| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機龍の征服者

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ざらついたコンクリート壁

ざらついたコンクリート壁だ。非常灯はついている。自家発電設備がまだ生きているらしい。
「上だ。階段を昇れ。電気系統の制御室に逃げ込めば雷龍も混乱するだろう」
「マーサが」
リズはおばあちゃん子であるらしく、しきりに名前を叫ぶ。
「大丈夫だ。オタクのオッサンが助けてくれる」
「本当?」
「本当だ。あいつは龍の倒し方を知っている」
口から出まかせでも何でもいい。リズを空手形で勇気づけ、負ぶった、
そのまま対面通行不可能な狭い階段を急いだ。3階のフロアに変電設備があった。
モニターが所狭しと並べてあり、職員が座っていた場所に消し炭が散らばっている。
ノートパソコンの画面にウインドウが重なっていて、リアルタイムで情報を更新している。
「どうやら、ここならしばらく凌げそうだ」
バーグマンが入口付近にラックや椅子を積み上げてバリケードを築いた。
彼一人で作業する間、アンジェラがずっと泣いていた。

「ブラックフライデーのお買い物をしに来たの」
リズが言うには、リチャードの提案で近所に住むヘンリー夫妻を誘ってモールへ来た。
車はアンジェラが運転した。一族はどこにでもいる普通で善良な市民だ。
リチャードは格闘家風だがシステムエンジニアだ。肉体美は趣味だそうだ。
そして彼はサイバーマンデーという言葉が大嫌いだった。
「コンピューター関連職なのにどうして?」
バーグマンの問いに彼女は好きで選んだ道じゃないから、と返した。要するに食い詰めて仕方なく手に職を付けたパターンだ。
「わたし、テンノウドーをおねだりしたの」
リズはスカートのポケットからワオのゲームチップを取り出した。
残念ながらドラゴン・イコライザーではない。当たり前だ。本日発表なのだから。予定だったが。
「でも、あの人ったらかなり無理をしていたらしいの」
女の隠しておきたい一面が現れた。妻は夫の転職活動が芳しくない事実を知っていた。面接に行くと言って明け方まで戻らない。その頻度がここ数週間の間、増加傾向にあった。
「ああ、なるほど」
それ以上は詮索する価値も意味もない、とバーグマンは判断した。
よく女の性悪を指摘するとフェミニスト団体の回し者から猛反発を受けるというが、男の腐り具合もなかなかのものだ。
リチャードは細君に二枚舌を使う。ならば、マーサの夫もそうだろう。蛙の子は蛙という奴だ。
おぼろげながらルルティエのアルゴリズムが見えてきた。奴は腐っても鯛、いや守護龍神であるらしく、忠実に役目を果たしている。
すなわち、勧善懲悪だ。
ヘンリーとリチャード親子は食われるべくして食われた。
「リズ、よく聞くんだ」
バーグマンは噛んで含めるように女性たちを諭す。
「うん」、と素直に頷く少女。
「いい子にしているんだ。お母さんの傍を離れちゃいけない。そして、よく大人のいう事を聞きなさい。あの怪物は悪い大人たちを栄養にしている。リズが悪い子にならないようにアンジェラも見守ってあげてくれ」
そういうと、彼はとっ散らかったスチール机から瓦礫をすっかり除去した。そこにまだ使えそうなノートパソコンを並べた。
電源と通信ケーブルはまだ稼働してるらしく、ためしにネットニュースのライブ配信サイトにアクセスしてみると、無人のスタジオが実況されていた。
「よし、今夜はこれで行けそうだ」
バーグマンはアルバートに劣らないコンピュータースキルを持っている。
ノートのUSBポートにLANケーブルを接続し、ショッピングモールの制御システムに侵入した。
そして、館内の電気系統を隅々まで把握した。といっても、肉眼で構内配電線路を追っていては夜が明けてしまうので即興のアプリに代行させた。
「何をしていますか、あなた」
アンジェラが心配そうにのぞき込む。その揺れる胸元は目の毒だ。どぎまぎしてしまう。
「ええ、あの、ドラゴン除けの対策を講じているところです。3階のフロアに介護ロボットのショウルームがありましてね。展示用のロボットに二足歩行できる機種があるようです。そいつらに避雷針を持ってこさせましょう」
「素人のわたしにはさっぱりわかりません。それでリズが助かる保証は」
「ええ、あります」
バーグマンは目のやり場に困りながらしどろもどろに説明した。
この部屋を囲むように雷サージ対策機器を設置する。それでルルティエは除けられるはずだ。
「よかった」
母親は緊張の糸が途切れたのか、意識を失った。そのまま、バーグマンに覆いかぶさる。
「奥さ…ちょ…」

