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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第6章 英雄感謝祭編
  第21話 謁見

フェアリーテイル一行が首都クロッカスに着くと、英雄感謝祭はまだ正式に開始されていないのにも関わらず、すでにお祭り騒ぎの様相を見せていた。
大通りだけでなく、あらゆる場所に店先に沢山の出店やテーブルが広げられており、街の住民や訪れた人々で大賑わいであった。フェアリーテイル一行は、50名近い集団ということもあり、一気に人目を惹き、更にはアレンを除いたメンバーも有名な者が多いため、すぐに周りの人々は気付くことになる。そして、アレンの姿を見ると、大歓声を上げながら出迎えてくれた。
「こいつは…」
「すごい人気だな…」
エルフマンとリオンが大層驚いた様子で呟く。他のメンバーも驚きつつも、自分たちのギルドの、尊敬するアレンの人気っぷりと歓迎ムードに、鼻が高くなる。アレンは、声を掛けられた方に手を振ったり、会釈をしたりしてやり過ごす。そんな様子を見た人々は更に大歓声を上げ、特に若い女性たちからは悲鳴に似た歓声が上がっていた。
そんな歓迎の声を背中に、一つの大きな建物に到着する。ベルモンドというホテルで、この首都クロッカス、ひいては王国において最高級のなどであり、普段は貴族や大商人のみが泊まることが許される由緒正しきホテルであった。英雄感謝祭期間中は、王国の負担の元、フェアリーテイルの完全貸切での利用となっていたのだ。その高級感溢れる様相に、フェアリーテイルのメンバーが足を竦ませていると、身なりの整った従業員らしき人物が出迎えに出てきた。
「フェアリーテイルの皆さま方。ようこそ、ホテルベルモンドへ。早速中にお入りください」
従業員の言葉を聞き、フェアリーテイル一行はホテルへと入っていった。

さすがは王国一の最高級宿というだけあり、設備面も充実し過ぎていた。
フェアリーテイルメンバーに、全員1人1部屋ずつ割り当てても、まだ空き室があるほどの客室数。数室の大広間に数十室の小広間、室内プールにバー…あげればきりがないが、加えてその一つひとつが高級感溢れる設備となっており、フェアリーテイルを驚かせたのは言うまでもない。誰かが本来の宿泊費用を尋ねたところ、一人頭一泊300,000ジュエル程という話を聞いた時は、皆が卒倒に近い驚愕を受けたことは言うまでもない。
さて、そんな素晴らしい設備を堪能しながらも、やはりフェアリーテイル。それぞれのグループで集まり、部屋でグダグダと過ごすのが好きなのは変わらず、一人ひとりの個室があるというのに、酒を飲んだり、大騒ぎしているのであった。
そんなギルドの酒場と変わらぬ喧騒を見せるホテルであったが、とある廊下を歩いている男の集団があった。アレン、ナツ、グレイ、ガジルである。中々に珍しい組み合わせだが、アレン以外は先ほどまでバーで飲んでいた面子であり、自室に移動中に偶然遭遇し、部屋も近く、折角だからと、一緒にと行動していたのだ。他愛もない会話をしながら、歩いていると、なにやら一つの部屋から騒がしい喧騒が聞こえる。声の通りからして、ドアが全開になっているあの部屋であることが伺えた。
「ったく、どこのどいつだ、ドア開けっぱなしで騒いでるやつは…」
ガジルがそう言って、ドアを閉めようとするが、その際にちらっと見えてしまった中の様子に、驚き固まる。
「ん?どうした?ガジル…っ!」
「早く閉めてやれ…っ!」
ナツとグレイも同じように固まって動かない。
「なんだよ、どうしたってんだ…げっ!」
