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人生コンティニューしたらスクールアイドルを守るチートゲーマーになった

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55話 Deep Spector【深淵からの使者】






「見つけた——————位置情報を魁に送信っと。」
「見つかったのか?鞠莉の居場所。」
「ああ。」


時刻は午後5時を過ぎる頃。雨上がりの虹を見せる代わりに空は目一杯の夕焼けを見せてくれた。太陽はそろそろ役目を終えようと水平線に沈もうとしている。

俺が行った衛星からの捜索、さらにクローズドラゴンとキバットとの通信で、条件に当てはまる施設を絞り込んでいった結果、わずか1時間足らずで割り出すことができた。その場所は西浦の森の中にある廃屋だ。この地域はみかん畑があるからかそのような建物はごまんとある。しかも夜は暗闇。月が出ていなければ光すら当たらない樹海だ。


しかし問題はこの後。鞠莉を安全に助けられるかということとクウガをアークの呪縛から解放することだ。特に後者は困難を極める。俺ならともかく..................生憎俺にそこまでする時間は無い。俺がライブの演出をしなきゃいけないのに、その俺がいなかったらライブが成り立たない。

それに、俺は賭けてみたい—————————


俺の考えに呼応するようにスペクターアイコンが俺のポケットから飛び出して、こちらの世界の住人を自分の世界から追い出す。その長身の体が俺の背後に召喚される。


「稜............よく戻ってきたな。」
「ああ。ようやくわかったよ———————いや、思い出した。」
「修行から戻ってきたところ悪いが、鞠莉が滅亡迅雷.netに拐われた。」
「何だと!?」
「その場所はたった今割り出した。今から竜介先生とその場所に向かって欲しい。無論俺もあとを追う。」
「わかった。俺は絶対に助ける!俺の誇りにかけて!」


稜は手のひらの上にある禍々しいオーラの眼魂を決意を固めたような眼差しで見つめる。そして拳を握りしめる。


「それがお前の新しい力か?」
「ええ。俺の心に眠る深淵——————俺に生き様だ。」
「そうか............」
「それより行こう、竜介先生。事態は悪いからな。」
「おう!!」


稜と竜介先生は部室から自らのバイクを展開して、一目散に俺が割り出した位置へと向かっていった。

向かっていった稜の背中にはどこか闘志に溢れていて、なおかつ迷いも覚悟も目標をも抱いた。これこそ仮面ライダーのあるべき姿だ。夢を持て。自分の夢を持つことで初めて他人の夢を守ることができるのだ。

俺にも夢はある。初めて戦ったあの日からそれは変わってない。


「さて...........俺も行くか。」
「才君、必ず鞠莉ちゃんを助け出してあげて!!」
「鞠莉さんがいないと明日の1学期の終業式開けないじゃない。」
「あっ!!忘れてた!!——————ってことは運命の通知表も.........!!」
「今回のライブでは鞠莉さんはトリ役も務めるから、くれぐれも丁重にお願いしますわ。」
「ああ——————!!」


コイツらの期待。夢も俺は守らなきゃいけない。守れるものは絶対に守らなきゃいけねぇんだよ。Aqoursのマネージャーとして、演出家としてな...................





——————————※——————————




「通達したが、約束の日時は3日後のはずだ..........それを無視しての襲来の意味はわからないわけではないだろう?」
「知るかそんなの!!ここでお前を倒せばいい話だろうが!!」
「「作戦狂わせた本人が言うんじゃねぇよ!!」」


会話で大体の状況は察しているとは思うが、竜介、稜、魁は指定された廃屋に正面から乗り込んだ—————というか3人が廃屋の前で作戦立案の際に竜介が正面突破とか宣った結果ではあるが。


「約束は果たされなかった..........その代償は人質の命によってのみ支払われる。」
「————————させるか。」


ドス黒い闇からの声が小さくも静粛に響き渡る。魁は鋭い眼光で滅を牽制しながら、そして決意のこもった声で話を続ける。


「お前には借りがある。今度こそお前を逃がさない————————姉さんも虎太郎も取り戻す。王たる者としてやると言ったら必ずやり遂げる。」
「ふっ........お前が言ったことが実現する確率は10%にも満たない。対して———————」
「それはどうかな?」
「何?」
「確率とか何とか言い上がって!!そんなのやってみなきゃ分からねぇだろ!!」
「————————?」
「語彙力が幼稚すぎてわからないかもしれないが—————つまりはこういうことだ。」
「!?!?!?!?」


ガシャガシャガシャ!!!


