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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第6章 英雄感謝祭編
  第23話 竜種vs魔導士1

 
前書き
祝!UA10,000人達成!
ユニークユーザー10,000人達成記念として、臨時で上げさせて頂きます。
応援ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。 

 
エルザは、ミリアーナを連れ、人込みの中、必死にフェアリーテイルのメンバーを探した。そうして探しているうちに、ジェラールを見つける。大声でジェラールの名前を叫んだ。
「ん?エルザか。どうした、慌てて…それに後ろの君は…」
「久しぶりだけど、今は再会を喜んでる場合じゃないニャ!」
必死にこっちに向かって走ってきているエルザとミリアーナに、ジェラールは疑問の声をぶつける。
「ア…アレンが…」
ジェラールはアレンという言葉を聞き、一瞬目を見開くと、冷静にエルザに問うた。
「アレンがどうかしたのか?」
「アレンがこの街に、1万の…ッ!」
エルザがアレンの言葉を伝えようと、したが、それは頭上に浮かんだ奇妙で大きな魔方陣に遮られる。皆が魔方陣を見上げ、怪訝な声を漏らす。
「なんだ、これは一体…っ!」
ジェラールがそう言いかけたとき、魔方陣から巨大な何かが降ってきた。
巨大な何かが地面へと降り立ち、ドガアアアアアアアアアアンンンという轟音と共に、暴風が巻き起こる。
「くっ!!」
「ま、まさかっ!」
その轟音と暴風に、ジェラールとミリアーナが悲鳴に近い声を上げる。砂ぼこりが晴れ、視界が開く。そして、強大な影がその姿を現し、驚愕する。周りの人々も、怯えるようにそれを見つめる。
軽く20m以上はある全身を、茶色い鱗が覆い、巨大な角が2本生えた、竜のような化け物が姿を現す。
「な、なんだ、こいつは!!」
ジェラールが驚いた様子で見つめ、警戒をした途端。
「ガアアアアアアアアッッ!!!!」
その強大な化け物が発したと思われる咆哮がその場にいた者全員の耳を大きく揺さぶる。
「ぐっ!!」
「がっ!!!」
「ああっ!!」
ジェラール、エルザ、ミリアーナも例にもれず、その咆哮に苦痛の表情を浮かべる。
その咆哮をきき、人々が波のように走り、逃げていく。咆哮が鳴りやんだとたん、頭にピンッと何かが接触したような感覚を覚える。
『首都クロッカスにいる全て方々。私はフェアリーテイル魔導士アレン・イーグルです』
「こ、この声は…アレンか!」
「頭の中に直接…」
「魔法かニャ!」
どうやら、他の人たちにも聞こえているらしく、先に現れた怪物から逃げながら、「この声は!どこから!」といったように驚いていた。
『現在、私の魔法で皆さんの頭の中に直接語り掛けています。もうお気づきの方もいると思いますが、現在、首都クロッカスにおいて、合計11体の竜が召喚されました』
「なっ!ドラゴンだと!!」
「こんな奴が…11体も…」
「そんな、まさか本当に…ニャ」
ジェラール、エルザ、ミリアーナが驚愕の表情を浮かべる。元々は1万体と聞いていたエルザは、きっとアレンが必死に止めたものの、11体の召喚を許したのだと予測した。
そうして考えているうちに、先の竜がこちらに向かって突進をしてくる。
「エルザ!ミリアーナ!避けろ!!」
「「っ!」」
ジェラールの声と共に、2人はすんでのところで竜の攻撃を躱す。竜は民家や建物を突き破り、破壊していく。
