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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第八十話 地下神殿の死闘・後編


 巨人型スライム『這い上がるモノ』と、トリステイン王国のマンティコア隊とコマンド隊との戦闘が開始され、各隊はの奮闘は続いていた。

 魔力無限のチート能力を持つマクシミリアンと違い、普通のメイジは長時間魔法使い続けることは出来ない。

 マンティコア隊だけでは戦力が足りなくなる感じたマクシミリアンは司令部に連絡すると、ジェミニ兄弟によって他の魔法衛士隊のグリフォン隊とヒポグリフ隊が突入準備を整えていると申告してきた。

『事後承諾になりますが』

 と最後に締めくくられた文面を読む。

『今回は助かったが、事前に連絡はしておいてくれ』

 司令部へ返信した。

「諸君! 間もなく援軍が到着する、それまで頑張ってくれ!

『御意!』

 勇気百倍のマンティコア隊は、更なる攻撃を『這い上がるモノ』へ加えた。

 一方のコマンド隊はというと、銃弾が効かない為、持ってきたトリステイン製ダイナマイトを麻袋に入れ『這い上がるモノ』へ投擲し爆破破壊する攻撃法で戦っていた。
 何故麻袋に入れるのかは、ダイナマイトを直接投げ込んでも、スライムの粘液で導火線の火が消えてしまう事を考慮しての事だった。