「稜!!魁!!」
「これは———————」


滅の背後にあった廃屋は積み木で作った古屋かのように解体されてしまう。そして中にいた鞠莉を見ることができた。こんなキカイじみた行動ができるのは彼で思いつくのは1人しかいない。


「この建物に侵入するのはどうしてもリスクがあってね。構造がパタパタと解体できたから助かったよ。」
「祝!」
「ほ、ほら見ろ!確率だけじゃわからねぇって!!」
「「(どの口が言ってんだか———————)」」


形勢は見事に優勢—————とはいかなくても劣勢ではなくなった。廃屋の中に入るのは確かにリスクがあった。小暗い小屋など見えない敵が潜むには格好の場所だ。それを封じたのは大きい。


「お前ら———————」


≪フォースライザー!≫


フォースライザーを巻きつけた滅はバグヴァイザーで背後に巨大ロボを5台召喚する———————ギーガー。ゼロワン世界でも用いられた黒い巨大戦闘用ロボットだ。

さらに———————迫ってくる。


「アルティメットクウガ—————!!」
「あの巨大ロボットは俺と祝に任せろ。魁、お前は——————虎太郎を解放してやってくれ。」
「ああ............そのつもりだ!!」


魁はダークキバに変身、アルティメットクウガに向かって森の方へと向かっていった。竜介もといクローズマグマとウォズもギーガーをぶっ飛ばして反対側にある草原に向かう。残ったのは稜と滅のみとなった。


「お前の相手は俺だ。」
「深天稜............哀れだな。」
「————————————」
「幼少期に父親の実験台になるところを深天大地という男に救ってもらったが、その男の死亡と共に再び追われる羽目になった...........そして行き着いた先が今この瞬間。せめて俺の手で人生という苦痛から解放してやろう。」
「お前に何がわかるんだ?」
「?」
「父さんの無念も.........あの男への恨みも..........そして大切な友を守る。俺の戦い、俺のケジメは—————ここから始まるんだ!!」
「ならここで........その道が始まるのでかどうか.......俺が試してやろう。」


≪ポイズン!≫


「変身。」


≪フォースライズ! スティングスコーピオン!≫

≪ BREAK DOWN ≫


いつ見てもサソリは人間の恐怖心というものを煽ってくる。人間というのは自分に対して害のある物には本能的に過剰反応するそうだ。ゴキブリ然り、毒物や嫌いな食べ物にまで。それを踏まえれば仮面ライダー滅はヒューマンキラーの権化と喩えることもできる。アークが人類滅亡というのも決して無謀な作戦ではなく、最適化された結論なのかもしれない。

だが———————


「俺は負けない!友のために!だから鞠莉.............見ていてくれ、俺の覚悟!!」
「稜————————」


深淵を秘めた眼魂から魂震える叫びが聞こえる。


≪ ダイブ トゥ ディープ!≫


≪ギロットミロー! ギロットミロー!≫


この世界には明らかに存在しないであろうギザギザとしたフード型のゴーストが頭上を踊る。稜はギロっと滅を睨み込んだ後に鞠莉に目を向ける。

彼女は申し訳なさそうな顔で見つめていた。彼を憐れむ心に満たされていた。そんな声は稜には届かない。もう覚悟という名の賽は投げられたのだ。眼光を言葉に変えて今日あった小競り合いのことも含めて、謝罪文のように換えて伝える。


「変身............!!」


ハンドルを引っ張って押し込む。その動作を確認した《《深淵》》は銀と紫で彩られた禍々しさを秘めたボディにそのパーカーを着させ、同時に紫色の黄泉から使者の如く燃え盛る。


≪ ゲンカイガン!≫

≪ディープスペクター!≫

≪ゲットゴー!覚悟!ギ・ザ・ギ・ザ!ゴースト!≫


銀と紫の色彩に加え、そのギザギザとした容貌はまさしく彼の心に生まれた深淵。その奥底にあるモノを体が理解したと訴えているかのようだった。フードを取った深淵からの使者———————仮面ライダーディープスペクター!!