『首謀者は、天彗龍バルファルク…非常に凶暴かつ凶悪な竜です。魔導士以外の方は、できるだけ早く、クロッカスから避難してください。そして、11体もの竜の討伐は、お恥ずかしいですが、私一人では不可能です。そのため、腕に自信のある魔導士の方々には、竜の討伐にご協力頂きたい。また、皆さまにご協力いただくうえで、戦いを避けていただきたい竜がいます。先ほど申し上げた天彗龍バルファルク、全身黒色で赤いオーラを胸や翼にまとっている龍です。この龍は私が仕留めます。天彗龍は他の竜と比べ、戦闘能力が高い。皆さまには、手分けして、他の10体の竜の討伐に当たっていただきたい。また、この度召喚された竜に対しては、アクノロギアと違い、魔法が有効となります。ですが、それでも竜は竜、1人で戦おうとせず、くれぐれも複数での戦闘をお願い致します。この通信が切れると同時に、各竜の名称と特徴、位置をお送りいたします。どうか、首都クロッカスを…お力添えをお願いいたします!』
そこで、頭に流れ込んできていたアレンの言葉が途切れる。街中には、絶望に染まった悲鳴が至る所で起き、人々が必死に竜から離れ、逃げまどっている。
「…角竜…ディアブロス…」
アレンから流れてきた情報をもとに、この竜の名前を呼称する。
「くそっ!こんな街中で、しかも首都で…」
「竜が11体…ニャ」
エルザとミリアーナは悪態をつきながら、魔力を込め、戦う準備を始める。
「私も、一緒に、戦う。私は、人魚の踵の、フレア」
「フレア!来てくれたニャ!」
逃げ惑う人々の中、赤い髪を下げたフレアという女が、エルザ達の元へとやってきた。
「私は妖精の尻尾のエルザだ。助かる!」「同じくジェラールだ」
エルザは天輪の鎧を換装して、ディアブロスを迎え撃つ準備を始めた。ジェラール、ミリアーナ、フレアもそれぞれいつでも魔法を放てるように構えている。
そうしていると、王城の方で崩壊音が聞こえる。王城の一角に、赤いオーラを纏った黒い竜を見つける。
「っ!!あれは!」
「まさか…あいつが…」
「天彗龍バルファルク…なのか…」
「なんて、凶悪な、見た目…」
ミリアーナ、エルザ、ジェラール、フレアが目を見開いて呟く。そんな風に気を取られていると、先ほど民家に突進していたディアブロスがこちらに近づいているのが見えた。角を突き上げるような攻撃を繰り出し、民家の残骸などを天高く吹き飛ばしていた。
「っ!バルファルクはアレンに任せて、俺たちはこいつを仕留めるぞっ!」
「あいつの攻撃、一撃でも喰らったまずい…」
「無理せず、回避しつつ、少しずつ責め立てようるニャ」
「そう、する!」
ジェラール、エルザ、ミリアーナ、フレアはディアブロスの攻撃を最大限警戒しつつ、戦闘を開始した。

エルザは、アレンからの流れてきた情報から、目の前にいる角竜ディアブロスの攻撃を避けつつ観察する。砂漠の暴君と言われている竜らしく、この攻撃力と凶暴性から、その異名に納得する。翼を携えているが、空は飛ぶことは殆どないらしい。だが、その代わりに地中を掘り進んで移動したり、攻撃を繰り出してくるらしく、警戒しながら攻撃を躱しつつ、天輪の鎧を囲むようにして舞う剣を、ディアブロスの頭や胴体に向けて射出する。だが、剣はディアブロスを身体に刺さることなく、軽い切り傷を与えるに留まり、弾かれてしまう。
「くっ、想像以上に硬い…」
エルザは、悪態を付きながら、ティアブロスが角を用いて吹き飛ばしてきた岩や民家の残骸を避ける。
