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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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救った代償

俺達は突然現れた謎の男について行く。
裏路地の奥を進んでいくと、別区画の通りに出た。
表通りと違い、人が行き交っていた。
ふと、視線を横に向けると、先程兵士に殴られていた人達が別の人に運ばれていた。
兵士を殴ってから確認すると、姿がなかったので少し気になっていたが、ここに運ばれていたのか。

「こちらです。」

そう言って、男は一つの家に入って行く。
いつでも刀を抜けるように柄に手をかけつつ入る。
中はそれほど広くはなく、男は中央に座る。
俺達もそれに続いて一列に並んで座る。

「さて、何から説明したものか。」

何から話せばいいか迷っているようだ。

「まずは名前を教えてくれないか?」

一刀が男に話しかける。
はっ、とした顔をして苦笑いを浮かべながら男は答える。

「私は鐙黄(とうこう)と申します。」

名前を聞いて今度は自分の名前を言おうとした、一刀だったが。

「名前は聞かなくても分かります。
 北郷一刀様ですね。」

「えっ、俺の事を知っているのか?」

「この国で天の御使いを知らぬ者はいないでしょう。」

爽やかさな笑みを浮かべながら言う。
それを聞いて一刀は少しだけ照れているようで、誤魔化すように頭をかいている。
それを見て、少しだけ俺はため息を吐いて鐙黄に質問する。

「それで、天の御使いである事を知っているお前さんが俺達に何の用だ。」

俺達の事を知っているのなら話は速い。
いきなり核心を突く様な発言を聞いて、鐙黄は何かを決心したような面持ちで口を開いた。

「お願いです。
 この街を救ってはくれないでしょうか?」

「貴方の口ぶりからすると、やはりこの街は悪政によって苦しめられているのですね。」

相手が初対面だというのもあるのか、落ち着いた口調と敬語で月火は言う。
その言った言葉は間違っていないらしく、鐙黄は頷いた。

「この街を治める県令、鴈龍(がんりゅう)の行っている悪政に民は苦しんでいます。」

「詳しく教えてくれませんか?」

星が尋ねると鐙黄は説明を始める。

「元々、この街を治めていたのは鴈龍ではありませんでした。
 前の県令はそれは優しく、人望に溢れておりました。
 政治もしっかりとしていて、私達の街もその県令を信頼していました。
 ある時、一人の男と何百という仲間がこの街にやってきました。」

「それが鴈龍。」

俺の言葉に鐙黄は頷く。

「県令は負傷している鴈龍とその仲間を養う事にしました。
 月日が経ち、完全に治った鴈龍達は恩を返すと言って、この街を兵士として働く事になりました。
 彼らは真面目に働き、県令も彼らを信頼していました。
 もちろん、住民もそうでした。
 しかし、ある事が起こりました。」

「ある事?」

豪鬼は眉をひそめる。

「県令が暗殺されたのです。」

その言葉を聞いて、俺達は眼を見開いた。
話を流れと、この街を治める鴈龍。
おそらく暗殺したのは。

「暗殺したのは鴈龍の部下だな。」

「はい、おっしゃる通りです。
 私も鴈龍とその部下との話を聞くまでは、分かりませんでした。
 当時、暗殺したものは捕まえる事ができませんでした。
 県令が殺されてから、鴈龍がその後を継ぐ事になりました。
 民の信頼を集め、腕も頭も良い鴈龍に任せようという意見もあったからです。
 ですが、県令になった鴈龍は人が変わったかのようでした。
 民から取るだけ物や人を奪いました。」

