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DQ11長編+短編集

作者:風亜
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男装の勇者
  第二話:騎士たる者の誇り

カミュ
「⋯⋯しっかし暑いな、砂漠だからしゃーないんだろうが⋯⋯」

ジュイネ
「カミュ、大丈夫⋯⋯? もっと水飲む?」

カミュ
「いやいいって、オレばっかり水飲むわけにいかねぇだろ。お前が飲んどけ」

ベロニカ
「あたしとセーニャは前にもここら辺来た事あるけど、虹色の枝の情報までは知らなかったわね⋯⋯。ていうかカミュ、あんた暑いの苦手なんじゃないの?」

カミュ
「寒いのは得意なんだが、こうも暑いとな⋯⋯」

セーニャ
「カミュ様は、寒い地方のご出身なのですか?」

カミュ
「別にオレの事はいいって。⋯⋯それより、サマディー王国が見えてきたんじゃねぇのか」

ジュイネ
「そうだね、もう少しだからがんばろう」

カミュ
「⋯⋯お前よくそんな厚着してて平気な顔してるな。汗かいてるようにも見えねぇぜ」

ジュイネ
「そうかな、これでも一応暑いんだけど⋯⋯カミュほどじゃないのかも」


 サマディー王国へやってくると、何やら賑わいをみせていた。

ベロニカ
「⋯⋯どうやら馬レースのファーリス杯が開催されるみたいね」

セーニャ
「ファーリス杯はその名の通り、サマディー王国の王子ファーリス様の名を冠しているそうですわ」

ジュイネ
「馬レースかぁ、観てみたい気もするけど⋯⋯」

カミュ
「まぁそんな呑気な事してられないわな、いつ追っ手がここまで来るかも分からねぇし⋯⋯取り敢えず城に行って虹色の枝について聞いてみるか。何なら盗み出す事も考えねぇとな」

ベロニカ
「さっすが元盗賊、考える事が早いわねぇ」

セーニャ
「出来れば正当に入手したいですが、そうも言ってはいられないかもしれませんものね⋯⋯邪悪なる神の復活の兆しがありその闇を退けるという世界の命運が掛かっていますし。命の大樹の元に向かわなければ、対抗する手段も分かりませんもの」

ジュイネ
「(そんな大袈裟な⋯⋯って言いたい所だけど、ベロニカとセーニャは勇者を守り導く使命を持っていて、僕は闇を退ける勇者⋯⋯ダメだ、全然実感が湧かない⋯⋯。そもそもカミュは、勇者を手助けすることが贖罪に繋がるらしいから付いてきてくれてるだけだし⋯⋯。僕の存在する意味って、勇者の生まれ変わりだからってだけなのかな⋯⋯)」


 サマディー城の王へ謁見しに来ると、王はファーリス杯の演説の事で頭が一杯らしく虹色の枝について取り合ってくれず、そこへ威風堂々と現れたのは他でもない、ファーリス杯の主役であるファーリス王子だった。

ファーリス王子
「───騎士たる者、信念を決して曲げず国に忠節を尽くす! 弱きを助け強きをくじく! どんな逆境にあっても正々堂々と立ち向かう!!」

ベロニカ
「何かめんどくさいのが来たわ⋯⋯」

セーニャ
「お、お姉様ったら⋯⋯聞こえてしまいますわ⋯⋯!」

ファーリス王子
「ん⋯⋯? 君達は何を目的に城に来たのかな?」

ジュイネ
「えっと⋯⋯、虹色の枝について、お話をさせて頂きたいのですが⋯⋯」

ファーリス王子
「キミは⋯⋯ふむふむ、体格はボクより細いけど背丈はほぼ同じだな⋯⋯これはいけるかも⋯⋯」

ジュイネ
「(⋯⋯⋯⋯? な、なんだか値踏みされてるみたいな視線を感じる⋯⋯)」

ファーリス王子
「虹色の枝と言えば、サマディー王国の国宝の一つだが⋯⋯、我が父サマディー王は今ファーリス杯で頭が一杯なんだ。代わりに王子である私が話を聞くから、私の部屋へ来てくれるかな?」

カミュ
「(まさか、罠じゃないだろうな⋯⋯)」

ベロニカ
「(他に宛もないし、付いてくしかないでしょ。万が一何かあっても、あたしの魔法で何とかしてあげるわよ)」


 サマディー城、ファーリス王子の私室へ。

ファーリス王子
「───なるほど、君達が虹色の枝を必要としている事は分かった。その代わりと言っては何だが⋯⋯ボクのお願いを聞いてくれないかな?」

セーニャ
「ファーリス王子様の、お願い⋯⋯ですか?」

ベロニカ
「(嫌な予感しかしないわ⋯⋯)」

カミュ
「(やっぱ罠だったんじゃねぇのかおい)」

ファーリス王子
「ここじゃやはり話づらいな⋯⋯兵士もすぐ近くに居るし。そうだ、今夜城下町でサーカスが開かれるんだ。そこで落ち合って改めて話し合おうじゃないか! 時にキミ⋯⋯えっと、名前は?」

ジュイネ
「ジュイネ、ですけど⋯⋯」

ファーリス王子
「ジュイネさんだね、ふむふむ⋯⋯いやちょっと待ってくれ、キミは⋯⋯男子だよね??」

ジュイネ
「(疑われてる⋯⋯? どうしよう、正直に話した方がいいのかな⋯⋯?)」

 助けを求めるようにカミュの方を見るジュイネだが、カミュが口を開くより先にセーニャが話す。


セーニャ
「何を仰っておられるのです? ジュイネ様は男子に決まっているじゃありませんか。そうですよね、お姉様?」

ベロニカ
「あー、まぁ⋯⋯ねぇ」

カミュ
「(セーニャは本心で言ってるみてぇだな⋯⋯気付いてないのか)」

ファーリス王子
「あっはは、そうだよな! 男子にしては顔立ちが女子のように見えなくもないからつい、ね! とにかく⋯⋯今夜サーカステントの前で待っているから必ず来てくれたまえ。キミ一人で、ね」