「天体魔法!六連星(プレアデス)
ジェラールがそう言い放ち、黄色に輝く6つの魔法砲をディアブロスに浴びせる。
「ガァっ…」
ディアブロスが一瞬怯む。
「よしっ!!効いている!」
だが、すぐさまジェラールへと突進をかましてくる。
「ジェラール!」
「ッ!流星(ミーティア)!」
ジェラールはミリアーナの叫びともに、魔法を発動させて回避する。
「さすがジェラールだニャ!私も…キトゥンブラスト!」
ミリアーナがチューブを用いて、ディアブロスの後方から尻尾を狙って攻撃する。バチンッという音をたて、直撃する。
「やったニャ!当たった…がっ!」
攻撃が当たったのも束の間、ディアブロスの振り回した尻尾がミリアーナに直撃し、血吹雪を上げながら建物を突き破り、吹き飛んでいく。
「っ!ミリアーナ!!」
エルザは引き飛ばされたミリアーナの元へと駆け寄る。
ディアブロスはそんなミリアーナを追撃しようと、突進のモーションを見せる。
「っ!させ…ない…!」
フレアは自身の髪を操り、ディアブロスを拘束しようとする。髪を巻き付かれたディアブロスは一瞬身を固めるが、すぐさまそれを振りほどく。
「そん…な…あっ!」
フレアは振りほどかれた衝撃で、地面へ何度も衝撃しながら転がっていく。
「おい、ミリアーナ!大丈夫か!!」
エルザはミリアーナの傍により、ケガの状況を伺う。目を見開いた。尻尾の直撃を受けた左側の腕があらぬ方向に曲がり、あまつさえ衝撃が全身に及んでいるのが分かった。ミリアーナの口から血の塊が吐き出される。死んではいないが、呼吸は荒く、苦しそうにしている。
「い、痛いニャ…」
そんな風にミリアーナの様子を見ていたエルザだが、何かを察したように振り返る。ディアブロスがこちらに向かって突進してくる。
「くっ!!」
ミリアーナをかばいながら回避しようとするが、間に合いそうにない。そう考えていると、急に身体に浮遊感が生まれ、空中へとその身を預ける。
「ジェラール!」
ミリアーナを抱えるエルザ、そのエルザを抱えるようにして、ジェラールがミーティアでディアブロスの攻撃から回避を図り、守ってくれたのだ。ジェラールはフレアが転がっていった場所まで移動し、地面へと着地する。
「フレア!無事か!!」
「やら…れた…」
フレアの傷は、ミリアーナよりは浅いが、それでも振り払われた衝撃と地面を転がったことによる傷が、全身に痛々しく浮かんでいた。その状況のなかで、エルザは一つの決断をする。
「フレア、ミリアーナを連れて、少し下がってくれ。こいつは、私とジェラールでやる」
「っ!こんな…竜…2人…じゃ…」
フレアはエルザの言葉に戸惑いながら答える。
「いや、そうしてくれ。ミリアーナも君も軽くない怪我を負っている。ここは、俺たちに任せてくれ」
フレアは、エルザとジェラールの言葉を受け、「わかっ…た…」と言って、ミリアーナを抱えて後方に下がる。
ディアブロスは、4人を視界に納めると、咆哮し威嚇する。
「エルザ、俺は天体魔法で頭部を狙う。君は奴の動きに注意しながら足元を狙ってくれ」
「わかった。奴の攻撃力は桁外れだ。注意しろ!」
ジェラールとエルザは、それぞれディアブロスへと向かっていった。

ディアブロスとの戦闘を継続しているエルザとジェラールは、全力で魔法を繰り出していた。ディアブロスの攻撃力は非常に高いが、回避を繰り返し、何とか直撃を免れている。2人とも疲弊とダメージを隠せない。加えて、ディアブロスの甲殻は硬く、生半可な攻撃では傷を負わせられない。2人は連続で、且つ全力で攻撃を繰り出すことで、少しずつディアブロスにダメージを与えていた。