「それは本当の話ですか」
ひしゃげたシャッターの隙間から男女のひそひそ話が聞こえる。ここは荒廃したショッピングモールのキッズコーナー。
泥だらけのぬいぐるみやゲームソフトがまるで空爆の直撃を受けたかのように散乱している。
「ええ、ヘンリーが現役時代にドーバー海峡で確かに見たんです」
「具体的な場所はわかりませんか? それらしい手がかりやヒントになるような事は?」
アルバートのしつこい追及にも老婆は寛大な心で臨んだ。壁の配電盤から無理やりにタコ足配線した玩具のLEDが頼りなげにほのめいている。
「そうね…」
彼女はしばしこめかみを揉んだのち、明確な地名を示した。
「カンタベリーの近く、ガストンだったかしら。お城が下に見えたと言ってたわ」
聞き流しながらアルバートがテンノウドーを乱打する。手のひらサイズの液晶画面に芥子粒のようなフォントが並んだ。
エンターキーを打てば響くように検索結果一覧が並んだ。

‷セントマーガレッツ・アット・クリフのお城ですか?”
検索エンジンが候補をいくつか画像でサジェストしてくれる。
「そうよ! ドーヴァー城よ」
マーサは宝くじに当選したかのように言う。アルバートはつくづく実感する。彼女が生き残っていてくれてよかったと。
ネットのアクセス手段を確保すべく、家電製品売り場を物色していた。最初はそこでモバイルルーターとパソコンを確保しようとしたのだ。
ところが崩落した天井に目論見が打ち砕かれた。めげずに彼はおもちゃ売り場に望みをつないだ。
4Dワオのブラウザー機能はペアレンタルロックが掛かっていてアクセス制限が厳しい。
開発者ならば容易に解除できる。彼は首尾よくテンノウドーと専用Wi-Fiルーターのセットを確保した。
そこで途方に暮れているマーサと再会した。彼女は娘のためにブラックフライデーの買い物に来たと証言した。
ヘンリーと最後に手を取り合った場所だという。
「あら、あなた。これもリズが喜びそうね」
「あまり無駄遣いするんじゃないぞ」
夫婦の会話はそれっきりになった。
「残念ながらご主人を救えなかった。しかし、お孫さんに元気な顔を見せないと」
アルバートは安楽死を願う老婦人をどうにかなだめすかした。その間にライブカメラ経由で周囲の安全を把握した。
「兎も角、ヘンリー氏が第二次大戦中にルルティエを目撃したのは間違いないのですね」
マーサは弱々しく頷いた。未確認飛行物体の目撃情報を空軍パイロットはあまり話したがらない。
黙っていなければ、操縦桿を握らせて貰えなくなるからだ。しかし常軌を逸していない同僚が複数の龍を飛行中に捉えている。
それは戦闘機のガンカメラに収録されているはずなのだが、空軍は黙殺し続けていた。
祖国が未知の脅威にさらされている。その事実を墓場にもっていく行為は守るべき大衆に対する重大な裏切りだという呵責と守秘義務の狭間でヘンリーは苦しんで来た。
その重荷に気づいたマーサは「何か言えない秘密があるんじゃないの」と夫を促しつづけた。
それが夫婦の疑心暗鬼を深め、ヘンリーは飲み歩くようになった。夫が秘密を少しずつ話すようになったのはマーサが当てつけに男漁りをはじめだしてからだ。
「あまり思いつめないでください。ご主人も悪いんじゃない。ルルティエに鈍感な軍と政府が悪いんだ」

