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人生コンティニューしたらスクールアイドルを守るチートゲーマーになった

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52話 深いPast



数日が経過した。


花火大会までは残り3日程度。あと何週間かあると思われていた期間もあっという間に過ぎた。それはその間に沢山の出来事があったからだと言い切れる。

花火大会はゲリラ的なライブで9人初めて。フォーマルな場での9人ライブは初めてになる。フォーマルということは当然、注目度も桁違いに上がる。かける演出には今まで以上に力点を置いた。そしてその努力に見合うような絶対的な自信がある。


だが、今まで以上に安全は保証できなくなっている。Aqours対オハラエンタープライズという構図も崩れ、第三勢力にアーク率いる滅亡迅雷.net。その動向が気になってしまう。アークの時空を超えてライダーシステムなどを持って来られる事を鑑みれば、事態がより《《複雑化》》する可能性だって大いにある。


その不安を含みながらも、大きな期待を持って大舞台に臨む。そんな日まであと3日という日であった。






「俺に何度その言葉を言わせれば気が済むんだ?」
「何度だって言い続けるわ!!この際喋っちゃった方が早いでしょ!?」
「言い分は変わらない!断ると言ったら断るんだ!!」
「オイオイ、落ち着けよ。花火大会まであと3日だぞ?」
「姉さんもクールダウンしてよ。稜にだって話したくないことくらいあるだろ?」


久々のように感じるスクールアイドル部。だが、その中は修羅場と化していた。ちょうど虎太郎と魁が2人の間に入っていると言う状況。

単刀直入に言うと、ひょんなことで稜のこの2年間の動向や過去の話になったことを鞠莉が掘り下げようとしたことで発生している喧嘩だ。これもまた、あの事件の残り種のようなものというわけだ。

正直言うなら、俺は稜の過去については聞いておきたい。そこから新たな事実もわかるかも知れないからだ。俺にとっては1つの情報で値千金の価値があると言っても過言ではない。しかし、いくら俺でも無理に個人的な話は聞くべきではないと思っている。


「ダイヤ、どうしてこんな状況になった。」
「鞠莉さんが稜さんに仮面ライダーになった理由を雑談中に話題になったのですが............嘘がなかなかつけない稜さんの性格上、沈黙に陥ったことに鞠莉さんが疑惑を向けた結果ですわ。」
「なるほどね..............」


しばらくはこの喧嘩を傍観しておこうと、俺は腕を組んでその様子をじっと見ていた。


「言ったじゃない!!あの時!!これからは隠し事もなしだって!!思った事ははっきり言おうって!!」
「それとこれとは話が別だろ!?」
「鞠莉、稜!!そろそろやめなって!!」
「果南やめて。ここで聞かなきゃ稜は——————」
「鞠莉の話もわかるよ!でもここは引いた方がいいよ!」
「稜、お前もどうしてそんな頑なになるんだよ。ちょっとくらい教えてもいいんじゃないか?」
「この話だけは絶対にするべきじゃない。聞いたところでお前らの悲しさとか怖さを煽るだけだ。そんなのお前らにとっても『バチン!!』」


一瞬の出来事であったが、すぐに俺の目は鞠莉の掌に向かった。

そして引き寄せられるように稜の頰へと向かった。ほんのり赤く腫れている。目覚ましビンタを喰らった稜のその面目を首を戻すと同時に鞠莉に晒し出す。


「鞠莉.................!!」
「——————————————」
「あちゃー」


稜は無言のままその無表情を面目を貼り付けたまま、部室の扉を壊れそうな勢いで閉めて行ってしまった。鞠莉のふんという顔に果南は批判を浴びせる。


「鞠莉、今なら稜も無かったことにしてくれるって。そういうことが知りたいのは私も同じだけど、人には聞かれたくないことだってあるんだから。」
「人?私たちは他人って言いたいの?」
「そんなこと言ってないよ!!でも触れられたくない事を無理に暴き出すのも間違ってるよ!!」
「でも隠し事や気持ちが伝えられなかったから、私たちは2年もWASTEしちゃったのよ!?今ここでこんな事は解決しなきゃ———!」
「でも.............!!」


果南から出てくる言葉が止まる。そして俺はその空白の間にポケットに入っていた最近開発した『タバコ』を取り出す。

パシュッ!!

