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SHUFFLE! ~The bonds of eternity~

作者:Undefeat
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第四章 ~魔力(チカラ)の意味~
  その一

 翌日の放課後。

「……」

「えっと、稟くん、大丈夫?」

「……多分」

 何やら憔悴した稟がシアと共に放送部の部室(要するに放送室)前にいた。稟の憔悴(しょうすい)の原因は言うまでもなく親衛隊だ。主にPPP。
 時間は昼食時まで遡る。


          *     *     *     *     *     *


 四時限目の授業が終わり、昼食を摂るためにいつも通り屋上へ向かおうとしていた稟達だったが……。

「お兄ちゃん♪」

 プリムラが笑顔を浮かべながら2-Cの教室に現れたことで事態は一変した。

「お兄ちゃん……だと!?」

「プリムラちゃんが……笑っている……?」

 教室内がざわつき始め、同時に稟に視線が向けられる。

「プリムラ、どうした? って昼食か」

「えっと、ダメだった?」

「そんなことあるわけないだろ」

「うん!」

 沈みかけたプリムラの表情が稟の一言で満面の笑みに変わる。そしてそれを見た数人の男子生徒が倒れる。その表情は『我が人生に一片の悔い無し!』とでもいわんばかりに満ち足りていた。ついでに鼻からは何やら赤いものが流れ出していたりする。恐らく、いや間違いなくPPPの隊員だろう。さもありなん。つい二日前までほぼ無口&無表情だったプリムラが笑っているのだ。当然の如くこの事態はすぐさま学園中に知れ渡り、その原因が探られた。まあ、原因は稟なのだが。その結論には生徒達も、というかPPPの隊員達もすぐに辿り着くも、そこで意見が分かれた。
 曰く、『プリムラちゃんの笑顔が見られるようにした土見稟の功績は大きい。今回ばかりは見逃すべきでは?』 曰く、『そんなことはよく解っている! しかしだ! このどこかやりきれない、悔しい想いはどうすればいい!?』 曰く、『プリムラちゃんハァハァ』
……最後のは即刻抹殺すべきかもしれない。
 結局の所、PPPの中でも特に武闘派の隊員達による土見稟討伐戦(いつもの)が開始された。ここに至るまで若干の間があったため、稟は昼食を摂り損ねることはなかったものの、開始されたのが昼食後すぐだったため、普段よりも厳しい戦いを余儀なくされた。
 食後の急激な運動は控えましょう。吐くこともあります。(経験談)


          *     *     *     *     *     *


 とまあ、稟の憔悴の原因はこんな所だ。ちなみに土見稟討伐戦(いつもの)は放課後にも実施され、ネリネの暴走によってつい先程解放されたところだ。抑えてはいたようだが忍耐にも我慢にも限度というものがある。稟のことに関しては沸点が低めなせいもあるが。なお、タイミングが悪かったのか柳哉はそのどちらにも居合わせていない。
 そして冒頭の部分に繋がる、というわけだ。
 ちなみに土見稟討伐戦(いつもの)がネリネによって強制終了されたことで気が抜けてしまった稟は今日の放課後の約束をすっかり忘れていた。思い出したのは教室に戻った時に、残っていたクラスメイトに預けられていた伝言を受け取った時だ。正直聞かなかったことにして帰ってしまいたかったが、約束を破るわけにもいかないので、ちょうど掃除を終えたシアと共に放送室まで足を運んだ次第である。

