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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第122話:繋がりの形

 
前書き
どうも、黒井です。

今回は短めに前回登場したウィザード型ギアの説明などになります。 

 
 居城であるチフォージュ・シャトーに戻り変身を解いたハンスに対し、キャロルが真っ先に行った事は彼の顔面を殴打する事であった。

「このバカが!?」
「グッ……」
「何を勝手な事をしている!? あそこでお前が出てくる予定はなかった筈だ!!」

 玉座の前の広間で繰り広げられる出来事を、4体のオートスコアラーは顔色も変えず見つめていた。

「お前の役目は計画遂行の邪魔になる魔法使いの排除、それだけだ! それ以外の事で力を使う事等許さないと言った筈だぞ!!」
「え? んな事言ってたっけ?」
「おま、お、お前――!?」

 すっ呆けたハンスの物言いに、キャロルは顔を赤くしたり青くしたりと忙しない様子だ。何かを言おうとしているが、一斉に言葉が頭に浮かび渋滞を起こしているのか何も出てこない。
 ハンスはそんなキャロルを前に首を傾げている。ふざけている訳ではなく、どうやら本気でキャロルが怒っている理由が分かっていないようだ。

 まるで何も知らない子供の様な澄んだ目で見られると、それが引き金となったのかキャロルはハンスを押し倒しそのまま馬乗りになって何度も彼の顔を殴った。

「この馬鹿が!? 馬鹿が、馬鹿が、馬鹿が馬鹿が馬鹿が!! お前は、お前は、お前が!?」
「マスター、そこまでです」

 無抵抗でキャロルに殴られ続けるハンスに流石に止めるべきかとレイアが近付き、次に振り下ろそうとしていた手を掴んで止めた。見るとキャロルの手も何度もハンスを殴った事で拳が割れて血が滲んでいる。
 そして下を見れば、そこには顔をボコボコに腫らしているにも拘らず恍惚の笑みを浮かべているハンスが横たわっていた。

「へへっ…………はははっ…………」
「はぁ、はぁ、はぁ…………くっ!」

 暫しハンスの事を見ていたキャロルは、立ち上がると最後に彼の脇腹に一蹴り入れその場から歩き出した。

「俺は少し休む。その馬鹿は部屋にでも放り込んで、お前達は次の指示に備えろ」
「畏まりました。ごゆっくりとお休みください」

 去っていくキャロルの背にレイアは恭しく頭を下げて見送ると、立ち上がる様子の無いハンスを抱きかかえて移動し始める。

 部屋に運ばれる最中、ハンスはまるで薬物中毒者がトリップしているようにどこか上の空な様子で何事かを呟いていた。

「だ~いじょうぶだよ……キャロル、君の事は俺が、何に変えても守るから……」




***




 一方S.O.N.G.本部では、了子の研究室で奏が颯人と共に改めて改修された奏のガングニールに関する説明を受けていた。

「――――という訳で、今後奏ちゃんのガングニールは颯人君からの魔力を力にする事が出来るのよ。分かった?」
「あぁ。にしてもいきなりあれはびっくりしたけどな」
「だって奏ちゃんったら話聞かずに出て行っちゃうんだもの」

 緊急事態であった事は間違いないが、それにしたって新装備の説明をちゃんと聞かずに飛び出したのは問題だろう。その点は奏も反省しているのか、申し訳なさそうに頭を下げた。

「そこは、ゴメン。次からは気を付けるよ」
「よろしい。それで、ウィザード型ギアに関する注意点なんだけどね」

 颯人の変身するウィザードに比べて、奏のウィザード型ギアは発動できる魔法の幅が広く自由度が高い。その分強力な攻撃も繰り出せるが、反面問題も当然抱えていた。
 その最たるものが、魔力切れで強制的にギアが元の姿に戻ってしまうという事だろう。

「何度も言うけど、ウィザード型ギアは颯人君から奏ちゃんに流れ込んだ魔力を糧にしてるわ。でもそれは、逆に言えば奏ちゃんの中にある魔力が一定値を下回ると力を発揮できないという事なの。無暗に魔法使ったりしたら、あっと言う間にガス欠になってギアが元に戻っちゃうから注意してね?」
「分かってるって」
「ま、必要があれば補充するから心配すんなよ」

 魔法の中には、他者に魔力を譲渡するプリーズと言う魔法がある。これを使えば颯人や他の魔法使いの魔力を奏に移す事が出来るので、奏のギアが抱える燃費問題は言うほど気にする事はないのかもしれない。

 と、ここで突然了子が顎に手を当てて何事かを考えこむ。妙に真剣な表情で考え込むので、何か問題でもあったのかと奏は顔に緊張を走らせながら問い掛けた。

「ん~……」
「どうした、了子さん? 何か問題でもあったか?」
「問題って言うか、一つ気になった事があって……」
「何が?」
「……ねぇ颯人君? 最近奏ちゃんに魔力補充した?」

 了子の質問の意味が分からず颯人は目を瞬かせ、奏と了子を交互に見た。何しろ奏のギアが颯人からの魔力を力に換える事が出来ると知らされたのは奏と同じタイミングなのだ。そして魔法使いではない奏には、魔力が本来必要ない。自分から流れる魔力が奏を守るのに役立ったとは聞いたが、意識せずに流れ込む程度の魔力で十分だと分かっていたので態々補充などはしない。

 だから何故了子がそんな事を聞いたのか、颯人は訳が分からなかった。

「そんな事した覚えはないけど……何で?」
「いやねぇ、確かに心象変化は成功した訳だけれど、想定よりも変化時の出力が高かったものだからね? アルドに聞いたら、奏ちゃんの中にかなりの量の魔力があった可能性があるって言われたのよ」