アレンはそんな様子の3人に声を掛けながら、部屋の中を見る。そして理解する。なぜ先の3人が口を開けて絶望のような表情を浮かべているのか…。
エルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、ウル、カナ、ソラノ、ユキノ、ウェンディがいたのだ。そう、何本もの空になった酒が転がる部屋に。
「だ、だれだ…」
「女たちに酒飲ませたのは!!」
ナツとグレイが図らずとも言葉を繋げる。
「足りん!酒が足りんぞ!」
エルザが酒ビンを掲げながら真っ赤な顔で怒号を飛ばす。
「おめーが一人で飲みすぎなんだよ!殺すぞエルザ!」
…7年前のミラがそのまま大人になった様子であった。
「わたしもー、まだまだたりないれすー」
カグラも完璧に酔っぱらっており、いつものクールな感じは見られない。
「いいじゃない…また頼めばー。いっくらでもでてくるわよー!」
ウルティアは口調は変わらないものの、声を張り上げている様子から察しがつく。
「「いいね!もっと呑め呑め!!」」
ウルとカナが肩を組みながら酒を酌み交わしていた。この2人も例にもれず酔っぱらっているが、元々酒が強いこともあり、酩酊状態ではなさそうだ。
「えへへへ!とってもたのしいゾゾゾ」
ソラノに関しては語尾の口癖が増え、雰囲気もいつもより明るい。
「「あへー、目が回るーー」」
なんと、まだ12歳そこらのユキノとウェンディすらも酒をのんでいたようである。
「…こいつは…」
「ああ、退散した方がよさそうだな…」
ナツとグレイがそう呟き、そーっとその場を去ろうとするが、飛んできたビンが2人の頭に当たり、阻止される。
「なに突っ立ってる!!お前らもこっちきて呑め!!」
「そして酒を注げ!!!」
ビンを投げたであろうエルザとミラが、2人を睨みつけながら言葉を発する。
「…地獄だ…」
ガジルが小さく呟く。
「…はぁ…ったくこいつら…。おい、ここが俺が何とかするから、お前らは先戻ってろ」
アレンは頭を掻きながら3人に伝える。
「い、いいのか?アレン」
「助かるぜ!」
「すまねえ…」
いつぞやの、「アレンを置いて逃げれるか!」精神はどこへやら…。3人はアレンにすべてを託すと、一目散に自室へと戻っていった。…と思っていたアレンだったのだが、実はこの後、別の部屋でジュビア、ルーシィ、レヴィ、リサーナが同じように酔っぱらっているところに遭遇し、アレンと同じ道を辿っていた。ちなみに、これをアレンが知るのは明日以降となる。
アレンはため息をつきながら酔っ払い9人(うち2名撃沈)のいる部屋の奥へと入っていく。そんなアレンの姿を見た女共は、更に盛り上がりを見せる。皆、思いっきり服が乱れ、胸元に太もも…ギリギリ見えてはいけないところを隠している状態で、大きく晒していた。
「おお!!アレンじゃない!」
「こっちきて呑もうぜ!」
ウルとカナが景気よく声を掛けてくる。
「おめーら、なんでこうなる前にバカ共止めなかったんだよ…」
アレンは呆れた口調で2人に言葉を返す。
「いや、なんか面白かったからさー」
カナが悪びれもなく言葉を返す。
「面白いですむ…ゴンッ!」
そんなカナに一言いってやろうとしたアレンであったが、頭になにかが当たった衝撃で言葉を遮られる。急に首をあらぬ方向へ曲げたアレンに、ウルとカナは目を見開いた。
「おい!!グレイ!!さっさと酒を注がんか!!」
ビンを飛ばしたのはエルザであった。どうやら、アレンのことをグレイだと勘違いしているらしい。
「おい!エルザてめぇ!!あれはアレンだろうが!何してんだ!このゴリラ女!」
「ちょっと、何やらかしてんの!あんた!!」
ミラとウルティアがそんな行動をしたエルザを咎めるように、掴みかかる。