「この街から出ようとは思わなかったのですか?」

一刀の言葉に悔しそうに顔を歪めて、鐙黄は答える。

「街を出ようとする者は鴈龍の部下に殺されるのです。
 街の出入り口には鴈龍の直属の兵士が待機しています。」

「そこまで徹底してしているという事は、最初からこの街を狙っていたんだろうな。」

「そうでしょうね。」

俺の言葉に依然と悔しそうな顔をしながら肯定する。
よほど悔しいのか拳を強く握り締めているのに気がついた。
そして、土下座するように鐙黄は頭を下げる。

「御使い様、お願いします。
 この街を救ってください!」

「縁・・・・」

「お前の好きにしろ。
 今、お前の思いと俺達の思いは一緒だ。」

それを聞いた一刀は強く頷いて、立ち上がる。

「顔を上げてください。」

それに従い、鐙黄は顔を上げる。
しゃがみ込んで、一刀は鐙黄の両肩に手を乗せる。

「俺達がこの街を救ってみせます。」

それを聞いた鐙黄は一刀の両手を強く握りしめて、何度もありがとうございます、とお礼を言っていた。
少しして落ち着いた鐙黄に俺は聞いていて疑問に思った事を口にする。

「この街には行商人とかは来ないのか?」

街の出入り口は鴈龍の兵士が見張っている。
しかし、俺達がこの街に来た時はそういった介入が一切なかった。

「行商人などはこの街に来ると、兵士達が鴈龍の元に連れて行くのです。
 そうして、行商人との売買を直接行うのです。」

「上手いな。」

「何がです?」

俺の言葉に反応して星が聞いてくる。

「行商人の中にも良い奴もいる。
 この村の現状を理解したら、持っている物を街の人に渡す可能性もある。
 下手をしたら武器とか渡されると反逆のきっかけになる。
 今、この街が反逆が起こっていないのは、恐怖によって抑制しているからだ。
 もし剣とか、明確な武器を手にしたら感覚が麻痺して、反逆が起こるかもしれない。
 そうなると、兵士は再び恐怖よって政治をする為に、見せしめとして民を殺さないといけなくなる。
 すると、街としての機能が低下していく。
 だから、道中は兵士が連れていく事で、街の人との接触を断っているんだ。」

「んじゃあ、俺達みたいな旅をしている人はどうなるんだ?」

「基本的には無視だろ。
 一人二人が来た所で、何の役にも立たない。
 むしろ、旅人の方が協力を断るだろ。
 圧倒的に分が悪い。」

俺の言葉を聞いて鐙黄は俯いた。
あれを見た限り、旅で訪れた人に俺達と同じ様に声をかけたのだろう。
そして、断られてきた。

「あんたは鴈龍のとこで何をしていたんだ?
 これだけの情報を知っているという事は、文官か何かか?」

見た目からして武はそれほどないと思うのが、率直な感想だった。

「その通りです。
 私はこの街の城で文官として働いていました。
 鴈龍が県令になって、悪政に不満を抱き、前県令を殺した事を耳にして、私は城を出ました。
 天の御使い様の噂を聞いたのは、働いていた時に噂を聞いていました。
 貴方達がこの街を訪れたのを見て、もしやと思いましたが・・・・これは天命なのかもしれません。」

城を出たのはかなり前だとすると、まだ天の御使いとしての噂が十分に広まっていない時期だろう。
最初に天の御使いの事を口にした言葉は、お世辞だろう。
城を出て、情報を仕入れる事ができないのだから、本当に天の御使いの噂が国中に広がっている事も知らないかもしれない。

「敵の兵士の数は分かるか?」

「鴈龍の直属の兵士の数はおよそ百五十。」

「さらに元からいる兵士の数も加わると厳しい戦いになりそうだな。」

俺達の戦力は四人。
一刀はまだ木刀なので、戦わせるわけにはいかない。
相手は腐っても傭兵などで腕を鍛えた奴らだ。
武器を持っていない一刀には厳しくなる。

「いえ、その心配はありません。」

俺達がどう戦うかを考えていた時、鐙黄がそう言う。

「鴈龍の悪政に疑問を抱いているのは私だけではありません。
 前の県令に仕えていた兵士や文官は、皆鴈龍の悪政をよく思っていません。
 この街で貴方達が最初に倒したのも、鴈龍の直属の兵士であって、この街の兵士ではありません。」

「つまり、俺達が街の為に戦うと分かったら、手を出してこないのか。」

「おそらくは。
 しかし、彼らは自分可愛さに手伝う事はしないでしょう。」

「だろうな。
 もしそうでなかったら、とっくに反旗を翻している。」

ともかく、俺達の敵は鴈龍とその兵士だけとなった。
約百五十人。
これなら何とかなるかもしれない。

「よし、早速行くか。」

「えっ!?
 作戦とか考えなくていいんですか!?」

俺の決断を聞いた鐙黄は慌てて俺達を引き留める。

「話を聞いた限り、鴈龍は頭が良い。
 あんたが俺達に鴈龍討伐の依頼をする事も、分かっている筈だ。
 倒した兵士も今頃は他の兵士に回収されている筈だ。
 迎撃の準備をされる前に叩いた方が良い。」