「私の名にかけて———————祝え!!深淵から這い上がりその力を手に入れた深淵の戦士!その名も仮面ライダーディープスペクター!!新たな力が解放されし瞬間である!!」
「ふざけてないで戦え!!この祝福男!!」
「ふざけるなどと君に言われる筋合いはないよ?」
「んだと!?」
「それより我々も負けてられないよ!!ハッ!!」
「こいつぅ〜!!」


竜介よ。たまにはまともなことを言うではないか——————話を戻そう。


「やれ。」


≪ディープスラッシャー!≫


滅は三下のマギアを鉄砲玉として行かせる。スペクターはサングラス(?)が付いている新たな武器 ディープスラッシャーをブラスターモードにしてその三下に乱れ撃つ。急所を正確に当て、1発で青い血乱れる奈落へと送っている。

ブラスターの銃口を回し、ディープスラッシャーはソードモードへと姿を変える。そして再び迫ってくるマギアを一刀両断していく。血のような潤滑油がディープスラッシャーに滴りそれを欲する。さらにさらにと.............


「三下じゃ話にならない!俺が戦うのはお前だけだ!!」
「良いだろう——————はっ!」


滅はアタッシュアローで紫色の光矢を放つ。ディープスラッシャーはそれをも一刀両断してスペクターを先に進ませる。そしてアタッシュアローの刃と交わる。

刃を交えた力押しの勝負をした後に、スペクターは滅に一太刀浴びせる。そして素早くもう一太刀。鉄の装甲を纏った精密機械から火花が上がる。

今度は少し体重を乗せての斬ろうとするが間一髪で止められ、衝撃は爆発となってスペクターと滅を中心とする円周上に示される。アタッシュアローとディープスラッシャーは交わり続け、その度に行き場を失った力が円周上で暴発する———————また大きな力同士がぶつかり合う。と、思いきや受け止めたのはアローモードではなくアタッシュケース状態であった。


「やるな、スペクター」
「生憎だが俺は才のように相手を侮ったり、魁のように王の一瞬の油断はない。俺は全力で相手を倒す!!」
「そうか.........人間らしい。愚かな者よ。」
「!!」


≪フルチャージ! カバンシュート!≫

≪オメガダマ!≫


両者ともに至近距離で銃系統の強攻撃を喰らわせる。スペクターは矢が当たりこそしたが、上手くその衝撃を上手く利用して滅との距離を取る。一方で滅もチャージされた光弾を殺し後退を防ぐ。


「くっ!」
「これでも喰らえ。」
「上等だ!!俺もとっておきを喰らわせてやる!!」


≪ヘラクレスビートルズアビリティ!≫

≪アメイジングカバンシュート!!≫


サウザーから奪ったヘラクレスプログライズキーをセット。スペクターはその強力なツノに対抗するため、選んだスペクター魂とエジソン魂をディープスラッシャーのサングラスにセットする。


≪メガハゲシー! メガハゲシー!≫

≪キョクゲンダイカイガン! ギガオメガダマ!≫


昆虫界最強とも呼び声高いツノを纏った矢が電気を宿したギガ級のエネルギー弾とぶつかる。しかしここは大きさと威力も強いスペクターの技が押し勝ち、そのエレキボールを滅に直撃させる。


「流石にパワーアップしているか............だが、俺は人工知能。戦うほどにその力は増し、やがてその力は頂点へと極まる。」
「何!?」


≪カバンシュート!≫


宣った後にジャンプしたかと思えば、無数の毒矢がスペクターの視界を支配していた。一点集中の攻撃をやめて飽和攻撃を展開してきたのだ。しかしそんなことで諦めるスペクターではない。ブラスターモードの連射で無数にある矢を次々に落としていく———————がしかし。


「ぐっ!!」
「掛かったな。」
「これは.............!!」
「サソリの毒針だ。ライダーシステムの特性を利用したこの毒は被注入者を行動不能やがて変身解除に誘う。」
「くっ........」


スペクターの肩に触手のように刺さるその毒針の影響でドライバーから電流走る。ライダーの基本事項として基本スペックだけでは戦いは語れないという点だ。どんなに強者であっても立ち回りや感情、変身者の身体能力によってそれを遥かに凌駕すると言う点である。その例がまさしくこの状況である。だが————————それはお互い様でもある。


「お前に.........受け止められるものか。」
「何だと?」
「お前なんかに俺の心が..........分かってたまるか!!!!!はああああああああ!!!!!」
「!?!?!?!?—————自力でアシッドアナライズを引き抜くとは........」
「やぁっ!!!!」
「人間如きが———————」
「人間の心が理解できないお前に!!俺に勝てるものか!!!今それを教えてやる!!」


