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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第8章 冥府の門編
  第38話 煌黒龍

フェアリーテイルマスター、マカロフから冥府の門の情報が欲しいという一報と共に、冥府の門によってアレンが囚われたことを知った王国と評議院は、マグノリア及びその周辺の街の住民の避難。さらに魔障粒子対策も含め、両者とも使者や軍隊を派遣するなどして対応していた。
そんな派遣した部隊や映像用ラクリマが捕らえたものは、言葉で表すことすら畏怖を覚えるものであり、国家、及び大陸に緊急事態宣言を発令するに至った。
王国側は、派遣した部隊の報告と、評議院から齎された報告のほぼ全てが一致していたこともあり、今まさにマグノリアの上空、冥界島にて三天黒龍の内の一角、黒闇竜アクノロギアの復活と、同じく三天黒龍の一角、煌黒龍アルバトリオンの復活を信じざるを得ない状況であった。
「これが…私があの時…間違った選択をした結果…」
首都クロッカスにある王宮の玉座の間で、南東の空を見上げながら王女ヒスイは消え入るような目と言葉で小さく呟く。
「姫様ッ!一体何を仰られるのですか!」
ヒスイの隣に控える、桜花聖騎士団長アルカディオスがヒスイに対し、声を張り上げながら言葉を発する。
「…あの時、バルファルクは言っておりました…。三天黒龍の復活の礎となったと…もし、私があの時、軽率な行いをしなければ…こんなことには…ッ!」
ヒスイは、身に着けているドレスの端を握りしめ、キッと険しい表情を浮かべながら、目尻に涙を浮かべる。
「姫様のせいでは…ございません…」
そんなヒスイの心情を察してか、国防大臣のダートンは苦しそうに口を開く。そんな3人の元にゆっくりと歩みを進める国王トーマは、同じように南東の空を見上げて怪訝な表情を見つめる。
その空には、かつて天狼島にて発生したフィオーレクライシス…アレンとアクノロギアの戦いを遥かに超える強大な魔力と波動、そして暗雲が立ち込めていた。
「我が軍と評議院の情報によれば、今マグノリアの上空には三天黒龍のアクノロギアとアルバトリオン、さらにこの首都を襲ったバルファルク。さらにアレン殿と同等以上の力をもつ破面たるウルキオラ、黒魔導士ゼレフ…。そしてそれに相対するはアレン殿を含めたフェアリーテイルの魔導士と、詳細のわからぬ竜5体…。果たして、わしらにできることはあるのか…」
トーマは、低く唸るような声で言葉を発した。その言葉に、ヒスイ達は苦悶の表情を見せる。できれば、その報告を信じたくはなかった。だが、関係各所から届く一報に、それを否定する材料はなく、逆に確定させる材料ばかりがこの場に届いていた。
そんな風に思考を巡らせていると、まるで何か強大な力が地面に叩きつけられたような衝撃が、玉座の間を襲う。
「キャアッ!」
「姫様!!」
「な、なんだ…」
「これは…」
ヒスイ、アルカディオス、ダートン、国王は、それぞれに悲鳴をあげる。そして、その衝撃の元凶とも呼べる場所へと、4人は視線を移す。
「これが…世界の終焉…その始まり…なのか…」
アルカディオスは、酷く怯えた様子で、口を開いた。

アレン達フェアリーテイルのメンバーが冥界島での戦闘を続けていた頃、マスターであるマカロフは、何かを考え込むようにしてギルドの地下へとその姿を見せていた。
マカロフは、怪訝な表情を浮かべ、クリスタルのようなものの前で、ギルド最高機密である『ルーメン・イストワール』の前で立ち尽くしている。
「…今、これを発動すれば…じゃが…」
マカロフはルーメン・イストワールを眺めながら、小さく言葉を漏らす。すると、一人の人物が、足音を立てずにゆっくりとマカロフの後方へと現れる。
「私は、あなたの判断を尊重します。3代目…いえ、今は5代目でしたね…」
「…初代…」
振り返り、その人物を視界に捉えると、マカロフは小さくそして短く答える。
「…5代目…ウルキオラというものの存在…そして、マグノリアの上空、冥界島にて黒魔導士ゼレフと黒闇竜アクノロギアが出現したことは聞き及んでおりますね…」
「ええ…だからこそ、わしは…」
