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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第9章 解散編
  第41話 聖夜

フェアリーテイル、激烈トーナメント戦と、それに伴う罰ゲームから3週間程が経った頃、アレンへとんでもない誤解を生んでいたエルザ、カグラ、ミラ、ルーシィは、何とか恋愛対象は女ではなく、変態みたいな趣味もないということを理解してもらった。
それと同時に、グレイとジュビアが正式にカップルとして付き合うという話が広まりを見せる。それもあってか、フェアリーテイルのギルドは、この上ない喧騒に包まれていた。…まあ、グレイとジュビアの話があろうがなかろうが、喧騒を生むことに変わりはないのだが…。だが、この喧騒はもう一つの意味を持っていた。
月の頃は12月半ば…もう少しでクリスマスを迎えるためだ。フェアリーテイルはあらゆるイベントやお祭りをマグノリアの街ぐるみで行っている。このクリスマスというイベントも例外ではなく、マグノリア中を巻き込んだ装飾やイベントが開催される予定なのだ。
酒場内でグレイとジュビアのカップリングの祝いと盛り上がりが収まりを見せると、ミラがコーヒーを飲むアレンへと楽しそうに声を掛ける。
「あと、10日ほどでクリスマスね!とっても楽しみだわ!」
「あー…そういえば、もうそんな時期か…」
アレンはどこか落ち込んだような、それでいて悲しそうな表情を浮かべる。そんなアレンの様子に、ミラは思わず怪訝な表情を見せる。
「ど、どうしたの?アレン?私…何か変なこと言った?」
ミラは、想像していた反応とは違う様相を見せたアレンに、酷く困惑している様子があった。先の罰ゲーム時の自分の姿を見られていたことと、暫く誤解を解くのに必死だったミラは、アレンに嫌われていないか、悩んでいたのだ。そのため、アレンの様子をいつも以上に心配していたのだ。
「いや…そんなことねえよ…ただ…」
「…ただ?」
アレンはミラのせいではないことを言いつつも、その表情を晴らすことはなかった。加えて言葉を詰まらせているアレンに、ミラは更に困惑の様子を見せる。そんな風にしていると、アレンはガタッと突然椅子から立ち上がる。
「ッ!ア、アレン…」
突然椅子から立ち上がったアレンを見て、ミラはビクッと少し怯えた様子であった。
「わり…帰るわ…」
「え、え…。ちょっと、アレン?」
踵を返したように酒場のカウンターを後にするアレンに、ミラはさらに動揺していた。そんなアレンとミラの様子に、周りの皆も困惑する。
「お、おい。アレン?」
「もう帰るんだゾ?」
アレンが座っていたカウンターの真後ろのテーブル席にいたエルザとソラノが狼狽した様子で言葉を掛ける。
「ああ…」
そんな2人の言葉に、アレンは短く答える。だが、足取りを止めることはなく、ギルドからその姿を消す。暫く呆気に取られていた2人であったが、エルザはキッと目を細めると、ミラに低く唸る。
「ミラ…何やらかしたんだ」
「わ、私何もしてないわよ…」
エルザの問いにミラは震えた声で答える。
「だったら…なんでアレンはあんなに怒ったような…」
「ミラさんのせいではありません」
ソラノも続いてミラを問い詰めるが、それはあるものの言葉によって遮られる。その言葉に反応するように、先の3人含め、周りの皆がその人物に視線を移す。
「この時期になると、毎年のことです…」
ミノトが、どこか虚空を見つめるようにして言葉を放つ。
「ど、どういうこと?」
自身のせいではないと言葉を掛けられたことで、些少の安心を漏らしたミラであったが、ミノトの言葉の真意がわからず、疑問を投げかける。ミラからの疑問に答えるのを迷うそぶりを見せたミノトは、ヒノエへと視線を移す。
「…姉さま」
「そうね。皆さんも既に承知していることですし…。お話ししてもいいかもしれません」
ミノトからの視線に気づいたヒノエは一つため息をつくと、静かにその口を開いた。
「近いのですよ…アレンさんにとって大切だった方々の…命日が…」
その言葉に、ギルドのないが一気に静まり返る。その言葉が何を指すのか、一瞬で理解してしまったためである。そして、ヒノエの言葉の続きを補うようにして、ミノトが口を開いた。