火をつけたマッチで『タバコ』に火をつけ、白い煙の息を吐いてようやく一言から話し始める。


「鞠莉の言うことは大方、的を得ている。少なくとも過去のお前ら3年生に起こったことを考えればな。」
「才...........」
「でもな、急ぎすぎるのは良くないんだよ。こんな問題ってのは今明らかになっていないだけで他にもあるかもしれない。急ぐのはズレている。問題が雪解け水に変わるまで、待ち続けるのさ。」
「才君それはいくらなんでもマズいよ!!」
「え?」
「いや、『え?』じゃないよ!!多分読者の殆どが突然すぎて『は?』ってなってるよ!!ていうか近寄らないで!!」


曜と千歌に2連荘で注意される俺。特に千歌からは『近寄るな』と言われ、座っていた椅子から部室の隅まで逃げられる始末。ちょっとばかり心に傷が入ったのも束の間、黒い影が———————


「まーさーさーんー???」
「うわっ!!だ、ダイヤ?ど、どうした?」
「言われなければ気づかないあなたの肝が素晴らしいですわ(呆れ)」
「それはどうも。」
「この国では未成年者の喫煙は法律で禁止されておりますわ!!!開業医志望のあなたが知らないわけないでしょう!?」
「喫煙か——————匂いを嗅いでみろ。」
「匂い............これは——————抹茶?」
「そ。ライブの演出を考える合間に作ったんだ。青少年が夢見るであろう無害なタバコ。しかも匂いも選べて、リラックス効果もある。これなら吸っても受動喫煙することもないからな。」


有害なことで知られるタバコだが、無害であればどれほどの若者が吸おうと思っていることか。その理想をいち早く解決した俺に拍手を送りたい!!

再度タバコを咥え、煙を吸い込む。そして人差し指中指でタバコをつまんで、抹茶味の煙を正面にいた梨子と善子に向かう。


「よくよく嗅いでみるといい匂いね。」
「俺が作ったんだから当たり前だろ?それ以外にもお前らの好物の匂いが入ってるぞ。」
「じゃあ、チョコレートも?」
「ああ。」
「まさかゆで卵も..........?」
「あるぞ。」
「たばこね..........」


梨子は少しうわの空になったかと思うと、急に赤面する。


「わ、私がそんなもの吸うわけないでしょ!?才君のバカっ!!」
「オイオイ、俺は吸わせるとは一言も言ってないぞ?」
「うっ.............」
「梨子ちゃんがたばこ——————」
「なんかとっても大人っぽいずら。」
「ルビィちゃん!!花丸ちゃん!!」
「そんなことより!!稜くんの事どうするの!?!?」


おっと、いけないいけない。たばこ云々より今はそっちの問題が重要だ。それにしてもタバコを吸う梨子か...........アメリカのスパイ映画に出てそうだ。


「任せろ、千歌。稜の事はこの中では1番俺が知っているつもりだ。」
「才君————————」
「そして鞠莉。今回はお前にも責任がある。お前も昔から稜と友達だったからというのはわかるが、それでも今回のはやりすぎだ。」
「そうね—————少しBURNしすぎたかもね.........」
「そうだ。その調子で稜に謝るんだぞ。」


俺は部室のドアに手をかける。そして持っていたタバコを咥えて、そのドアを勢いよく突破した————————ところで、俺が無害なタバコを吸う理由は時期にわかると思うぜ。






——————————※———————————








「よくここがわかったな。」
「当たり前だ。お前とは何年いると思ってるんだ。」
「それもそうか。なんせここは.............男2人の《《秘密基地》》みたいなところだったもんな。」
「ああ。」


ここは俺の家の裏山。ここからは内浦が一望できる。まさに秘密基地だ。小さい頃はここを拠点にして千歌たちと遊んだものだ。秘密基地といっても、ボロボロ家屋ではなく、プレハブの簡易式事務所。稜曰く、俺の家に来るまではここで夜を明かしていたらしい。

なぜここに住んでいると察知できなかったのか———————そんな自分に少し恥じた。


「ここにいると落ち着くんだ。よく鞠莉や果南とも喧嘩したからな。そんな時はよくお前と話したり、本を読んだりしてクールダウンしてたな。」
「確か、曜と千歌が大喧嘩した時の仲直り作戦もここだったなぁ..............」
「あぁ.........確か千歌の悪ふざけに曜が泣いて走っていった話か。」
「そんなこともあった——————さて、今日はお前の番だ。落ち着いたら話す気にはなったか?」
「—————————本当にいいのか?」
「ああ。俺なら、受け入れられるかもしれない。案外な。」
「そうか................ありがとう。」