マカロフの言葉を遮るようにして、メイビスはゆっくりと口を開く。
「加えて、煌黒龍アルバトリオンが現れました」
「ッ!な、なんじゃと…!!そんな、まさか…」
メイビスの言葉に、マカロフはこれまでにない狼狽を見せる。
「…この力を使えば、可能性は見えるかもしれません…」
「ですが、初代…これは…」
メイビスもまた、マカロフの見つめていたルーメン・イストワールを視界に移す。
「…お伝えしたはずです…あなたの判断を尊重すると…この、『妖精(フェアリー)心臓(ハート)』…これを使用するかしないか…それは現マスターであるあなたに決定権があります」
マカロフは、その言葉と同時に、ルーメン・イストワールをじっと眺める。そして、そのクリスタルのようなものの中に封じ込められた人物に視点を合わせる。そこには…初代の、メイビスの身体が見て取れる。それを視界に納めたマカロフは、小さく口を開きメイビスへと言葉を発しようとする。だが、それは圧倒的な衝撃、地震のようなものに遮られる。
「ッ!なんじゃ!!何が起こった!!」
「この衝撃は…一体…」
マカロフだけでなく、幽体であるメイビスもまた、その圧倒的な衝撃に驚愕の表情を浮かべる。
「ッ!5代目!!一先ず話は後です…地上に出て、様子を見に行きましょう」
メイビスの言葉に、マカロフは苦悶の表情を浮かべながら、ギルドの地下を後にした。

空を滞空していた鋼鉄竜メタリカーナ、白鳳竜バイスロギア、影翔竜スキアドラムは、先ほどまで待っていた龍
が姿を現したことで、怪訝な表情を見せる。
「こいつが…煌黒龍アルバトリオン…」
「竜というより…もはや神に近いな…」
「…アクノロギアなど比ではない…こんな存在が…」
スキアドラム、メタリカーナ、バイスロギアは、声を震わしながら言葉を発する。その声を呼応するようにして、アルバトリオンが口を開いた。
「…人間から竜へと昇華したあやつと一緒にされては困るな…」
その声に、メタリカーナ達は酷く驚いた様子を見せる
「我は古龍をも超える禁忌の龍…アルバトリオンぞ!!」
アルバトリオンは、そう言い放ち、強大な咆哮を上げる。刹那、雷と氷、火に龍気が全方位へと駆け巡る。
「こ、これが…」
「あらゆる天災を司る竜…」
「アクノロギアが属性を持たぬ竜…そしてこやつが、あらゆる属性をもつ竜、だったな…」
メタリカーナ、スキアドラム、バイスロギアは、苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
「…異世界の竜共…少々遊んでやろう…」
刹那、圧倒的な轟雷と赤き龍気エネルギーが冥界島全域を襲う。その力は冥界島をいくつもの破片へと変え、天変地異を起こす。
「ま、まさか…こやつ…」
「冥界島を叩き落すつもりかっ!!」
メタリカーナとスキアドラムは、冥界島に降り注ぐ惨劇を目の当たりにしながら怒号を上げる。
圧倒的な力を受けた冥界島の大地は、震えるようにして大きく揺れる。そして、次第に大地は大きくわれ、次々とマグノリアの街やその近辺へと落下してゆく。
急にその身を預ける大地が大きく振動し、落下していく様に、フェアリーテイルのメンバーやアレン達も動揺を隠せない。その身を守るようにして頭を抱えたり、身体を空中へと預け、回避する。
暫くすると、冥界島の全てが大陸の大地へと衝撃し、その全てが強大な破片となって沈黙を見せた。
アルバトリオンは、そんな風に崩壊する冥界島を一瞥すると、その強大な翼を広げる。空を覆いつくさんとするその強大な翼は、まるで神の降臨を思わせ、その場にいるもの全員の視線を奪う。
「ッ!勝てる見込みは…いか程か…」
「だが、やらねばなるまい…」
「これが我らの最後の戦いだ!!」
スキアドラム、メタリカーナ、バイスロギアは、意を決したように、その強大な翼の主に、煌黒龍アルバトリオンへと、立ち向かっていった。

空に浮かぶ雲よりも遥か上空。
天彗龍バルファルクと、天空竜グランディーネは、超高高度での戦闘を繰り広げていた。先日まで、この高度での領域において、争うべき相手がいなかったバルファルクにとって、グランディーネの高い飛翔能力とスピードに驚きを見せていた。
「驚いたな…まさか、この俺の領域においてこれほどまでに戦いを繰り広げることができるとは…」