「天輪・五芒星の剣(ペンタグラム・ソード)!」
エルザの攻撃がディアブロスの足に直撃し、ディアブロスは悲鳴と共に転倒する。転倒したディアブロスを確認したジェラールは、上空へ跳躍し、魔法を発動する。
「七つの星に裁かれよ!七星剣(グランシャリオ)!!」
発動した七つの魔法砲が、すべてディアブロスの頭に直撃する。
「ガアアアアアアアアッ!」と今までよりも大きな悲鳴が、ディアブロスから生まれる。
「やったかっ!」
ジェラールは地面に着地しながら言葉を発する。砂煙で状況が判断できない2人は、それぞれ距離を取りつつ、動向を見守った。
「終わったのか…っ!ジェラール!!」
「ッ!」
エルザは、砂ぼこりが舞うなか、強大な影が動きを見せたことを察知する。
ディアブロスは、ジェラールに向け、地面を抉りながら角を振り上げる。一瞬反応が遅れたジェラールは、もろに攻撃を喰らってしまう。
「がっ!はっ!!」
ジェラールの身体は、まるで石ころのように後方上空へ吹き飛ばされる。
「ジェラーールッ!!」
エルザは、すぐさまジェラールへと駆け寄る。ジェラールの身体は、何度か地面をバウンドし、フレアとミリアーナの傍で動きを止めた。
「ジェラール!おい、ジェラール!!」
エルザは手にもつ剣を投げ捨てる。ジェラールの身体には、打撃痕に加えて、腹から右肩にかけて、大きな裂傷が見られた。恐らく、角の先端で裂かれた傷であることが伺える。
「くっ、エルザ…ッ!まずい、奴が…」
ジェラールは痛みに耐えながら、ディアブロスの状況を見る。目を見開く、すでに突進のモーションを繰り出し、こちらに迫らんとしていた。
エルザも、それを見て、ジェラールを地面に寝かせると、覚悟したように立ち上がる。そして、金剛の鎧を換装し、迎え撃とうとした。
「ッ!無茶だ!!よせ!やつの巨体とスピードで繰り出される攻撃だ!いくら金剛の鎧でも無理だ!!」
ジェラールの叫びにエルザは反応することなく、迎え撃つ覚悟を決める。ディアブロスが角を前方に添え、突進を始める。エルザも金剛の鎧の盾を前方に添え、迎え撃とうと歩き出す。
衝撃。両者、数秒間の衝突の後、ディアブロスは一歩後退。エルザは数メートル吹き飛ばされる。そして、ディアブロスの角が一本折れ、エルザの金剛の鎧は完全に砕け散ってしまう結果となった。
ディアブロスは怒りのままに、咆哮を発する。
「ぐっ…くそ!」
「エルザッ!ぐはっ!」
「っ!二人…とも…ひどい…けが…」
エルザもジェラールも、もう限界を迎え、立ち上がることができずにいた。2人の傷を見て、フレアが悲痛の声を上げる。
だが、こともあろうにディアブロスは体勢を整え、再度突進をしようと準備を整える。
「はぁ、はぁ…これが…竜の力…これほどとは…」
ジェラールは悪態を付くように、消え入りそうな声で呟く。
ディアブロスがこちらに向かってくる。エルザは悔しそうにディアブロスを睨む。アレンとの修行を得ても、2人掛かりでも倒せないのか…。アレンは、私たちにお願いしてくれた。力を貸してほしいと…。なのに、私は…。エルザの心に負の感情が生まれる。だが、それをすぐに打ち消す。
…いや、まだだ…。まだ私の身体は動く。まだ、戦える!
もう、ディアブロスが目の前に接近している。エルザはふと、ある言葉を思い出した。
『俺は信じている』
それは、2か月ほど前、修行をつけてくれたアレンの言葉であった。エルザは唇をかみしめる。そうだ、アレンは私を信じてくれている。だから、私は…っ!
