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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第5章 修行編
  第18話 修行

 
前書き
思いっきり作者の創作と自己解釈が織り交じっておりますが、ご了承ください。 

 
ヒノエとミノトがフェアリーテイルに加入して3日が経った。2人はミラジェーンからフェアリーテイルでの受付の仕事を教えてもらいながら、受付兼ウェイターとして働き始めた。ヒノエはその人柄から、メンバー全員と楽しそうに会話をし、すぐに馴染んでいた。反面、ぶっきらぼうな雰囲気のミノトは、ヒノエほど馴染んではいなかったが、その美しさに加え、先の手合わせでの実力もあり、メンバーは皆積極的に関わろうとしていた。
さて、そんな風にフェアリーテイルはいつも通り、騒がしい様子であったが、今この時は、皆がカウンターに集まり、静かに何かを待っているようであった。
「と、いうわけで、わしは引退を決意した。これより、次期マスターを紹介する」
その言葉に、皆が怪訝な表情を見せる。
「ほんきなの?」
「…なんだか実感がわかない」
カナとカグラの声に、マカロフは反応を示すことなく、言葉を続けた。
「4代目、フェアリーテイルマスター…ギルダーツ・クライブ!!」
マカロフはそう言って、横にいるであろうギルダーツに手を向けて紹介する。だが、そこにいたのはギルダーツではなく、ミラであった。そんなミラは手をあげて苦笑いしている。
皆は現状を飲み込めないのか、目をぱちくりとさせている。
「がか…」
マカロフもギルダーツの姿がないことに、驚いている様子で、言葉にならない呻き声を出していた。
「ギルダーツはどうした⁉」
何か事情を知っていそうなミラに、マカロフは詰め寄りながら声を掛ける。
「置き手紙がありました」
マカロフはその手紙を受け取ると、驚愕の表情を浮かべながら手紙を読み上げる。
『マスター、それにギルドの皆へ。マスターとか、わりーが柄じゃねえ…』
手紙の内容を聞いた皆が、大笑いしながらも、「ギルダーツらしいな」と声を上げていた。
『まあ、でもせっかくだから4代目としての仕事を2つだけしておくとする』
その仕事とやらの内容に、皆が興味津々と言った様子で続きを待つ。
『一つ、ラクサスをフェアリーテイルの一員として正式に認めること。後見人はアレンとし、その責任を負うこととする』
皆が驚いた様子でラクサスを見つめる。ラクサスの表情にも驚きが見える。この前、アレンの一存もあり、仮で破門が解除されたものの、まだ正式なメンバーとしては認められていなかったからだ。それが、数日のうちに正式なメンバーとして認めるという話なのだから、驚くのも無理はない。
「ギルダーツまで…勝手なことを…」
「と、言うわけだ。もう変なことするなよ?ラクサス…。俺の責任になっちゃうから!」
マカロフが困惑していたが、それを打ち消すようにカウンターで、コーヒーを嗜んでいたアレンがラクサスに向けて言い放つ。
「アレン…あんた…」
「よかったな!ラクサス!」
「正式に認められたから、これで雷神衆復活よ!」
ラクサスがアレンの言葉に感銘を受けていたが、それをビックスローとエバが遮るように言葉を掛けていた。そんな中、フリードがアレンへと近づき、泣きながら抱き着く。
「アレン!!あんたって人は!!ありがとう!ありがとう!!」
「だー、何すんだフリード!涙と鼻水で汚れるだろーが!!」
抱き着いてくるフリードを何とか引きはがそうとするが、フリードのラクサスへの愛による力は非常に強く、中々引きはがせずにアレンは戸惑いを見せる。
そんな様子を、ウルをはじめ、特定の女性陣がじとっとした目で見つめていた。
「むぅ…4代目がそういうのなら…従うまでじゃ…それに、アレンが後見人ならば問題なかろう…」
マカロフは「異議あり!」といった様子であったが、仕方ないと受け入れる素振りを見せる。だが、そんな素直ではないマカロフの様子に、ミラとリサーナが顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