「今日は12月18日…。アレンさんの誕生日が12月20日なのですが、その二日後…16年前の22日に、アレンさんの実姉と実妹が…亡くなったのです。…モンスター、ドラゴンの手によって…」
ミノトの淡々とした、それでいて苦しそうな言葉に、皆は息を呑むようにして驚きを見せる。だが、この驚きが序章に過ぎなかったことを皆はすぐに知ることになる。
「そして、次の日の23日に『コウタさん』という、アレンさんにとって最も親しかった友人が…、そのまた次の日の24日…、この世界ではクリスマスイブという神聖な日とされていますが、この日にアレンさんは両親を…同じくドラゴンの手によって殺されています…」
ヒノエは、ぐっと目を細めながら、小さく身体を震わせる。余りの衝撃に、皆は目を見開いて固まり、剰え涙を流している者も見て取れた。
「そして…」
ヒノエは更に続けるようにして言葉を漏らす。その様子に思わずカグラが口を開いた。
「ま、まだ…何か…あるのか…」
「ッ…まさか…」
カグラの言葉に被せるようにして、目尻に涙を浮かべたミラが小さく呟く。そう、今の話の中で、ミラ含め、特にアレンに恋心を抱いている女性陣が気になっていた人物が出てきていなかったからだ…。皆、少しずつそれに気づいたように唇を震わせる。
「…当時、アレンさんの恋人であった『カリンさん』という方を、25日に…亡くされております…。息絶えるのを…見届けるように…目の前で…ッ!」
ミノトが、小さく目尻に涙を浮かばせて、しどろもどろと言った様子で言葉を発する。初めて見るミノトの感情的な様子に、皆が驚きを見せている。
そして、それ以上に、アレンの壮絶な過去の詳細を聞き、引き続き皆は驚いた様子を見せたり、我慢ならないと言った様子で俯いて見せる。
ウェンディやルーシィ、レヴィと言った、比較的涙腺が緩いメンバーは、ポロポロと涙を零していた。
「12月のこの時期は、アレンさんが立て続けに大切なものを失った日…アレンさん自身、普段はあまり考えないようにしている様子ですが…やはり命日が…それに近い自分の誕生日が訪れるこの時期は…毎年のようにああして一人でおられることが多いのです…」
「ですから、ミラさんがアレンさんを怒らせた…などということはありません…ご安心ください」
ヒノエとミノトの言葉に、ミラは表情で反応することができなかった。すでに、ミラの中にアレンを怒らせてしまったかもという感情は存在していなかった。アレンの壮絶な過去…その様子を頭の中で想像し、酷く困惑している様子であった。
「…クリスマスが終わり、12月が終わりを迎える頃には…いつものアレンさんにお戻りになるかと思います。…この時期は、そっとしておいてあげてください」
ヒノエの言葉に、ギルドの酒場は、悲壮感漂う雰囲気となる。
その場にいるもの全員が、ヒノエとミノトの話を唱えるように頭の中で反復する。そして、その場面を、アレンの心情を想像してしまう。
そして、その後一日、その様相が破られることはなかった。

マグノリアの街をでてすぐの場所に、軽く地面が盛り上がったような丘がある。その丘は、周りの地面よりも10m高い程度であったが、マグノリアの街を背にすると、辺り一帯は雄大な自然が広がっている。故に見晴らしはよく、空も陸も遠くまで見渡せるほどであった。
アレンは、そんな丘の頂上に腰かけ、遠くの空を眺めるようにして一つため息をつく。身体に纏わりつく冷たい風が、アレンの心に寂しさと後悔を生む。
「そうか…もう、16年になるのか…」
アレンは誰にいうでもなく、小さく呟く。そして、親友を姉妹を、両親を、彼女を失った時のことを思い出す。何一つとして守れず、間に合わなかったあの時の感情が無意識に思い起こされる。頭の中にドス黒い感情が生まれる。まるで心臓を締め付けられたような感覚を覚える。
「ちくしょう…」
アレンはそう呟き、頭をされて力なく息を漏らした。そんな風にして、時の流れを忘れたかのように、アレンはしゃがみこんだまま考え込んでいた。

時は流れ、12月24日。マグノリアの街は、フェアリーテイルのギルド含め、クリスマス一色となっていた。