「こんなところで、死ねるかーっ!!」
エルザが、魂から叫んだような怒号を上げた途端、ディアブロスの突進がエルザ達の目で急に動きを止める。それは、ディアブロスの意思ではない。ゴンッという音共に、動きを止めたのだ。何か、ディアブロスの動きを止めるような、壁のようなものに当たった音であった。エルザ含め、4人が驚いたように目を見開く。
エルザ達を包むように、緋色の巨大な肋骨が出現していた。これが、ディアブロスの突進を防いだことは明らかであった。
「こ、これ…は…」
フレアがその肋骨をみて、驚愕の表情を見せる。
「まさか…アレンと同じ…魔法の覚醒…」
ジェラールが狼狽するように声を上げる。そう、見たことがあったのだ。ハデスとの戦いのとき、アレンが自分たちを守ってくれた、あの骸骨の化身であった。
「これが…須佐能乎…」
自分自身のこととはいえ、エルザも驚いていた。だが、すぐに冷静さを取り戻す。感覚を確かめる。そしてわかる。この須佐能乎の力が。その使い方が…。
エルザはキッとディアブロスを睨みつける。そして、残りの魔力の全てを、須佐能乎に込める。すると、須佐能乎がパキパキッと音を鳴らし、次々と骨が出現して形作られ、巨大な上半身の骸骨が浮かび上がる。
ディアブロスが「ゴアアアア」と雄たけびを上げて、突進してくる。それを見たエルザは、須佐能乎の腕でディアブロスを振り払う。ディアブロスが、須佐能乎の腕の攻撃を受け、転倒する。
「す、すごい…これが…須佐能乎の力…魔法の覚醒か…」
「なん…て…力…」
ジェラールと、フレアがその力に驚きの声を上げる。
「ま、まだだ!…うおおおお!!」
エルザが更に力を籠めるように雄たけびを発する。すると、またもや須佐能乎に変化が訪れる。骸骨の上に、まるで肉体が覆うような変化は、女性を形どった人型の様相を作り上げる。須佐能乎が雄たけびを上げると同時に、須佐能乎の手に一本の、十メートルほどの強大な剣が形成される。
「これで…終わりだっ!!」
エルザがそう叫ぶと同時に、その剣が転倒しているディアブロスへと降りかかる。
「グゴオオオオオオオオッッ」
という叫び声と共に、ディアブロスの動きがとまる。それを見届けたエルザは、足の力が抜け、体勢が崩れる。
「ッ!エルザ!」
ジェラールは、自身の痛みに耐えながら、倒れこみそうなエルザの身体を支える。
「は、はぁ…はぁ…ジェラール、私は…やったぞ…アレンと…同じ…」
エルザは息絶え絶えと言った様子で、ジェラールに言葉を投げる。
「ああ、わかっている!さすがだ、エルザ!」
ジェラールの言葉に、エルザはふっと笑い、目を閉じた。

カグラとシモンは、クロッカスを縦横無人に駆け巡ったが、フェアリーテイルのメンバーを見つける前に、とある竜と遭遇してしまった。
全身真っ黒な毛並みを基調とし、目や耳の一部が赤黒い色を持つ竜。その竜の出現に伴い、周りの人々は悲鳴をあげながら逃げ惑う。
竜がカグラとシモンの方へ向き、動向を探るように首を動かしている。2人も竜の動きに注意を払っていると、青い天馬の一夜とトライメンズ、そしてジェニーが駆けつけてきた。
それぞれ竜の動向に警戒しつつ、軽い挨拶を躱し終えると、今度は頭の中に直接アレンの声が流れはじめ、経緯等が語られる。
「とすると…こいつは…」
「迅竜…ナルガクルガ」
「なんて、ことだ…」
シモン、カグラ、一夜が低く、驚いた様子で呟く。すると、ナルガクルガは、刃翼を広げ、咆哮を上げた。
「クギャアアアアアアアア!!!!」
7人はナルガクルガの咆哮に驚き、身を固める。それも束の間、ナルガクルガは7人から距離を取るように跳躍して後退する。
「なんだ?逃げるのか!」
「見た目の割に…」
ヒビキとイヴが少し安堵したような表情を見せたが、何か構えるような態勢をとるナルガクルガに、カグラが声を張り上げる。
「違う!これは攻撃だ!!」
