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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第8章 冥府の門編
  第33話 誘拐

メモリーデイズによる件から1週間がたった頃。ジュビアは、とある相談をしに、アレンの元へと尋ねていた。最初はアレン宅にお邪魔しようとも思ったが、グレイという最愛の男がいる中で、これは浮気になってしまうのではという考えから、ギルドにて待つことにした。
アレンはいつも朝早くからギルドに顔を出すことが多いため、事前にミラに何時ごろ来ているのかを聞き、その時間である7時にはギルドに顔を出すことにした。
7時を少し回った頃、フェアリーテイルの酒場に入ると、人はまばらで、数人しか見て取れない。しかし、カウンターには2つの影があり、一人がミラ、一人がアレンであることを認識し、ジュビアは足早にアレンの元へと向かっていった。
「あら、ジュビア、おはよう。もうアレンは来てるわよ」
「ん?おお、おはよう、ジュビア。なんか俺に用があるとか…どうした?」
ミラがジュビアの存在に気付いて挨拶をすると、アレンも首を回してジュビアに声を掛ける。
「おはようございます。ミラさん、アレンさん。実は、アレンさんにお聞きしたいことがありまして…」
「聞きたいこと?なんだ?」
アレンはジュビアに問いかけるように声を発した。
「実は、今日はグレイ様との記念日なのですが、プレゼントをお渡ししたいと思いまして…」
「あら、いいじゃない!」
ミラが楽しそうにジュビアの話を聞いている。
「それで、男性がもらって喜ぶものなど教えていただければと思いまして…」
「なるほど…ん-、プレゼントなんてなんでも嬉しいもんだけど…そうだなー」
アレンが悩むようにして腕を組むと、思いついたように目を見開いた。
「それなら、実際にマグノリアの街にでて、探してみるか?食べ物とか小物とか魔道具とか」
「よろしいんですか?アレンさんのお時間を頂戴してしまって…」
ジュビアは少し申し訳なさそうに身体をくねくねさせている。
「気にすんな!ジュビアのためだからな!」
「ジュビーン!!…ジュビアのために…ブツブツ…」
ジュビアは驚いたように、それでいて気恥ずかしそうに頬を両手で多い、身体を震わせる。
「こら、アレン。ジュビアを困らせたらだめよ」
「はぁ?今のどこに困らせる要素があったんだよ…」
「それが分かってないってのが、より悪質よねー…」
ミラはじとっとした目でアレンを見つめるが、アレンは何のことかさっぱりといった様子であった。そんな風にブツブツと呟いていたジュビアであったが、何かを思いついたように正気を取り戻す。
「で、では誰か他の方を誘って…というのはどうでしょうか?その…浮気はいけないと思いますし…」
「ああ…そういうことか…。そうだな、大人数の方が盛り上がるしな!」
「それなら私も行くわ!」
ミラは嬉しそうにプレゼント選びに参加するようであった。
「おいおい、ミラ、仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ!忙しいのは終わったし、ヒノエとミノトが優秀だから私いらないくらいよ!」
ミラはガッツポーズを取りながらアレンに問いかけた。
「そう?んじゃ他のめぼしいやつにもあたってみるとするか…」
アレンはそう言って、残っているコーヒーを一気に流し込んだ。

アレンの声掛けの元、ジュビアによるグレイへのプレゼント選びをするのは、先のアレンとミラに加えて、ルーシィ、ウェンディ、シャルルとなった。
「いやー、悪いな付き合わせちゃって!」
アレンは屈託のない笑顔をルーシィ、ウェディ、シャルルに向けると、3人は微笑みながらそれに答えた。