「それはこちらのセリフです…。さすがは、私と同じ天の名を有する竜といったところですね…」
グランディーネもまた、自身の領域において同等の力を有するバルファルクに、怪訝な様子を見せる。
「ふふっ!だが、お前の冠する者は『天空』、俺は『天彗』。私と貴様の力は、完全に上位互換にある!」
「名だけで判断するとは、浅はかですね…」
バルファルクの言葉に、グランディーネは小さく笑って見せる。だが、バルファルクはその笑いを超える笑みを、その顔に浮かべる。
「いやー…端然たる事実さ…」
バルファルクのその言葉と同時に、2人のいる上空よりも遥か上、宇宙空間にも肉薄する領域から、赤い強大な何かが出現する。
「これは…まさか…ッ!!!」
その様相に、グランディーネは驚愕の声を上げる。
「…言ったはずだ…『天彗』だと…さて、これほどの隕石…『天空』如きで止められるかな…?…これが落ちれば、フィオーレ王国は…いや、大陸全土が滅ぶだろうな…」
バルファルクは挑発するようにグランディーネに問いかける。グランディーネはその問いかけに答えることはなく、烈風の如きスピードで、大地へと滑空を始めた。

場面は変わり、フェアリーテイルの魔導士たち。アルバトリオンの攻撃により、冥界島が墜落したことで、ゼレフと共に、ギルドがあった付近へとその身を落ち着けていた。
「冥界島を…」
「叩き落したのか…」
「なんという力じゃ…」
「あんなもの…一体どうやって倒せっていうんだ!!」
自身の身体を襲った衝撃が、とりあえずの落ち着きを見せたことで、エルザ、カグラ、ミネルバ、ジェラールが酷く怯えた様子で口を開く。
アルバトリオンの一撃を垣間見たことで、フェアリーテイルの戦意は完全に消失していた。
そんな折、はるか上空に、赤き強大な影を見つけることになる。
「おい…あれって…」
「まさか…隕石…バルファルクか!!」
「ッ…次から次へと…」
「一体…どうしたら…」
フリード、ビックスロー、ラクサス、エバがその様相を見て、目を酷く震わせる。
だが、そんな絶望を生む隕石よりも速い速度で、白い何かがこちらに接近してくる。
「ッ!あれは!!」
「グ、グランディーネ!!」
その姿を捉えたナツとウェンディが驚いたように声を上げる。そして、グランディーネは隕石とフェアリーテイルの間に割って入るようにして滞空し、翼を大きく広げる。
「まさかッ!」
「あの隕石を受け止めようとして…!!」
レヴィ、ルーシィが酷く困惑したように口を開く。
「ダ、ダメーー!!グランディーネ!!!…お母さん!!!!」
その姿と、仲間の推測を聞き、ウェンディは目尻に涙を浮かべながら天を突かんばかりの声を上げる。
「…ッ!グランディーネ…」
アレンも同じようにして、心配するように怪訝な表情を見せながら小さく言葉を発する。周りの様相を把握したグランディーネは、微笑をもらす。
「…舐められたものね…私はそんなに弱く見えるのかしら…」
グランディーネはそう呟くと同時に、その美しい両翼に強大な魔力と風を纏わせる。
「天空竜奥義…照破・天空穿!!」
両翼を大きく振りかぶると同時に、迫りくる隕石の周りに圧倒的な風が纏わりつき、隕石がまるで強大な網に囚われたような様相を見せ、その動きを止める。隕石を止めた暴風は、さらに内部へと侵入し、隕石に無数の亀裂を入れる。そして止めと言わんばかりに、グランディーネは強大な咆哮を浴びせる。
これでもかと圧縮された空気の砲撃は、隕石に纏わりつく暴風を巻き込むようにして衝撃し、まるでみじん切りしたようにして隕石が全方位に爆散する。
一瞬にして強大な隕石が塵と化したことで、フェアリーテイルのメンバーだけでなく、アレンやウルキオラ達も驚愕の表情を見せる。ウェンディとシャルルに至っては、息をするのを忘れてしまうほどの衝撃をうけたと言わんばかりの表情を浮かべる。
「…私は天空竜グランディーネ!!こんな石ころに敗れるほど軟じゃないわ!!」
その言葉に、少し離れた位置で状況を見守っていたアレンは、驚きの表情から、感銘を受けたような表情へと顔つきを変える。
「あれが…そうなのか…」
そんな風にしてアレンが感嘆に浸っていたのとほぼ同じころに、ウェンディも感動に身を震わせながらグランディーネの背中を見つめていた。