カグラの声と共に、ナルガクルガが目にも止まらぬスピードで7人に向かって飛んでくる。
「ッ!!」
ナルガクルガの速度に驚いているのも束の間、シモン、カグラ、一夜の頭上を通り越し、少し後ろに控えていたトレイメンズとジェニーに襲い掛かる。
シュッ!という空気を切りつける音と、ガンッ!という圧倒的な力の衝撃がカグラ達の耳を襲った。
「「「「がああっ!!」」」」
ナルガクルガの攻撃を喰らった4人は、石や砂煙とともに吹き飛ばされる。
「お、お前たち!!」
「っく!」
同じギルドの仲間がやられた事で、一夜は激しく動揺する。カグラは刀を抜き、ナルガクルガを斬らんと迫る。だが、ナルガクルガの俊足に、刃が届くことはなかった。
「ッ!速い!」
「迅竜とはよく言ったものだ…」
カグラとシモンが、驚愕の表情を浮かべる。
「おい!お前たち、無事か!!」
一夜は吹き飛ばされた4人に声を掛ける。
「な、なんとか…」
「でも、一撃で殆どの体力、持っていかれましたわ…」
レンとジェニーが何とか身体を起こそうとする。ヒビキとイヴも怪我を負ってはいたが、動けるようであった。
カグラは、4人の無事を横目で確認し、ナルガクルガに視線を戻す。
「早いのなら、遅くすればいい…」
「何か手があるのか!」
カグラの言葉に、シモンが希望を見出したように声を上げる。カグラはそう言うと、重力魔法をナルガクルガに向けて放った。自身の体重が重くなったような感覚を覚えたナルガクルガは、驚いたように軽く咆哮をあげる。
「重力魔法か!」
「これなら…」
カグラは、刀を持ち直し、ナルガクルガに迫る。
ナルガクルガは、重力魔法を振りほどくように身体を小刻みに動かしている。ここで、シモンはあることに気付く。
「待て!カグラ!」
カグラの剣が、ナルガクルを捉え、黒い毛に覆われた身体に一太刀浴びせた瞬間、ナルガクルガは自身の身体を大きく、素早く回転させる。長く鞭のような尻尾がカグラを襲った。
「ぐはっ!」
カグラは一瞬刀で防ごうとするも、力に押し負ける。尻尾の一撃を喰らい、吹き飛ぶが、地面に衝撃する前にシモンがキャッチし、事なきを得る。
「大丈夫か!カグラ!」
「お兄ちゃん…助かった」
シモンは、カグラを支えながら地面へと降ろす。ダメージはあるようだが、戦闘継続は可能なようであった。
「むぅ…あのスピードを何とかしないことには…」
「あの4人は大丈夫なのか?」
「ああ、なんとか戦えそうだ。後方支援に回るように伝えた」
カグラとシモンの元へと戻ってきた一夜が、急かされたように言葉を発した。
「やれることをやるしかない…奴の視界を奪う…闇刹那!」
シモンが魔法を発動すると、ナルガクルガが一瞬警戒したように身を震わせ、何かを探すように上下左右を見回す。
「効いているようだ…いける!」
「力のパルファム!」
カグヤがそれを見て、今度はナルガクルガの動きに細心の注意を払いながら近づく。
一夜も魔法を発動し、ナルガクルガに攻撃を仕掛ける。
だが2人は、攻撃を仕掛けようと動いた矢先に、あることに気付く。ナルガクルガが、こっちに顔を向けたのだ。
「まさか、気付いたのか!」
「っ!?お兄ちゃんの魔法が効いてない!?」
一夜とカグラは攻撃を中断するため、体勢を整えようとする。と同時に、シモンが気付いたように声を張り上げる。
「違う!こいつ、音で反応してやがる!聴覚が異常に発達している!!」
シモンの言葉に、2人は目を見開く。そして、ナルガクルガが身構え、尻尾を何度か振り回したかと思うと、一瞬で姿を消す。
「っ!消えた!」
「なっ!どこに!!」
カグラと一夜は驚きの表情を浮かべる。2人はナルガクルガに近づきすぎていた。故に、ナルガクルガが空高く跳躍をしたことに気付かなかったのだ。
「上だーー!!!避けろーーーー!!!!」