「アレンさんの頼みなら、断れないわよ!」
「そ、それに…あの有名店のパフェを驕ってくれるとなれば…」
「乗らない手はないわね」
ルーシィ、ウェンディ、シャルルは、とても嬉しそうにアレン、ジュビア、ミラと共に歩みを進める。
このマグノリアに、最近できた最高級スイーツ店。一日10個限定の激うまパフェがあるのだが、あまりの人気とその個数の少なさに、買いたくても買えないものが多いのだ。では、なぜそんなスイーツをアレンが5人に驕ることができるのか…。それは単純な話で、その店の店主がアレンの大ファンであるためだ。加えて、アクノロギアと竜種襲来の際に王国を、マグノリアを守ってくれた礼を兼ねて、一日分のパフェをごちそうしたいと申し出があったのだ。アレンは当時、その申し入れを「気持ちだけで十分」と流していたが、店主が「時間がある時でいいからぜひ食べに来てほしい」との要望で、保留にしていたのだ。それを、今回の件で使用することに決めたのだ。
まずは、5人と一緒にその激うまパフェを堪能してからグレイのプレゼント選びへと向かった。パフェを食べた5人が、天にも昇るような美味しさと心地よい甘さに舌をうならせたのは言うまでもない。
さて、そんなこんなで小物や手作りなど、様々なものを考慮に入れながら、沢山の店を回り、ウィンドウショッピングも兼ねて、グレイへのプレゼントを選んだ。最終的に、金属製の氷の結晶を形どった、シンプルなブレスレットをプレゼントとして選んだ。ジュビアは、そんな素敵なプレゼントの入った袋を、満面の笑みで抱えている。
時刻はすっかり日暮れ前となり、アレン達は、心地よい疲労感でフェアリーテイルに足を運んでいた。
「グレイ様…喜んでくれるでしょうか?」
「皆で選んだんだもの、きっと喜んでくれるわ!」
「ジュビアさんの気持ち、きちんと伝わるといいですね!」
ジュビアの質問に、ミラとウェンディが満面の笑みで答える。仲睦まじく幸せな雰囲気であったが、それはあるものの割り込みにより、壊されることとなる。
「…アレン・イーグルだな?」
アレンはその言葉に、目を見開き、後ろを振り返る。他の6人も、驚いた様子で後方を確認する。
「…誰だ?お前は…ッ!どうやら、人間ではないらしいな…」
アレンの言葉に、ミラたち6人は、警戒の姿勢を示す。
「我は冥府の門、九鬼門が一人、不死のテンペスター。アレン・イーグルお前を捉えに来た」
獣人のような男は、フードを取りながら言葉を発した。その言葉を聞き、ミラたち6人は臨戦態勢を取る。
「冥府の門!?」
「バラム同盟の一角…」
「九鬼門と言えば、冥府の門の最高戦力…」
「アレンを捉えるですって?」
ウェンディ、ジュビア、ルーシィ、ミラが口々に言葉を発する。
「…俺を捕える…か。本当にそんなことができると思ってるのか?」
アレンも、低く唸るように言葉を発する。
「もちろん、貴様の実力は知っている。故に、我を正面から捕らえられるとは思っていない」
テンペスターはそう言って、ある魔水晶を取り出す。それを見て、アレンに動揺が走る。
「ほう?一目見ただけで理解したか?さすがは竜の天敵と言われる男…そう、これは魔障粒子を圧縮、封じ込めた魔水晶だ。マグノリアの街に、これを10個セットしてある。俺の指一つで起動するようになっている…あとは、言わなくてもわかるな?」
テンペスターの言葉に、ミラたち5人に衝撃が走る。
「…なるほど、マグノリアにいるもの全てが人質というわけか…」
「ああ、そして、後ろの5人もな…」
テンペスターがそう言うと、5人の周りに丸みを帯びた紫色の結界が発生する。
「「「「「っキャーー!!」」」」」
「ッ!お前ら!」
ミラたち5人は、結界の中に閉じ込められ、苦しそうにしている。
「動くな!アレン・イーグル!!」
アレンが5人を心配するように声を張り上げたことで、テンペスターはアレンに制止を求める。