ジュイネ
「わ、分かりました⋯⋯(交換条件ってことだよね、何をやらされるんだろう⋯⋯)」

 話し終えて一旦城を出、夜まで宿屋で過ごす事に。


カミュ
「オレは反対だ、ジュイネ一人であの王子と二人だけで話すなんざ⋯⋯ぜってぇ何かあるだろ」

セーニャ
「私には特に、悪い方のようには見受けませんが⋯⋯」

ベロニカ
「虹色の枝を交換条件にしてる時点で怪しいじゃないのよ」

ジュイネ
「大丈夫だよ、僕が何とかするから⋯⋯。みんなに助けられてるばかりじゃいけないと思うし」

カミュ
「しょうがねぇな⋯⋯何かあったらすぐ逃げろよ。オレ達はファーリスに気付かれないようにサーカステントの近くに待機してるからな」


 夜になり、城下町のサーカステント入口付近へ向かうとそこには黒いフードを被った姿の王子が居た。

ファーリス王子
「───やぁ、待ってたよジュイネさん」

ジュイネ
「は、はい⋯⋯それで、話って」

ファーリス王子
「まぁまぁ、中に入ろうじゃないか。今ちょうど有名な旅芸人の見せ場みたいだからね、盛り上がってる所だしそれを観賞しつつ話そう」


旅芸人
「~~~♪」

ジュイネ
「(すごいナイフ捌き⋯⋯見とれちゃうなぁ)」

ファーリス王子
「⋯⋯そろそろ本題に入ってもいいかな?」

ジュイネ
「あ、はい、どうぞ⋯⋯」

ファーリス王子
「キミ、馬に乗れるかい?」

ジュイネ
「⋯⋯⋯? 乗れます、けど」

ファーリス王子
「もしかして、結構得意だったり⋯⋯?」

ジュイネ
「えぇ、まぁ⋯⋯小さい頃から慣れてます」

ファーリス王子
「それは良かった! これ以上の適任は居ない! ファーリス杯を目前にしてボクはなんて運がいいんだっ!」

ジュイネ
「⋯⋯⋯??」

ファーリス王子
「あぁ、一人で興奮してしまってすまない。⋯⋯実はボク、まともに馬に乗る訓練をしてなくて馬レースに出場するほどの走りなんて出来ないんだっ」

ジュイネ
「えっ?」

ファーリス王子
「だからキミにボクの影武者になってもらって、ファーリス杯に出場してほしいんだよっ」

ジュイネ
「そ、そんな⋯⋯見た目ですぐバレますよね」

ファーリス王子
「そこの所は心配要らないよ、専用の鎧と兜に身を包むからね。ボクとキミの背丈はほぼ一緒だからバレないよっ」

ジュイネ
「王子の影武者、となると⋯⋯やっぱり、優勝しなきゃいけないですよね⋯⋯」

ファーリス王子
「それはまぁ出来れば優勝してもらいたいけど、そこまでは望まないよ。勇敢な走りさえ観客や父上と母上に見せれば、順位は関係ないからねっ」

ジュイネ
「(そんなものなの⋯⋯??)」

ファーリス王子
「どうかな、やってくれるかいジュイネさんっ? ボクのお願いを聞いてくれたら、虹色の枝の件をボクが直に父上に掛け合ってあげるよっ?」

ジュイネ
「(これは⋯⋯断れないやつだ⋯⋯)」

ファーリス王子
「キミの仲間にこの事を話しても構わないけど⋯⋯それ以外には他言無用だからね。それさえ守ってくれれば問題ないよっ」

ジュイネ
「分かり、ました⋯⋯。ファーリス王子の影武者となって、僕がファーリス杯に出場します」

ファーリス王子
「ありがとう⋯⋯! そう言ってくれると思ったよ⋯⋯!! 父上や母上、民に実力に見合わない期待ばかりされて、正直うんざりなんだ⋯⋯」

旅芸人
「───⋯⋯」

ファーリス王子
「じゃあ明日早目に馬レース会場の待合室に来てくれたまえ、期待しているよっ」

ジュイネ
「はい⋯⋯(何だか複雑な気持ちだな⋯⋯)」


 宿屋に戻って仲間に事情を説明するジュイネ。

カミュ
「⋯⋯一国の王子が呆れたもんだな。ジュイネなんて亡国の王子だってのによ」

ベロニカ
「同じ王子でもこれほど出来が違うとはねぇ⋯⋯馬にもまともに乗れない王子とか」

セーニャ
「お、お二人共少し言い過ぎですわ⋯⋯。ファーリス様は、実力に見合わない期待ばかりされていると仰っていたそうじゃありませんか」

カミュ
「だからって同情の余地はねぇだろ。まぁこの際虹色の枝の為だと思えば何とかな⋯⋯」

ベロニカ
「盗んで下手に追われる事になるよりはいいんじゃない? ファーリス王子に思いっ切り恩を売っておきましょうよ。⋯⋯って事でジュイネ、明日のファーリス杯頑張りなさいねっ。あんたなら優勝くらい簡単でしょ」

ジュイネ
「簡単ってことはないと思うけど⋯⋯がんばるよ」



 翌日、ファーリス杯の待合室へ。

ファーリス王子
「やぁ、来てくれたねジュイネさん。⋯⋯ここに居る兵士達は事情を知っているから、問題ないよ。さぁ、この鎧と兜に身を包んでくれるかな? 着替えはそこの仕切りでしてくれたまえ」

ジュイネ
「⋯⋯はい(仕切りから覗かれることはないと思うけど⋯⋯なるべく早く着替えよう)」

ファーリス王子
「───おぉ、気品も漂っているし、サマになっているね! これなら誰も影武者だなんて気付かないだろうさっ」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

 鎧と兜に身を包み騎乗するジュイネ。

ファーリス王子
「それじゃあ幸運をいのるよ、勇敢な走りを期待してるねっ!」

ジュイネ
「(勇敢な走り、かぁ⋯⋯。さすがに鎧を着て兜を被ってると身体の重みが違うなぁ。いつも軽装で乗ってるから勝手が違う⋯⋯それでも何とかいい走りを見せなきゃ)」


ジュイネ
「(───あ、観客席にカミュとベロニカ、セーニャが居る⋯⋯大きく声には出せないだろうけど、手を振って応援してくれてるんだな。がんばらないと)」

シルビア
「⋯⋯ファーリス王子~、お初にお目にかかりますわ。アタシ、旅芸人のシルビアって言うの」

ジュイネ
「(わっ、⋯⋯え? もしかして昨日サーカスに出てた)」

シルビア
「出場するはずだった人が出られなくなっちゃって、アタシが代わりに出場する事になったの~。⋯⋯正々堂々と闘いましょうね?」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

 兜の中、声は出さず頷く。

ジュイネ
「(すごく装飾の派手な馬に乗ってるけど⋯⋯、あの馬見るからに鍛練されてる気がする。これは⋯⋯強敵かも)」


 ファーリス杯馬レースは後半、旅芸人シルビアと影武者ジュイネの一騎打ちとなった。後一歩、という所で影武者のジュイネは及ばず二位となる。

ファーリス王子
「すごいじゃないかジュイネさん! 正直馬レースって今までほとんど興味なかったけど、ジュイネさんの勇敢な走りは胸を打ったよ⋯⋯!! これなら父上と母上も民も満足してくれた事だろう、本当に感謝しているよっ!」