「ああ?アレンだと?…だったらなおさら酒を注げーっ!」
エルザはムッキーと猿のように全身を動かす。
「だ、大丈夫?」
「ちょっと、エルザ!あんたね…」
ウルとカナがそれぞれに声を上げるが、アレンがそれを止める。
「あそこまで酔ってたらもう何言っても無理だ…ミラも性格戻ってるし…」
アレンは仕方ねーなーと言った様子でエルザに酒を注ぎに行く。それ以降、ウェンディとユキノを端に寝かせたり、エルザに寝技を決められ、昔の性格に戻ったミラの「7年もギルド空けやがって!」などの暴言を浴び、ウルティアの指舐めや耳舐めに警戒し、カグラがこれでもかと抱き着き身体を密着させてくるのに対処し、ソラノの「赤ちゃん欲しいゾ」発言に身の危険を感じたり、隙を見てウルとカナと軽く飲んだりして、アレンは、首都クロッカスでの初日を終えたのであった。
ちなみに、翌朝、ウルとカナ以外は一切の記憶のない状態で目覚め、部屋の片隅で真っ白に燃え尽きているアレンを見つけたときは驚いたという。その後、カナとウルから事の経緯を聞いた7人(特に5人)が、アレンに土下座をして謝ったことは言うまでもない。アレンが仕返しにと、ちょっと冷たく当たっていたこともあり、王城に着くまでアレンに泣きべそをかいて言い訳をしていたという、見るに堪えない様子が繰り広げられていた…。

フェアリーテイルメンバーが、それぞれ初日のクロッカスでの生活を終えて、翌朝。
今日最初の予定は、王城での謁見であり、それに伴っての適切な服装へと着替えているところであった。何やら、アレン含め、10名近くが死んだ魚のような目をして着替えに勤しんでいたというが、その理由を知るものは少ない。男性はタキシード、女性はアフタヌーンドレスを身にまとい、王城へと向かう。
王城へと入ると、衛兵の誘導の元、玉座の間に通された。皆緊張の趣を持ちながら、ゆっくりと指定された場所へと移動する。さすがに、死んだ魚の目をしていた10数名も、ここではキリっとした佇まいを見せている。
そして、国王の声と共に、アレンが玉座の前へと移動し、膝を着いて頭を垂れる。国王の指示の元、顔をあげると、玉座に国王と王女が腰を掛け、それを挟むように両端に桜花聖騎士団アルカディオスと防衛大臣のダートンが控えていた。
「この度は、ご足労頂きありがとうございます。アレン様」
「大変恐縮にございます、ヒスイ姫殿下」
ヒスイの言葉に、アレンは真剣な様子で答える。
「此度のアクノロギアの撃退、及び王国の防衛、大義であった」
「もったいなきお言葉でございます、トーマ国王陛下」
続けて、トーマの言葉に対しても、アレンは淡々と言葉を並べた。
「此度の働きに際し、英雄感謝祭と称し、この首都クロッカスを中心に、国を挙げてアレン様の勇士をお祝いしたく存じます」
「はっ!ありがたき幸せにございます」
ヒスイは少しだけ愉し気な感情を言葉に漏らす。
「詳しいスケジュールに関して、後ほど担当よりお伝えしよう。…アルカディオス、例のモノを」
国王が隣に控えるアルカディオスに命ずると、一つの魔水晶を持ち、アレンの前に立つ。
「我がフィオーレ王国には、国を守った英雄の力、魔力を魔水晶として保管する伝統があります」
「魔力…でございますか?」
アレンは、思わずヒスイに尋ねた。この度の謁見に際して、フィオーレ王国の歴史や文化に関しては一通り触ったはずであったが、そのような伝統は耳にしていたかったからであった。また、同時にここ最近は感じたことのないモンスターの気配を一瞬察知する。だが、この玉座の間及び王城内において、その存在を再度察知することはできず、一旦は警戒を解く。
「差し支えなければ、そちらに魔力を注いでいただいてもよろしいでしょうか?」
「…承知いたしました」