『2つ、アレン・イーグル氏を、5代目フェアリーテイルマスターに任命する』
またもや皆の目がパチクリとさせる。その内容を聞き、意味を飲み込んだアレンはというと、
「な、なんだとーーーーーーー!!!!!!!!」
アレンはようやくフリードを引きはがすことに成功し、落ち着いたと思った矢先に、思わぬ爆弾が降ってきたため、驚愕の声を上げる。
「おお、アレンがマスターか、そいつはいいな!」
「俺も賛成だ!!」
「アレンなら、安心して任せられるな」
ナツ、グレイ、ジェラールが、素晴らしい提案だと言わんばかりに頷き、賛同の意を表していた。
「ちょっとまて!俺は絶対に嫌だからな!!ギルダーツの野郎!!!今から追いかけてぶっ殺…いや、連れ戻してマスターをやらせてやる!!!!!」
アレンは、ムッキーと猿のように怒りを露にし、ギルドを出ようとする。だが、手紙を読み上げているマカロフが強調するように声を張り上げたことで、アレン含め、皆がもう一度耳を傾けた。
『ただしっ!…アレンの第一声が「嫌だ」というものであった場合は、マカロフ・ドレアー氏を5代目フェアリーテイルマスターに任命する』
「って、またわしか!!アレン、どうしても嫌なのか!?」
それに対し、またしても酒場に爆笑が生まれる。笑いながら、リオンが一言。
「まあ、そのままってことで、それはそれでいいんじゃないか?」
アレンは、マカロフがまたマスターをやるということで、落ち着きを取り戻していた。
「なんだ、アレンがマスターということでいいではないか」
「私もそう思うわ。きっとすばらしいギルドになるわよ!」
「私も、アレンがマスターというのは賛成だな」
エルザ、ミラ、カグラがそんな風にアレンに声を掛けるが、それを皮切りに、思いっきりアレンに睨まれたことで、ビクッと身体を震わせる。
「もし、そうなったら…俺はギルドをやめてやる…」
アレンは、今にも噛みつきそうな獣のように、グルルッと舌を巻き、息を吐きながら低く唸った。
その一言を聞き、皆に驚きが生まれる。
「お、おい!ギルドをやめるって!正気か!!」
「っ!それはダメね、マスター!やっぱりあなたしかいないみたい」
ナツとウルティアが焦ったように声を張り上げる。
「む、むぅ…確かに、それならわしが5代目をやるしかないか…」
「そうゆうことだ。頼むぜ、5代目!」
マカロフの言葉に、アレンは屈託のない笑顔で答える。その様子をみて、皆がホッと胸を撫でおろした。
『俺は暫く旅に出る。気が向いたら帰るつもりだ。それまで、皆元気でな』
それをもって、ギルダーツの手紙は締めを迎えた。マカロフは手紙を読み終えた後も、何かぶつぶつと言っていたが、皆がそれを苦笑いしながら見ていた。
「アレン、カナ。はいこれ」
ミラが、それぞれに便箋を手渡した。
「ん?」
「なんだ?」
ミラはそれぞれ、ギルダーツから預かっており、アレンとカナに渡したのだ。
カナが便箋を開くと、中にはギルダーツの顔が描かれたカードと、手紙が入っていた。内容は、また勝手をしてすまない、会いたくなった時や助けが欲しいときはいつでもそのカードに念じてくれ。すぐに会いに行く。というものだった。だが、カナはそのカードを思いっきり破いてしまう。
「いらねーよ!」
「カナ!」
エルザが咄嗟に声を掛ける。
「今まで通りでいいって言ったろ、くそおやじ…」
カナはどこか呆れてた様子で呟いた。アレンはそんな様子をみて、ふっと軽く笑って見せ、「感慨深いじゃねーか…」と思いながら、手に持つ便箋を開けた。きっと、俺の便箋の中にも感動的な手紙が入っているに違いない…。そう、皆のことをよろしく頼むとか、俺の代わりにフェアリーテイルを任せたぞ、とか…。
「(そんなもん、言われなくてもわかってるよ)」
などと心の中で呟きながら、二つ折りにされた手紙を開いて読んだ。そして、固まった。少しして、震えが起こる。そんな様子のアレンを見て、エルザとミラが声を掛けつつ、手紙を横から覗き見る。
「どうしたんだ、アレン…ふふっ!」
「大丈夫?…ぷっ!」
エルザとミラが噴出したように笑ったので、カナ含め、周りの皆もその手紙の内容を見ようと集まってきた。そして、カナ以外が同じように吹き出す。手紙の内容は、真っ赤な文字でこう書かれていた。