ジュイネ
「それは⋯⋯よかったです」

シルビア
「失礼しますわね~! ファーリス王子の勇敢な走りにアタシ感動しちゃって⋯⋯アラっ」

ジュイネ
「(⋯⋯⋯王族の控え室にいきなりあの旅芸人さんが入って来て、僕と王子が今兜以外同じ格好してるのがバレちゃった)」

ファーリス王子
「─────」

 呆気にとられた顔の王子。

シルビア
「もしかしてさっきの勇敢な走りは、影武者ちゃんだったのかしら~? 残念だわ~王子ちゃん、正々堂々とファーリス杯に出場しないなんて」

ファーリス王子
「⋯⋯あんたに何が分かるんだ、ボクはこの国の王子として民や父上と母上の大きな期待に応えなきゃならないんだ、どんな手を使っても!」

ジュイネ
「(ファーリス王子に掛かってる重圧は、相当なものなんだな⋯⋯。僕も王子として生きていたら、こんなふうに苦しんだのかな)」

シルビア
「アナタねぇ⋯⋯このままじゃ本当にダメになるわよ?」

ファーリス王子
「うるさい、出て行ってくれ!! か、影武者を使っていた事は、黙っていてほしいが⋯⋯何か、望む物はっ?」

シルビア
「無いわよそんなの。強いて言えば⋯⋯ウフ、今はやめておくわ。影武者ちゃんは見なかった事にしておくわねん、アデュ~♪」

ファーリス王子
「何なんだ、あの人は⋯⋯。と、とにかく今度はボクがみんなの前に馬に乗って出ないと⋯⋯走るわけじゃないから、乗ってるだけで大丈夫だよな⋯⋯? 虹色の枝の件はファーリス杯の閉幕式が終わってからだね、それまでは着替えて外で待っていてくれたまえ。使いの者を寄越して改めて城に招くから。それじゃジュイネさん、お疲れサマディー!」

ジュイネ
「お、おつかれ⋯⋯サマディー⋯⋯??」


 ジュイネは私服に着替え直し、王族の控え室から出て仲間と合流する。

セーニャ
「ジュイネ様、お疲れ様でした。優勝は出来ませんでしたが、素晴らしい走りでしたわ⋯⋯!」

ベロニカ
「惜しかったわねぇ、まぁあの旅芸人さん結構手練みたいだったし、負けたのは仕方ないかしら」

カミュ
「ジュイネの良い走りをあのヘタレ王子の手柄にされるのは癪だが、虹色の枝の為だ⋯⋯ファーリス杯閉幕式が終わるまで待ってろって言われたんだろ?」

ジュイネ
「うん、使いの者を寄越して改めて城に招くって」


 そして改めて城に招かれ、謁見の間にてファーリス王子がサマディー王と王妃に一通り褒め称えられた後、虹色の枝の件を王子が話し出そうとした矢先、一人の兵士が慌てた様子でデスコピオンが出現したと報告しに来た。

デスコピオンは砂漠の殺し屋と呼ばれており度々サマディーの脅威になっているらしく、北西部に現れたそれがいつ襲って来るかも分からない為早々に手を打たなければならず、サマディー王はファーリス杯で勇敢な走りを見せた息子の王子に何の躊躇もなく期待を込めてその討伐を命じる。

ファーリス王子
「わわ、わっ⋯⋯私が、砂漠の殺し屋を討伐するの、ですか⋯⋯?!(そんな無茶な⋯⋯こ、ここはまたジュイネさんに⋯⋯ジュイネさん達に頼めば、何とかっ)」

ジュイネ
「(ファーリス王子、震えてる⋯⋯。サマディー王には武者震いって言われてるけど、どう見ても怖がってる。それに⋯⋯僕に送ってくる視線が助けを求めてる。これはきっと、代わりの討伐を頼まれるんだろうなぁ⋯⋯)」


 ファーリス王子は砂漠の殺し屋討伐を受け、一旦自室に戻る際ジュイネ達を呼び、虹色の枝の件はデスコピオンを倒すまで保留にし土下座をしてまで頼み込んでくる。

ファーリス王子
「キミ達は見た所腕も立つようだし、どうかこの通りだ! ボクの代わりに砂漠の殺し屋を倒して下さい⋯⋯!! 虹色の枝の件はその後必ず掛け合うからっ!」

ベロニカ
「はぁ⋯⋯。ここまで来ると馬鹿を通り越して哀れね。虹色の枝の事が無ければ絶対断ってるわ」

セーニャ
「砂漠の殺し屋、ですか⋯⋯今の私達に倒せる相手だといいのですが」

カミュ
「(こんな事なら在り処を突き止めて盗み出した方が早かったかもな)」

ジュイネ
「(あはは⋯⋯)」

ファーリス王子
「引き受けてくれるんだね⋯⋯?! じゃあボクは一足先に多くの兵を連れて出陣するから、キミ達はその後から助っ人として来てくれっ!」


 城門前でファーリス王子のデスコピオン討伐出陣を見届けて城門を出、砂漠の北西部へ向かおうとした時城門の高台からあの旅芸人が声を掛けてきてジュイネ達の目の前に華麗に着地する。

シルビア
「アタシ、馬レースに飛び入り参加した旅芸人のシルビアって言うんだけど⋯⋯アナタ達、あの王子ちゃんに頼まれてサソリちゃんを退治しに行くんでしょ? アタシも連れてってくれないかしら」

カミュ
「旅芸人のおっさんが、何のつもりだよ」

シルビア
「足手まといにはならないわよん、剣の心得もあるから。⋯⋯あの王子ちゃんをこのままにしておくのはよくないと思うのね、アタシなりに何とかしてあげたいのよ」

ベロニカ
「正直目的の物貰ったらあたし達には関係ない話だけど⋯⋯あのヘタレ王子には心を入れ替えてほしいものだわね」

セーニャ
「周りからの期待に応えきれず、本来の実力が出せていないだけみたいですものね⋯⋯」

ジュイネ
「シルビアさん、でしたよね。ファーリス王子の件もそうだけど、一緒に戦ってくれるのは心強いです。よろしくお願いします」

シルビア
「あら~礼儀正しいわねん。けど敬称も敬語もいらないわよん? 気楽にサソリちゃん退治と行きましょ♪」

カミュ
「気楽にって、あのなぁ⋯⋯。まぁ戦力は多い方がいいか。オレはカミュだ」

ベロニカ
「あたしはベロニカ。旅芸人さんのお手並み拝見させて頂くわね」

セーニャ
「私はセーニャと申します、よろしくお願い致しますわシルビア様。───あっ、私は基本どなたに対してもこの口調なので⋯⋯気になさらないで下さいませ」

ジュイネ
「僕はジュイネって言うんだ。ファーリス杯で王子の影武者をしてたのは覚えてると思うけど⋯⋯」

シルビア
「もちろんよ~、気を抜いたら追いつかれちゃうくらい素敵な走りだったわジュイネちゃん! カミュちゃんにベロニカちゃん、セーニャちゃんも宜しくね! それじゃあ、砂漠の殺し屋のサソリちゃん退治に向かうわよ~っ!」