≪キョクゲンダイカイガン! ディープスペクター!≫


感情の昂り、覚悟の真価が極限まで高まった。その心に反応するように紫炎は燃え盛る。背後にある目玉が滅を深淵に叩き込もうとスペクターにエネルギーを与える。


「俺の生き様—————見せてやる!!!!!」


≪ギガオメガドライブ!!≫


空中に飛び上がり、突き出した右足からは紫色のプラズマがギラギラと溢れ出す。その右足を滅は両手で自分の体を防御するが—————————


「これが俺の生き様だァァァァァ!!!!」
「うわぁぁあ!」


小さな嗚咽をあげる滅の体を大きく吹き飛ばす。その衝撃は戦っていた廃屋近くにある木に機械仕掛けの体が音を立ててぶつかるほどだ。当然ダメージはその衝撃以上の強さとなる。フォースライザーが変身状態は危険と察知して、強制的に変身を解除させるにいたるほどだ

しかし、その力はあまりに強大すぎだ。強大すぎる力による肉体負荷もまたライダーシステムの変身解除の判定内に入ることもある。


「何故だ..........これが人間の底力だとでも言うのか?」
「はぁ.......はぁ........ぐはっ!」
「だが貴様の肉体は限界を超えたようだな..........契約不履行には制裁が必要だ。」
「おまっ!...........やめろ........!!」


鞠莉を始末しようとする滅を止めようと体の歯車を動かすが、不調を訴えて機能してくれない。逃げろと言いかけたその時だった................


『サブキャラにしては上出来だ。』
「!?!?」
「伊口才———————!」


廃屋跡に姿を表したのは我らが主人公 伊口才もとい彼が変身したムテキゲーマー。もうすでにムテキゲーマーの手は鞠莉の肩に手がかかっているのだ。いくら稜と滅が距離があるとしても、これだけ近ければ救出は確定的だ。


「全く...........お前はいつもギリギリで良いところ掻っ攫い上がって.........」
「まぁな。鞠莉、今助ける。」


バシュ!


ムテキゲーマーは鞠莉にかけられていた鉄の縄を手刀で断ち切る。縄は羽毛のようにパラパラと地面に落ちていく。


「動けるか鞠莉?」
「ええ.......」
「はぁはぁ.........頼む才!!Aqoursを.........俺たちのライブを輝かせられるのはお前だけだ!!」


裂け目だらけのワイシャツはそのダメージ量を物語っている。そんな深傷を負いながらも鞠莉を先に行かせて、この場に留まろうとする稜に鞠莉は悲壮な声で叫ぶ。


「無理よ、稜!!その体で下手に動いたら取り返しのつかないことになる!!!」
「言っただろ..........俺は何としても俺の本懐を果たす。それはお前らが輝くことだ。だから..........早く行け!!」
「————————鞠莉、行こう。」
「でも稜は...........!!」
「知っている。だからこそこれは《《しがらみ》》の先にある結論なんだよ。鞠莉の思うそれは稜の望みじゃない。そんな小さい人間なら、俺が1番信頼する幼馴染なんかになってねぇよ。」
「——————わかったわ。」
「しっかり掴まってろよ。」


≪回復!≫


「これは——————!」
「無茶をした先に求めるものがあるんだ。」


星屑は綺麗に廃屋から輝かしい星空のようなステージへと去って行った。見惚れている場合ではないと稜は立ち上がり、同じく膝を擦りながら歩いていた滅を5mほどから見下ろす。


「さて..........形勢逆転だな。」
「——————これもアークの予測通りならば、それに従うまで。」
「え?」
「フッ!」
「!!!!!!」


手元のバグヴァイザーのビームガンモードで地面に射撃し、砂煙を発生させる————————こんなことをされると撤退されてしまうのは仕方なかった。


「これもアークの結論なのか...........?」


稜は少し気味悪がっていた。アークの予測の正確さである。もし滅の言葉が本当であればその予測は9割9分当たると言っても差し支えない。

もし以前才が言っていた『アークが肉体を持つ』と言うことになれば.............人類滅亡という図らずも誇大性のある目標も現実味を帯びてくる。無論、ムテキゲーマーが負けるとは思っていない。だがそれと人類滅亡は《《別の話》》だ。


「まだ魁が戦ってる..........けど、少し休ませてくれ。」


稜は大の字になって倒れ込む。

夜空はただ照らしている。内浦の空はいつ見ても星が綺麗だ。永久不変の摂理のように君臨している。たとえ誰が死のうとも生まれようとも。


 
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