『カナを悲しませたら殺す』
まるで、怪奇文のように書かれたそれは、皆の表情に笑いを生むのに、十分な内容と文体であった。
「「ギルダーツーー!!!!!」」
アレンは怒りで、カナは怒りと恥ずかしさで、天を突かんばかりの大声を上げたのは言うまでもない。

ギルダーツの手紙の騒動がひと段落ついたころ、フェアリーテイルのギルドメンバーはまた同じように酒場のカウンターを中心に集まっていた。だが、今回の集まりは、どうやらマカロフからの話ではないようであった。
「よーし、さっきはマスターとギルダーツにしてやられたが、今日からお待ちかね…」
集まりの集団の中心にいたのはアレンであり、この集まりの主催がアレンであることが分かった。
「修行開始だ!!!!!」
アレンの大声と共に、さらにそれをかき消す轟音が酒場に鳴り響いた。
「「「「「「「「「「うおーーーーー!!!!」」」」」」」」」」
「ようやくか!!」
「待ってたぞ!」
「ふふっ!」
ナツ、グレイ、エルザがやる気に満ち溢れた様子で言葉を発した。
その轟音ともいえる歓声が鳴りやむと、アレンは淡々と修行の基本情報を皆に伝えた。その内容は以下の通りであった。
・修行に際して、対象者は希望者のみとする。
・修業期間は、英雄感謝祭開催1週間前までの1か月半とする。
・修行の強度として、大きく3段階の難度をつけ、下からソフト、ノーマル、ハードとする。基準として、『ソフトはゆったりと余裕をもって行う』、『ノーマルはバランスよく行う』、『ハードは限界のその先を目指して行う』、とする。
この内容を聞き、多くの者の目に輝きが生まれたのは言うまでもない。そして、即決の者、悩みぬいて決めたものも含め、一人ずつ修行参加の可否と難度の希望を提出する。ちなみに、ハードに関して、「どのくらいの強度なんだ?」と誰かが訪ねた際に、アレンが「死ぬかもしれないくらい」といったことで、ノーマルへと変更した者もいたとか…。加えて、「滅竜魔導士については問答無用でハード」という言葉に、とある少女が涙目になったのは言うまでもない。そうして振り分けられた内容が以下の通りとなる。
・ハード:エルザ、ラクサス、ミラ、ウル、グレイ、リオン、ジェラール、カグラ、ウルティア、ナツ、ガジル、ウェンディ、の11名。
・ノーマル: ジュビア、フリード、カナ、ソラノ、エルフマン、リサーナ、レヴィ、エバ、ビックスロー、ルーシィ、リリーの11名
・ソフト:ユキノ、ウォーレン、ジェット、ドロイ、ビスカ、アルザック、ラキ、マックスの8名。
・未参加:ハッピー、シャルル、マカオ、ワカバ、リーダス、ナブ、ビジター、キナナ等
となった。もちろん、ヒノエとミノトも未参加である。
「よーし、皆希望も出して、振り分けも終わったな!」
アレンはそう言いながら、何やら紙に丁寧に記載をしていく。
「ああ、そういえば、さっき言い忘れたんだが…」
アレンが含むような言い方をして、言葉を続けた。
「この修行で、1番著しい成長と成果を見せたものには…」
皆がごくりっと唾を飲み込んだ。
「…俺が一日、もしくは一回だけ、何でも言うことを聞いてやる…」
アレンはニヤリと何かを含んだような笑顔を見せながら小さく呟いた。その瞬間、至る所から怨念のような、欲望の塊のようなオーラが発生したことは言わずもがなであろう。
「もちろん、あまりにも無茶なのはよせよ?まあ、でもできうる限り、聞いてやるつもりだ。だから、頑張れよ?」
アレンはその言葉を皮切りに、影分身を発動し、30体の分身を生み出した。そして、わかりやすいように、一人一人の名前が入った名札を分身アレンが胸に張り、それぞれ指定された広場や場所へと移動していった。
さて、余談であるが、この修行において、アレンの狙いが皆の力を強化し、強くするというものであることは皆承知の上であろう。だが、もう一つ、アレンは狙いを持っていた。それがどんな狙いであるのかは、この影分身の魔法の性質を知っている者のみであり、皆がそれを周知するのは、大分後のこととなる。
アレンは、それぞれの強度において、到達目標を設定していた。ソフトにおいては、膂力向上と魔力ロスの最小化、ノーマルは、ソフトの内容に加えて魔力消費量の向上と第二魔法源の解放、ハードは、ソフトとノーマルの内容に加えて、魔法力向上とより強力な魔法の習得とした。