カミュ
「何であんたが仕切るんだよ⋯⋯
てかオレにまでちゃん付け⋯⋯」



 砂漠の北西部、中間地点のキャンプにて一休みする一行。

ファーリス王子
「⋯⋯何だ、旅芸人のあんたも付いてきたのか」

シルビア
「おジャマしてますわんファーリス王子~、サソリちゃんを討伐する王子ちゃんの勇姿を見届けたいんですの!」

ファーリス王子
「(こ、この人は⋯⋯ボクがろくに剣の稽古もせずに戦えないのを分かってて───)」

ファーリス王子
「ま、まぁせいぜい足手まといにならないようにな!」

 同じキャンプ場所だが距離を置くファーリス。

シルビア
「はいは~い、了解~。⋯⋯と・こ・ろ・で、ジュイネちゃん達に聞いておきたい事があるんだけど~、いいかしら?」

ジュイネ
「どうぞ、何でも聞いて」

カミュ
「おいおいジュイネ⋯⋯何でも聞いてってのは無いだろ」

シルビア
「アナタ達って、何の為に旅をしているの? 男子一人に女子三人って、のっぴきならない事情がありそうなんだけど」

ジュイネ
「(女子、三人⋯⋯)」

セーニャ
「女子三人⋯⋯? 何を仰ってるんですシルビア様? 私達は男子お二人に女子二人なのですけど」

ベロニカ
「(⋯⋯フォローになってるのかしらそれ)」

シルビア
「アラ~ごめんなさい! セーニャちゃんの言う通りね!」

カミュ
「(⋯⋯このおっさん、とっくにジュイネの事気付いてやがるな)」

ジュイネ
「えーっと、僕達が旅をしてる理由は───」

セーニャ
「⋯⋯近々起きるであろう邪悪な神の復活を阻止する為、ですわ」

ベロニカ
「ちょ、ちょっとセーニャ⋯⋯! そう簡単にあたし達の使命をバラすもんじゃないわよっ」

シルビア
「へぇ⋯⋯邪悪な神ちゃん復活を阻止、ねぇ」

カミュ
「雲をつかむような話だからな⋯⋯真に受けないでくれよ」

セーニャ
「勇者の生まれ変わりであるジュイネ様を守り導く⋯⋯それが、私とお姉様、カミュ様の使命なのですわ」

カミュ
「(シレッとオレも入ってるようだが⋯⋯厳密に言うとオレの場合はジュイネの勇者の力を───)」

ジュイネ
「(⋯⋯⋯⋯僕って、流されてるだけなのかな)」

ベロニカ
「だーかーら、何でそう大事な事を簡単に喋っちゃうのよセーニャ⋯⋯!」

セーニャ
「シルビア様は悪い方には見えませんし、差し支えないと思ったからですわ」

シルビア
「アラ、そう言ってもらえると嬉しいわ。勇者のジュイネちゃんに、邪悪な神ちゃん復活阻止⋯⋯それって、邪神ちゃんが復活しちゃうとやっぱり、みんな笑えなくなっちゃうって事よね?」

ベロニカ
「それは⋯⋯そうよ。邪悪なる闇の存在は人間にとって脅威そのものなんだから」

シルビア
「それは困っちゃうわね~、みんなが笑えなくなる世界なんてアタシ嫌だもの。⋯⋯とにかく今は、明日のサソリちゃん退治の為に寝ておきましょ。先にお休みなさ~い」

カミュ
「⋯⋯よく分かんねぇおっさんだな」

ジュイネ
「みんなが笑えなくなる世界、か⋯⋯」

ベロニカ
「どうしたのよジュイネ、あたし達も明日に備えて休んどきましょ」

ジュイネ
「うん⋯⋯」


 翌日、北西部の砂漠にファーリス王子率いる隊とジュイネ達が辿り着くものの、そこには砂漠の殺し屋と呼ばれるデスコピオンの姿はどこにもなかった。

ファーリス王子
「な、何だ⋯⋯どこにも居ないじゃないか! さてはサマディーの誇り高き騎士であるボクの気配を察して逃げたな⋯⋯? はっはっは、大した事ないじゃないか!!」

カミュ
「はぁ⋯⋯調子いいもんだぜあの王子」

セーニャ
「どこに行ったのでしょうね、ここまでの道中も姿を見掛けませんでしたけど⋯⋯」

ベロニカ
「ちょっと待って、相手はサソリでしょ⋯⋯? だったら砂漠の地中に───」

シルビア
「みんな気を付けて、下から来るわよっ!」

ジュイネ
「(下⋯⋯? あっ、ちょうどファーリス王子の足元⋯⋯!)」

ファーリス王子
「うわわぁっ、何だ急に!? ボクの足元が盛り上がって───」

ジュイネ
「ファーリス王子、危ない!!」


 ファーリス王子の足元から砂を巻き上げつつ現れたのは紛れもなく砂漠の殺し屋、デスコピオンだった。凶悪な顔と巨体の黄金色の皮膚は見るからに硬く鋭い鎌を持っていて、突如出現した際にファーリス王子を庇いに出たジュイネがデスコピオンの鋭い鎌に左肩を裂かれてしまい二人は真横に倒れ伏す。

ジュイネ
「ぐっ⋯⋯」

ファーリス王子
「う、あ⋯⋯ジュイネさん、大丈夫か⋯⋯?!」

セーニャ
「ジュイネ様⋯⋯! 今回復呪文を───」

シルビア
「待ってセーニャちゃん、今駆け出したらアナタがデスコピオンの標的になるわ。アタシとカミュちゃんでサソリちゃんを引き付けるから、その隙に回り込んでジュイネちゃんを回復してあげて! ベロニカちゃん、攻撃呪文の援護頼むわよっ!」