稜は安堵の表情を見せてから、すぐに真剣な眼差しに戻る。そしてぽつりと一言から話し始めた。


「なぜ俺が——————仮面ライダーになったのか。というより、ならざるを得ない運命にあった。そういうことだ。」
「——————————?」
「2年前、父の仕事の関係で俺は東京に引っ越したのは知ってるよな?」
「ああ、それはサウザーの陰謀だろ?」
「そうだ。でも本当に俺だけのために転勤させるか?」
「——————いや、最低でも15年以上はいた職場からいきなり転任させるのは少し不自然な話だ。」
「言うのを避けてきたが————————俺の父さんはサウザンドライバーの製作者だ。」
「え?」


サウザンドライバーというのはサウザーの変身ドライバーのことだ。つまりオハラが開発しているライダーシステムの開発者はその稜の父親であることが容易に想像できる———————


「つまり、お前の父親はオハラエンタープライズの技術開発者ということでいいんだな?」
「ああ。今までのオハラの技術は全て彼によるものだ。」
「そうか..............お前はそれをいつ知ったんだ?」
「覗さんに教えてもらったんだ。彼らにとって自然に流れてきた言葉でも、俺にとっては深い意味を持っていた。」
「———————————深い意味?」
「俺が仮面ライダーになった経緯。俺の父親自身に自分の発明品の力を試す《《実験台》》にされたからだ。」
「実験台?」
「父さんは狂気に取り憑かれたんだよ。発明品のモルモットとしてガーディアンのようなロボットだけでは物足りなくなるくらいにな。」
「——————————」
「何の事情も知らない俺は急に自分の目の前に現れた怪人やダークライダーに追われるようになってからは、自分の家を離れて逃げざるを得なかった。何日も、来る日も来る日も逃げて、ある日に手に入れた力こそこの仮面ライダースペクターの力だった———————その知らせっていうのは親が自分を殺そうとしたって言われたのと同じなんだよ。」
「だがお前の父親がお前を追いかけた怪人集団を嗾けたとは断定できないんじゃないか?」
「確かにそうだ。けど、アークが活動を始めたのは今年に入ってから。それ以前にも現れた怪人は全てオハラエンタープライズが生み出したものだ。俺の父親がそういう類いの研究の全権は握っているのだから、もう確定したも同然だ。」


稜に母親はいない。父親だけが、彼の唯一の肉親だったのだ。しかしそれにも裏切られて、命を狙われた気持ちが理解できるか?肉親に裏切られたその悲しみや怒りが行き着く先はいつも《《疑心暗鬼》》だ。今の合理的で勘繰りが深い稜の心理というのは、まさしくこのせいなのだろう。

俺は同情しつつも、俺に散々警告する権利はないのではと思った。自分も抱えているのに、それを蔑ろにして俺に警告するのはズレている。


「稜。」
「?」
「お前は俺に『自分を蔑ろにする奴は他人を蔑ろにしているのと同じ』そう言ったな。その通りだ。だからこそ、お前にはそれを忘れないでいてほしい。」
「才——————」
「覚悟は人をより強くする。それは人が認めてこそ、初めて覚悟と言えるものに成長する。その千切れぬ楔のように誓った覚悟はより高みへの成長の鍵になってくれる。」
「...............覚悟か。どんなにそれを手に入れているつもりでも、他人から見ればそれは張り子の虎だと分かるみたいだな。」
「あぁ............」
「俺は————————!」


刹那。稜の制服のポケットに入っていたスペクターアイコンは急に宙に浮いたかと思うと、稜の体を眼魂の中へと吸い込んでしまった。その役目を果たしたかのように眼魂は俺の足元に落ちる。

俺は稜がいなくなった秘密基地でマッチに火をつけ、一服する。


「稜、俺を恨まないでくれよ。全てはスペクターアイコンの意思であり、お前のそういう類いの欲求の具現化でもあるからな————————ん?」






俺のポケットのバイブレーションが心臓の鼓動のようにトクトクなり始める......................