「それ、放り投げろ!」

「おらぁ~~!」

 無数の麻袋が『這い上がるモノ』に投げられ、べちゃべちゃと粘性の正面にくっ付いた。

「伏せろ!」

「グレネードォー!」

 隊員の警告の数秒後、強烈な爆音と爆煙が神殿内を包む。

 濛々と神殿内を包む煙の中、マクシミリアンは『這い上がるモノ』の姿を目からサーチライトで探した。

「マクシミリアンさま、見つけられましたか?」

「ああ、巨人スライムを見つけた」

 マクシミリアンは煙の中から『這い上がるモノ』を見つけ出した。

「カトレア、風魔法で煙を除去してくれ」

「分かりましたマクシミリアンさま」

 カトレアが杖を振るうと『這い上がるモノ』の周辺の煙が四散した。

「ち、所々削れてるが、巨人スライムは健在だ」

 マクシミリアンの言うとおり、『這い上がるモノ』の身体は所々欠損していたが未だ健在で、その欠損部分も時間と共に再生していった。

「陛下! 間もなくグリフォン隊とヒポグリフ隊が到着するとの事にございます!」

 マンティコア隊隊長のド・ゼッサールが、マクシミリアン達の所へわざわざ『フライ』で飛んできて報告してきた。

「あい分かった。後詰が到着したらマンティコア隊を下がらせ休憩を取らせろ」

「御意にございます」

 そう言ってド・ゼッサールはマンティコア隊の所へ戻っていった。

「コマンド隊にも後退命令を出そう」

「それでしたら、わたしが伝えますわ」

「ウォーター・ビット通信の使い方は分かるな」

「はい」

 カトレアはコマンド隊にも後退命令を出し、地下神殿の戦闘は第二ラウンドに移ろうとしていた。







                      ☆        ☆        ☆





 マンティコア隊とコマンド隊に変わって、グリフォン隊とヒポグリフ隊が投入され、『這い上がるモノ』と戦闘が繰り広げられていた。

 マンティコア隊はコマンド隊は迷宮側に後退し、補給と手当てを受けていた。

「うう、痛てぇ……」

「傷は浅いぞしっかりしろ」

 衛生兵役のメイジは、『這い上がるモノ』の溶解液で表面が溶けたマンティコア隊隊員の腕に『ヒーリング』をかけていた。

 死者こそ居なかったものの、重傷者多数で中には手足を溶解液で欠損した者まで居て、通路内は負傷者の悲鳴と流れる血でで地獄絵図の様相を呈していた。

 着いて来たアンリエッタとルイズは青い顔をしながらその光景を遠巻きに見ていた

「なんて酷い……」

「姫様は無事なのですか?」

「大丈夫じゃないですけど、何とか手助けをしてあげたいわ」

 そう言うとアンリエッタは衛生兵の所へ行き、

「私も『ヒーリング』ぐらいなら使えます。手伝わせて下さい!」

 と言った。

 衛生兵は驚いた顔でアンリエッタの顔を見た。

「お言葉ですが王妹殿下。万一負傷した隊員が王妹殿下に無礼を働くやもしれません。王妹殿下は後方で我らの働きを見ていてくだされば我らの士気も上がりましょう」

 と否定的なニュアンスで、それとなくアンリエッタに言った。

「でも……私はみんなの役に立ちたいの」

「そのお心だけで十分でございます」

 やんわりと断る衛生兵にアンリエッタは焦りを覚えた。

(このままじゃ、押し切られちゃう……!)

 どう説得したものかと、アンリエッタは通路を見ると負傷者の数に対して衛生兵の数は少ない事に気付く。

「怪我人の数より水メイジの数が少ないです。効率を考えて私にも手伝わせて下さい!」

「それは……」

 最近のトリステインは、効率を重視する傾向だった為、この説得は効果があった。

「ううむ、分かりました。ですが精神切れを起こさないように注意をお願いします」

「もちろんです。あなた方に迷惑は掛けさせません」

「分かりました。では王妹殿下には比較的軽症の彼らを手当てして頂きます」

「分かりました」

 自分の仕事を見つけたアンリエッタは衛生兵達の輪に入った。

「アンリエッタ様、どちらへ」

「アニエス、私これから衛生兵の手伝いをするから」

「ああ!? お待ち下さい!」

 アンリエッタを放って置くわけにもいかずアニエスも衛生兵の輪の中に入った

 一方ルイズは、働ける場所を得て楽しそうなアンリエッタを寂しげな目で見ていた。

 ……

 ルイズはこの歳になっても魔法が使う事ができなかった。
 数日前、ラ・ヴァリエール家では家人達がヒソヒソとルイズの行く末を案じて話しているところを偶然聞いてしまった。

『ルイズお嬢様は今日も奥様に叱られて……』

『10歳をお過ぎになられても、魔法がお出来になられないなんて』

『王妃様はあんなに素晴らしいお方なのに……』

『なんて不憫な御方なのでしょう』

『まったくだわ……将来貰い手があるのかしら』

 日頃から王妃の妹という境遇がルイズの劣等感を刺激し、言いようの無い焦りと行き場の無い劣等感をルイズにいだかせていた。

「魔法が使えなくたって、私は貴族。逃げない事が貴族なのよ!」

 自分自身に言い聞かせて、ルイズは地下神殿へと戻っていった。
 野戦病院特有の喧騒がルイズの姿を掻き消し、彼女が地下神殿へ走り去るのに誰も気付く事がなかった。







                      ☆        ☆        ☆






 地下神殿の戦闘第二ラウンドは、グリフォン隊とヒポグリフ隊が、終始有利を保っていた。

 『這い上がるモノ』が液状である為、何らかの攻撃をしようとすればマクシミリアンの氷結魔法でたちまち凍りつかされ、『這い上がるモノ』は手も足も出ない状態だったが、トリステイン側は効果的な攻撃法が見つからず時間ばかりが無駄に過ぎていった。