ベロニカ
「まっかせなさい!!」

ジュイネ
「(デスコピオンの気が僕とファーリス王子から逸れたみたいだけど⋯⋯参ったな、いきなりダメージを受けるなんて)」

ファーリス王子
「あわわっ、左肩から血が⋯⋯どど、どうしよう⋯⋯!?」

ジュイネ
「ファーリス王子、出来るだけデスコピオンから離れて。ここは僕達で何とかするから」

ファーリス王子
「で、でも⋯⋯」

ジュイネ
「君が剣を手に戦えないなら足手まといなんだよ、下がってて!」

ファーリス王子
「⋯⋯⋯!!」

セーニャ
「ジュイネ様、怪我の具合は⋯⋯!? 今、回復しますね⋯⋯!」

 デスコピオンの巨体を回り込んでジュイネの元に回復しに来てくれるセーニャ。

ジュイネ
「あ、ありがとうセーニャ⋯⋯(自分でも回復出来るけど、セーニャの方がやっぱり回復呪文の威力が強いな⋯⋯。よし、痛みも引いたし僕も戦闘に加わらないと)」

 背から剣を引き抜き、デスコピオンへと颯爽と向かって行くジュイネの背中をファーリス王子は思わず見とれてしまう。

ファーリス王子
「(なんて、かっこいいんだ⋯⋯騎士じゃ、ないはずなのにジュイネさんは───)」


 デスコピオンは強敵だったが、ジュイネ達5人が協力して討伐に成功し、ファーリス王子が倒したという証拠とする為に死骸を鎖に繋ぎ台車に乗せサマディー王国に兵士達が運んで行く事となった。

シルビア
「アナタ⋯⋯本当にこのままでいいのかしら? サソリちゃんに一太刀も浴びせてないのに」

ファーリス王子
「仕方、ないだろ⋯⋯民も父上と母上も、実際見てもいないのにボクがデスコピオンを倒したって事にすればそれだけで喜ぶんだから⋯⋯」

カミュ
「お前それ⋯⋯、人のせいにして努力もせず他人に頼ってるだけじゃねーかよ」

ベロニカ
「やめときなさいって⋯⋯それ以上ほんとの事言うと王子様が可哀想よ」

セーニャ
「ファーリス様⋯⋯この件で余計に過度な期待が高まってしまいます。私達のように協力してくれる旅人がまた現れるとも限りません。どこかで見切りをつけて本当の自分をさらけ出さないと、あなた自身がいつか壊れてしまいますよ」

ファーリス王子
「(本当の、自分⋯⋯そんなの見せたら、民も父と母も失望して───)」

ジュイネ
「ファーリス王子、僕達は虹色の枝の件が済んだらサマディーを離れるから⋯⋯これ以上先延ばしにしないでくれると助かるよ」

ファーリス王子
「わ、分かってるさ⋯⋯キミらをこれ以上引き止めたりしない⋯⋯(出来ればボクのお付としてずっと居てもらいたいくらいだけどな)」

シルビア
「さ~て、アタシはここでお別れにしようかしらね、またいつか会いましょ、ジュイネちゃん達! アデュー♪」

ベロニカ
「え、ちょっと⋯⋯! 急に現れて急に居なくなる人ね、結構頼もしかったのに」

セーニャ
「そうですね⋯⋯シルビア様とは近い内にまたお会い出来そうな気がしますわ」

カミュ
「ま、とにかくオレ達はサマディー王国に戻るとするか」


 サマディーの城下町では国民と王と王妃が待ちわびており、ファーリス王子が先に帰還しその後に鎖に繋がれて動かないデスコピオンが台車で運び込まれると大歓声が上がった。王と王妃に労われるファーリス王子だが───その時、

デスコピオンを縛っていたはずの鎖がほどけ倒したはずのデスコピオンが息を吹き返したように暴れ出し、民と王や王妃はファーリスが再び倒してくれると信じて疑わずに期待の目を向け、当のファーリスは腰の剣も抜けずにガクブルと震えており、そうしている内にもデスコピオンはファーリスを標的に定め鋭い鎌を素早く振り下ろす。


ファーリス王子
「ひっ⋯⋯!? ───え?」

ジュイネ
「もう⋯⋯、世話が焼けるなぁ、君は⋯⋯っ」

ファーリス王子
「ジュイネ、さん⋯⋯!?」

 デスコピオンの鋭い鎌からジュイネがファーリスを庇い、その背中はざっくりと裂かれていて鮮血が滴り民衆から悲鳴が上がる。

ファーリス王子
「二度も、身を省みずにボクを庇ってくれるなんて⋯⋯どうしてキミは、そこまで───」

シルビア
「騎士たる者!」

ファーリス王子
「⋯⋯⋯!?」

 良く通る声が頭上から響き渡り、ファーリスが顔を上げた先には尖塔に立つ旅芸人の威風堂々としたシルビアの姿が。

シルビア
「───騎士たる者!!」

ファーリス王子
「どんな、逆境にあっても⋯⋯正々堂々と、立ち向かう⋯⋯!」


 そこで意を決したようにファーリスは剣を引き抜き、おぼつかない足でデスコピオンに立ち向かい剣を振り回すも中々当てられず、攻撃を何とか避けつつ一太刀を浴びせた時には剣が折れ飛んでしまい、咄嗟にファーリスは近くに倒れ込んでいるジュイネをデスコピオンから庇うように覆い被さった。

シルビア
「よくやったわファーリスちゃん、後はアタシに任せなさい! ───せーいっ!!」

 尖塔から勢いをつけて飛び降り、旅芸人シルビアはデスコピオンに剣で大きな一撃を浴びせ、今度こそ断末魔を上げて頽れたデスコピオンはその後ぴくりとも動かなくなった。

シルビア
「ほらね、アナタだってやれば出来たでしょ?」

ファーリス王子
「あ、あ⋯⋯ありがとう、シルビアさん⋯⋯!」

シルビア
「お礼はアタシじゃなくて、ジュイネちゃんにする事ね」

セーニャ
「ジュイネ様⋯⋯! いくらファーリス様の為とはいえ、無理をし過ぎですわっ」

 回復呪文を背中に掛け続けるセーニャ。

カミュ
「(ジュイネならあれくらい剣で受け止められたはずなのに、わざとデスコピオンの鎌を受ける事にしたのか⋯⋯ファーリス王子を突き動かす為に)」

ベロニカ
「あーもう、双賢の姉妹として勇者を護る使命を持つあたし達の立つ瀬がないじゃないのっ」

ジュイネ
「ごめん、みんな⋯⋯心配かけて。うっ、ごほごほ⋯⋯!」

 少量ではあるがジュイネは吐血する。

カミュ
「お、おいセーニャどうなってる? ジュイネに回復呪文効いてねぇのかッ?」

セーニャ
「おかしいですわ⋯⋯中々傷が回復しないのは毒が回ってるせいだと思い解毒呪文も使ったのですが、効果がありません⋯⋯。このままでは危険ですわ、きちんとした解毒薬を調合しないと!」