 因みにこの部屋には今アルドも居て、奏のウィザード型ギアで得られたデータの整理に付き合っている。颯人と奏の視線が、黙って資料を整理しているアルドに向けられた。
 その視線に気付いたのか、それとも話を聞いていたからかアルドは颯人達の事を見ずに口を開いた。

「魔力の補充方法は指輪だけとは限りませんよ」
「え? そうなの?」
「えぇ。例えば、ですけど、身体的接触が魔力の補充になる場合もあります。その場合相手に受け入れる気持ちが無ければ無意味ですが」
「身体的……」
「接触……」

「「…………!?!?」」

 恐らく、アルドには奏が予想以上に魔力を蓄えていた理由に見当が付いているのだろう。気付いているから、敢えて言葉をぼかしたのだ。

 愛し合う2人の身体的接触で奏の方に受け入れる気持ちがあると言えば、つまりはそう言う訳であり…………

 アルドの言わんとしていることに気付いた奏は一瞬で顔を赤くしつつ颯人の服の裾を掴み、颯人は顔色こそ変わらなかったが気付いた瞬間視線が泳ぎまくった。心当たりがあり過ぎるのだ。

 2人がそれぞれ動揺したのを見ると、了子はどこか楽しそうな笑みを浮かべた。どうやら2人の様子とアルドの話で、大体の理由に気付いたらしい。良い玩具を見つけたと言いたげな、それはそれは素晴らしい笑みを浮かべて2人の事を眺めていた。

「いや~、若いっていいわね~」
「勘弁してくれ……」
「分かってるわよ。私だってそこまで野暮じゃないわ。あ、そうそう。ウィザード型ギアは特定のスイッチがある訳じゃなくて奏ちゃんの気持ち次第で自由に変化できるから」
「あ、うん……」

 正直こんな状態でそんな説明されても、内容なんて殆ど頭に入ってこない。まぁ入らなくても特別問題ない程度の情報だからこそ、了子もこのタイミングで普通に話したのだろう。

 これ以上ここに居たら了子の気が済むまで玩具にされてしまう。颯人は早々にこの場を立ち去るべく、奏の手を掴んで部屋から出ようとした。

「もう話は終わったんなら、俺らはおっちゃんの方に行くぜ。あっちもあっちで大事な話してるんだろうし。行くぞ、奏」
「あ! ちょ、ま、颯人!」

 颯人に引っ張られて、そそくさと部屋を出て行く奏の後ろ姿を了子は楽しそうに見送った。だがアルドは、その顔に安堵と慈愛が混じっている事に気付いた。

「……お優しいのですね。奏さんの事、見守ってらしたようで」
「ん? まぁ、ね。弦十郎君じゃないけど、奏ちゃんみたいな若い子が戦いだけの人生なんて悲しすぎるし。人生を謳歌してくれてるなら、それに越したことはないじゃない」
「それはまぁ、仰る通りです」

 了子の言葉に同意しながら、アルドは纏めた資料を了子に手渡した。それを受け取った了子は、資料の内容を流し見て問題ない事に頷いた。

「……うん、大丈夫そうね。ありがとう、貴女が居てくれたおかげでスムーズに進んだわ」
「お役に立てたようで。それでは」

 これで自分の用事は済んだとばかりに踵を返すアルド。部屋を出ようとするその背に、了子は思い出したように声を掛けた。

「優しいと言えばさ? そう言う貴女の方も十分に優しいんじゃない?」
「どういう意味です?」
「颯人君の事、時々優しい目で見てるわよね? 颯人君には見えないみたいだけど、私からは良く見えてるわよ?」

 了子からの指摘に、アルドは何も答えなかった。だが何かを言おうと言う気はあるのか、その場で固まった様に動かず扉をジッと見つめていた。

 黙るアルドを急かすことせず、了子は机に頬杖を突きながらじっと見つめる。どれ程時間が経ったか、言葉が纏まったらしきアルドが了子からの言葉に答えた。

「私だって、颯人を無理矢理戦わせている事に対して思う事はあるんです。それでは、失礼します」

 早口で言いたい事を言い切ると、アルドは逃げるように部屋から出て行った。それ以上の追及は勘弁してくれと言うかのようだ。

 了子はアルドが出て行った後の扉を見ていたが、視線を外すと改めてアルドが纏めてくれた資料に目を通した。

「本当にそれだけの理由なのかしらね? 私の目からは、まるで子を見守る親みたいな視線に見えたけれど…………。ま、私子供なんてまだいないけれども」

 自嘲するようなその呟きは、誰の耳に入る事も無く部屋の中に溶けるように消えていった。

 その後室内には、資料を捲る音とパソコンのキーボードを叩く音が暫くの間響くのだった。 
 

 
後書き
という訳で第122話でした。

これまでに何度も描かれていますが、ハンスはキャロルに殴られて喜んでます。ただ彼は決してドМという訳ではありません。キャロルが彼を傷付けるのも、傷付けられて喜ぶのも相応の理由あっての事です。

魔力の受け渡し方法は、ぶっちゃけて言えば型月方式でも可能だったりします。せっかくなのでね。そして颯人と奏は成人で婚約までしているので……お察しって感じです。

今回は短めですが、次回は海水浴回なので出来ればじっくり書きたいと思います。ただ現状個人的な話で恐縮ですが、現在住んでいる家からの引っ越し作業で忙しくなる上に本作は書き溜めが無い状態なので、最悪の場合数週間の間は更新が遅れる可能性があるのでそこはご了承ください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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