エルザside
修行初日。私は、アレンから提示された修行に対し、迷わずハードでの修行を希望した。アレンへ希望を出した際、「いいのか?」と聞かれたが、「もちろんだ」と力強く答えた。そんな私の覚悟を見てか、アレンは二つ返事で了承してくれた。
私はまだまだ弱い。幼少期のアレンとの修行もあり、幽鬼の支配者や六魔将軍などとの戦いでは、比較的有利に戦闘を行えていたが、悪魔の心臓のアズマとは些少の苦戦を強いられ、マスターのハデスとは戦闘にもならず、アクノロギアと遭遇した際には、自身が戦う姿すら想像できないほどの実力差を感じた。更に、先日のアレンのお姉さんであるヒノエとの戦闘では、全力での戦闘ではなかったにしろ、敗北を喫してしまった。
これから先も、数多の強敵と戦わねばならないことがあるだろう。しかも、アレンが三天黒龍との戦いに挑むのはわかりきっていることから、せめてアレンの露払いができる程度には力が欲しかった。だからこそ、この修行という提案は即答以外の選択を、私に与えなかった。…加えて、分身体とは言え、アレンと二人きりで、しかも1か月以上も一緒に修行ができるという夢のような環境。さらに言えば、修行の成果次第でアレンがなんでも言うことを聞いてくれるというおまけつき。私の心は、今までにない高揚感とやる気に満ちていた。
アレンは私にハード難度の修行内容についての概要を説明してくれた。どうやら、此度の修行において、大きく6つの課題を設けているらしい。
私はその概要を聞き、更にやる気を滾らせる。初日は私の今の実力を知りたいということで、アレンに「殺すつもりで全力を見せて欲しい」と言われた。私は、瞬時にアレンへの最大のアピールチャンスだと思った。私がアレンと再会を果たしたのは、実に7年ぶり。当時私はまだ12歳であり、間違っても力のある魔導士とは言えなかった。それに加え、まだ子どもだった当時は、アレンから大人の女性としても見られていなかっただろう。だからこそ、この実力を測る機会を用いて、同時にアレンへ私の成長をみせようと考えた。
本当に全力を出して戦った。換装を用いてあらゆる鎧を身にまとい、全力でアレンへ攻撃を繰り出した。それこそ、本当に殺す勢いで飛び掛かった。時々、私の防御と回避能力を見るためか、アレンも攻撃を繰り出してくる。私は無我夢中でそれらに対応し、魔力が底を尽きるまで攻撃を繰り出した。
だが、結果は惨敗。そもそも戦いではないのだが、戦いではなくとも、惨敗だとわかってしまうほどに結果は明らかなものであった。アレンに傷を負わせるどころか、たったの一度も攻撃を当てることはできなかった。歯を食いしばる。魔力切れと疲労で地面に四つん這いになっていることが、更に悔しさを増幅させる。ここまで手も足も出ないとは思わなかった。少なくとも一撃喰らわせてやるくらいは…と思っていたが、それ以前の問題であった。そんな自分が惨めで、アレンの顔を見ることができない。
「今のが、お前の全力か?」
「…ッ!」
アレンの言葉に、思わず身を震わせた。失望されてしまったかもしれない。勝手に目尻が熱くなるのを感じる。それを必死に止めようとするが、涙はたまる一方であった。
「本当に、強くなったな、エルザ。見違えたよ」
だが、アレンから投げかけられた言葉は私の予想と反していた。
「え…?」
うっすらと涙を浮かべた目で、アレンを見つめる。アレンは、屈託のない笑顔で私を、お姫様抱っこで持ち上げる。
「お、おいっ///。ア…アレン?///」
アレンの、手の、腕の、身体の感触が伝わる。私は恥ずかしさのあまり、身体が固まる。恐らく、顔は真っ赤っかになっていることだろう。それを見られたくないと手で顔を隠そうとするが、硬直と疲労が重なり動かせない。暫くして、アレンは私を芝の上へと降ろし、寝かせてくれた。アレンも同じように、腰を下ろし、私の横に寝そべる
「エルザ…」
「…な、なんだ?」
まだ心臓が高鳴っているのを感じる。その高鳴りが疲労のせいではないことは、私自身が自覚していた。
「お前には、この修行を通して、ヒノエ姉さんと同等ぐらいにまで強くなってもらう」
