじゃね」
「だから僕は吉本隆明の本は一切読まないよ」
 一言で言い切りました。
「読む価値が一切ない、学ぶに値しない」
「そんなものだから」
「それで先生も読まないのね」
「そして学ばない」
「相手にしていないんだ」
「あんな人の本を読むより手塚治虫や藤子不二雄の本を読むといいよ」 
 その方がずっと、というのです。
「わかりやすいししかも内容が素晴らしい」
「わかりにくくて中身のない吉本隆明と違って」
「どんどん読むべきだね」
「そうなのね」
「そうだよ、終戦直後は哲学書が偉大で小説は低俗とされたらしいけれど」
 それでもというのです。
「それは違うよ」
「ジャンルに関係ない」
「書かれている内容次第だね」
「それがどうかで」
「哲学書イコール凄いじゃないね」
「そうなんだ、本当に吉本隆明なんかが戦後最大の思想家だなんてね」 
 先生はこのことに深い憂いを感じて言いました。
「戦後日本の治世そして知識人がどれだけ酷いか」
「そうも言っていいね」
「そう考えると深刻だね」
「それもかなりね」
「全く以てね」
 本屋さんを見てからこうしたお話をしました、そうしてです。 
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