距離を取っていたシモンが、2人に声を張り上げる。2人はバッと上を見上げる。するとそこには、黒く、長く、太い尻尾が眼前に迫っていた。
「「ッ!!」」
2人は驚愕しながらも、何とかその身を横へとずらし、回避行動をとる。
『ドゴオオオオオオンン』という凄まじい音と共に、ナルガクルガの尻尾が地面へ衝突する。地面はパカッと真っ二つに割れ、様々な残骸が空中へ飛び散る。
「じょ…冗談だろ…」
「地面が…割れた…」
「強すぎる…」
「ひっ…」
ヒビキ、イヴ、レン、ジェニーは、戦闘の様子を眺め、絶望に似た声を漏らす。
「カグラ!一夜!!」
シモンはカグラと一夜がいたであろう場所へ駆ける。だが、その瞬間、赤い光がシモンの横へと現れる。一瞬で理解した。それは、ナルガクルガの目であることを。
「くっ…」
シモンは防御するように、両手を胸の前で交差させる。だが、その行動は、ナルガクルガの刃翼に吹き飛ばされるという結果を覆すに至らなかった。
「がっ!」
シモンは建物の壁と衝突する。
「お兄ちゃん!」
「なんて、力なんだ…」
どうやら2人は無事であった。ナルガクルガの尻尾の攻撃を、ギリギリで回避し、直撃は免れた。だが、直撃でなくともその力は絶大で、余波を受けただけであったが、あまりの衝撃とダメージにうまく身体を動かせない。
「俺も無事だ!…ぐ、くそっ!」
シモンはカグラの声に答えながら、めり込んだ壁の中から脱出しようともがく。だが、深々とめり込んでいることに加え、全身の痛みもあり、うまく抜け出せない。
「クギャアアアアアアッ」
ナルガクルガは再び咆哮放ち、身構える。その行為に、皆が目を見開く。先ほどと同じ構え、同じ尻尾の動きであった。
「まずい…さっきのがもう一発…」
「くっ…まだ身体が…」
一夜とカグラはすぐにその場を退避しようとするが、身体が重く、思うように動かせない。この距離からして、2人だけでなく、シモンにもその攻撃が届くことは予想できた。シモンは苦悶の表情を浮かべる。
「早く逃げろ!!」
「いやー-っ!!」
ヒビキとシェリーが悲鳴のような声を上げる。ナルガクルガが尻尾を叩きつけるため、跳躍をしようといたその瞬間、巨大な拳がナルガクルガを襲う。「グギャ!!」と呻き声を上げ、ナルガクルガが吹き飛ばされる。
「無事か!カグラ!」
その巨大な手は、マカロフであった。巨人の魔法を用いて、ナルガクルガに攻撃を仕掛けたのだ。
「っ!マスター!助かりました!」
「礼はよい!…一夜に、他の者も無事か!」
「マカロフ殿…無事ではありますが、負傷しています」
カグラと一夜は、マカロフの問いかけに答えながら、その身を起こした。トライメンズとシェリーの顔に、希望の表情が浮かぶ。
ナルガクルガは、警戒するように威嚇している様子であった。
「やつが…迅竜か…」
「はい、スピードと機動力が桁違いです…攻撃をあてること自体難しい…」
「加えて攻撃力も高い…さっきのをもう一発喰らったら…」
カグラと一夜の言葉に、マカロフは目を尖らせながら一呼吸おいて答えた。
「わしの巨人の魔法で、奴の動きを封じる。それを狙って、皆で総攻撃しかあるまい…」
「マ、マスター…ですが、それでは…」
「奴の目を見ろ、カグラ…」
カグラは言われた通りにナルガクルガの目を見る。そして、驚く。
「急に眼が赤く光りだしたわい…恐らく、先ほどのわしの攻撃に怒っておるのじゃろう…」
マカロフがそう言いきると同時に、ナルガクルガは先ほどよりも大きな咆哮をあげる。
「っ!迷っておる暇はない!後ろの4人も、わしがナルガクルガの動きを止めたら、攻撃を仕掛けぃ!!」
「「「「ッ!はい!!」」」」
ナルガクルガはマカロフを含む、8名の周りを、先ほどよりも速いスピードで駆ける。そのスピードの速さに驚くが、直後、刃翼を振りかざし、襲い掛かってくる。それをなんとか察知したマカロフは、全身を巨大化させ、ナルガクルガの刃翼を防ぐように掴みかかる。だが、その鋭い刃翼に、腕の肉を切り裂かれる。マカロフは痛みに耐えながら、それでも腕は離さなかった。