シルビア
「デスコピオンったら、死んだ振りして反撃の機会を伺ってた上に手負いの魔物の意地かしらね、ジュイネちゃんに鎌を当てた際に特殊な猛毒を与えたのよ。砂漠の殺し屋と呼ばれるだけあるわね⋯⋯」

ファーリス王子
「そんな! ジュイネさんはボクのせいで死んでしまうのか⋯⋯?!」

ベロニカ
「ちょっと、勝手にジュイネをころさないでよ! セーニャとあたしで強力な解毒薬を作るにしても少し時間が掛かるわ⋯⋯この地方の貴重な素材をすぐありったけ掻き集めてちょうだい!!」

ファーリス王子
「それくらい任せてくれ! 多くの兵士達に任せれば───いや、ボクも自分の足で掻き集めるよ! 待っていてくれ、ジュイネさん⋯⋯!!」

カミュ
「ほーん⋯⋯ジュイネが身体を張っただけはあるな。もしこのままジュイネが死ぬような事になったら絶対許さねぇが」

シルビア
「まぁまぁカミュちゃん、そんな殺気立たないの。アタシ達もジュイネちゃんに出来る事をしましょ」


 結局の所、ジュイネは三日三晩苦しむ事にはなったが貴重な素材でセーニャとベロニカが協力して調合した強力な解毒薬によって身体から毒が全て抜け、背中に負った大きな傷も回復呪文で治癒した。

その後のサマディー王と王妃はファーリスに過度な期待という重圧を掛けていた事を反省し、当のファーリスは心を入れ替えて日々鍛練に励む事にし、重症から回復したジュイネとその仲間達を玉座の間に呼び改めて虹色の枝の件をサマディー王に申し入れたものの───

ファーリス王子
「⋯⋯何ですって!? 今年のファーリス杯を開催する為に国宝の虹色の枝をダーハルーネの商人に売ってしまわれたのですか?!」

カミュ
「あーぁ、王子も王子なら国王も国王だぜ⋯⋯」

ジュイネ
「あはは⋯⋯仕方ない、よね⋯⋯」

ベロニカ
「あたし達のこれまでの頑張りは、何だったのかしら」

セーニャ
「ま、まぁ⋯⋯次の目的地はダーハルーネという事で⋯⋯」

ファーリス王子
「本当に、ほんっとうに申し訳ない!! 虹色の枝がいつの間にか売られていたなんて知らなかったんだ⋯⋯なのにこんなにジュイネさん達に迷惑を掛けてしまって⋯⋯!」

ジュイネ
「顔を上げてよ、ファーリス王子。手掛かりが全く無くなったわけじゃないし、色々経験も出来たから良しとするよ」

カミュ
「死にかけたくせによく言うぜ⋯⋯」

ファーリス王子
「あぁジュイネさん⋯⋯キミはどこまで素敵な人なんだ⋯⋯! いつか今度は、ボクがジュイネさんを助けられるようになる為に日々鍛練を怠らずに頑張るよっ!」

ジュイネ
「うん、がんばってねファーリス、離れていても応援してるよ」

ファーリス王子
「ぐはぁっ、呼び捨てにしてくれた上に応援してくれるジュイネさんの笑顔が眩しい⋯⋯っ」

ベロニカ
「やっぱり馬鹿じゃないの、この王子」

カミュ
「(全く、無自覚に相手を魅了してんじゃねーよジュイネ⋯⋯先が思いやられるぜ)」


セーニャ
「⋯⋯シルビア様のお姿が見えませんね、またどこかへ行ってしまわれたのでしょうか」

ベロニカ
「あの人旅芸人だし、その内また会えるんじゃない?」

カミュ
「ただの旅芸人にしちゃ、随分腕が立つようだけどな」


 サマディー王国の城門前から旅立とうとした時、城壁の上から声が掛かり目の前にあの旅芸人が降り立つ。

シルビア
「ジュイネちゃん達~!」

カミュ
「何だよおっさん、まさか見送りに来たのか?」

シルビア
「その逆よ、アタシもアナタ達の旅に同行させてほしいの」

ジュイネ
「うん、もちろんだよ。みんなも構わないよね」

ベロニカ
「あんた決断早いわね⋯⋯。シルビアさん、あたし達の旅の目的はセーニャが話しちゃったから知ってるはずよね。勇者を護り、邪悪なる闇を退けるって」

カミュ
「そうだぜ、旅芸人のあんたにとっちゃ遊び半分に見えるかもしれねぇけどな⋯⋯」

シルビア
「遊び半分だなんて思ってないわよ。⋯⋯アタシね、世界中の人達の笑顔を守りたいの。けど邪神ちゃんが復活しちゃったらみんな笑えなくなっちゃうでしょ? だからアタシも勇者ちゃん達の仲間になって邪神ちゃん復活を阻止したいのよん」

セーニャ
「何て素晴らしいお心掛けでしょうか⋯⋯! 是非とも一緒に来て頂きたいですわっ」

カミュ
「まぁ⋯⋯そこまで言われちゃあな。遊び半分なんて言って悪かったぜ」

ベロニカ
「そうね⋯⋯あたしからもお願いするわシルビアさん。うちの勇者様はぼーっとしてて危なっかしいからねぇ」

ジュイネ
「あはは⋯⋯。これからよろしくね、シルビア」

シルビア
「もちろんよ~♪ 所でこれからどこへ向かうのかしらっ?」

カミュ
「ダーハルーネって町だな、オレ達が必要としてる虹色の枝がそこ出身の商人に売っぱらわれたらしいからよ」

シルビア
「ダーハルーネといえば貿易が盛んだから、もう別の場所に売られちゃってる可能性もあるわね⋯⋯。そういえばそこの船倉にアタシの船があるのよん。これからの事考えると船は必須よね、ダーハルーネに着いたら好きに使ってくれていいわよん!」