アレンは立ち上がり、アルカディオスのもつ魔水晶に魔力を込める。暫くしてそれを終えると、魔水晶から手を放し、もう一度片膝をつき、待機する。
アルカディオスは、アレンの魔力を込めた魔水晶を、ヒスイへと見せる。ヒスイが一度確認すると、アルカディオスは魔水晶を持った形で、元の位置へと戻った。
「では、以上で謁見を終わらせて頂く。ぜひ、感謝祭を楽しんでくれたまえ」
「望外の喜びにございます」
その声を聴き終えたトーマは、「下がりたまえ」といい、アレンとフェアリーテイルの面々を玉座の間から退出させる。
アレン達が退出し、少しの時間をおいて、ヒスイ王女が「ふぅ」吐息をもらす。
「うまく、いきましたな」
アルカディオスも、息を漏らすように言葉を発した。
「じゃが、騙しているようで、少し心が痛むな」
「…仕方ありません、国のため、世界のため。これで破滅を防げるのであれば」
国王の言葉に、ダートンが庇うように言葉を言い放つ。
「もし、仮に彼が何かに気付いたとしても、それによって我らとの関係が崩れることはないでしょう。国を、世界を守るための行動なのですから」
ヒスイはそう言って、豪勢な椅子から立ち上がる。
「では、始めましょう。世界を救う、その準備を」

アレンは、玉座の間から出て、王城の内を少し怪訝な表情で歩いていた。フェアリーテイルんメンバーが、ふぅと緊張を解きほぐす中、アレンの表情は晴れない。そんなアレンの様子を見たカグラが、前日のやらかしを頭の中で振りほどきながら声を掛けた。
「どうしたの?何かあった?」
カグラの疑問に、アレンは少し溜めてから答える。
「…いや、魔水晶に魔力を込める伝統など、聞いたこともなかったからな…」
「んー、確かにわしも聞いたことがないのぅ…」
マカロフも、顎を擦りながらアレンの言葉に同意を示す。
「じゃが、さして気にすることでもなかろう。最近できた理かもしれん。伝統など、そんなものじゃ」
周りの皆も特に気にしていない様子であった。マカロフの言葉を聞き、アレンも納得の意を示す。
「おお、それより、次は魔導闘技場でアレンの紹介も兼ねて、英雄感謝祭の開始宣言をするんじゃったな?」
「ええ、少し時間がありますが、早速向かいましょうか」
マカロフの言葉にエルザが反応し、皆に伝えるように声を発する。それを聞いた皆も、楽しみといった様子で、盛り上がっていた。
なぜか妙な胸騒ぎがした。杞憂に終わればそれでよいのだが、と思いながら、アレンはメンバーと共に、魔導闘技場へと向かった。

今回の英雄感謝祭の開会式を迎えるにあたり、会場の観客席には大勢の観客が座っていた。
その多くは、アレンの姿を一目見たいものもいれば、会場の雰囲気を味わいたいものまで、多岐にわたっていた。この開会宣言は、闘技場内だけでなく、首都クロッカスの至る所で魔導映像機によって放映されていた。
開会宣言と共に、この感謝祭の趣旨や期間の説明から始まり、国王や王女の挨拶が執り行われた。そして、アレンの紹介映像と銘打って、アクノロギアとの戦闘の一部、一般人が見ても心身を損なわない描写部分が切り取られ、編集された映像が、流される。その映像を見て、会場は更に盛り上がりをみせ、歓声が沸き起こる。だが、当の本人は「何してくれとんじゃ!」と言った様子で悶えていたのは言うまでもない。
さて、そんな様子で開会式が行われている矢先、遂に開会式の最後、アレンからの一言ということで、司会者によって名前が呼称されたと同時に、アレンが闘技場内に姿を現した。その姿を見て、会場は先ほどとは比べ物にならない歓声が沸き起こる。「ありがとう」、「キャー!」「あれが…」などと会場には様々な声が沸きあがっているが、アレンが闘技場中央に立ち、魔道用拡声器を手に持ったところで、歓声は止み、静寂が訪れた。その静寂を皮切りに、アレンはゆっくり、はっきりと言葉を発し始めた。