街中は綺麗な装飾が施されていた。フェアリーテイルの魔導士の多くは、カルディア大聖堂前に集まり、何やら騒がしそうにしていた。どうやら、聖堂におけるクリスマスの準備を進めている様子であった。
エルフマンの力により、聖堂前に大きな木、クリスマスツリーが立てられ、それを見届けた周りの住民やメンバーが歓声を上げる。その足元には数多くの装飾が見られ、ツリーに飾り付けられるものであることが伺える。
ビスカ、アルザック、レヴィ、ウェンディ、シャルル、それにソラノとユキノを中心に、少しずつツリーに装飾が施されていく。
「とってもウキウキするね!シャルル!」
「そりゃ、クリスマスイブだもの!」
ウェンディとシャルルがそれぞれに言葉を発すると、サンタのコスプレをしたエルザが、紐を伝いながら聖堂の壁を降りていく様子を見かける。
「ツリーは頼んだぞ!」
エルザはそんな2人に大きく声を掛ける。
「エルザさん!それ、とっても似合ってます!」
「ふふっ、そうだろう?」
「はいっ!」
ウェンディから可愛らしいサンタの衣装を褒められ、エルザはご満悦と言った様子で聖堂前で腰に手を当て仁王立ちする。
「張り切ってるわね!」
「そりゃ、クリスマスイブだもん!」
シャルルの言葉に、ウェンディが笑いながら言い返す。そして、2人は先ほどとは立場が変わった、それでいて同じことを言っていることに可笑しさを覚え、2人で笑いあう。
そんな2人を尻目に、エルザは聖堂を背にマグノリアの街並みを見渡す。至る所の家に装飾が施され、住民もそんな雰囲気に嬉しそうにしている。
それを見たエルザはふっと笑いを漏らすと、後ろから聞きなれた仲間たちの声が聞こえた。
「おう、エルザ。掃除含め、全部終わったぜ!」
「イブだってのに、働くなんて…」
「まあ、でも気持ちいい労働だな」
グレイ、ウルティア、カグラがそれぞれに声を発する。
「よくやったな、これで聖堂の準備に関しては一通り終わったということだな」
「そうなるわね」
エルザの楽しそうな言葉に、ウルティアがふっと笑いかけて返事をする。そんなエルザ達の元に、大量の掃除道具を抱えたナツとジェラールが近づいてくる。
「そっちも無事に終わったみたいだな」
「つっかれたー!」
ジェラールとナツも、持ち場の掃除が終わり、用具を片付けに来たようだ。
「よお、ナツ。なんも壊さなかったか?」
「ああ?壊すわけねえだろ!」
グレイがナツを挑発するような言葉を発したことで、いつもの喧嘩が巻き起こりそうになる。だが、それをエルザとジェラールが止める。
「やめんか!イブに喧嘩など!」
「グレイも余計なことを言うな」
エルザとジェラールに叱られ、2人は「ちぇっ」と悪態を付く。だが、その直後、ナツが気付いたように口を開く。
「そういえば、やっぱアレンはこねーのか…」
ナツのその言葉に、皆は先ほどまでのウキウキした様子を一瞬で鎮め、考え込むような表情を見せる。
「まあ、さすがに…ね」
「今日は…その…」
「両親を失った日…だよな」
ウルティア、カグラ、グレイが言いにくそうに言葉を発した。皆、それ以上に発する言葉が見つからず、黙りこくってしまう。そんな折、聖堂前に多くの子どもたちが集めっている様子が見られる。
「おまたせー!」
「ごめんね、遅くなって…って、あら、エルザに皆。掃除は終わったの?」
そして、そんな子どもたちに向かって、可愛いワゴンを押すリサーナとミラが現れる。
「あ、ああ…まあな」
「…おう」
エルザとグレイが、何とか言葉を発する。
「…?そう。あ、手が空いてるなら子どもたちにお菓子を配るの、手伝ってくれない?」
ミラは拙い言葉を発する2人に疑問を抱きながら、声を掛ける。
「あ、ああ。そういうことなら…」
「もちろんだ」
カグラとジェラールも固めていた身体を動かし、ミラたちと一緒に子どもたちの元へと向かう。
「「「「「「「「「「やったー!!」」」」」」」」」」
子どもたちは、ミラの声に加え、目の前に来たワゴンに山積みに置かれた小さな小包を見て嬉しそうに声を上げる。
そんな山積みのお菓子を見て、傍にいたレヴィも驚きの声を上げる。
「へー、今年もまた沢山作ったんだね!」
「うん、街の子どもたち皆に行き渡らないと困るから」
「去年は途中で足りなくなるかと思ってヒヤヒヤしたから、その反省もかねて!」