「タフな敵だ、各員は精神の無駄使いに注意」

 マクシミリアンが指令を出し、膠着状態がさらに続いた。

 『這い上がるモノ』を倒す方法はあると言えばある。
 それはマクシミリアンの切り札、『目から破壊光線』だったが、シャジャルの警告以来、破壊光線を封印していた。

「マクシミリアンさま、これではきりがありませんわ」

「……カトレア、少し時間稼ぎをしてもらっていいか?」

「何か策がおありなのですか?」

「まあね」

「畏まりました。フレール!」

『クェ!』

 カトレアが呼ぶと使い魔のフレールが、電撃で『這い上がるモノ』に攻撃を加え始めた。

 一方のマクシミリアンは言うと……

『コンデンセイション』

 水魔法の初歩『コンデンセイション』で空気中の水蒸気で水を作り始めた。

「湿気が強いから、大量の水が作れそうだな」

「マクシミリアンさま、何をなさるお積りなのですか?」

「今は秘密だ。時間稼ぎ頼んだぞ」

 マクシミリアンが『コンデンセイション』で作り出した水玉が10メイルほどの大きさに育つとそれをバレーボール大まで圧縮させた。

「再びコンデンセイションで水玉を10メイルほどまで育ててまた圧縮。もう一度育ててまた圧縮……」

 圧縮圧縮また圧縮……
 圧縮を繰り返した水玉は乳白色にまで変化した。

「マクシミリアンさま……」

「静かに、最後の仕上げだ」

 最後の仕上げとして、大量の水を圧縮させた水玉に、ありったけの魔力をかけて凍らせ、凍らせた水玉の外周を5メイルほどの氷で補強する。

『アイス・ボム』

 と名付けられた超魔法を『這い上がるモノ』目掛けて投擲しようとすると、マクシミリアンはありえない者を見た。

「な!? ルイズ・フランソワーズ!?」

「え!?」

 突如現れた闖入者に、マクシミリアンとカトレアは呆気にとられた。

 ……

 悲鳴と怒号渦巻く通路を抜け、ルイズは『這い上がるモノ』によって破壊された桟橋まで到着した。
 アンリエッタとルイズは後方に下がったと聞いていた為、グリフォンとヒポグリフの各魔法衛士はルイズの侵入に気が付かなかった。

「逃げない事が貴族! 私は名門ラ・ヴァリエール家の三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!」

 ルイズは壊れた石の桟橋の所まで行くと、集中攻撃を受けている『這い上がるモノ』に向けて杖を振るった。

『ファイア。ボール!』

 ルイズはスペルを唱え『ファイア。ボール』を『這い上がるモノ』へ向け放った。

 だが……

 ドカーン!

 火球を出ずに『這い上がるモノ』の右肩が突如爆発を起こした。

「ううううううう! 何で出ないのよ!!」

 ファイア・ボールに失敗して地団太を踏むルイズだったが、爆発の衝撃で足場となった桟橋が崩れ、ルイズは奈落の底へと落ちていった。

「え、やだ!? ちぃねえさま……!」

 落ちるルイスに『這い上がるモノ』は反撃を行おうと、残った左腕でルイズを掴もうとした。

「ルイーーーーーズ!」

 上方からカトレアが、猛スピードで降ってきて、強烈な『エア・ハンマー』放った。

 巨大な破城槌と言ってよいカトレアの『エア・ハンマー』は『這い上がるモノ』の上半身を吹き飛ばし、支えを失った『這い上がるモノ』は奈落の底へと落下して行った。

「掴まってルイズ!」

 落下するルイズにたどり着いたカトレアは、手をルイズに向けその手をとった。

『オオオオォォ!』

 落下しながらも再生を始めた『這い上がるモノ』は、ルイズとカトレアを掴もうと再び手を伸ばすが、急降下で降りてきたフレールの電撃で妨害されてしまった。

 落下しながらカトレアはルイズを抱き寄せる。

「ルイズ大丈夫? どうしてあんな無茶な事したの?」

「ちいねえさま。私、ちいねえさまの自慢の妹になりたかったの」

「そう、でも無理しちゃ駄目よ。ルイズにもしもの事があれば、みんなが心配するわ」

「みんな? お父様やお母様も?」

「それだけじゃないわルイズ。エレオノール姉様も、マクシミリアンさまも、アンリエッタもみんな心配するわ」

「ごめんなさい、ちいねえさま!」

 ぐずりながら謝るルイズをカトレアは愛おしそうに撫でた。

「姉妹のスキンシップ中に申し訳ないが、僕も回収してくれないか?」

「マクシミリアンさま!」

「お義兄様!」

 『アイス・ボム』の上に乗った状態でマクシミリアンも落下してきた。

 『アイス・ボム』を展開中のマクシミリアンはこの時一切の魔法が使えない。

 カトレアはマクシミリアンの手をとってルイズと一緒に抱き寄せた。

「あの氷の塊を何に使うお積りなのですか?」

「アレを奈落の底まで落として起爆させる」

「起爆ですか?」

「あの『アイス・ボム』はその名の通り氷の爆弾だ。火を一切使わない代わりに、超圧縮された水球を凍らせその周りを氷で覆った爆弾。圧力を解放させる事で、最新の爆弾と同程度かそれ以上の爆風を起こさせ、内封した冷気で周囲を氷漬けにし、周りを覆った氷の破片で敵を殺傷する……そういった魔法だ」