「…なにが目的だ…」
「言ったはずだ…貴様を捕えに来たと…貴様の力が必要なのだ…」
アレンは更に怪訝な表情を浮かべる。
「なら、こいつらは関係ないだろう…今すぐに離せ!」
「それはできない…貴様を冥府の門の本部へ連れて行った後の、人質とさせてもらう。貴様に抵抗されれば、我々でも抑えきれぬからな…」
テンペスターの言葉に、アレンは苦渋の決断を迫られる。そうして、少し考えた後、テンペスターへと視線を戻し、口を開いた。
「…いいだろう、貴様らに捕らえられてやる。だが、こいつらには傷一つつけることは許さん」
アレンは、言葉の尻目に圧倒的な魔力を解放してテンペスターを威嚇する。想像以上の魔力に、マグノリアの街は自身が起こったかのように震え、大気が悲鳴をあげる。
「なるほど…噂以上だな…」
「…アレンッ!そんな奴の言うこと聞く必要ないわ!」
「そうよ!皆で戦えばきっと…」
「無理だ…マグノリアを人質に取れれている以上、抵抗すれば大惨事になる…」
テンペスターはアレンの魔力に畏怖を覚える。それと同時に、ミラとルーシィが異議を唱えるが、アレンがそれを即座に制止させる。
「今の自らが置かれている状況がよくわかっているな…」
テンペスターはそう言うと、捉えられている5人のうちの一人、シャルルを解放する。解放されたシャルルは、地面に落下し、驚きの表情を浮かべる。
「人質に猫はいらん」
「…随分となめたこと言ってくれるわね…ッ!」
テンペスターの言葉に、シャルルはドスの効いた声を上げるが、アレンにも他のものと同様に結界に閉じ込められる。
「ぐっ…これは…!」
「「うっ…」」
「「くっ…」」
アレンが閉じ込められると同時に、他の4人が悲鳴を呻き声を上げて、意識を失う。
「ウェンディ!皆!!」
「慌てるな。強力な催眠魔法で眠っているだけだ…だが、アレン・イーグル…。これだけの催眠魔法でも意識を失わないとは…」
シャルルの悲鳴にも似た叫びは、テンペスターの冷静な声に遮られる。
「ぐうっ…こいつらには…手を…だすな…」
アレンは意識を何とか保ちながら、テンペスターを睨みつける。
「案ずるな、約束は守る。貴様を捕えて好きに出来さえすれば、こんなカス共に用はない」
テンペスターはそう呟くと、アレン達と共に掻き消えるように姿を消した。
「待ちなさい!…みんな…」
シャルルは、皆がいたであろう場所をウロウロとするが、すでに気配は完全に消失していた。暫し現状を把握できていないシャルルであったが、すぐに冷静さを取り戻して真剣な表情へと戻す。
「大変なことになったわ…一先ず、ギルドの皆に知らせないと…」
シャルルは、そう呟き、大急ぎでフェアリーテイルのギルドへと戻った。

アレン達が冥府の門、九鬼門が一人、不死のテンペスターと接触していた時、フェアリーテイルは相も変わらず騒がしい様子を見せていた。
そんな中、一瞬ではあったが、ドンッという衝撃的な魔力の波動を感じ取ったメンバーは、驚きでピタッと静けさを取り戻す。そして、その感じた魔力を思い出すように口を開き始める。
「今の魔力…」
「アレン…だったわよね?」
「一体何ごとだ…」
カグラ、ウルティア、エルザが、小さく呟くように言葉を発した。そんな風にしていると、マグノリアの住人がギルドの扉を勢いよく開いて侵入してくる。
「た、大変だーー!!!」
そんな様子に、ギルドのメンバーは驚きの表情を見せる。
「一体、何だってんだ!」
「どうしたんだ!」
ナツ、ジェラールが、そんな住人を問い詰めるように声を荒げる。
「ア…アレンさんが…」
「アレンがどうした!!」
住民は息絶え絶えと言った雰囲気で口を開いていたが、そんな様子を気にも留めず、グレイが問い詰める。
「アレンさん達が…獣人みたいなやつに捕らえられてどこかに連れ去られちまった!!」
その言葉を聞き、更なる衝撃が酒場を支配した。