「本物の…照破・天空穿ッ…!」
ウェンディの小さな呟きに、フェアリーテイルのメンバーが表立って反応することはなかったが、その言葉を噛みしめるようにして感嘆の意を表していたことは言うまでもない。

魔法の覚醒の第二段階である卍解、それによって発動した妖精の皇帝を有するアレンと、刀剣解放の第二段階を解放したウルキオラは、目にも止まらぬ速さと圧倒的な力で幾度となくぶつかり合っていた。両者が接触するたびに、竜同士の戦いにも引けを取らないほどの波動を生み、マグノリアの街にいる評議院や王国の兵士たちを驚かせる。そんな折、アルバトリオン襲撃により冥界島が撃墜されたことに加え、グランディーネと隕石の衝突もあり、両者が暫く、その剣戟を止める。フェアリーテイルの魔導士とゼレフの近くに鎮座するように立ち尽くしていた。
周辺の状況が落ち着きを取り戻したことで、アレンは再びウルキオラと相まみえようと、両手にもつ剣に力を籠める。それを見たウルキオラは、両手で輪のようなものを形成する。その輪には、緑色の魔力が発生し、一本の槍を形成する。
雷霞(ランサデル)(レランパーゴ)
「…さっきのフルゴールとはまた違うみたいだな…形成されてる魔力の質が違う…」
アレンは、抜きんでた魔力の圧縮に、苦笑いを浮かべながら口を開く。
「一緒にするな…そして、それ以上近づくな…」
「…なに?」
アレンは怪訝な表情で短く答える。ウルキオラは、ゆっくりと投擲するようにして雷霞の槍を構える。
「…できればこいつを、近くで打ちたくはない」
刹那、視界に捉えるのも難しいほどの速度で、雷霞の槍がアレンへと迫る。アレンは、何とかすんでのところでそれをよけ、事なきを得る。だが、暫くしてその槍が彼方の地面へと衝撃を果たした瞬間、街一つを軽々と包み込むほどの緑が発生し、それは空を突き、天を焦がすほどの火柱を立てる。瞬間、すべてを薙ぎ払うかのような暴風と魔力の風が、冥界島を襲う。立っていることすら難しいほどの暴風に、フェアリーテイルのメンバーだけでなく、アレンやゼレフ、他の竜たちですら驚愕の表情を浮かべる。
「…外したか…やはり扱いが難しいな…」
ウルキオラは小さくそう呟くと、またも一瞬にして雷霞の槍を形成する。その様相に、フェアリーテイルのメンバーは更なる驚きを見せる。
「冗談だろ…」
「あんな魔法を何発も打てるのか!!」
ジェラールとグレイが、酷く怯えた様子で口を開く。ゼレフは見開いた眼をゆっくりと元に戻し、その視線をウルキオラへと向ける。
「…もう力試しはいいだろう、ウルキオラ…」
「…ゼレフ」
ウルキオラは、自身へと向けられた言葉に、ゆっくりと視線を移す。
「もう目的は達成した…。それに、煌黒龍アルバトリオンが現れた以上、これ以上は無意味だ…撤退しよう」
「…ちっ。…いいだろう…」
ウルキオラは悪態を付きながらも、ゼレフの提案を受け入れる。アレンは、そんなウルキオラとゼレフの様子に驚きつつも、落ち着きを払って口を開く。
「…なぜお前ほどの力を持つものが、ゼレフの下につく?」
「…俺はゼレフの下についたつもりはない…言ったはずだ…利害の一致だと…」
アレンの質問に、ウルキオラは低くそれでいて抑揚のない言葉で返す。
「アレン…僕と彼の関係に、上下関係はないよ…。バルファルク…君ももう終わりにするんだ…」
「仕方ねえな…まあ、引き際か」
バルファルクは、先ほど隕石を撃退したグランディーネと睨みあうようにして鎮座していたが、ゼレフの言葉を素直に受け入れる。
「…バルファルクとも、上下の関係にはなさそうだな…」
「そうだよ…僕たちにあるのは利害の一致のみ…それだけさ」
ゼレフがそう言い放つと同時に、ウルキオラは空間に手を添える。すると、空間を割くようにして黒い扉のようなものが形成される。その様相に、アレンは小さく目を見開く。それを防ぐようにして剣を握りしめるが…。
「…やめておけ、この空間は、俺が認知した者しか取り込まん」
「それに、君は本来、僕たちを相手にしている暇はないはずだ…」
アレンの動きを見て、ウルキオラとゼレフが嘲笑するようにして言葉を発する。黒い空間は、ウルキオラ、ゼレフ、バルファルクを取り込むと、ゆっくりと閉じ始める。