「内封した冷気で、あのスライムを氷漬けにするおつもりなのですね」

「その通り、カトレアは起爆させる瞬間、僕達を『エアシールド』で守って欲しい」

「畏まりました」

「ルイズ」

「ひゃ、ひゃい!」

 突如、マクシミリアンに振られたルイズは緊張した様子で応えた。

「言いたいことは山ほどあるがそれは後にしておこう。だが一つだけ言わせて欲しい。あまりカトレアを心配させるな」

「……はい」

 ルイズが壊れた桟橋から落ちた際、カトレアは脇目も振らず救出のために落ちていった時の事を思い出し、その時は肝が冷える想いだった。

「……間もなくだ」

 どれ程落ちただろうか。

 マクシミリアンは『目からサーチライト』で奈落の底を映し、底が近いことを悟った。

「起爆させる。頼んだぞカトレア」

「分かりましたマクシミリアンさま。ルイズもしっかり掴まっていて」

「はい、ちいねえさま」

 マクシミリアンが起爆のルーンを詠み始めると、カトレアは銀の杖を握りなおして起爆に具えた。

『アイス・ボム……デトネイト!』

 カッッ!

 瞬間眩いばかりの閃光が、真っ暗闇の奈落の底を映した。

「今だカトレア!」

「はい! エア・シールド!」

 カトレアが『エア・シールド』を展開させるのと同時に強烈な爆風と冷気が三人を襲った。

 ドゴォォォォォーーー!

 強烈な爆風は、カトレアのエア・シールドを突き破らんと、エア・シールドの見えない壁を大いに叩き付ける。

「うううう!」

「僕も『エア・シールド』を張る、もう少し耐えてくれ!」

「はい!」

 マクシミリアンら三人を覆った『エア・シールド』は『アイス・ボム』の爆風に揉みくちゃにされながらも、マクシミリアンがスペルを唱え終えるまで耐え切った。

「良く耐えたカトレア! 『エア・シールド!』」

 マクシミリアンとカトレアの多重エア・シールドは『アイス・ボム』の爆風と冷気を完全に遮断した。

『オオオ!』

「! 上から巨人スライムが!」

「無視して良い。零下100度以下の中でまともに動けるものなんて居ない」

 マクシミリアンの言うとおり、零下100度の中の『這い上がるモノ』はたちまち凍り付き、何も出来ずに落ちて行き、底に激突して砕け散った。







                      ☆        ☆        ☆







 戦闘後、奈落の底では多くの有識者で編成された調査隊が、防寒着を着て降りてきて周辺の調査を行っていた。

 奈落の底は、『アイス・ボム』の影響で一面銀世界だった。
 気温も零下30度で何か温かいものを羽織っていないと風邪を引きそうだった。
 凍ったカビがこびり付いた壁には、魔法のランプが照明代わりに着けられ一切の明かりが届かない奈落の底を明るくしていた。

「陛下、コートと温かい紅茶にございます」

「ありがとうセバスチャン」

 マクシミリアンは執事のセバスチャンから貰ったコートを羽織り、温かい紅茶を飲みながら調査隊を眺めていた。
 カトレアとルイズもコートを羽織って、メイドコンビから貰った紅茶を飲んでいた。

「ルイズ、寒くない?」

「大丈夫です。ちいねえさま」

「ここには何も無いから、カトレアとルイズは上に戻っていてくれ」

「マクシミリアンさまは、どうなさるのですか?」

「僕は調査隊を話があるから、もうちょっとここに残る」

「分かりました。行ってらっしゃいませ」

「いってらっしゃい、お義兄様」

 ルイズを抱いて地上へと戻るカトレア達にマクシミリアンは手を振って応えた。

「……さて」

 マクシミリアンが調査隊のところに行くと、何やら床を指差して議論をしている。

「どうした何かあったのか?」

「これは陛下」

「実は古代フリース人の物と思しき、人骨を発見いたしました」

 有識者が指差す方には、大小様々な人の骨が折り重なって倒れていて、有識者の言うとおり、この骨達は日の光を避けこの地で最後の時を迎えた古代フリース人の亡骸と推測された。

