| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機龍の征服者

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

公爵

「ああ、公爵でいい。あなたとは一緒に戦う仲間だ。勇者様」、とヴィノグラートがへりくだる。
「アルバートでいいよ」
「では、せめて敬称で呼ばせてくれ。勇者殿」
「好きにしろ。で、バーグマンと何を話せばいいんだ?」
「うむ、単刀直入に言うと、勇者殿と国王お二人に関わる話だ」
というなり、彼は人払いをさせた。誰もいなくなると声を潜めて露骨に言う。「ルルティエ討伐の暁には残骸をこちらに引き渡していただきたい」
それはアルバートにとってとうてい呑めない条件だった。ルルティエはゲームのキャラクターだ。版権はアルバートとバーグマンにある。いくら魔王を倒した英雄であっても、他人に所有権がある物を、おいそれと手放すわけにいかない。ましてや、ゲームのキャラだ。
だが、相手はスコットランド公国。つまり、封建国家。中世的世界観のRPGにおいて絶対君主主義をとる国においては王の命令は絶対的に優先する。しかし、この国の王様がそんな命令を出すとも思えない。なにか事情がありそうだ。
さあ、どんな言い訳をするのか。と興味深く聞いてみると。
「ううっ…….うぅ……..ふぐ」嗚咽するばかりで言葉にならない。
「あの〜。もしもし。ちょっと。」
どうも要領を得ない。しばらく考えてようやくわかった「あっ、もしかして。俺がいなくなったと思って心配してくれたんですか?」。どうもそうみたいだ「はは、馬鹿だなぁ」涙がこみ上げてくる。「大丈夫だよ。ほら元気でしょ」両手をバタつかせて見せると安心したようだ。それから、二人でこれからのことを話し合うことにした。まず、アルバートはルルティエ討伐に最後まで付き添うつもりはないと説明した。そもそもアルバートは戦闘向きではない。むしろ苦手分野だ。そして、自分はもう若くない。老後を考えねばならない歳だ。いつまでも冒険者稼業を続けるつもりもない。
「ということでだ。今回の作戦はお前に任せたいと思う」
「待ってくれ。アルバートはどうするつもりなんだ」
「俺は、どこか田舎に家を建てようと思っている。幸い、こっちに持って来れなかった物もあるしな」
と言って鞄の中を見せる「これじゃ、ないよ。僕が探してるのは」
「ああ、知ってるよ。でも、まあ、あれだ。これは俺からのプレゼントだ。あとは任せたぜ」
「アルバート!!」
彼は荷物を抱えて、去っていった「じゃあな、頑張れよ。相棒」
そして、決戦の朝がやって来た。
ルルイエが近づくにつれ空気が変わった。重苦しく生臭い海臭さと腐乱した肉のような腐敗した臭い。それに潮の香りも混ざっている。まるで地獄の釜が開いたような有様だ。「いよいよ、ご対面かな」「だろうな。行くぞ、ヴィノグラート」
「了解だ」
一行はドラゴンの巣を急襲し、ルルティエ・ド・ゲヌビの首魁を叩こうとしていた。
巣に踏み込むと同時に視界は闇に包まれた。何も見えない完全な暗黒。ただ息遣いと金属音、足音の響く洞窟の深淵だ。松明に灯した光さえ吸い込まれる漆黒の空間は異次元の入口か何かのように見える「どうする。アルバート」「決まってるだろ」
「進むしかないよな」と剣を握り直す「ああ、そのとおりだ」
闇の中に一筋の閃光が走る。
続いて鼓膜を引き裂く高周波が響いた「うわあ!」耳をつんざく音がアルバートの平衡感覚を奪い去る「落ち着け。敵だ」
「わかってるよ」と言いながら目と耳に意識を向ける。しかし、「クソッ、駄目だ」目が霞み音が聞こえない「毒霧を使われたのか」と歯噛みする「えーっと、何がいるんだ?」
「おそらくドラゴンだ」
そして再び閃光が走り、アルバートの頭上で破裂音が轟いた「危ねえなあ」思わず舌打ちする「下がってくれ、私が倒す」というが早いか、次の攻撃が来る「またかよ」アルバートは飛びずさってかわすと、反撃に転じる アルバートの斬撃を受けた相手が苦痛の雄叫びを上げる。ドラゴン特有の金切り声で耳がおかしくなる。ドラゴンは身をひるがえし逃げようとしたが「逃がしゃしない」アルバートの追撃を受けて、致命傷を受ける。そして力尽き倒れこんだところを切り刻まれた「これで全部か」
「ふう、なんとか勝てたか」
アルバートは額の汗を拭った 。そして「いや、違う」慌てて振り向いて、後ろで見ていた仲間を呼んだ。
「大丈夫ですか!」「今助けます!」「待って、まだ息がある」三人は傷だらけの戦士に駆け寄った。
彼は最後の一撃が命中する瞬間、アルバートを蹴り飛ばし、身代わりになって攻撃を受けていたのだ。そして今も必死に声を絞り出そうとしていた「うぅ・・う・あ、アルバート」
「無理に喋らないで下さい」
彼の体は見るからに重症だった。肩口に深い切創が走っているし、腹には大きな刺傷がある。