レヴィの驚きに、ミラとリサーナが答える。
「よし、それじゃあ順番に配るわよ!」
「「「「「「「「「わーい!」」」」」」」」」」
ミラの言葉を皮切りに、リサーナ、レヴィ、エルザ、カグラ、ウルティア、ナツ、グレイ、ジェラールも小包を何個か抱え、子どもたち一人ひとりに配っていく。
小包の中には、フェアリーテイル特製クッキーが数枚入っており、子どもたちはとても嬉しそうにしていた。
そんな子ども集団の中、数人がエルザ達に詰め寄るようにして口を開く。
「ありがとう!」
「ああ、どういたしまして」
子どもの屈託のない笑顔に、エルザは嬉しそうに声を発する。
「ねえねえ、エルザさん!」
「ん?なんだ?」
先ほどお礼を述べた子どもとは別の子どもが声を掛ける。
「アレンさんはいないの?私会ってみたいんだ!」
年の瀬は8歳ほどであろうか。これまた屈託のない笑顔で言葉を掛けられ、エルザだけでなく、その場にいる皆がうっと引きつったような表情を見せる。
「あ、ああ、その…」
エルザが言葉を詰まらせるのを見て、カグラが助け舟を出す。
「すまない…今はアレンはいないんだ…」
「えー!!会いたかったなー!」
カグラの言葉に、子どもは不貞腐れたような様子を見せる。他の数人の子どもも同じ気持ちなのか、落ち込んだ様子を見せる。
「ごめんなさいね…また日を改めて…」
ウルティアがそんな子どもたちに笑い掛けながら声をかけるが、集団の中腹にいる子どもが声を上げる。
「アレンさんなら、マグノリアの街の近くの丘に座ってたよ!!」
「何してたんだろうね!!」
その子どもたちの言葉に、エルザ達が目を見開いて驚く。
「んー、でもいないなら仕方ないねー!クッキーありがとね!!」
子どもたちは、それぞれに礼を言いながらギルドメンバーの前から去っていった。
暫く子どもの言葉に驚きを見せていたメンバーであったが、ミラがいち早く冷静さを取り戻す。
「近くの丘…」
「い、行ってみる…か?」
ミラの言葉に、エルザが小さく呟く。
「い、いや…だが…」
「どうなんだろうな…その…」
グレイとジェラールが悩んだように言葉を発する。
「アレンの気持ちを考えると…」
「う、うーん…」
「悩ましい…」
リサーナとレヴィ、カグラも同じように困った様子を見せる。だが、そんな皆の気持ちとは違ったものが一人いた。
「よし、アレンのとこ行こうぜ!!」
ナツはそう言ってそそくさと聖堂を後にする。ナツの行動に、思わず皆が呆気に取られてしまう。
「ちょ、ちょっとまて!ナツ!少しはアレンの気持ちを…」
「それを考えた上だ!!」
エルザの言葉に、ナツは大声を張り上げる。その声と言葉に、皆は目を大きく見開く。
「仲間が落ち込んでんだ!俺たちが元気づけねーで、誰が元気づけてやるんだよ!」
ナツはニカッと大きく笑って見せる。それを見たグレイがふっと息を漏らす。
「それもそうだな…」
グレイもナツの元へと歩みを進める。
「ちょ、ちょっと…グレイ、正気!?」
そんなグレイの行動に、ウルティアが制止するように声を掛ける。
「もうアレンがギルドに来なくなって6日目だ…そろそろ心配ってのもあるしな」
「だ、だけど…」
グレイの言わんとしていることが分からんでもないウルティアは声を詰まらせる。そんな様子を見かねたジェラールが、ため息をつきながら言葉を発した。
「なら、俺も一緒に行こう。お前たち2人だけでは心配だ。それに…こういう時は同性の方がいいかもしれんしな…」
「ジェラール…」
ジェラールの言葉に、ミラが少しもどかしそうにしている。
「なに、心配いらないさ…無理に引き連れてくるような真似はしない。少し様子を見てくるだけだ」
ジェラールは残ったエルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、レヴィ、リサーナに語り掛けるようにしてナツとグレイと共に聖堂から去っていった。

アレンは、6日間の殆どを一人で過ごし、マグノリアの近辺の森や人気のないところで黄昏ていた。24日の夕刻、アレンが一人で考え込むようにして過ごし始めた18日の初日と同じように、マグノリアの街からほど近い丘の上で座り込んでいた。