「ぐうっ!!まるで刀じゃな、こやつの翼は…ぐうううう!!!」
ナルガクルガは、自身の刃翼を掴まれ、動きを制限されたことにひどく焦っている様子で、身を激しく揺らしている。
「焦っておるのか!!」
マカロフは好機とみて、もう片方の刃翼にも掴みかかる。そして、ナルガクルガを地面へとたたきつける。ゴガアアン!!という轟音と共に、ナルガクルガが悲鳴をあげて地面に伏す。
「今じゃーー!!!!畳みかけろーーー!!」
マカロフの言葉を受け、カグラ含む7名が一斉にナルガクルガに攻撃を仕掛ける。
「不倶戴天・永斬!!」
「闇の矢・千殺!!」
「力のパルファム・マックスメーン!!」
「力のアーカイブ・連殴!!」
「スノーブラストストリーム!!」
「エアクラッシュハンマー!!」
「テイクオーバー、機械乙女・メカガトリング!!」
7名それぞれが、連続且つ高出力の魔法を放つ。ナルガクルガは、同時に7種類もの攻撃を喰らい、大きく悲鳴をあげる。暫く攻撃を加え続けていたが、ナルガクルガは押さえつけているマカロフへ尻尾を振り上げ、叩き打った。
「ぐおおおっっ!!!」
余りのスピードに、マカロフはナルガクルガの尻尾が直撃を受ける。受けた衝撃も強く、尻もちをついて倒れる。
「がああっ!!」
マカロフは、胸にひどいあざを作っていた。その様子からして、肋骨が数本折れていることが伺える。加えて、棘のようなものが、何本もマカロフの胸に刺さっていた。

マカロフの拘束が解けたと同時に、ナルガクルガは身体を大きく回転させ、距離を取った。7人はナルガクルガから攻撃を受けつつ、痛みに耐えながら体勢を整える。
「っ!マスター!!」
「マカロフ殿!!」
マカロフの負傷に気付いたカグラと一夜が大声をあげる。
「馬鹿もん!!わしのことはいい、奴に注意を払え!!」
7人ははっとしたように、ナルガクルガに向き直る。ナルガクルガは、痛みを和らげるように身体を震わせると、雄たけびを上げ、攻撃態勢に入る。
「おい…あいつまだ…」
「あれだけの魔法を喰らって…」
「…化け物…」
シモン、一夜、ジェニーは、震えた声で呟く。皆、先の攻撃をうけ、すでに限界が近かった。そんな折、カグラが立ち上がり、ナルガクルガへと剣をむける。
「なっ…何をする気だ!カグラ!!」
「まさか…」
そんな様子を見たシモンと一夜が、驚きと戸惑いの表情を見せる。
「迎え撃つ!!」
カグラは真剣な眼差しでそう答える。
「っ!よせ!カグラ!無茶じゃ!!!」
マカロフは胸の痛みに耐えながら、カグラを制止する。その声を皮切りに、ナルガクルガが疾風の如きスピードでカグラに迫る。
カグラはそれを見据えると、刀、不倶戴天をガチャッと構えなおす。
「よせぇーー!!」
シモンが苦悶の表情を浮かべ、声を張る。
カグラは思い出す。アレンとの修行の日々を。
そして思う。
あの修業は、今この時、この竜を倒すためであると。
『成長したな』
アレンが掛けてくれた言葉を思い出し、カグラの顔に少し微笑が生まれる。
『強くなった』
カグラは覚悟を決めて駆ける。ナルガクルガの刃翼がカグラを捉えんと動く。カグラはその動きに合わせ、大きく刀を振るった。そうして呟く。アレンが教えてくれた、あの技を。
「大回転斬り!!」
カグラが放った斬撃は、ナルガクルガの刃翼を深く傷つけ、血しぶきを上がる。そして、カグラは刀を収めながら、さらに続けて呟いた。
「…二連!」
それと同時に、ナルガクルガは頭から噴水のように血が噴き出す。
ナルガクルガは、頭を天にあげる。
「ギガアアアアアア……」
その叫びと共に、ナルガクルガは地面に伏して、動きを完全に止めた。 
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