話を聞いて納得したのか、俺達を引き留めようとしなかった。

「一刀、お前はここで待機だ。
 美奈をしっかり守れよ。」

「ああ、縁達こそ気をつけてな。」

「鴈龍はおそらく玉座にいる筈です。
 御武運を。」

それぞれの武器を持ち、鴈龍がいるであろう城に俺達は向かう。





縁達が向かうであろう城の中。
玉座の間で一人の男が玉座に座っていた。
名は鴈龍。
黒髪で髪は短く、黒の服をきたこの街を治める州牧だ。
彼が何故、玉座にいるのかというと別に意味はない。
ただ彼は王という肩書きが好きで、その次に玉座が好きなのだ。
なので、彼は自室より玉座にいる時間の方が長いという変わり者だ。
実際には彼は王ではなく県令なのだが、この街を治めている住民からすれば王と言われても不思議ではない。
そんな中、慌てて玉座に兵士が入ってくる。

「が、鴈龍様!」

「狼狽えるな。
 何があった?」

「見回りの兵士が、我らの部隊の瀕死の兵士を、二人連れて戻って参りました!」

「ほう・・・・ようやく動き出したか。」

顎の髭を触りながら、男は嬉しそうに答える。
何故嬉しそうにしているのかは、この兵士は分からなかったがそれでも報告を続ける。

「街に潜入している兵からの情報は?」

「鐙黄が訪れた旅人に鴈龍様の討伐を依頼した模様。
 おそらく、二人の兵士を瀕死に追い込んだのも彼らかと。
 何でも、天の御使いと呼ばれているようです。」

「最近、国中に噂が広がっているあの天の御使いか。」

鴈龍は行商人との売買の時に、天の御使いについての噂を聞いた。
その内容とは、天からの使いの者が従者を従えて、人助けをしているという。
しかも、その従者がかなりの使い手だとか。

「奴らが此処に来るか。
 ・・・・・・・・伝達を頼む。」

少し考えてから鴈龍は言う。

「私の部隊以外の兵士は自室待機するように伝えろ。」

「えっ・・・・それですと城の警備が甘くなりますが。」

「構わん。
 前の県令に仕えていた兵士や文官は私に不満を抱いている。
 今回の騒動をきっかけにして、反旗を翻す可能性もある。
 そうなると非常に厄介だ。
 御使いは私を狙っている。
 なら、玉座前を固めればいい。
 相手は勝手にこちらに向かって来てくれるのだからな。」

「わ、分かりました。
 そのように伝えます。」

兵士は一礼をして、玉座を出て行く。
傍らにある剣を掴んで、鴈龍は思う。

(この騒動を上手く抑えれば、街の住人も私に反旗を翻さない。
 周りの州牧や県令も私の土地を狙って、何かとちょっかいをかけてきたが、これを機に一気にたたみかける。)

剣を軽く振り回し、調子を確かめながら考える。
すると、聞き慣れた足音が玉座前に集まっているのが聞こえた。
手塩をかけて育てた自分の兵士。
これまで他の州牧達からの攻撃を耐えてきたのも、彼らがいてこそだった。
そんな彼らが、たかが御使いのおまけのような奴らに、負ける筈がないと確信していた。





「小細工はなしだ。
 正面から行くぞ。」

俺は氣で両手を強化して、拳を握る。
隣は豪鬼が両手で斧を持ち、さらに俺と同じ様に両手を強化している。
タイミングを合わせて、俺達は同時に前の門に渾身の一撃を与える。
門は吹き飛び、俺達は堂々と正面から侵入する。

「人がいない。」

槍を構えつつ、星は兵士の影が一人もない事に疑問を抱く。

「隠れて待っている可能性もあるわ。
 油断しないで。」

鉄鞭を構えつつ、月火が俺達に言う。
相手は頭が良い事は知っている。
どこに伏兵が居るか分からない。
互いの死角をカバーしつつ、中に入って行く。
しかし、場内に入っても兵士の影が全く見当たらない。
鐙黄の話によれば鴈龍は玉座にいる。
この城の見取り図などは分からないので、とりあえずは適当に場内を歩いていると、一つの部屋の前に武装をした兵士が集まっていた。