さらに背中と脇に火傷を負っている「ポーションならあります。使ってください」
「ううっ・・・すまん」
回復薬を飲んでからしばらくして、彼は少しだけ口を開いた「どうしてここに? はは、私も老けたものだ。すっかり錆び付いてしまってる」
「何言ってんだバーグマン。冗談言うのもいい加減にしろよ」
しかし、いつもと違って反応がない。顔色がどんどん悪くなっていく アルバートは嫌な予感に襲われた。まさかと思った。だが考えれば考えるほど不安は的中しているように思えた「どうしたんだよ? 具合悪いのか」と額に手を伸ばした すると彼は弱々しく笑った そしてそのまま動かなくなった「・・・嘘だろ? そんな馬鹿な」
「残念だけど、どうやら手遅れみたいね」
そう呟いて彼は懐から一本のガラス瓶を取り出した。中身はよく分からない緑色の液体が入っている。彼はそれを一気に飲み干した「うう・・・まずい」彼は咳込みながらも立ち上がった。そして、もう一度アルバートの手を取る「もう心配はない」
彼は静かに微笑んだ そして、その笑顔を見たまま、アルバートの世界から一切の色が失われた **「ちょっといいかしら? どう思う」「そうだなあ。あの男は死んで当然のクズだ」男の一人、スキンヘッドで髭面の男が吐き捨てるように言った「まあまあ、あなた達の意見ももっともですけど。でも、これからどうします? あんな死に損ない放っておいて殺しません?」女の一人が、物騒な提案をした。
そして彼女は小ぶりなナイフを指先でクルリクルりと弄んでいる「どうでも良いよ。どうせ死んだし。なにかあるのかい?」もうひとりの男はやや冷淡に告げた。彼は短髪に黒縁眼鏡で、一見して優等生といった風貌をしている「それならさあ。あたしにいいアイデアがあるんだけど、乗ってみなぁ~い?」赤毛の女は甘ったるい猫撫で声で話しかける「ふうん」「ほう」二人が興味を持ったようだ「あいつ、どう見ても童貞よね? つまり、未経験者だわ」二人の男の目つきが変わった。彼らは揃って下卑た笑いを浮かべる。
「だからなんだっていうんだい」男は不機嫌な口調で応じる「男って処女に弱いじゃない。そこで相談なんだけど、あそこに居る坊やはどうなのかしら」女の視線を追うとアルバートの姿があった「なるほどな。それは一理ある」二人は納得したような態度を取った「だしょ。それにさ、もし上手くいったら。報酬に二百万クレジット出すって言われたんだけぇどぉ」
女の瞳は金貨の様に爛々と光っている
「おい。おまえら、こんな時にふざけてる場合か!」アルバートは思わず怒鳴りつけた「まあ落ち着けよアルバート。俺達は仕事に真剣に取り組むべきだぜ」
男はアルバートの腕を掴むと、そのまま路地裏へと引きずり込んだ「ちょ、やめろよ! 俺は関係ない」
抵抗むなしく男の仲間に引き込まれた「ほーら、やっぱり、ここだ。この膨らみだ。間違いねえ!」
男が乱暴にスカートを捲ると同時に、アルバートは下着ごと股間を握り潰される激痛に悲鳴をあげた「ギャアァァ!」あまりの苦痛に涙が溢れる「ははは。なにビビッてんだ。まだ何もやってねえだろ」もう一人の仲間が笑う「い、命だけは・・・」
その時、男の後頭部に鈍器のような硬い物が激突した「ぐえっ!?」男が崩れ落ちると同時に何かの影が視界に入った。「こっちだ!」アルバートは慌てて建物の陰に飛び込むと走り出した。背後で争う声が聞こえたが、なんとか振り切った「危なかったなアルバート」そこには見慣れぬ格好をした見知らぬ女性が居た。
女性は丈の長いコートを羽織っていた。袖は無く肩が出ている。さらに胸元が大きく開きヘソが見えていた。また、下半身も露出気味で、足元は編み上げ靴を履いている「あ、ありがとう。助けてくれて」息を整えながら感謝を述べる。女性からは微かに花の香りがした「礼には及ばない。しかし、ここはドラゴンの勢力圏だ。一人で行動するのは危険だ」
彼女は、そう言って歩き始める。アルバートもすぐに後を追った「バーグマンを見なかったか? 彼はドラゴンと戦うと言っていた」アルバートは先を行く彼女に問いかける「私達が駆けつけた時、既にドラゴンは立ち去ったあとだった。残念だが間に合わなかったのかもしれない」「そんな!」絶望に心が折れそうになる。しかし、ここで諦めるわけにはいかない「・・・私はカルバート・ライル・ドイルと言う。カルバートと呼んでくれ」「カルバートか。私はアルバート・フレイ・ロックウェルだ」
彼女は振り返ると、手を差し伸べてきた。どうも欧米人の行動はよくわからないが、握手は文化の基本だと本で読んだ事がある。彼女の手を握る「カルバート、あなたは何故ここに? まさかとは思うが、この先の魔龍の巣に行くつもりじゃ無いだろうな? 奴らは危険な相手だ。今の君では殺されるのがオチだぞ」 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