「また、会えるといいね…アレン。僕の唯一の…親友よ…」
ゼレフはそう言い残して、掻き消えるようにして姿を消した。アレンは、そんな言葉と様相を、ただ黙って聞き、じっと見つめていた。

ギルドの地下から地上へとその身を現したマカロフとメイビスは、驚愕の表情を浮かべる。まずは、マグノリアの街を汚染していた魔障粒子の殆どがすでに浄化されていたことであった。街の各所に評議院や王国の兵士と思われる人物がおり、魔障粒子を魔水晶内に封じ込めている様を見る。すでに通常通りに呼吸をしても問題ないと感じたマカロフは、魔力を帯びた手を、口元から引きはがす。
もう一つは、マグノリアの街の上空にあるはずの冥界島が消失していたことだ。しかも、ただ消失しているわけではない。その全てが散り散りの状態でマグノリアの街へと堕ちていた。両者はあまりの惨劇に暫く言葉を失ったが、ギルドの入り口…といっても今はただの瓦礫の山であるが、その右斜め方向に見知った集団が座り込んでいるのが見て取れた。
「ッ!皆!無事か!!」
その声を聴いたその集団は、驚きつつも安心した様子を見せる。
「マスター…!」
「なんとか…無事です…」
エルザとミラが、考え込むような表情を見せてそれに答える。
「一体何があったと…ッ!」
マカロフは、ことの経緯を皆から聞こうとしたが、ある人物が目に映り、言葉を止めた。
「…無事…なのか?アレン…」
「マスター…とりあえず、なんとかな…」
マカロフは、怪訝な口調でアレンに言葉をかける。そして、変わり果てた姿のアレンへと苦しそうに言葉を掛ける。
「…それが虚化というやつか…なんとも言い難い姿に…」
「ちげーわ!!これは俺の本来の力だ!!!」
マカロフの凄まじい勘違いに、アレンは激高して声を荒げる。そんな2人の様子をみて、一人、また一人と小さく笑いを見せる。そんな様子を見たアレンは、小さくため息をつく。
「はぁ…まあ、とりあえず場を和ませたってのはお手柄だぜ…マスター」
自身は全くそんなつもりのなかったマカロフは、苦笑いを浮かべる。そして、今度は見知らぬ竜へとその視線を移す。
「むう…して、お主は…」
マスターが、グランディーネへと視線を移したことで、ウェンディが弁明するかのように声を上げる。
「マ、マスター…これがグランディーネです!私のお母さんです!!」
「…そうか、つまりは、味方というわけじゃな…」
ウェンディの言葉に、マカロフは少し安心したような表情を見せる。グランディーネは特にその会話に反応することなく空を見上げている。
そんな風にして、辺りの状況を見つつ、警戒していた皆であったが、アレンが何かを察したように空を見上げる。
「こ、これは…まさか…」
そのアレンの動揺ぶりに、皆が怪訝な表情を見せる。少し遅れて、ヒノエとミノトも何かに気付き、短い呻き声のような悲鳴をあげる。アレンは大量の冷や汗を流しながら、空に向かって大声を張り上げる。
「メタリカーナ!バイスロギア!スキアドラム!!それにイグニール!!今すぐに逃げろ!!『エスカトンジャッチメント』だ!!!」
アレンの動揺と、聞きなれない言葉に、フェアリーテイルのメンバーの表情は更に険しいものへと変化する。
刹那、世界がまるで制止したかのような、圧倒的な魔力が吹き荒れる。まるで、時の流れが遅くなったと錯覚するほどの魔力は、嫌な風を巻き起こし、マグノリア、そしてさらにその先へと伸びていく。
王国や評議院やの関係者も、何が起こっているのか理解できないと言った様子で辺りを見回している。
アレンは、エスカトンジャッチメントが発動するまでの数秒で、卍解を解き、その身にオレンジ色の魔力を形成する。
その魔力は、肋骨のようなものを形成し、更にそれを覆う筋肉、鎧と次々と魔力を変化させていく。
そしてそれは、フェアリーテイルの魔導士を、グランディーネを包み込むようにして強大なモノへと変化する。
次々と人のような姿を形作る魔力に驚きを見せていた皆であったが、それが何であるかを徐々に理解し始める。
そして、理解し始めたと同時に、炎が、氷が、雷が、龍気がマグノリアの街を、空を、大地に襲い掛かる。その様相は、次第に目を開けていられないような閃光を伴い、皆は身体を震わせて縮こまる。