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





時は遡り、浦の星学院。


ちょうど、才が不在になってすぐの時のこと。当事者である鞠莉を始めとする全員が気持ちを切り替え、体育館から屋上へと練習に向かおうと校舎と体育館の連絡通路を通っていたそんな時に再びこの内浦の高校に狼藉者が入ってきたのである———————躍起になっていた列の先頭の鞠莉が金属縄で瞬時に拘束される。

突然鞠莉がそんな状態になったことに、鞠莉に続いていた弟の魁と果南やダイヤは背筋が緊張する。そしてその目は影へと移っていく。




その影は大きなヘアバンドで巻かれた金髪から顕になっていく。


「鞠莉!!」
「お前.........何者だ。」
「俺の名か——————俺は滅。人工知能搭載ロボットだ。」
「お前——————お前が滅亡迅雷.netってやつか!?」
「いかにも。我々は人工知能アークの代理。不確定で愚かな人間を廃し、清らかな世界の創造を行う。」
「アーク———————!」


実はとてつもなく不利な状況に持ち込まれている。この場で戦えるのは事実上魁だけである。虎太郎は変身することでアークに操られてしまう。特にこのアークの使者と宣っている者には、無論。

果南はAqoursの中では1番腕っ節が強い。この場においても鞠莉を人質のようにしている滅に警戒心を目に移す。それ以外にも曜やダイヤは基本的には度胸があるので、危機管理はできそうではあるが。しかしそれらを考慮しても不利であることに変わりはない。

鞠莉は原因不明であるが気絶してしまっていて、自力での脱出も不可能だ。


「何故鞠莉さんを攫うんですの!?」
「この女は小原家の人間——————理由はそれだけだ。」
「そんな...........」
「理由が薄すぎない?鞠莉を攫って君に何の得があるの?」


果南は嘲笑するような口調で滅に言い寄る。しかし、帰ってきたのは冷たい言葉だった。


「全てはアークの判断だ。俺はそれに従い、常に最適な判断を下している。」
「これが最適な判断なの?私はそうは思わないよ?そもそもこんなことやっても意味がないからね。」
「あはははは.................」
「もっともらしいこと言ってるけど、ちょっとズレてるような——————」


果南の独自理論に首を傾げる梨子と曜。その間に虎太郎はもしもの場合に戦いにAqoursが巻き込まれぬように、後ろへ下がるように黙って誘導する。そして魁との距離を数メートルにまで離れる。

そこに空からキバットII世がバタバタと翼を広げて、魁の左肩に留まる。


『どうやら俺の出番のようだな。』
「ああ、アイツはアークの僕だ。姉さんが狙われるのは何か嫌な予感がする。救出が最優先だ。」
「お前は...........アークの被造物の分際で裏切った蝙蝠——————」


自らを機械だと名乗る者にしては不釣り合いな不愉快そうな表情を見せながら、腰に帯びていた日本刀をキバットII世に向ける。


「ちょうどいい。アークがお前に対してゆゆしさを感じていた。本来はアークに平伏しなければならない身分だ。それにもかかわらず、お前はアークが憎んでいる人間と親しくするとは...............この俺は許さん。」
『元々の問題だ。アークは俺の主人には相応しくなかった。魁にこそ俺の主人としての資格がある。』
「——————そういうことだ。」
「フン。いずれにせよ、被造物であるお前が人間と親しくすること自体が罪だ。」


≪フォースライザー!≫

≪ポイズン!≫


「全てはアークの意思——————滅亡せよ。」
「全てはアークの所為だ..............哀れなモノだな。」
『さぁ、久しぶりの絶滅タイムだ!!』


≪ガブリ!!≫


キバットII世は魁に魔皇力を注入し、自身の鎖の止まり木を腰に展開する。同時にフォースライザーから、等身大以上ありそうな鉄の塊のような蠍がその毒針で威嚇し、その恐怖感を魁の後ろにいる観客に植え付けようとする。


「変身。」
「変身——————!!」


≪フォースライズ! スティングスコーピオン!!≫

≪BREAK DOWN ≫


闇のキバの鎧を纏う魁。闇に潜む蝙蝠の鳴き声を鳴らすと同時に、その緑の複眼が妖しく輝く。ところで巨大な蠍は滅のコアに毒針を刺し、やがてその機械仕掛けの体を仮面ライダーへと変貌させる。


「絶滅せよ—————!」
「滅びるのはお前らだ...........人類。」


少し的外れな気がする。そもそも滅が関わったことのある人間というのは、まともに数えれば才だけなのだ。それ以外といえば、実験での人間怪人化の時ぐらいだろう。つまりはまだ人間に触れてすらいないのだ。

そういう意味での先程の哀れという魁の発言は合点がいく。




正義のために前に立つ者を処刑する王。その前に立つのは新たな世界(ユートピア)を創世のために戦う人ならざる機械。


蠍とはオリオンを神の命で抹殺したいわば処刑人。



2人の処刑人の戦いが、光の見えない闇の中で開幕するのであった——————














 
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