私は、その言葉に驚きを隠せなかった。先日、まるで手も足も出ず、あまつさえヒノエに自身の思考を見破られ、早々に戦闘を終了されてしまった。恐らく、私が今のように全力を出しても、ヒノエには勝てないだろう。例えるならば、私とヒノエとの間には、ギルダーツと同程度くらいの差があると実感していた。
だからこそ、先のアレンの言葉はにわかには信じられなかった。
「わ、私が、ヒノエよりも強く…」
「ああ、今のお前の実力を見て確信した。俺は信じている。お前はもっともっと強くなる。それこそ、ヒノエ姉さんをも超えるほどに」
そういって、アレンは私の方へと身体の向きを変える。私は、アレンが自分の方へ向きを変えたことに、更に恥ずかしさを覚える。思わず、目をそらしてしまう。私とアレンの距離は目測でおよそ30㎝ほど。意識せずとも、アレンの心地よい、いい匂いが香ってくる。
「とりあえず、今日はお疲れ様。明日から、また頑張ろう。エルザ」
アレンの顔をちらっと見る。その顔には、屈託のない笑顔が浮かんでいた。…本当にずるい人だ。おどけて見せたかと思えば、真剣な表情になり、真剣な表情を見せたかと思えばくしゃっとしたような笑顔を見せる。そんなアレンの表情の変化に、私の感情が動かされていることを再認識すると、更に恥ずかしさと照れが生まれた。
「あ、ああ。も、もちろん…だ…」
照れを隠すように、エルザはまたアレンから目をそらす。そして、やわらかい風に身を任せ、エルザは静かに目を閉じた。

各々が初日の修行を終え、分身のアレンと共に、ギルドへと戻る。フェリーテイルの門を潜るのと同時にアレンは分身を解き、残されたメンバーはそれぞれ近くの開いている椅子へと着席する。次第にメンバーが集まりを見せるが、いつもの活気ある雰囲気は見られない。皆が机に伏して、虚空を見つめている。
「…ミラ…お前も…か?」
エルザは今にも消え入りそうな言葉で語り掛ける。
「ええ…正直、辛いわ…」
「身体が動かねー…」
「これは…こたえるわ…」
ミラに続き、ナツ、ウルティアも机に身を預けながら、弱音を吐く。そんな様子を見ていた未参加組のマカオとワカバの表情が引いていた。
「おい、どんだけえぐい特訓なんだよ…」
「なんでも、全力で、それも限界まで戦わされたらしいぜ…」
視線を酒場全体に移すと、エルザやナツたちと同じように、参加者全員が椅子に腰かけ、机に伏している。
「…地獄絵図だな…」
「ああ、参加しなくてよかったぜ…」
マカオとワカバは二人で顔を見合わせ、ホッとため息をついた。

カグラside
修行2日目。昨日、私はアレンに持ちうる力の全てを使って全力で戦った。私の攻撃が当たるように、アレンに最大限の重力魔法を放ち、重くして斬りかかった。だが、結果は単純に防がれて終わってしまった。普通の人間であれば、立っていることなどできない程の重力を掛けたはずなのに、アレンは平然と立ち、あまつさえ私の斬撃をいとも簡単に防いでしまった。そこからは何度アレンに斬りかかろうとも、刀がアレンを捉えることはなく、一撃も浴びせられずに私はダウンした。だが、そんな私にアレンは「強くなったな」と優しく笑いかけてくれた。とても嬉しかったが、それでも自分の実量不足には変わりない。だからこそ、全力で修行に臨もうと改めて決意した。
…のはいいのだが、さすがに昨日の疲れは完全には癒えていない。アレンはそんな私に、「万全な状態での戦闘など、そうそうあるものじゃない。大半は不利な状況に立たされての戦闘が多い。だからこそ、疲労を残した状態で修行に取り組むのも一つの修行だ」と言われた。私はそれにひどく共感し、身体に鞭を打って今日も修行に取り組んでいる。