「どうやら、相手は自分から仕掛ける気はなかったようですな。」

豪鬼も気がついたらしく、肩に乗せている斧を両手でつかむ。

「ですが、分かりやすくていいでしょう。」

「その言葉に同意するわ。」

続けて、星と月火も構える。
すると、玉座であろう部屋の前にいた兵士は俺達の存在に気がつく。

「あれか、鐙黄が依頼した旅人は。」

「女だからって容赦するな。
 仲間が二人殺られているんだ。
 行くぞッッ!!」

その部隊の将らしき人物がそういうと、剣を持ちこちらに向かってくる。
俺も鞘から刀を抜いて、剣先を向かってくる兵士に向ける。

「さて、派手に暴れるか。」

両足を氣で強化して、地面を蹴る。
一番先頭を走っている兵士の顔面を、蹴り飛ばす。
後ろに跳ばされた兵士はその後ろにいる兵士も巻き込んでいく。
俺が急に速度が上がったので、兵士達は思わず足を止めて俺の方に注意を向ける。

「よそ見をしている余裕などあるのか?」

そこから豪鬼の斧が襲い掛かる。
その威力は凄まじく、四人の兵士が斧に巻き込まれて吹き飛んでいく。

「縁殿だけではないぞ!」

「民を苦しめてきた罪を知りなさい!」

さらに続いて星と月火が兵士を次々と倒していく。
俺も負けじと刀を振るい、兵士を斬っていく。
星の素早い槍が確実に兵士を死に追いやり、月火の鉄鞭が兵士の防御ごと潰しながら倒していく。

「縁殿!
 ここは我らに任せて、鴈龍を!」

「騒ぎを聞いて逃げられて意味がありませんぞ!」

「さぁ、先へ行って!」

皆の言葉を聞いて、俺は頷く。

「させるかよ!!」

話を聞いた兵士が俺を先へは行かせまいと、邪魔をしてくる。
剣を振り下ろしてくるが、それを刀で受け止め、斬り返す。

「があっ!」

全くついて行くことができず、防ぐことなく俺の一撃を受けて絶命する。
だが、兵士達は俺を中心に狙ってくる。
囲まれる前に両足を氣で強化して、高く跳ぶ。
そのまま兵士達を飛び越える。

「くそっ!
 化け物かよ!」

「追え!
 逃がすな!!」

兵士達は慌てて俺を追い駆けようとするが、豪鬼や星や月火がそれを防ぐ。
その場を彼らに任せて、俺は玉座に入る。
扉を開けると、玉座に黒い髪に黒い服を着た男が座っていた。
俺が入ってくるのを見て、男は重い息を吐く。

「まさか、ここまで来るとはな。
 一度、兵を鍛え直さなければな。」

「お前が鴈龍か。」

「その通りだ。
 そういうお前は誰だ?
 その格好を見た限り、天の御使いではあるまい。」

「関忠だ。
 今は天の御使いの従者って所だな。」

「たかが従者如きが私を殺しに来たのか。
 だが、私の玉座に入ってきたのだ、相手をせねばなるまいな。」

玉座に立ててある剣を手に取り、構えをとる。
俺も刀を握り締め、構え直す。
先に仕掛けてきたのは鴈龍だった。
接近して休みなく俺に攻撃してくる。

「そらそら、どうした!
 お前の実力はその程度か!?」

一方的に攻撃して、気分がいいのかそう挑発してくる。
俺は一度も反撃せずに、ただ鴈龍の攻撃を受け続ける。

「確かにお前は強い。」

鍔迫り合いになった所で、俺はそう言った。

「今さら誤った所で許しはしないぞ。
 貴様を殺した後、外の奴らも殺し、反逆の罪で鐙黄も殺す。
 そうすれば、誰も私に刃向う者はおるまい。」

力を込めて、鴈龍は前に押し出す。
前に押し出され、後ろに下がると鴈龍は一気に前に踏み込み、剣を振り下ろしてくる。

「死ねぇぇ!!」

顔面に向かって振り下ろす剣を俺は、刀ではなく白刃取りで防いだ。

「なっ!?」

この一撃で決まると思っていた鴈龍は息を呑む。
剣を手元に戻そうと力を込めるが、全く動かない。
それを見て俺はため息を吐いた。

「確かにお前は強い。
 それくらいあれば賊などには後れを取らないだろう。
 だが、所詮は賊に勝る程度の実力。
 太刀筋も速度も、もう見慣れた。」

その時、後ろの扉が開かれる音が聞こえた。
鴈龍は自分の兵士がやってきたのだと、思って視線を向ける。
しかし、確認した瞬間一気に青ざめた。
俺の位置だと扉は後ろなので、確認する事はできないが鴈龍の顔を見た限り何があったのか分かる。
星達が鴈龍直属の兵士を全部倒したのだろう。