マグノリアの住民から、アレン達が攫われたことを知ったフェアリーテイルのメンバーは、焦りを見せていた。アレンと共に行動していたシャルルがギルドに帰ってきたことで、多少の落ち着きを取り戻し、シャルルが事情を説明する。アレン達が攫われたこと、相手は冥府の門であること、自分だけが不要と解放されたこと、マグノリアに10個の魔障粒子が封じ込められた魔水晶が設置されたこと、マグノリアの街を人質に取られていたため、アレンが抵抗できなかったこと、アレンの申し出により、ミラ、ジュビア、ルーシィ、ウェンディの4人には一切手出ししないことを約束したこと、そのどれもがフェアリーテイルのメンバ尾を驚かし、怒りを生み出したことは言うまでもない。特に、アレンに特別に思いを寄せる女性陣の怒りは見てわかるほどに露であり、フェアリーテイルは混乱の一途をたどった。
フェアリーテイルの酒場が混迷の一途をたどっている中、マスターであるマカロフが、皆を落ち着けようと声を張り上げる。
「静まれーッ!ガキども!!」
マカロフの言葉に、皆がピタッと動きを止め、静寂を生む。
「まずは魔障粒子の封じられた魔水晶を見つけ出すんじゃっ!」
「じいさん!それもそうだが、アレン達も助けねーと!!」
「姉ちゃんがあぶねえ!!」
マカロフの言葉に、グレイとエルフマンが異議を唱えるように声を上げる。
「だが、冥府の門など、どこに居城を構えているのかすらわからんぞ!」
「一体どうすれば…」
それに対し、エルザとカグラが制するように口を開く。
「できることからやるしかない!とりあえず、エルザとカグラ、ナツにグレイはアレン達が連れ去られた場所へ行って、何か手掛かりがないか探れ!レヴィとカナはわしと共に冥府の門について調べる。残りは魔障粒子の魔水晶を探し出してここまでもってくるんじゃ!」
マカロフの言葉に、フェアリーテイルは慌ただしく行動を開始した。

空中要塞【冥界島】。ここは、バラム同盟三大闇ギルドの一つ、冥府の門アジト。
その廊下を、真っ白な衣装を着た、一人の男が歩いていた。左の腰に一本の刀を差し、頭には奇妙な形の白い兜のようなものを被っている。その白い男は、一つの部屋の前に着くと、静かに扉を開く。
その男が部屋に入ると、それに気づいた8人の人物が頭を垂れて迎え入れる。そんな様子を横目に、男は歩みを進ませながら言葉を発した。
「進捗は?」
「滞りなく、進んでおります」
男の言葉に、この中で一番人間らしい見た目をしているマルドギールという男が丁寧な口調で答える。
「ほう?奴を捕えられたのか、存外無能ではないらしいな」
「あなた様の命とあらば、われら九鬼門、どのようなことでも遂行いたします」
マルドギールの言葉を気にも留めず、男は一つの椅子に腰かける。
「勘違いするな、俺はお前たちを部下にしたつもりも仲間にしたつもりもない。ただ、利害が一致しているだけだ」
「承知しておりますわ。我らが目的はアレン・イーグルを支配しゼレフ様の元へ行くこと。あなたの目的はアレン・イーグルへの関心」
男の言葉に、巨大な2本の角と胸を携えたセイラが口を開く。
「どうやら理解しているようだな。俺にとっては貴様らの目的など知ったことではない。アレン・イーグルへの処置が終われば、貴様らとの縁も終わりだ」
「確か、虚化…でしたな。虚…そして破面。まさか我ら悪魔より更に上位の種族がいようとは」
男の言葉に、マルドギールが静かに呟く。
「…この世界に興味はないが、奴の力には興味がある。奴ならば、虚の力を有することができるかもしれない。…まあ、正気を保てる確率は皆無だがな」
「そして、その状態のアレン・イーグルを我らが力で支配し、操り、ゼレフ様への手土産とする。さすればアクノロギアや他の三天黒龍も敵ではない。ゼレフ様にこの世界をお渡しすることができるだろう」