「闘技場、並びに首都クロッカスにおいでの皆さま。お初にお目にかかります。先ほど、ご紹介にあがりました、フェアリーテイル所属アレン・イーグルと申します。この度は、国王陛下、並びに姫殿下はじめ、様々な方のご支援のもと、このような素晴らしい祭事を開いていただけたこと、心から感謝申し上げます」
アレンが一度言葉を区切ると、会場は歓声に包まれる。そうして、また静寂が訪れるのを待ち、アレンは口を開いた。
「さて、先日のアクノロギア出現に際しまして、フェアリーテイルの仲間、及び港町ハルジオンを始めとした市街地、ひいてはこのフィオーレ王国に対しての被害を抑えられたこと。心から嬉しく思います。今日は私への祝宴という形での祭事ではありますが、どうか皆さま一人ひとりがお楽しみいただけることを願いまして、挨拶とさせていただきます」
アレンが一礼をすると、会場を大きな拍手と歓声が包む。アレンはそんな歓声を聞きながら、「しんどっ」と小さく呟いたが、それを聞いたものはいない。なるべく早く、だが、ゆったりとした面持ちで、闘技場を後にした。その後、開会式の終了を知らせる声と共に、満を持して、英雄感謝祭の開催が成った。

開会式での挨拶を終えたアレンは、急ぎホテルへと戻った。王族との謁見に加え、大勢の人前で挨拶をするなど、初めての経験であり、まだお昼前だというのに、アレンはひどく疲れ切っていた。他のギルドメンバーに関しては、通りの祭りに参加したり、他のギルドのメンバーと会話をするなどして、感謝祭を楽しんでいる者がおおい。
アレンは急ぎ、ホテルへと戻ってきた。先の胸騒ぎの原因を調査にあたっての準備のためであった。王国に伝わる魔道具などについて調べるため、アレンは有効な手段を2つに絞った。1つはクロッカス内にある図書館。1つは王城であった。図書館は感謝祭期間ということで休館。王城はいつも以上に警備網が敷かれているため、どちらも潜入という形にはなるが、潜伏スキルを有する防具やアイテムを用いて行おうとしていた。感謝祭には本体が出張り、2カ所に関しては緊急時に解除ができるという意味も込め、影分身を用いて調べることとした。
影分身体を2体出現させ、それぞれ図書館と王城へ行きつつ、本体は感謝祭へと向かった。

図書館へと向かった分身体は、魔法で施錠を破り、館内へ侵入する。魔法具などのめぼしい本にはすべて目を通した。まず現段階でわかっていることは、元の世界でモンスターに遭遇したような気配を一瞬察知したこと、そして俺の魔力を込めた魔水晶が王族の手にあることだ。現段階でその2つを繋ぎ合わせるものは何もない。さらに言えば、魔水晶に関しては本当に伝統として行っている可能性も高い。
だが、モンスターの気配を察知したのは事実であり、考えうる最悪のシナリオとしては、モンスターや竜がこの世界に紛れ込んでいる、若しくは意図的に来ているか呼ばれているかということになる。自分の経験談の話になってしまうが、禁忌の龍でもない限りは、あのアクノロギアを超えるようなモンスターは元の世界にも存在しないだろう。だが、飛竜種であっても、このアースランドにおいては、しかも市街地ともなればその出現による被害は甚大だ。
しかし、アクノロギアが禁忌の龍を復活させようとしているのは女神の言葉から真実であると言える。すると、あの時感じたモンスターの気配がその一端であるという可能性も捨てきれない。
そんな風に文献をあさっていると、一つの資料に目が留まる。
そこには、『オスティウン・ムーンディ』という題材と共に、その詳細が書かれていた。