「ば、馬鹿な。
 たかが従者程度の存在が、私の兵士を全滅させれる訳がない!」

「現実を受け止めろ。」

「ありえない・・・ありえないありえないありえない!!!」

駄々をこねる子供のように首を振りながら、必死に剣を引き戻そうとする。
両手を強化しているので生半可な力では、引き戻せない。
だが、俺は敢えて剣から手を離す。
今まで力を込めていたのに、いきなり手を離されてバランスを崩し尻餅をつく。
刀を鞘にしまって、抜刀術を構えをとる。

「来いよ。」

今度は俺が挑発する。

「図に乗るな小僧ぉぉぉ!!!」

顔を真っ赤にして、鴈龍は立ち上がり真っ直ぐに剣を振り下ろしてくる。
それに合わせて鞘から一気に抜刀する。
キィン!、という甲高い音が鳴り響く。
鴈龍の剣が真っ二つに折れた音だ。
信じられないような顔をして、折れた剣を見つめる。
剣から俺に視線を移すと、ゆっくりと後ずさりしていく。

「ま、待て。
 金ならいくらでも払う。
 だから・・・」

その言葉を聞く前に、俺は接近して刀で斬りつけた。
刃ではなく峰で。
骨が折れる手応えを感じて、鴈龍は気絶した。

「お見事でした。」

戦いが終わって星が言う。

「そっちもご苦労だった。」

「あの兵士達は全然訓練してなかったみたいよ。
 私達に倒される時に、それを言い訳にしてたわ。」

「もう少し苦戦するかと思いましたが、全員怪我がなくてよかったです。」

「その通りだ。
 それじゃあ、戻って鐙黄に報告するか。」

気絶している鴈龍を背負って、俺達は街に戻った。





「本当にお世話になりました。」

街の出入り口で鐙黄は深く頭を下げる。

「今回、俺は何もしてないけど。」

「それでも、御使い様がきっかけで私達は救われました。」

鴈龍を倒したと報告しに行くと、街の人は大いに喜んだ。
鐙黄に関しては耳にタコができるくらい、お礼を言われた。
鐙黄は早速、街の人に指示して街の復興する為の指示を出した。
この街を前の街のように戻すつもりらしい。
俺達も手伝おうとしたが、街の復興させるのは自分達の役目だ、と言い張った。
そこまで言うのだから、俺達は彼らに任せようという事になった。

「これは少ないですが。」

そう言って袋を渡される。
中を確認するとお金が入っている。

「こんなの受け取れませんよ。
 街を復興するのに必要になる筈です。」

中にお金が入っていると分かると、一刀は袋を鐙黄に返す。
袋を渡されても、鐙黄は受け取らない。

「それくらいの資金でしたら、復興資金に影響はありません。
 これは街の皆の感謝の思いです。
 ですから受け取ってください。」

返答に困った一刀は俺に視線を向ける。
どうすればいい?、と言った感じで目で聞いてきた。

「お前が決めろ。」

「うっ・・・・・わ、分かりました。」

そう言って、一刀は袋を鞄に入れる。

「鴈龍はどうするつもりですか?」

その後が気になった月火は質問する。

「然るべき罰を与えるつもりです。
 彼が県令を暗殺を企て、悪政をしていたのは事実なのです。」

「この街の県令は誰が着任するのですか?」

今度は豪鬼が質問を投げかける。
それを聞いて少し照れながら、鐙黄は答えた。

「えっと、皆の推薦で私が県令を務める事になりそうです。
 朝廷には既に話をしに行ったと。
 全く気の早い事です。」

「でも、俺は適任だと思うぞ。」

俺の言葉に皆は賛成してくれる。
それを見てさらに照れたのか、顔を赤くする。
街から鐙黄を呼ぶ声が聞こえた。

「それでは皆さん、本当にお世話になりました。
 旅の御武運を祈っています。
 では、失礼します。」

深々と頭を下げて、街の中に戻っていった。
彼が州牧になったのなら、この街はきっと前以上の街になる筈だ。
俺達も旅を再開した。
あの街から、二日かけて次の街に辿り着いた。
思わぬ収入を手に入れたが、俺達はあの街に食料の補充をしに来たのに、結局できなかった。
なので、道中はかなり節約しないといけなくなった。
厳しい食生活だったが、何とか食料が尽きる前に街に着く事ができた。
そのまま今日は一泊して、明日出発する事になった。