「トリステイン憎しで人間をやめた連中だったが、こうなってしまっては……な。丁重に弔ってやってくれ」

「……畏まりました」

 無数の人骨を弔うように命令すると、アンリエッタがミシェルに掴まって降りてきた。

「お兄様、お怪我はございませんか?」

「無事だよアンリエッタ」

「ミシェルもご苦労様」

「恐縮でございます陛下」

 奈落の底に降り立ったミシェルは、深々と頭を下げた。

「お兄様、あの人達はどうなったのですか?」

「スライムの事か? それだったら完全に凍り付いて動く事もできないだろう」

 マクシミリアンが顎でしゃくると、その先には凍り付いてバラバラになった『這い上がるモノ』が倒れていて、中の人骨があちこちに散らばっていた。

「お兄様、彼らをどうなさるのですか?」

「知れた事、二度とトリステインにあだ名す事の内容に燃やし尽くす」

「そんな! 可哀想ですお兄様。お止め下さい!」

「おいおいアンリエッタ。少し前に『楽にしてやった方が救われる場合もあるから覚悟しておけ』と言ったとき、お前は何と言った? 僕は覚えているぞ」

「そ、それは……」

「可愛い愛玩動物じゃないんだ。反論は受け付けない」

 マクシミリアンは踵を返して、魔法衛士隊に辺りのスライムを燃やし尽くすように命令を下した。

 魔法衛士隊は、たちまち散らばったスライムを燃やして回る。

 補助としてマクシミリアンは酸欠にならないように、燃やして出た二酸化炭素を酸素に変換し続けた。

 一面の銀世界は、魔法衛士隊の火魔法で溶けていき、やがてカビた奈落の底に変わっていった。

 巨大スライムは、見る見るうちに、炎で溶かされ蒸発していく。

 アンリエッタは、巨大スライムの成れの果てを見て涙を流した。

「うう、ぐすっぐすっ……」

「なあ、アンリエッタ。古代フリース人は同情すべきところもあるだろうが、そんな何千年前の恨みを、今になって晴らそうとしたのいただけないよ。そんな奴らは滅びて当然だ」

「……そんな!」

 アンリエッタはショックを受けた。
 普段はあんなに優しかった兄だったが、敵対した者には容赦の無い冷酷な面を今回初めて見たからだ。

「でも、私は助けたかったんです。みんな幸せになって欲しかった……」

「アンリエッタのやさしさは素晴らしいと思うよ。けどね、世の中善人ばかりじゃないんだ。それどころか優しいアンリエッタを利用する(やから)が現れないとも限らないから」

「……ぐすっぐすっ」

「今は分からなくても、大人になれば分かってくれると思う。けど、その優しさを失わないで欲しい。さ、アンリエッタ。上でカトレア達が待っているから早く行っておあげ」

 マクシミリアンは魔法衛士隊の『消毒』を監督する為にアンリエッタから離れていった。

 アンリエッタは、結局何も出来ずに終わった自分の不甲斐なさを悔やみ、ぽろぽろと涙を流し続けた。

 そんな時だった。
 何処からとも無く声が聞こえてきたのは……

『我々のために泣いてくれてありがとう』

「え?」

 アンリエッタは辺りを見渡すが誰も居なかった。
 幻聴だったのだろうか、その後も耳を済ませても何も聞こえなかった。

「アンリエッタ様、いかがいたしました?」

「なんでもないわミシェル。行きましょうか……」

 幻聴であろうがなんだろうが、ほんの少しだけアンリエッタの心は救われたのは確かだった。

 地下の脅威を取り除いた事で、

 工兵隊が地下迷宮に入り、地下神殿で研究価値のある物品を地上まで上げ、後日トリスタニアの美術館(ミュージアム)に移されると、地下神殿へ続く一部の通路以外は爆薬で発破したりと様々な方法で潰された。

 その後、地盤の補強の為にコンクリートが流し込まれ、トリスタニア増築計画の基礎は出来上がった。
 
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