「オスティウン・ムーンディ、フィオーレ一族に伝わる秘宝…魔道具の一種…世界を繋げる扉か…繋がる世界に関しては…特に表記はされていないか…」
アレンはとりあえず有益だと考え、その資料を一旦置き、他の魔導具などに関しても調査を始めた。

エルザとカグラは、首都クロッカスの大通りでの出店で、りんご飴を購入し、祭りの喧騒を眺めながら食していた。
「ん、前にヒノエが言っていた食べ物と酷似していたから買ってみたが、これはうまいな」
「甘くて美味しい…それに色がエルザの髪と似ていないか?」
そんな風に他愛もない話をしていると、2人に声を掛けてくるものがいた。
「エルザ姉さん!」
「エルザ!」
どうやら、エルザの名前を知っているもののようだ。エルザとカグラはりんご飴をなめながら、後ろを振り返る。
「その声…お前たちは…ッ!ミリアーナ!そ、それに、シモンか!!」
「ッ!!!」
エルザは久しぶりの、楽園の塔で別れたきりの二人の成長した姿に思わず声を張り上げる。
カグラは驚きで声が出ないようだ。
「久しぶりだニャ!!」
「ん?そっちの君は…ッ!」
ミリアーナがエルザに抱き着き、再開を喜んでいると、シモンも何かに気付いたように目を見開く。
「に、兄さん…」「カ、カグラ…なのか?」
2人はじりじりと歩み寄りながら、目に涙を浮かべている。
「兄さん!!」「カグラ!!」
2人は大粒の涙を流し、抱擁しあった。そんな兄弟の再会を横で見ていたエルザは驚きつつも自然と笑顔になり、ミリアーナは、「えー!この人がカグラなの!!シモンの妹!?」と大層驚いている様子で、思いっきり語尾のニャを忘れる始末であった。
そんな風に再会を喜び、ひと段落つくと、互いのことを話し始めた。
ミリアーナは現在、ギルド人魚の踵に所属し、シモンは最近できたギルド剣咬の虎に所属しているらしい。シモンは剣咬の虎にいるミネルバと、同じようにアレンと関りがあるということで、意気投合し、ギルドを紹介してもらったらしい。ミネルバなる女性がアレンと知り合いと聞き、エルザとカグラ一瞬怪訝に思ったが、今はそんなことはどうでもよかった。カグラも、自分がアレンに助けられたことを兄に伝えた。
「ということは、今ここにいる4人は、皆アレンに助けられたもの、ということだな」
「まさか、カグラがフェアリーテイルにいたとは…」
シモンは落ち着いたところで、とある質問をしようと再度口を開いた。
「そういえば、今アレンさんはどちらに?闘技場で一目見たものの、直接会いたいのだが…」
「今、アレンはフェアリーテイルが滞在しているホテル周辺にいると言っていたが…」
エルザは祭りを一緒に回ろうと誘った際に、断られたことを思い出し、少しモヤモヤした気持ちで答えた。
「折角だから、一緒に行こ。兄さん」
「あたしもアレンさんに会いたいニャ!」
カグラがシモンの手を引きながら、ホテルへと向かう。そんな様子に、エルザとミリアーナは顔を合わせ、笑いながら2人の後に付いて言った。

図書館でアレンの分身体が文献を漁っている頃。王城にもアレンの分身体が忍び込んでいた。当初は変化の術で衛兵に化けて捜索をしようと試みたが、如何せん王城は広く、また、一般の衛兵では入れそうにない場所も多くあった。そのため、潜伏スキルの高い防具とアイテムで身を固め、周りに擬態しながら王女ヒスイの傍に控える形で調査を開始した。まだ16歳程度の王女を対して、ストーカー行為を行うことは、アレンの良心を痛めたが、最悪の事態を考えると、そうもいっていられなかった。
暫く尾行を続けていると、アルカディアスと共に、地下へと潜っていくのが分かった。あとをつけながら、聞き耳を立てる。
「あとは、このアレン様の魔力の入った魔水晶と私の魔力を合わせて、オスティウン・ムーンディの扉を開くだけね」