「腹も減ったし、何か食べに行くか。」

「なら、私はメンマを所望します。
 旅の最中にメンマが無くなった時は、地獄をみましたぞ。」

「私はがっつりと肉が食いたいわ。
 こう、かぶりつきたくなるような、そんな肉をね。」

「美奈は何を食べたい?」

「う~んと、ラーメン!!」

「よし、今日の食事はラーメンに決定だ。
 異論は認めない。」

「メンマ!!」

「肉!!」

「ラーメン!!」

よほど腹が減っているのだろうか、それぞれ食べたい物を妥協しない。
若干一名は腹とは別事情だが。
俺と一刀は苦笑いを浮かべる。

「どうする?」

「まぁ、街を歩きながら考えれば良いだろ。」

てか、子供かあいつらは。
少し呆れながら、街を歩いて飲食店を探す。
と、その時だった。

「聞いたか?
 隣街が戦で壊滅したって話。」

「ああ、聞いた聞いた。
 何でも住民達が悪政をしていた県令を倒して、復興している最中を狙ったらしいって話だろ。」

その言葉を俺は聞き逃す事ができなかった。
俺は二人の行商人の所に詰め寄った。」

「その話、詳しく聞かせてくれないか。」

「お、おう。
 といっても、詳しい事はあまり知らない。
 前々から他の州牧やらが、街を狙っていた事くらいだ。
 何度か規模は小さいが、戦もあったらしい。
 俺達が知っている事と言えばそれくらいだ。」

「そうか。
 ありがとう。」

話を終えた行商人達はどこかへ行ってしまう。
さっきまでは何を食べに行くか、などで盛り上がっていたが、今はそんな雰囲気ではない。

「せっかく救ったのに、そんなのってありかよ。」

一刀は悔しそうな表情でそういった。
手を強く握っているのが見える。

「きっかけはおそらく、鴈龍とその兵士団体の壊滅だろうな。」

「それじゃあ、俺達がやった事って・・・・」

自分達のした事が結果的に街を壊滅させてしまった事に、一刀は唇を強く噛み締めた。
鴈龍とその兵士団体があったおかげで、あの街は皮肉にも鴈龍たちに守られていた。

「なぁ、縁。
 俺達がした事って間違っていたのか?
 あのまま苦しむ人達を、黙って見過ごせばよかったのか?」

「確かにあのまま見過ごせば、あの街は壊滅する事はなかった。
 でも、鴈龍からの悪政から彼らを救った時、彼らは喜んでいた。
 それはお前が一番分かっている筈だ。
 彼らを悪政から救った事は間違っていないと思う。」

「・・・・・・・」

まだ何か思う事があるのか、一刀は俺達から離れていく。
確かにあんな話を聞いて、飯を食いに行く気分ではない。

「縁殿、一刀殿の前ではああは言いましたが、貴方も悔やんでいるのでしょう。」

見透かしたように豪鬼は言う。
気がつけば、俺は掌から血が出るほど、手を握り締めていた。

「調子に乗っていたんだ。
 とんとん拍子に人を救う事ができたから。
 あの時ももっと広く見ておくべきだったんだ。
 州牧が失脚したんだから、その後の事などもっと考えるべきだったんだ。
 それなのに俺は・・・・・」

やり場のない憤りを感じながら、歯を強く噛み締める。

「縁殿、一人で背負わないでください。」

「星の言うとおり。
 それに縁が一刀に言ったじゃない。
 あの時、救ったのは間違っていないって。」

「儂らは仲間です。
 こういう事は一人で背負っていてはいけません。」

「・・・・・済まない。
 一刀を捜そう。
 あいつも一人で背負っている筈だ。」

俺の言葉に皆は頷き、俺達は一刀を探しに行くのだった。
手分けして、探す事になり、俺は聞き込みをしながら捜すと広場で一刀を見つける事ができた。
あれだけ目立つ格好をしているのだから、見つけるのは容易だった。
一刀は広場で遊んでいる子供達をじっ、と見つめていた。

「・・・・・・縁、もっと強くなりたい。」

突然、一刀がそう言った。
まだ声をかけていないのに、後ろから近づいてくるのを俺だと判断したのだ。

「力だけじゃない。
 心も知力でも、とにかく強くなりたい。
 あんな事を繰り返さない為にも、俺は・・・・」

「そうか。
 明日からの修行はきつくなる。
 覚悟しておけよ。」

どうやら、一刀は一刀なりにけじめをつけたようだ。
こいつはこいつなりに成長している。
それをはっきりと目の前で感じた。 
 

 
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