解放的なアンジェラを瀬戸際であしらった。ここに来るまでリカーコーナーでボトルを開けたらしい。
酒気帯び運転はバーグマンにとって神に背く行為だ。「リズの前だぞ」と一喝して黙らせた。
今、母娘は重なり合うように寝ている。
彼は介護用ロボットを操って制御室を囲むように雷サージ装置——落雷の際に過電流がコンセントから電化製品に伝わってショートさせてしまう事故から防いでくれる機械だ——を配置した。
これでルルティエは進入できないだろう。
安堵した途端に小腹がキュッと鳴った。作業に没頭するあまり、寝食を忘れていた。確か、フードコートに冷凍食品と業務用のレンジがあった。
バーグマンはピザとチキンナゲットとレンジ本体をロボットに運ばせた。籠城戦を覚悟したからだ。
自分用に一食分加熱し、頬張りながら館内とモール周辺の警戒監視を済ませた。今のところ敵の兆候はない。その作業にも眼精疲労を覚えたので専用のスクリプトを書き下ろした。
画像解析フィルターを濾過して、いくつかのパターンを条件定義した。それらしい怪異を発見したら警報が作動する仕組みだ。
これでようやく横に成れる。
夜半過ぎにリズが起き出したので、食品パッケージをいくつか解凍した。
「いつまでここにいるつもりなの?」
アンジェラはノートPCのフロントカメラを姿見代わりにして、手櫛で髪を整えている。
彼女が言いたいことはだいたい想像がつく。だから、女は扱いづらい。
バーグマンは黙ってキーボードを叩いた。自走式の介護ベッドとロボットを遠隔操作して、ショッピングモールを徘徊させた。
可能な限り平坦なルートを巡り、化粧品や生理用品や着替えを買い物かごに放り込む。それを制御室の前まで運ばせた。
「どうしてわたしに相談してくれないの」。非常灯はついている。自家発電設備がまだ生きているらしい。
「上だ。階段を昇れ。電気系統の制御室に逃げ込めば雷龍も混乱するだろう」
「マーサが」
リズはおばあちゃん子であるらしく、しきりに名前を叫ぶ。
「大丈夫だ。オタクのオッサンが助けてくれる」
「本当?」
「本当だ。あいつは龍の倒し方を知っている」
口から出まかせでも何でもいい。リズを空手形で勇気づけ、負ぶった、
そのまま対面通行不可能な狭い階段を急いだ。3階のフロアに変電設備があった。
モニターが所狭しと並べてあり、職員が座っていた場所に消し炭が散らばっている。
ノートパソコンの画面にウインドウが重なっていて、リアルタイムで情報を更新している。
「どうやら、ここならしばらく凌げそうだ」
バーグマンが入口付近にラックや椅子を積み上げてバリケードを築いた。
彼一人で作業する間、アンジェラがずっと泣いていた。