地下へと伸びる階段、その階段をコツコツと音を鳴らしながら2人は降りていた。
「そうして、フィニスは訪れ、世界の破滅を防ぐ。つまり、三天黒龍の復活を阻止できるというわけですな」
アレンはその会話を聞き、驚きに目を見開いた。
「(ヒスイ王女は、三天黒龍の復活を阻止するために動いていたのか…。オスティウン・ムーンディなる扉を開くため、俺の魔力が必要だったというわけか…)」
アレンは、自分の心配が杞憂に終わりそうな方向に、少しホッとするが、すぐに胸に騒めきが起こる。
「(…いや、まてよ。阻止するためなら、なぜ扉をあける?閉めるのであればわかる。だが、開けるということは繋げるということになるのではないか?あとフィニスと言っていたが…何か引っかかる)」
アレンはそんな風にして考えていたが、そもそもオスティウン・ムーンディとフィニスが何であるかが分からなければ、結論は出せない。
そうしながら考えていると、階段は終わりを迎え、大きな地下室に到着した。そこで、アレンは異様な雰囲気を感じ取る。
「(っ!これは…あの時感じたモンスターの気配…)」
アレンは潜伏珠を取り出し、更に潜伏スキルを上げて警戒を強める。
「全ての準備は整いました。バルファルクさん」
「そうですか、アレンさんの魔力を手に入れたのですね。では、この扉を玉座の間に転移させ、フィニスを実行するとしましょう。世界の破滅を防ぐために」
アレンは、ヒノエ達と再会した時と同じくらいの衝撃を受ける。
「(バルファルクだと…まさか、天彗龍バルファルクなのか…いや、だが、どう見ても奴は人だ。バルファルクが人型になれるという話は聞いたことがない…)」
アレンは動揺しながらも、頭をフル回転させる。
「(まて、人型になれるかどうかは今はどうでもいい話だ…。奴から感じるオーラ、あれは間違いなくモンスターの、しかも古龍のオーラだ。仮に奴が本物のバルファルクだとして、なぜ奴が世界の破滅を止めようとする。奴は人類の敵とも言われている古龍だ…ッ!)」
アレンは何かに気付いたように、大きく目を見開いた。
「(いや、違う!そもそもなぜ俺の魔力が必要なんだ?…バルファルクは俺の世界の龍…っ!まさか!!俺の魔力は俺の世界と繋げるための…ということは…!!)」
アレンが一つの結論に至り、ヒスイ王女たちがいる場所をぐっと力強く見つめるが、そこにはすでに誰もおらず、オスティウン・ムーンディも姿を消していった。
一斉に玉座の間に転移したことを理解したアレンは、先の発言から、フィニスを実行するのは時間の問題であること、そしてもし本物のバルファルクであれば、分身体では相手にならないとこと、以上の点から、この情報を本体へととどけるため、影分身を解き、一時王城を後にした。

図書館に潜入していたアレンの分身体は、更なる衝撃的な資料を見つける。その資料は、フィニスという文献で、なぜかこの文献に限り、アレンの世界の文字が使われていたからだ。
「フィニス…終わりを意味する言葉…王の血を引きしもの…竜斃すもの…両の魔を込め…扉を開きしとき…竜満ちる世界との繋がりは成り…一万の竜をもち…世界に破滅を与えん…ッ!」
その文献を読み、アレンの頭に衝撃が走った。
「こ、これは…つまり…」
息が荒くなるのを感じる。最悪の、いや、想定以上のことが起ころうとしている。
「オスティウン・ムーンディの扉を王女と俺の魔力で解放すると、俺の元居た世界と繋がり、一万のモンスター、竜が呼び出され、世界が破滅するということか…っくそ」
アレンは焦った様子で、影分身を解除し、本体に情報を渡した。
 
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