ベロニカ
「え、シルビアさん個人で船を持ってるの?! それって相当身分が高いんじゃ」

シルビア
「やだわぁベロニカちゃんったら、アタシなんて大した事ないわよおほほほっ」

セーニャ
「これで目的がはっきりしましたね⋯⋯。ダーハルーネに虹色の枝が既に無くても、情報を集めて船で行方を追う事も出来ますわ!」

ジュイネ
「(船かぁ⋯⋯川で小舟に乗って遊んだことならあるけど、育った村からほとんど出たことないから初めてかも)」




【ダーハルーネにて】

 ダーハルーネでは海の漢コンテストが開かれていて虹色の枝は既にグロッタという町に売り払われているらしく船も出せずに立ち往生していると、ある子供が呪いで声が出せず材料を揃え囀りの蜜をセーニャが調合。

ベロニカ、シルビア、セーニャの三人がその子の元に薬を渡しに向かいジュイネとカミュは海の漢コンテストが終わらない事には船を出せないのでとりあえずコンテストの席を取っておく為に会場へ赴くがそこには───

ホメロス
「こんな所で浅はかなネズミ共を発見するとは⋯⋯わざわざ出向いた甲斐があったという事か」

ジュイネ
「(あの人は⋯⋯そうだ、デルカダール城の王の間にグレイグ将軍と共に居たホメロスっていうもう一人の将軍。だとしたらこの人が、僕の育ったイシの村を焼き払って───)」

カミュ
「マズいぞジュイネ、ここは逃げるしか⋯⋯!」

 しかし多くのデルカダール兵達に退路を断たれる。

ホメロス
「逃がさんぞ、悪魔の子とその仲間よ。───容赦はするな、多少痛めつけて構わん、捕らえよ!!」

カミュ
「クソ、囲まれた⋯⋯いつの間にこんなにデルカダール兵がッ」

ジュイネ
「(どうすれば⋯⋯っ)」

シルビア
「ちよーっと待ちなさーいアナタ達! 神聖な海の漢コンテスト会場でのおイタはダメよ!!」

ベロニカ
「⋯⋯ほらほら、そこから退かないと火傷するわよ!!」

 大きな火の玉を作り出しそこから弾けた幾つもの勢いのある火の玉がデルカダール兵達を襲う。


ホメロス
「チッ、まだ仲間が居たのか⋯⋯!」

 デルカダール兵達とホメロスがベロニカの攻撃呪文に気を取られている隙に、セーニャが声をなるべく出さずにジュイネとカミュに大きく手招きして逃げ道を確保してくれる。

セーニャ
「(さぁ、今のうちにこちらへ⋯⋯!)」

ジュイネ
「(せ、セーニャ、僕の手を引かなくても)」

ホメロス
「⋯⋯⋯!? 逃がすものかッ!」

 コンテスト会場から逃げ出すジュイネに気付いたホメロスは、その背中へ向けて闇の呪文を放つ。

カミュ
「───ジュイネ、危ねぇッ!」

ジュイネ
「えっ⋯⋯?」

 ジュイネへ放たれた闇の呪文に気付いたカミュは身体を張ってジュイネを守り、闇の呪文の直撃を受けてうつ伏せに倒れ込む。

カミュ
「う、ぐ⋯⋯ッ」

ジュイネ
「カミュ!」

セーニャ
「カミュ様⋯⋯!?」

カミュ
「オレに構うな、そのまま逃げろジュイネ⋯⋯!!」

ジュイネ
「けど⋯⋯!」

セーニャ
「⋯⋯⋯っ!」

ジュイネ
「セーニャ⋯⋯?!」

 カミュの意思を尊重したセーニャはジュイネの手を強く引いてその場から逃れ、倒れたままのカミュは多くのデルカダール兵に追いつかれ捕まる。シルビアはカミュを今は助けられないと判断し、ベロニカと共にセーニャとジュイネに続いてその場から逃れ船のドッグ近くの死角に隠れる。


シルビア
「ふぅ、何とかあの場から逃げられたけど⋯⋯」

ジュイネ
「僕を庇って捕まってしまったカミュをすぐに助けないと⋯⋯!」

ベロニカ
「待ちなさいってジュイネ、気持ちは分かるけど町中にデルカダール兵が配置されてるのよ? 無策で突っ込んでもすぐ捕まるのがオチだわ」

セーニャ
「カミュ様、大丈夫でしょうか⋯⋯あの冷たい瞳の将軍に何か酷い事をされてなければいいのですが」

シルビア
「まずはカミュちゃんの状況を把握しないとね、なるべく高い所からコンテスト会場を見てみましょ。その為には兵士達に見つからないように行動しなきゃね」

ジュイネ
「(カミュ⋯⋯)」

 ジュイネ達は夜間のダーハルーネを巡回するデルカダール兵達の目を欺きつつ、高い位置にある渡り橋の上に降り立って町の北端のコンテスト会場に目を凝らした。

⋯⋯すると柱に磔にされ項垂れているカミュを見つけ、そのすぐ近くに脅すように佇むホメロス将軍がまるでジュイネ達がすぐ近くに居るのを把握しているかの如く朗々と声を上げる。