マルドギールの言葉に、男は怪訝な表情を見せる。
「貴様らに、奴を支配できるのかは疑問だが、別に支配できようができまいが俺には関係のない話だ」
男はそう言い残し、席を立つと、再び扉の前へと移動する。
「奴を困憊させ終えたら声をかけろ。虚化はそれからだ」
「はい、滞りなく実行させて頂きます。…ウルキオラ様」
マルドギールの言葉と共に、ウルキオラは部屋を後にした。

ウルキオラが退出したのを見守ると、キョウカがゆっくりと口を開いた。
「…よろしいのですか?マルドギール様、奴をこのまま行かせてしまって」
「いいんだ。アレンを傀儡として手にできれば、ウルキオラも我らにはそう簡単に手出しはできない」
「アレンとウルキオラは、確か同等か少しウルキオラの方が強い程度とおっしゃっていましたね」
キョウカの言葉にマルドギールは落ち着いた雰囲気で答え、それに続くようにセイラが言葉を続ける。
「傀儡と化したアレン、我ら冥府、そしてゼレフ様にバルファルク…これだけの戦力があれば、例えウルキオラと言えども何もできまい」
「…それに、彼が世界に干渉するつもりがないのは真実なようですし」
マルドギールの言葉に、セイラが笑みを浮かべながら答える。
「早速、取り掛かるとしよう…キョウカとセイラはアレンに拷問を与え、疲弊させておけ。他の人質には手を出すな?恐らく、我らがどのような拘束を施そうとも、その気になれば奴はそれを破ることができるだろう。あの4人は、本当の意味でのアレンに対する拘束だ」
「ええ、承知しております」
キョウカは、マルドギールの言葉に小さく呟く。
「他のものは、冥界島で待機だ。…これより、フェアリーテイルとマグノリアを跡形もなく消し飛ばす」
マルドギールの言葉に、他の九鬼門のメンバーが不敵な笑みを浮かべる。
「テンペスターが設置した魔障粒子を封じた魔水晶…。テンペスターに指示した通り、フェアリーテイルがそれを回収するように仕向けた」
マルドギールは、テンペスターへと視線を向けながら、口を開く。テンペスターは、マルドギールの視線に、微笑で返す。
テンペスターがアレン達を誘拐した際、シャルル1人を逃がしたのは、魔障粒子ラクリマの存在をフェアリーテイルのメンバーに伝えさせるためであった。
「魔障粒子ラクリマ…あれはいわば布石…。あの中には強力な爆発魔法を仕込んである。街を守るためにと集めたラクリマが、ギルド内で爆発。さすればフェアリーテイルは木端微塵…加えてあふれ出した魔障粒子で街も壊滅…。さすがはマルドギール様ですわ…」
キョウカはくくっと不敵な笑みを漏らしながら、楽し気に言葉を発した。

冥府の門、九鬼門の一人、不死のテンペスターに誘拐されたアレン、ミラ、ジュビア、ルーシィ、ウェンディの5人は、冥府の門の本部と思しき場所で魔封じの拘束をされた後、それぞれの場所へと拘留される。アレンは、懲罰房のような場所で手足を縛られ、その隣の部屋にミラ、ジュビア、ルーシィ、ウェンディが捕らえられている。
「これで、いくらそなたと言えど、身動きは取れまい」
アレンの拘束姿を見て、九鬼門が一人、キョウカが小さく呟く。
「…さあ、どうだろうな?…ッ!」
アレンは不敵な笑みを浮かべてキョウカを見つめる。そんなアレンに、キョウカはとある魔法をかける。
「ふふっ、気付いたかしら?」
「…感覚魔法…いや、強化魔法か…ッ!」
アレンは、キョウカの言葉に、苦悶の表情を浮かべながら答える。
「そう、私の魔法は人の感覚を強化する魔法…今あなたの痛みの感覚を100倍にまで強化させた。今のあなたは、神経や内臓が剥き出しになっている以上の痛みを、微風ですら激痛を感じるほどにまで感覚が研ぎ澄まされている…」
キョウカはそう言って、アレンの頬を叩く。
「ガッ!!!!」
アレンは、頬を叩かれただけ、しかし、そうとは思えないほどの痛みを感じ、呻き声を上げる。
