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今ならキーホルダープレゼント殺人事件

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4

「えっと、つまり、昨日はマリーちゃんが公園にいなかったという証言をしてくれた方が見つかったのですが、それが一人ではなく、他にも複数の人が同じようなことを言っているということでして……」
「じゃあ、誰かと一緒に遊んでいたということなんですね?」と亜衣が尋ねた。
「そういうことになると思います。ですが、まだ幼い女の子なので、一人でどこかへ行ってしまうなんて考えられないと親御さんは話しているんです。そこで私は考えたんですよ。これは誘拐されたんじゃないかと……。あるいは、事件に巻き込まれた可能性もありますし……」
彼の話を聞いた瞬間、亜衣たちの間に緊張が走った。「えぇー!」
亜衣は驚きの声を上げてしまった。他の二人も同じ反応だった。「あの、それは間違いないんでしょうか?本当にそうなのだとしたら大変ですよ!?」
麻衣子が身を乗り出して尋ねると、マリーの父は神妙に首を縦に振って肯定した。
亜衣は思わず溜め息を漏らしたが、その一方で、ある疑問を感じた。――マリーがいなくなったことを、お父さんがこんな風に冷静に考えられるはずがない……。それに、公園に行った時に誰もマリーを見たことがないと言っていた。ということは……。亜衣の思考を読み取ったかのように、父が話し掛けてきた。
「私にはわかります……。娘の身に何が起こったのか……。どうしてなのかは説明できませんが、今の娘は普通の状態ではないんです……。おそらく……、いえ、間違いなく、これはウイルスの仕業です。マリーの体内に、何らかのウイルスが潜り込んで、その力を暴走させている……。そして……」
亜衣たちはごくりと唾を飲み込んだ。
「……オナガに取り憑かれているのかもしれません」
16
「……どうしたんだよ、急に呼び出すなり、『大事な用がある』とか言い出しちゃったりしてさ。なんか怖いよ~」
「うるせぇな、ちょっと静かにしろよ」
薄暗い部屋の中で、少年と青年が小声で会話をしていた。室内には、彼らの他には誰もいないようだ。二人は並んでベッドに腰かけていた。少年の方が、青年より年上に見える。彼らは双子だった。
「おい、早く終わらせてくれよ。俺、もう眠いんだけど……。明日も学校なんだから……」
「そうか、わかった」と青年が呟いた。次の瞬間、彼の瞳の色が赤くなった。同時に、顔付きが少し変化したように思われる。
――あれ?あいつ、あんな声だっけ? 少年は一瞬不思議に思ったが、特に気にすることはなかった。それよりも、彼が発した言葉の方に興味があったのだ。
「いいか?よく聞けよ……。俺はもうすぐ死ぬ。でも、お前はまだ助かるんだぞ……」
「はぁ?」と、彼は間抜けな声で答えた。何を言ってんだこいつは、といった様子だ。しかし、それはすぐに消えてなくなり、「ああ、そっか。また例のやつだよな……」という独り言へと変わった。この奇妙な症状が発症してからというもの、彼らにとって、死に関する話はすっかり日常的なものになっていたのである。
「そうだ。でも、勘違いするんじゃねぇぞ。別に同情してもらおうと思って言ったわけじゃないからな……。むしろ逆だ。感謝して欲しいぐらいだぜ。わざわざ助けてやったんだから……」
「わかってるって!それで、今回はどんな感じで死にそうなの?」
「あぁ、まず最初に心臓が止まるんだ。次に呼吸困難になって、最後には全身が麻痺してくるだろう。だが、安心してくれ。意識を失う直前で、なんとか食い止めることができるはずだ……」
「へぇ、そうなんだ。それはすごいね……」
少年は感心したように言った。「じゃあさ、もし失敗したら、どうなるの?」
「そりゃ、もちろん、死ぬしかなくなるな……」と青年は平然と答えた。「ま、お前なら大丈夫だと思うけど……」
「うん、そうだよね……」
少年は明るい調子で相槌を打った。「で、いつ頃になるんだろう?」
「あと二時間くらいかな……」
「えー、そんなに待ってられないよ!」
「仕方ないだろ。マキシマムドリンクという特効薬があるが、未承認なんだ。しかも薬科大の研究室で試作されてる。今すぐおいそれとは手に入らない。強奪でもしない限りはな!だから、諦めるしかないんだよ……」
「うわ、ひどい話……」
「そういうことだ。我慢しろ」
「はぁ……。じゃあ、大人しく待つとするか……」
「それが賢明だ。じゃあ、そろそろいいか?」
「うん、いいよ」
「よし……。それでは……」
青年が目を閉じた。すると、彼の身体が薄くなっていくのがわかった。まるで空気の中に溶け込むようにして消えていく。
――あれ?あいつ、こんなに存在感なかったっけ? 少年は不思議に思いながらも、じっと見つめていた。やがて、女の声が聞こえた。
「お薬。持ってきてあげるね。あたしはオナガっていうの。よろしく……」
少年が目を向けると、そこには見知らぬ少女の姿があった。黒い髪に白い肌。年齢は十歳前後だろうか。人形のように可愛らしい顔をしている。
「……えっと、君は誰だい?」
彼は尋ねた。
「あなたの恋人よ……」
彼女は微笑んで答えると、姿を消した。
* 亜衣たちはマリーの両親と共に警察署へ向かっていた。マリーの父は、亜衣たち三人を自分の車に乗せて運転していた。彼は、亜衣たちがマリーの行方について新しい情報を掴んだと言ったのだった。そして、その情報が本当ならば、一刻も早く確認しなければならないと言うのだ。亜衣たちは、マリーの家に残されていた落書きのことや、公園での不思議な出来事などについて詳しく話した。マリーの父はとても驚いていたが、亜衣たちの話を頭ごなしに否定したりせず、最後まで真剣に聞いてくれた。
「なるほど……。つまり、君たちにはその絵描きがオナガだということがわかったわけだね?それに、彼女が『マキシマム』と言っていたのを聞いたと……。そして、その言葉の意味するところについてもある程度理解できたと……」
「はい、そうです……」と麻衣子が答えた。
「わかりました。では、とりあえず、その絵描きが何者かを突き止めましょう。おそらく、今回の事件にも関係していることでしょうから……」
「あの……、どうしてそう思うんですか?」と亜衣が訊いた。
「さっきの話を聞いていて、私にはそう思えたんですよ。ただ、あくまで勘なのですが……」
「いや、そうですね。きっとそうだと思います」と父が言った。「ところで、その絵描きはどこにいるのか、見当はついているのですか?」
「いえ、残念ながらまだ……。でも、手がかりはあるはずなんです」
「どういうことでしょうか?」
「実は、その女の子のことを覚えている人が何人かいました。その子はいつも、同じ服を着て、同じ鞄を持って歩いてたみたいなんです。その人によると、彼女はとても身なりの良い子だったみたいで、友達からも羨ましがられていたとか……」
「もしかしてマキシマム薬科大学教授の御令嬢のことか? そう、確かマキシマム堀門博士の一人娘だな。名前はマリー・ベルといったはずだが……」
「知ってるの?お父さん……」と母親が言う。
「ああ、もちろんだとも。この辺りに住んでいる者なら、誰でも知っているはずだ。この国で一番の金持ちだからな。特に医学界での影響力は絶大だよ。御子息の方は、あまり評判が良くなかったが……」 
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