ホメロス
「悪魔の子ジュイネよ、仲間をなぶり殺されたくなければさっさと姿を見せるのだな! それとも、こいつはもうお前にとって不要なのかッ?」

ジュイネ
「あいつ⋯⋯!」

シルビア
「ジュイネちゃん、挑発に乗っちゃダメよ。彼の思う壷だから。確か裏手に回れる道があったわね⋯⋯そこから奇襲を掛けましょ」

ベロニカ
「シルビアさん、さすが頭の回転が早いわね⋯⋯」

セーニャ
「ジュイネ様、落ち着いて確実にカミュ様をお助けしましょう」

ジュイネ
「分かってる、⋯⋯行こうみんな」


ホメロス将軍とデルカダール兵に占領されたコンテスト会場の裏手に回り込んだジュイネ達は、背後からホメロスに奇襲を掛ける。

ホメロス
「⋯⋯⋯!? 悪魔の子とそれに付き従うドブネズミらしくコソコソと⋯⋯貴様らなど私一人で十分だ、わざわざ囚われに戻った事を後悔させてやるッ⋯⋯!」

 二刀流での剣技とガード率の高さ、闇の呪文や状態異常を駆使するホメロスに手こずるジュイネ達だが、何とかホメロスに膝をつかせその隙に縛られたカミュを救出する。

ジュイネ
「カミュ、大丈夫?」

カミュ
「オレに構うなって言ったのに危険を冒してまで助けに来るとはな⋯⋯」

ジュイネ
「何かを果たすためにカミュにとって勇者の力が必要なんでしょ、だったらこんな所で終わるわけにいかないよね」

カミュ
「へへ、言ってくれるぜ⋯⋯ありがとなジュイネ」

ホメロス
「⋯⋯仲間を助けて余裕振っている場合か、悪魔の子よ?」

 数多くのデルカダール兵がジュイネ達5人をじりじりと海沿いに追い込み迫る。

ホメロス
「ククク⋯⋯そのまま海に飛び込んでサメにでも喰われるか、大人しく我々に捕まるか選ぶがいい」


ジュイネ
「⋯⋯ホメロス将軍、あなたにひとつ聴きたいことがある」

ホメロス
「ほう⋯⋯? 悪魔の子などに語る口はないつもりだが良いだろう、特別に聴いてやる」

ジュイネ
「グレイグ将軍は⋯⋯今どうしてる?」

ホメロス
「⋯⋯何故お前がグレイグを気にする必要がある」

 表情が一層冷たくなるホメロス。

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯⋯」

ホメロス
「そういえば、アイツもやけに悪魔の子を気にしていたな⋯⋯。勇者を育てた村人を全員皆殺しにしようとしていた所に勝手に現れ、殺す必要は無いと宣ったが⋯⋯フン、今思えば情けを掛けずに皆殺しにすべきだったな。いや⋯⋯今からでも遅くはないか。地下牢に閉じ込めている村人全員を殺すくらいはな⋯⋯?」

ジュイネ
「⋯⋯⋯っ!」

 キッとホメロスを睨み据えるジュイネ。

ホメロス
「あぁ⋯⋯そういえばグレイグの事だったか。奴はお前をデルカコスタ地方で捕えられなかったのを咎められ、暫く謹慎処分となったぞ。相変わらず馬鹿な奴だ⋯⋯それでも地下牢に閉じ込めているイシの村の住民の世話を怠らないときたものだ」

ジュイネ
「(⋯⋯⋯! グレイグ、将軍───)」

ホメロス
「成程⋯⋯お前の拷問にあたった兵士達によれば、確かに“そちらの気”があるな」

ジュイネ
「(⋯⋯⋯?)」


シルビア
「!! もう大丈夫よジュイネちゃん達、アタシに任せてっ」

 何かに気付き一人海に飛び込むシルビア。

ベロニカ
「えっ、シルビアさん⋯⋯??」

セーニャ
「わ、私達も飛び込んだ方がいいのでしょうか⋯⋯!?」

ホメロス
「ハハハッ、これは愉快なものだな! 早速仲間に裏切られるとは───」

 汽笛の音と共に大型船が颯爽と現れ、陸を面してギリギリに通り過ぎようとする。

シルビア
「みんな~、飛び乗るのよ~!!」

カミュ
「あのおっさん、いつの間に船に⋯⋯」

ジュイネ
「とにかく、言われた通り船に飛び乗ろう!」


 ジュイネ達は意を決して船に飛び移り、デルカダール兵達は船で逃げられるのを阻止しようと試みるが鎧を着込んでいるせいもあって跳躍力が出ずに海に何人か落ちて行き、大型船は速度を増してダーハルーネから離れる。

ホメロス
「フン、このまま逃げ切れると思うなよ⋯⋯!」

ベロニカ
「⋯⋯ちょ、ちょっと! 前方にでっかいイカが現れたわよ!?」

シルビア
「やだぁ、クラーゴンじゃないのよ! 外海ならともかくこんな内海に現れるなんて聞いてないわっ!?」

セーニャ
「このままではあの大きな触手に船が絡めとられてしまいます⋯⋯!?」

カミュ
「戦う⋯⋯にしたって圧倒的に不利だが、やるしかねぇだろッ」

ジュイネ
「(勇者の力⋯⋯勇者の力ってこんな時にどうやって出せば)」


 そこに大砲の音が響いてくるとクラーゴンに次々に直撃して行き、多くの船団が現れジュイネ達の乗る船を援護し、その船団を仕切るのはダーハルーネの町長で喋れなくなった息子を囀りの蜜で回復してくれた礼としてジュイネ達を助けてくれたのだった。

喋れるようになった男の子の話によると、喉に強力な呪いを掛けたのはホメロス将軍らしく、海沿いで魔物と話していたのを見られたのに対する口封じだったらしい。

ダーハルーネの町長は咎められるのを覚悟の上でジュイネ達をその場から逃してくれたのだった。

ホメロス
「(悪魔の子⋯⋯いや、勇者ジュイネよ。いずれその勇者の力、必ずやあの方に献上してみせよう)」


ベロニカ
「ふぅ⋯⋯ダーハルーネの人達とシルビアさんの船のお陰で、何とか逃げきれたわね」

シルビア
「船の舵を握ってくれてるのはアリスちゃんっていうの、よろしくねっ♪」

セーニャ
「それにしても立派な船ですわ⋯⋯シルビア様凄いんですね!」

シルビア
「セーニャちゃんったら照れちゃうじゃな~い、大した事ないわよアタシなんてっ」

カミュ
「さて、ダーハルーネの町長によると虹色の枝の商談はグロッタって町に決まったらしいからまずは内海からバンデルフォン地方に降り立たねぇとな」

ジュイネ
「⋯⋯⋯⋯」

カミュ
「お、おいどうしたジュイネ、何かフラついてんぞ? 船酔いでもしたか?」

ジュイネ
「え? そうなの、かな⋯⋯。何だか、緊迫した状況から解放されたら気が抜けた感じがして⋯⋯」

 言いながら気を失いそうにジュイネが倒れ掛かるのをカミュが支える。

セーニャ
「ジュイネ様、カミュ様が捕まった時かなり心配しておられましたから⋯⋯ご自分を責めていらしてましたし」

カミュ
「あれはお前のせいじゃないだろ⋯⋯オレの意思で庇ったんだ、責任感じる必要ねぇよ」

ジュイネ
「だけど⋯⋯」

 今にも気を失いそうな朧気な目をする。

カミュ
「あーもう、今は何も考えずにお前はもう寝ろ。⋯⋯おっさん、船室に休めるとこあるんだろ?」

シルビア
「もちろんよ、ちゃんと整ってるから遠慮なく使って頂戴ねっ」

ベロニカ
「じゃあカミュ、ジュイネの事お願いね。⋯⋯言うまでもないと思うけど変な気は起こさない事よ?」

カミュ
「起こさねぇっつのッ」


ジュイネ
「(グレイグ、将軍は⋯⋯イシの村のみんなを、守ってくれてる⋯⋯。早くみんなを、解放してあげられるように⋯⋯強く、ならなきゃ───)」

 ジュイネは一時的に深い眠りに落ち、その後は体調も回復して目覚め、一行は船でバンデルフォン地方へ赴きユグノア地方のグロッタの町を目指す。


 
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