今日はどうやら、魔法というよりは、基本的な膂力についての修行らしい。昨日の戦闘で得たデータから、私の膂力の練度は10段階で5だそうだ。私としては、剣を扱うということもあり、膂力については多少の自信を持っていただけに、少し落ち込んだ。だが、アレンが言うのであれば間違いはないだろう。アレンは「そんなに悪くない」と言っていたが、優しいアレンのことだ。きっと私を傷つけまいと言っているに違いない。そんな風に考えていると、アレンは、基本的な身体の使い方を見せてくれた。アレンはスローモーションで事細かく剣の振り方や扱い方、その際に身体のどの部位に力を入れ、どの部位を脱力させるのかを説明する。正直、驚いた。私ももう今年で16歳だ。剣を握り始めて8年程度は経っている。それこそ、数多の剣術をこの目で見て、身体の動きや剣の扱い方を学んできた。もちろん、知識としてだけではなく、それを己の身体に叩き込み、鍛錬を重ねてきた。実力がついてきていることは自身でもわかっていたし、エルザ姉さんには劣るとはいえ、マスターから試験を抜きにしてとうにS級魔導士としての実力を持ち、聖十魔導士にも手が届きそうだと言葉を掛けられていた。
しかし、アレンから修行をつけてもらって2日目。それも膂力、身体の使い方の修行は初日である。たった1日で、自分がいかに身体や剣を扱ううえで、無駄な動きをしていたのかが理解できてしまった。さらに、アレンの言う膂力とは、とてもじゃないが簡単にこなせるものではなかった。力を入れる場所、抜く場所、全身の身体の動かし方に加え、視線、重心…それらすべてが考えながらでも難しいというのに、アレンはそれらを考えずに無意識のうちにこなしていた。いったいどれほどの鍛錬を積めば、それほどにまで練度を高められるのか、私は驚きと悔しさで頭がいっぱいになってしまった。だが、アレンにはそんなこともお見通しだったようで、そんな私の頭に手をおき、撫でながら優しく声を掛けてくれた。
「初めからできる奴なんていない。俺も最初はそうだった。だから修行をするんだ。大丈夫、カグラになら絶対に身に着けられる。俺は信じている」
アレンの手のぬくもりが、頭から伝わってくる。身体が熱を帯びているのが分かる。恥ずかしさと嬉しさ、そして些少の不満がごっちゃになり、心の中に複雑な感情として渦巻く。頭を撫でられるのは好きだ。もちろんアレン限定ではあるが、大好きである。でもなんだか子ども扱いされているような気もするのだ。思わず視線を下に移してしまう。
「カグラ…」
「な、なんだ…?」
名前を呼ばれ、私は上目使いでアレンの顔を覗き込んだ。以前読んだ『男を落とす方法』なる本で会得した技だ。男の人は女の人の上目遣いに弱いらしい。私は少しでもアレンに女として見てもらいたくて、必死にアレンにアピールをした。
「この身体の使い方、そして剣術への昇華を1週間で会得してもらう」
「1週間…できるだろうか…」
アレンの表情に変わりはない。上目遣いが弱いなど本当なのだろうか?私は少し落ち込みながら、アレンの言葉に返事をするように答えた。
「カグラにならできる。筋は俺よりいい」
それに対して、私はすぐに言葉を返せなかった。アレンは私を否定するようなことを言わない。いつも褒めて優しくしてくれる。…たまに意地悪をされることもあるが、私は悪い気はせず、むしろアレンと対等に関われていることに高揚感さえ覚えている。
「ほ、ほんとうか…?」
「ああ、本当だ」
そういって、アレンはもう一度私の頭を撫でた。そして、あろうことか私の頬に手を移動させる。一気に顔から火が出るほど恥ずかしい気持ちが生まれる。思わず目を見開き、アレンを見つめた。アレンの手の温もりと感触が、頭の時とは違い、直に私の肌に伝わる。緊張で身体が少し震えているのが分かる。
「ふふっ、成長したなカグラ。強くなっただけじゃなく、さらに可愛くなった」
「~~っ///」
アレンの言葉に私はこれ以上にない幸福感を覚え、頭がクラクラするのが分かった。そして、思わずバランスを崩してしまう。
「おっと、大丈夫か?」
「……うな」
アレンは私の肩を掴み、支えてくれる。
「ん?」
「あ、あんまり、そういうことを、言わないでくれ…その、嬉しいけど…とても恥ずかしい」
私は震える声で呟くように伝えた。アレンは少し目を見開き、驚いているようであった。
「わりー、わりー、いじめすぎたかな?」
アレンは悪びれもなく笑って見せた。そんなアレンの姿に、私も思わず笑ってしまう。そして気付く。私がアレンという男に惹かれた一番の理由は、強さでも、かっこよさでもない。この、屈託のない、笑顔なのだと。
 
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