「ほう?さすがは竜の天敵…常人ならこれ以上にないくらいの悲鳴をあげるのだが…」
「ぐっ…はぁ、はぁ…悪趣味な女だな…」
アレンは、身体を震わしながらもキョウカを睨みつける。
「どうやら、うぬは此方を十分に楽しませてくれそうだ…」
キョウカは手を鞭のように変形させて、アレンの腹を何度も打ち付ける。今までに感じたことのない痛みに、アレンは目を見開き、嫌な汗を大量に流す。
「ぐああああああああああああっっっ!!!!!!」
「いい悲鳴だこと…」
息の仕方を忘れてしまうほどの痛みに、アレンの瞳孔はゆらゆらと定まらずに迷走している。暫くして、大きく息を吸いこむと、キッとキョウカを睨みつける。
「な、仲間には…あいつらには手を…出すな…」
「まだそんな目ができるのか…案ずるな。奴らはストッパー…手出しはせん…だが…」
キョウカはアレンの髪の毛をつかみ取り、距離を詰める。
「うぬは瀕死になるくらいに痛めつけろとの命令でな…」
「ガッ…ぐっ…」
髪の毛を掴まれることですら、この上ない激痛を伴い、アレンの表情は苦悶のモノとなる。
「貴様のその目…抉り取ったら…どれほどの声を上げてくれるのか…」
キョウカはそう言って、アレンの右目に指を添えた。

アレンとは別の場所に拘束され、閉じ込められたミラ、ジュビア、ルーシィ、ウェンディは、何度も手や足についた枷を外そうとするが、魔法を封じ、且つ頑丈な錠が外れることはなかった。
「ダメね…ビクともしないわ…」
「この手錠のせいで、魔法も使えません…」
ミラとジュビアが悔しそうに言葉を漏らしていると、見知った人物の悲鳴が響いてきた。
『ぐああああああああああああっっっ!!!!!!』
その悲鳴を聞き、4人は目を見開いて動揺する。
「アレンさんッ!!」
「この悲鳴…一体何が…」
ルーシィとウェンディが悲痛の叫びを漏らす。その後も、何度もアレンの悲鳴が響き渡る。悲鳴が上がるたびに、4人の表情は怒りと悲しみが支配し、情緒が不安定になっていく。
「アレンさんに何をしているんですか!!」
「今すぐアレンを離しなさい!!!」
「こんな…ッ!」
ミラとジュビア、ウェンディが鉄の扉に向かって叫ぶが、反応はない。ただひたすらに、アレンのありえないほどの悲鳴が響き渡るだけであった。そんな状況の中、ミラの頬に、一筋に涙が滴る。
「お願い…私はどうなってもいいから…アレンを…助けて…」
ミラの様子を見た3人も、目尻に小さく涙を浮かべる。そんな様子を見せていると、鉄の扉がゆっくりと開く。
「誰!?」
鉄の扉から入ってきたのは、白い肌に白い服を纏った、奇妙な男であった。
「なんだ…アレンの仲間だというから見てみれば…ゴミしかいないな…」
その男の全容を捕えた瞬間、4人は今までに感じたことのない恐怖に支配される。
「(この男…なんて魔力なの…)」
「(この魔力…アレンさんと同等…いや、それ以上…)」
「(こんな魔力…ッ!)」
「(ありえない…)」
4人は、震える身体と流れる冷や汗を止められず、ただただその男、ウルキオラを眺める。もう一度アレンの悲鳴が響き渡る。その悲鳴に、ミラが何とか正気を取り戻す。
「あなたは誰!?アレンに何をしてるの!!」
ミラは涙を流している目で、キッと男を睨みつける。
「ゴミに語る名などない」
「ッ…!アレンさんを解放してください!」
ウルキオラの言葉に、ウェンディが震える声で主張する。
「アレンを解放する気はない。奴には、改造を施す。まあ、それが成功するかはわからんがな」
改造という言葉に、4人に恐怖が滲みだす。
「や、やめて!!!」
ミラが悲痛の叫びをあげる。他の3人も悔しそうにウルキオラを睨みつける。
「なぜ俺が貴様らゴミの言うことを聞かねばならん」
ウルキオラはそう言って、独房から退出しようとする。
「ま、まって。あんたたちの目的は何なの!あんたも冥府の門の一員なの!?」