これまた同じように遠くへと視線を向けながら呆けていたが、後方から身に覚えのある魔力を感じ取り、深くため息をつく。
「まさか…こんな時に来るとはな…」
「随分と辛そうだな、アレン・イーグル」
アレンは振り返ることなくその人物に声を掛けると、特に抑揚のない言葉が返ってきた。
アレンはゆっくりと後ろを振り返る。その人物は真っ白な衣装に身を包み、左側の腰に一本の剣を携えていた。頭には白い仮面のようなものが見て取れる。
「…何しにきやがった…。ウルキオラ」
「…お前の無事を確認にな…」
ウルキオラはアレンの顔を確認すると、表情を変えずに口を開く。
「はっ…以外に嘘が下手なんだな…。俺に話があってきたんだろ?」
「嘘ではない…だが、お前の言うことも正解だ」
ウルキオラは特に動揺することなく、アレンへと近づいていく。それを見て、アレンもゆっくりと立ち上がり、身体をウルキオラへと向き直る。両者とも見つめあい、暫くの間互いに言葉を発しなかったが、それを破るようにしてアレンが小さく呟いた。
「…お前の目的は…ミラボレアスの討伐だな?」
「…なるほど、存外馬鹿ではないらしい。その通りだ」
アレンの呟く様な言葉に、ウルキオラは少し抑揚のある言葉で返す。
「俺に虚の力を与えたのも、そのためか?」
「ああ…。お前も知っているはずだ…奴の力を…。いや、といってもお前は伝承や文献のみの知識か…」
ウルキオラの言葉に、アレンは小さく笑って見せる。
「まあな…。だが、今のお前の発言で、ミラボレアスの力が想像を絶するものだってのはわかった。お前ほどの力を持つものが、俺の力を欲する程だということがな…」
「…ほう?そこまで考えが及ぶか…。力だけでなく、頭脳も中々のものだ」
ウルキオラはアレンを煽るようにして言葉を続ける。
「俺を虚化させたのは…俺に新たな力を齎す以上に、俺の力を取り込みやすく…奪いやすくするためでもあったということか」
「そういうことだ。…まあ、それについては失敗だがな…。虚の力を抑え込んだお前をいまの俺が取り込む術はない」
ウルキオラの言葉に、アレンは小さく目を見開く。
「へえ、意外に弱気なところみせるんだな…お前も…」
「俺にとっては、お前が虚に呑まれようが呑まれまいがどちらでもいいことだ…」
ウルキオラの言葉に、アレンは更に怪訝な表情を見せる。
「…どういう意味だ?」
「わからないのか?本当に」
アレンの質問に、ウルキオラは挑発するように答える。それに対して反応を示そうとしたアレンであったが、これまた身に覚えのある魔力の集団がこちらに向かっているのを察知する。そして、目を見開く。ウルキオラもそれに気づいた様子で、マグノリアの方向へと視線を向ける。
「どうやら、ゴミ共のお出ましか…」
ウルキオラはだんだんと近づいてくる集団を見つめながらそう呟いた。

アレンがいると言われたマグノリアの街からほど近い丘に向け、ナツ、グレイ、ジェラールは足早に向かっていた。そして、その3人を追うようにしてエルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、リサーナ、レヴィ、更に先ほどの話を横耳で聞いていたルーシィとウェンディ、シャルルが後をついてくる。
「ふっ…なんだかんだ言って、やはり来たか…」
「まあ、俺たち以上にエルザ達はアレンのことが心配なんだろ…一人の女として…」
ジェラールとグレイの言葉に、ナツはへへっと笑いを漏らす。そんな風にして、マグノリアの街から出て、目的の丘を目指して駆ける。近場ということもあり、アレンの姿を捉えるのにそう時間はかからなかった。最初は、物陰に隠れてアレンの様子を見守ろうと考えていた3人であったが、アレンの横にいる人物を視界に捉えると、その考えを一瞬で吹き飛ばす。
「ッ!!お、おい!!あれって!!」
「まさかッ!!!」
「く、くそッ!!」
ナツ、グレイ、ジェラールが白い服を纏った人物に気付き、極限まで魔力を込めて向かっていく。少し遅れてエルザ達もその存在に気付き、狼狽したような表情を見せるが、すぐにナツ達と同じように臨戦態勢に入る。
そして、アレン達の元へあと10mといったところで皆は足取りを止める。
「てめえ…ウルキオラッ!!」
「なぜここに!!」
ナツとジェラールがギリッと歯を食いしばる。