「ブラックフライデーのお買い物をしに来たの」
リズが言うには、リチャードの提案で近所に住むヘンリー夫妻を誘ってモールへ来た。
車はアンジェラが運転した。一族はどこにでもいる普通で善良な市民だ。
リチャードは格闘家風だがシステムエンジニアだ。肉体美は趣味だそうだ。
そして彼はサイバーマンデーという言葉が大嫌いだった。
「コンピューター関連職なのにどうして?」
バーグマンの問いに彼女は好きで選んだ道じゃないから、と返した。要するに食い詰めて仕方なく手に職を付けたパターンだ。
「わたし、テンノウドーをおねだりしたの」
リズはスカートのポケットからワオのゲームチップを取り出した。
残念ながらドラゴン・イコライザーではない。当たり前だ。本日発表なのだから。予定だったが。
「でも、あの人ったらかなり無理をしていたらしいの」
女の隠しておきたい一面が現れた。妻は夫の転職活動が芳しくない事実を知っていた。面接に行くと言って明け方まで戻らない。その頻度がここ数週間の間、増加傾向にあった。
「ああ、なるほど」
それ以上は詮索する価値も意味もない、とバーグマンは判断した。
よく女の性悪を指摘するとフェミニスト団体の回し者から猛反発を受けるというが、男の腐り具合もなかなかのものだ。
リチャードは細君に二枚舌を使う。ならば、マーサの夫もそうだろう。蛙の子は蛙という奴だ。
おぼろげながらルルティエのアルゴリズムが見えてきた。奴は腐っても鯛、いや守護龍神であるらしく、忠実に役目を果たしている。
すなわち、勧善懲悪だ。
ヘンリーとリチャード親子は食われるべくして食われた。
「リズ、よく聞くんだ」
バーグマンは噛んで含めるように女性たちを諭す。
「うん」、と素直に頷く少女。
「いい子にしているんだ。お母さんの傍を離れちゃいけない。そして、よく大人のいう事を聞きなさい。あの怪物は悪い大人たちを栄養にしている。リズが悪い子にならないようにアンジェラも見守ってあげてくれ」
そういうと、彼はとっ散らかったスチール机から瓦礫をすっかり除去した。そこにまだ使えそうなノートパソコンを並べた。
電源と通信ケーブルはまだ稼働してるらしく、ためしにネットニュースのライブ配信サイトにアクセスしてみると、無人のスタジオが実況されていた。
「よし、今夜はこれで行けそうだ」
バーグマンはアルバートに劣らないコンピュータースキルを持っている。
ノートのUSBポートにLANケーブルを接続し、ショッピングモールの制御システムに侵入した。
そして、館内の電気系統を隅々まで把握した。といっても、肉眼で構内配電線路を追っていては夜が明けてしまうので即興のアプリに代行させた。
「何をしていますか、あなた」
アンジェラが心配そうにのぞき込む。その揺れる胸元は目の毒だ。どぎまぎしてしまう。
「ええ、あの、ドラゴン除けの対策を講じているところです。3階のフロアに介護ロボットのショウルームがありましてね。展示用のロボットに二足歩行できる機種があるようです。そいつらに避雷針を持ってこさせましょう」
「素人のわたしにはさっぱりわかりません。それでリズが助かる保証は」
「ええ、あります」
バーグマンは目のやり場に困りながらしどろもどろに説明した。
この部屋を囲むように雷サージ対策機器を設置する。それでルルティエは除けられるはずだ。
「よかった」
母親は緊張の糸が途切れたのか、意識を失った。そのまま、バーグマンに覆いかぶさる。
「奥さ…ちょ…」

「それは本当の話ですか」
ひしゃげたシャッターの隙間から男女のひそひそ話が聞こえる。ここは荒廃したショッピングモールのキッズコーナー。
泥だらけのぬいぐるみやゲームソフトがまるで空爆の直撃を受けたかのように散乱している。
「ええ、ヘンリーが現役時代にドーバー海峡で確かに見たんです」
「具体的な場所はわかりませんか? それらしい手がかりやヒントになるような事は?」
アルバートのしつこい追及にも老婆は寛大な心で臨んだ。壁の配電盤から無理やりにタコ足配線した玩具のLEDが頼りなげにほのめいている。
「そうね…」
彼女はしばしこめかみを揉んだのち、明確な地名を示した。
「カンタベリーの近く、ガストンだったかしら。お城が下に見えたと言ってたわ」
聞き流しながらアルバートがテンノウドーを乱打する。手のひらサイズの液晶画面に芥子粒のようなフォントが並んだ。
エンターキーを打てば響くように検索結果一覧が並んだ。