「それじゃ、入るか」

 そう言ってノックをする。どうぞ、と答えがあり、扉を開けるとそこには唯一の放送部員であるデイジーだけではなく、意外な人物の顔もあった。

「よう、どうした? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるぞ?」

「いや、なんでいるんだ? 柳」

「いちゃ悪いのか?」

「いや、別に悪くはないが」

「ま、実を言えばデイジーに頼まれたからなんだがな」

 そんな二人を尻目に、デイジーはシアに挨拶をしていた。

「ようこそ、放送部へ。まだリニューアル大掃除の途中ですが、お(くつろ)ぎください」

 掃除の途中とはいってもほとんど片付いており、この分なら今日からでも活動を始められそうな状態だ。あまり触れられていなかったのか、機材はほぼ新品の状態を保っている。

「お邪魔します。わ……すごいね、機械がたくさん」

「ああ……思ったより設備が整ってるな」

 部員一名と言うくらいだ、もっと貧弱かと思っていたのだが……。

「まあ、バーベナだからな。あまり使われないような所にも結構金がかかってるんだろうよ」

 世界初の三種族合同の学び舎だ。それぐらいは当たり前なのだろう。

「三世界の交流を促進するために作られた学園ですから、設備投資は最高クラスだそうです」

 デイジーも苦笑と共に答える。

「この機械、校内放送に使うだけでは勿体ないんですよ。でも放送部自体、ほとんど知られていない部活なので……宝の持ち腐れもいいところです」

「そうなんだ……稟くんも知らなかった?」

「ああ……残念ながら……」

「無理もありません、私が入る前までは顧問の先生しかいない部活動でしたから」

 よくそんな所に入る気になったものだ。

「実を言うと……私、神界からの奨学生なんです。なので、学園で過ごすにあたっての条件がいろいろあるんですよ」

「確か、その内の一つが『部活動の奨励』だったよな」

「奨学生なのか」

 デイジーはさらりと言ったが、神界・魔界から年に五人しか選出されない奨学生の一人ということは、デイジーがそれだけ優秀だということだ。実際、デイジーの成績はネリネや楓、樹らと並んで二年生の中でもトップレベルだ。

「ええ。私たちは一般の生徒さんより、部活に所属することを強く勧められます。人界のことをより多く学ぶために、ということですね」

「ふわー、すごいんだね、デイジーちゃん」

「い、いえ、そんなことは……」

 シアから尊敬の目で見られ、赤くなりながら慌てるデイジー。いつもそんな感じなら可愛いのに、という感想は口にせず、稟は問いかける。

「それで、なんで放送部に……? 他の部でも良かったんじゃないのか?」

「それはそうですけど……卒業する部員の方と入れ替わりだったので。私だけになってしまうのは分かっていたんですけど」

 言葉を一旦切り、続ける。

「無くならないといいなって……思ったんです。何だか寂しいじゃないですか、そういうの」

「……うん。分かる気がする」

「確かにな」

 言いながら、稟は別のことに驚いていた。デイジーが放送部をやっている理由が、意外にも人情味のあるものだったからだ。見れば柳哉も無言で頷いている。デイジーの手伝いをしているのもその辺りに理由があるのだろう。最初のイメージが強かったせいもあってか、ちょっと勘違いをしていたのかもしれない。

「でも、驚いたな」

「何がですか?」

「いや、柳と随分親しいようだから」

 部員でもないのに部活動の手伝いをしているぐらいなのだから。そう言おうとした稟だが……

「別にそこまで親しいわけじゃないがな。まあ、前に少し相談にのったことがあってな。その縁みたいなものだ」

「相談?」

 聞き返すシアだったがそれには答えず、小さく笑う。その相談の内容をシアに話すほど野暮ではない。そんな柳哉に少しの感謝を込めた視線を送るデイジーだった。

「で、わたしも校内放送を手伝えばいいのかな?」

「よくぞ聞いてくださいました。手伝うというより、姫様には姫様らしく主役の椅子を用意させていただきます」

「えと、わたしは時々お手伝いが出来たらいいなって思ってたんだけど……」

「そんな引っ込み思案なことではいけません! 姫様の魅力を民衆……いえ、同じ学び舎に集う若人に思い知らせ……いえ、知ってもらわなければ!」

 ここぞとばかりに勢い込むデイジー。微妙に雲行きが怪しくなってきた。訂正前の発言だとすこぶる政治的である。

「と、思っていたのですが、少し時期を外してしまったので……ひとまずこれをご覧ください」

 そう言ってデイジーが鞄の中から取り出したルーズリーフの束を三人の前に差し出した。表紙にはこう書かれていた。

「……『新しいお昼の放送プログラム』?」

「……『リシアンサス王女のお部屋』?」

 全てが手書きの文章だ。しかも結構な量がある。これもシアと一緒に放送する、ということへの情熱の成せる業か。

「これをきっかけに、放送部の存在を皆さんに改めて認知してもらおうと思います。全てはそこからです」

 意外に普通だ。さっきは結構過激なことを言っていたからなおさらだ。

「私は平和で陽気な今の学園が好きですから。明るく楽しい方向で活動したいです」

「うん、みんなが楽しくなれるならそれが一番いいよね」

 明るく楽しく活動する。その具体的な中身が、このルーズリーフに記されているようだ。

「そして、水守さん」

「ん?」

 名前を呼ばれ、読んでいたルーズリーフから顔を上げる柳哉。そして……

「記念すべき第一回放送にゲスト出演していただけませんか?」

 デイジーの思わぬ発言に固まった。 
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