そんなウルキオラを制止するように、ルーシィが口を開く。
「勘違いするな。俺は冥府の門ではない。そして、俺の目的をお前らに話すつもりはない。ただ…」
ウルキオラはルーシィの質問に答えようとはしなかったが、語尾に何かを含ませるようにして言葉を詰まらせる。
「…人間の分際で俺と同等の力を持つものに興味を持っただけだ…そんな男を俺と同じ虚にしたら、どれほどのものか…そう思っただけだ」
ウルキオラの口から発せられた『虚』という聞きなれない言葉に、4人は疑問の表情を浮かべる。そんな4人を尻目に、ウルキオラは再度退出しようと歩みを始める。ジュビアの「ま、まちなさい…」という言葉と共に、一人の女が入室してくる。
「あら、こんなところにいらしたんですか、ウルキオラ様」
「俺がどこにいようと、貴様には関係のないことだ」
その女が発した『ウルキオラ』という言葉に、この男の名前を知った4人は、脳裏に焼き付けるようにして名前を刻み込む。
「それで?拷問は終わったのか?」
「ええ、もう死にかけだ。あとはあなた様が虚の力をアレンへと流し込み、虚へと改造するだけです」
「そうか…」
ウルキオラはそう言い残し、独房を後にした。2人の会話を聞き、4人は怒りで震えながら女を睨みつける。
「そんなに此方を刺激するな…」
「あんたが…アレンを…」
ミラの怒りのままに声を発した。そんなミラの姿を見て、キョウカはふっと笑いかける。
「そうか、うぬはアレンを好いておるのか…なら、いいものをやろう…」
キョウカはそう言って、4人が膝まづく床に何かをピチャッと投げつける。
「こ、これ…は…ッ!」
「ひっ…」
ミラとウェンディが、悲鳴を滲ませた声を発する。
「アレンの右目じゃ…抉り取ってやったよ…」
床に落ちるアレンの目玉、そしてキョウカの言葉に、4人は怒りの呻きをあげながら目に涙を浮かべる。
「なんて…ことを…」
「外道…ッ!」
ジュビア、ルーシィがポロポロと涙を流しながらキョウカを睨みつける。ミラとウェンディは、半分放心状態といった様子であった。
「ふふっ…その程度で外道と言われては、これ以上は話しずらいではないか…」
キョウカは面白おかしく言葉を発する。
「どういう…意味…」
ミラが低く唸るようにしてキョウカに尋ねる。
「ふむ…わらわの魔法は、人のあらゆる感覚を強化する魔法でな…その中には痛みの感覚も含まれておる」
キョウカの言葉に、4人の瞳孔が開く。
「ま、まさか…」
ルーシィが怯えたように呟く。
「そう、アレンの感じる痛みを100倍にキョウカして拷問したのだ…。ふふっ、あれほど強い男のこの上ない悲鳴、ここにも届いておったろう?」
キョウカは高らかに笑い、4人を挑発する。
「……ろす…」
「ん?何か言ったか?」
小さく呟いたミラの言葉が聞き取れなかったキョウカが聞き返す。
「殺す…あんたは絶対に…殺すッ!」
ミラのこれまでにない怒りの表情と言葉に、ルーシィ達3人が驚く。そんなミラを見たキョウカは、ふっと笑うと、ミラを挑発するようにして声を掛ける。
「ほう?できるといいな…待っておるぞ…」
キョウカはそう言って、床に転がるアレンの目玉を踏みつけるようにして足を置く。
「ッ!やめて!!」
ミラは大声で叫ぶが、その声は届かず、ブチュッとアレンの目玉はキョウカの足によって潰される。その様を見ていられないといった様子で、ルーシィ達は目を伏せる。その目には、大量の涙が溜まり、流れていた。
「…アレンの目玉に免じて、貴様らが知りたいと思しき情報をいくつか与えてやろう…。ウルキオラ様と、虚…そして、アレンの虚化について…な」
キョウカは再度不敵な笑みを浮かべ、続けて言葉を放ったのだった。
 
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