次第に閃光と轟音は止み、ゆっくりと目を開く。そして、すぐに目を見開いて驚く。自分たちを包み込むオレンジ色の圧倒的な魔力、その正体を目にしたこともあるが、何人かは想像している以上のものであったがために、更なる驚きを見せる。
「な、なんだ…これ…」
「スサノオ…なのか…」
「で、でかい…」
グレイ、ジェラール、エルザが口々に言葉を漏らす。そう、エルザ達が知っている者とはまるで違っていたのだ。イグニール達、強大な竜と同等…いやそれを超えるほどの強大な侍のような姿。加えてその背中にはエクシードの者に似たに翼まで生えている。皆が動揺を隠せずにいると、そのスサノオの足元にいるアレンがゆっくりと口を開いた。
「これはスサノオの最終形態…完成体スサノオだ…ぐっ…」
アレンはそう言うと、苦しそうにして地面に膝を着く。それと同時に、完成体スサノオがゆっくりと四散し始める。
「「「「「「「「「「ッ!アレン!!!」」」」」」」」」」
倒れこんだアレンを心配するように、皆が声を張り上げる。エルザとミラがいち早くアレンの元へと駆け、その身体を支えるようにして手を差し伸べる。
「大丈夫かっ!!」
「しっかりして!」
エルザとミラが声を掛けた瞬間、アレンは口元から大量の血を吐き出す。その吐き出した血の量に、2人は恐怖を滲ませ、悲鳴に似た声を上げる。
「「ひっ…アレン!!」」
2人はそんなアレンに呼びかけながら、優しく背中を擦るが、滴り落ちる血が止まることはなかった。
「アレンさん!!」
血を吐き出したアレンを見たウェンディが、一目散に駆け、アレンへ治癒魔法を展開する。
「ッ!む、無茶しすぎです…!」
治癒魔法を展開したことで、アレンの疲労とダメージを感知したウェンディが、涙目で声を掛ける。
「す、すまない…ウェンディ…」
アレンは暫く息を整えるようにしてじっとしていたが、思い出したかのように目を見開く。
「ッ!イ、イグニール達は!!あいつらは無事か!!」
その言葉に、ナツ、ガジル、スティング、ローグが目を見開いて空を見上げる。と同時に、少し離れた位置に何かが撃墜する音が鳴り響く。その音の正体を確かめようと目を凝らすと、それは3体の竜…メタリカーナとスキアドラム、バイスロギアであった。
「メタリカーナ!」「スキアドラム!」「バイスロギア!」
ガジル、ローグ、スティングの叫びを聞き、アレンは避けきれなかったことを理解し、苦悶の表情を浮かべる。あのエスカトンジャッチメントを至近距離でくらったのだ。恐らく、無事ではないだろう…。
そんな風に後悔の念に苛まれている中、急にナツが駆け出す。
そんなナツの行動を不審に思いながらも、アレンは空を眺める。アルバトリオンから距離を取って戦っていたイグニールとアクノロギアは、先ほどの3体の竜ほどのダメージを追っていないのか、未だに戦闘を続けていた。
しかし、両者は互いに攻撃の手を緩めると、咆哮を上げて鎮座する。そして、意を決したように両者は真っ向から突撃するようにして衝撃する。
刹那、アレンは驚愕の表情を見せる。
両者とも、互いの片腕を捥ぐことに成功し、その口に加えている。だが、驚きの表情を見せた理由はそれではなかった。
イグニールは腕だけでなく…胴体に大きな大穴を開けていた。それを見たナツは、この世の終わりのような表情を見せる。アレンも、呻き声に似た声を漏らす。他の者も、あまりの衝撃とイグニールの有様に、酷く困惑を見せる。
イグニールは、力尽きたように地面へと堕ちていく。そんなイグニールに止めを刺さんと、アクノロギアは上空からブレスをためていた。
そんな風にして狼狽していたアレンであったが、頭の中に短く声が届く…。
「アレンよ…ナツのこと…頼んだぞ…」
「ッ!イグニール…」
瞬間、アクノロギアのブレスが放たれ、イグニールを飲み込み、地面へと激突させる。マグノリアの街の近辺に落ちたそのブレスは、強大な白い球体を形作り、飲み込んだもの全てを破壊しつくす。
ナツは、その咆哮を、唇を震わせながら見つめ、これ以上にない叫びをあげた。
「イグニーーーールーーーーー!!!!!!!!」
その叫びは、マグノリアの街を、空を駆け巡った。 
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