‷セントマーガレッツ・アット・クリフのお城ですか?”
検索エンジンが候補をいくつか画像でサジェストしてくれる。
「そうよ! ドーヴァー城よ」
マーサは宝くじに当選したかのように言う。アルバートはつくづく実感する。彼女が生き残っていてくれてよかったと。
ネットのアクセス手段を確保すべく、家電製品売り場を物色していた。最初はそこでモバイルルーターとパソコンを確保しようとしたのだ。
ところが崩落した天井に目論見が打ち砕かれた。めげずに彼はおもちゃ売り場に望みをつないだ。
4Dワオのブラウザー機能はペアレンタルロックが掛かっていてアクセス制限が厳しい。
開発者ならば容易に解除できる。彼は首尾よくテンノウドーと専用Wi-Fiルーターのセットを確保した。
そこで途方に暮れているマーサと再会した。彼女は娘のためにブラックフライデーの買い物に来たと証言した。
ヘンリーと最後に手を取り合った場所だという。
「あら、あなた。これもリズが喜びそうね」
「あまり無駄遣いするんじゃないぞ」
夫婦の会話はそれっきりになった。
「残念ながらご主人を救えなかった。しかし、お孫さんに元気な顔を見せないと」
アルバートは安楽死を願う老婦人をどうにかなだめすかした。その間にライブカメラ経由で周囲の安全を把握した。
「兎も角、ヘンリー氏が第二次大戦中にルルティエを目撃したのは間違いないのですね」
マーサは弱々しく頷いた。未確認飛行物体の目撃情報を空軍パイロットはあまり話したがらない。
黙っていなければ、操縦桿を握らせて貰えなくなるからだ。しかし常軌を逸していない同僚が複数の龍を飛行中に捉えている。
それは戦闘機のガンカメラに収録されているはずなのだが、空軍は黙殺し続けていた。
祖国が未知の脅威にさらされている。その事実を墓場にもっていく行為は守るべき大衆に対する重大な裏切りだという呵責と守秘義務の狭間でヘンリーは苦しんで来た。
その重荷に気づいたマーサは「何か言えない秘密があるんじゃないの」と夫を促しつづけた。
それが夫婦の疑心暗鬼を深め、ヘンリーは飲み歩くようになった。夫が秘密を少しずつ話すようになったのはマーサが当てつけに男漁りをはじめだしてからだ。
「あまり思いつめないでください。ご主人も悪いんじゃない。ルルティエに鈍感な軍と政府が悪いんだ」

解放的なアンジェラを瀬戸際であしらった。ここに来るまでリカーコーナーでボトルを開けたらしい。
酒気帯び運転はバーグマンにとって神に背く行為だ。「リズの前だぞ」と一喝して黙らせた。
今、母娘は重なり合うように寝ている。
彼は介護用ロボットを操って制御室を囲むように雷サージ装置——落雷の際に過電流がコンセントから電化製品に伝わってショートさせてしまう事故から防いでくれる機械だ——を配置した。
これでルルティエは進入できないだろう。
安堵した途端に小腹がキュッと鳴った。作業に没頭するあまり、寝食を忘れていた。確か、フードコートに冷凍食品と業務用のレンジがあった。
バーグマンはピザとチキンナゲットとレンジ本体をロボットに運ばせた。籠城戦を覚悟したからだ。
自分用に一食分加熱し、頬張りながら館内とモール周辺の警戒監視を済ませた。今のところ敵の兆候はない。その作業にも眼精疲労を覚えたので専用のスクリプトを書き下ろした。
画像解析フィルターを濾過して、いくつかのパターンを条件定義した。それらしい怪異を発見したら警報が作動する仕組みだ。
これでようやく横に成れる。
夜半過ぎにリズが起き出したので、食品パッケージをいくつか解凍した。
「いつまでここにいるつもりなの?」
アンジェラはノートPCのフロントカメラを姿見代わりにして、手櫛で髪を整えている。
彼女が言いたいことはだいたい想像がつく。だから、女は扱いづらい。
バーグマンは黙ってキーボードを叩いた。自走式の介護ベッドとロボットを遠隔操作して、ショッピングモールを徘徊させた。
可能な限り平坦なルートを巡り、化粧品や生理用品や着替えを買い物かごに放り込む。それを制御室の前まで運ばせた。
「どうしてわたしに相談してくれないの」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