「あれだけの力の差を目にしても、戦う意思があるのか…」
ウルキオラは、臨戦態勢を整えているナツ達に向け、低く言葉を放つ。
「ウルキオラ…」
「アレンから離れろっ!!」
「ッ!!」
少し遅れてアレンの元へと到着したエルザ達も、すぐに戦闘を行える様子であった。エルザ、ミラ、カグラが口々に言葉を漏らす。
「安心しろ…お前らとここでやり合うつもりはない…目的は達した…」
ウルキオラは淡々と言葉を発しながら、冥界島で姿を消したときと同じように、空間に黒い亀裂のような扉を生成する。その様相に、皆が目を見開いて驚く。
「目的…だと…?」
「アレンに何かしたの!?」
ウルティア、リサーナが激高したように口を開いた。だが、ウルキオラはそんな2人を見向きもせずにアレンへと視線を移す。
「お前のことだ…。俺が何を考えているのか、分かっているだろう?」
「…ウルキオラ…」
「次は…戦場で会おう…」
ウルキオラはアレンへと小さく言葉を紡ぐと、黒い扉のようなものと一緒に姿を消した。その様相に、皆が酷く驚いて様子を見せていたが、アレンがそんな皆に向き直り、言葉を掛ける。
「よくわかったな…奴が来たと…」
アレンの言葉に、皆は臨戦態勢を解除しながら苦しそうに答える。
「い、いや…」
「たまたまだ…」
エルザ、ジェラールが申し訳なさそうに言葉を発した。
「ん?どういう意味だ?」
アレンは事の真意がわからず、聞き返す。
「その…ヒノエとミノトから…全部聞いた…」
カグラの言葉に、アレンは大きく目を見開く。そして、ふっと笑い、下を俯く。
「まったく…あの2人は…。だが、そうか…聞いたんだな…」
アレンの言葉に、皆は申し訳なさそうに視線を下へと移す。
「幻滅したか…?」
アレンの言葉に、皆はバッと顔を上げて目を見開く。
「な、なにを…」
ウェンディは酷く困惑した様子で口を開く。アレンはその問いに答えるようにして、後ろを振り向く。
「竜の天敵、大陸最強、妖精王…色々と呼ばれちゃいるが…俺は愛する家族一人、女一人守れねー、クズだってことさ…」
アレンの言葉に、皆は更に目を大きく見開く。これほどまでにアレンが弱音を、自身を貶めるような言葉を吐いたことがない分、その驚きは想定以上であった。だが、その言葉を否定するようにして、エルザがアレンへと駆け、その背中に思いっきり抱き着く。
「ッ!エルザっ!!」
アレンは急に抱き着かれたことで、困惑を見せる。
「クズじゃない…アレンは…クズじゃない…」
「…エルザ…」
エルザの消え入るような声に、アレンは思わず息を漏らす。
「私には、アレンの苦しみ本当の意味で理解することはできない…だが、大切なものを失った時の苦しみは…知っている…。アレンを失ったと思ったあの時の苦しみは…思いだしたくもない…」
エルザの言葉に、アレンだけでなく、その場にいるもの全員が同意の意を示す。
「アレンの心の傷を…私たちが推し量ることができるとは思っていない…だが…私はその悲しみを埋めるのは…仲間だと信じている」
エルザの言葉に、アレンは、ゆっくりとエルザへと向き直る。アレンと至近距離で抱きしめあうかの様相になり、エルザは少しずつ赤面していく。
「…ありがとう」
アレンは短く、小さく答えた。その表情には、どこか平常心を取り戻したかのような様相が伺え、エルザは些少の安心を漏らす。
「わ…私はいつでもアレンの…ッ!!!」
エルザは気恥ずかしそうにアレンへと言葉を掛けようとするが、それはある衝撃的な事柄に、遮られることになった。
なんと、アレンがエルザの唇を奪うようにキスをしたのだ。まさかの事態に、エルザは目を思いっきり開き、瞳孔が上下左右へと動き回る。後ろにいたナツ達も目を丸くして驚きを見せる。特に、ミラ、カグラ、ウルティア、ウェンディの驚く様は尋常ではなかった。
暫くして、アレンはエルザの唇からゆっくりと自身の唇を剥がす。
「あ…ああ…///」
エルザは一体何が起こったのか、理解できないと言った様子であった。
「わり、思わずキスしちまった…許せ、エルザ」
アレンはそんなエルザの頭を撫でながら、ケラっと笑って見せた。 
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