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今ならキーホルダープレゼント殺人事件

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「もしかして、この前の話を聞いてくれたのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
マリーは慌てて首を横に振った。「実は、ちょっと聞きたいことがあるんですよ」
「なんだい?」
「あの……、ここに、オナガっていう名前の鳥がいたはずですよね」
「ああ、そうだよ」
「その鳥って、どこに行ったかご存知ですか?」
「さあ、わからないな」
「そうですか……」
マリーは落胆して肩を落とした。「わかりました。ありがとうございます」
マリーが立ち去ろうとした時、
――カァーッ! 突然、カラスの鳴き声が響いた。マリーが驚いて振り返ると、そこには、一匹のカラスが飛んでいた。
――まさか……。
マリーの心臓が激しく高鳴った。
――もしかして、あれが?全身の血の気が引いていくのを感じた。間違いない。オナガだ。
――どうしよう? このまま逃げられてしまう。マリーは咄嵯に判断を下すと、勢いよく駆け出した。
オナガは逃げる素振りを見せなかった。それどころか、真っ直ぐこちらへ向かって飛んできた。そして、目の前で止まると、まるでマリーを誘うように、くちばしを大きく開けた。
マリーは恐る恐る手を伸ばすと、オナガに触れた。
次の瞬間、マリーの視界は真っ暗になり、意識を失った。
12 気が付くと、マリーは暗闇の中に浮かんでいた。周りには何も見えず、音さえも聞こえてこなかった。自分が目を開けているのかさえわからなかったが、何故か不思議と不安はなかった。むしろ、心地良い気分だった。マリーはしばらくの間、そのままの状態でいたが、ふと思いついて手を伸ばした。すると、指先が何か柔らかいものに触れ、その感触を楽しむことができた。それから、ゆっくりと身体を移動させていった。しばらくして、腕のようなものが触れた。さらに、それを辿っていくと、今度は脚らしきものが見えてきた。マリーはそっと足を動かしてみた。どうやら動くようだ。次に、お腹の部分に手を伸ばしてみる。やはり、触れることができる。ということは、自分の身体は今、宙に浮いている状態なのだと理解した。その後、背中のような部分に触れると、そこにも柔らかなものがあることに気付いた。マリーはその部分を撫でるように動かした。とても気持ちが良い。このまま眠ってしまいそうだ。
その時、不意に大きな声が聞こえた。
――マリー、マリー、聞こえるかい!? それは、美沙子の声だった。
――美沙ちゃん? マリーは返事をした。
しかし、美沙子は黙ってしまった。
――美沙ちゃん、どこにいるの? マリーは尋ねたが、何も答えてくれなかった。ただ、悲しそうな顔をしているだけだ。やがて、美沙子の姿が消えてしまった。
――待って!行かないで! マリーは必死になって叫んだ。だが、その願いは届かなかった。美沙子が戻ってくることはなかった。マリーの目から涙が流れ落ちた。それが頬を伝う感覚があった。すると、突然、光が差し込んできた。眩しい光だ。思わず手で顔を覆う。ようやく目が慣れてくると、そこには一人の女性が立っていた。
――お母さん……? マリーの口から言葉が漏れた。それは間違いなく母の姿だった。母はマリーの方に近付いてきた。マリーは反射的に後ずさりしようとしたが、なぜか動けなかった。
――どうして? 戸惑っているうちに、母の手がマリーの顔に伸びてきた。
――えっ、何するの? マリーは恐怖を覚え、身を捩ろうとしたが無駄に終わった。その前に、母の両手でしっかりと固定されてしまったからだ。
――何をするつもりなの? マリーが怯えながら尋ねると、母は微笑んだ。
――大丈夫よ。怖くないわ……。
その笑顔を見て、マリーは安心した。そして、自分はオナガに食べられてしまうのだと悟った。何故か満ち足りた気分でそれを受け容れた。
13 気が付くと、マリーは地面に倒れていた。すぐに起き上がると、辺りを見回したが、そこは公園ではなかった。薄暗い路地裏だった。空を見上げると、太陽は沈んでおり、すっかり暗くなっていた。
マリーは自分の身に起こったことを思い出そうとした。すると、頭の中が割れるような痛みに襲われた。そのあまりの激痛に、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。しばらくそうやって耐えていたが、そのうち、少しだけ楽になった。マリーは大きく深呼吸をして立ち上がった。そして、ふらつく足取りで歩き始めた。――そうだ……、帰らないと……、家に……、あの場所に……。
頭の中に、オナガの声が響いたような気がした。
14
「ねぇ、マリー、どうしたの?」
亜衣が心配そうに声をかけてきた。しかし、マリーには答える余裕がなかった。身体の奥底から込み上げてくる熱い塊のようなものを感じていたからだ。――なんだか変だ……。
身体の内側から炎が噴き出しているようだった。それに加えて、胸の中心に杭でも打ち込まれているかのように激しい鼓動が続いているのだ。まるで、自分のものではない別の命が生まれようとしているかのような感じだった。突然、視界に黒い羽が映った。そちらに視線を向けると、一メートルほどの大きさがあるカラスがこちらに向かって飛んでくるところだった。マリーは呆然としながら立ち尽くしていた。カラスはそのままマリーの横を通り過ぎ、近くの塀の上に止まった。
――あ、オナガだ。マリーは直感した。カラスの背に乗るようにして止まっているオナガが、先程見た時と明らかに様子が違っていたからだ。全身から邪悪なオーラを放っており、目つきも鋭くなっているように見えた。マリーは、まるで睨みつけるように見つめられていた。マリーはその眼差しから逃れようとしたが、何故か足を動かすことができなかった。しばらくして、カラスが飛び立った。それと同時に身体の自由を取り戻したため、慌てて振り返ると、もうオナガの姿は見えなくなっていた。だが、そんなことはどうでもよかった。今はそれよりも大事なことがあるからだ。マリーは再び身体に異変が起き始めていることに気付いていた。それは、徐々にではあるが確実に強くなっていく一方だった。
――嫌だ、やめて……! マリーは心の中で叫び声を上げた。すると、身体の中の熱がさらに激しく燃え上がり、ついには爆発してしまった。
――うわぁあああっ!! 悲鳴を上げると同時に、マリーの意識は完全に途切れた。
15 翌日、病院を訪れた亜衣たちは、マリーが行方不明になったということを知った。マリーの家出が発覚したのである。警察も動いているようだが、未だに発見されていないらしい。
亜美はショックを隠し切れない様子だったが、麻衣子と沙織は特に驚いたりはしなかった。「きっと家出したかったんだろうね」
麻衣子はさらっと言ってのけた。
亜美は困惑した表情を浮かべたが、すぐに立ち直ったらしく、「うん、そうだよね……」と答えた。
しかし、内心では不安に思っているはずだ。亜美が何か言おうとして口を開きかけたその時、部屋のドアが開いた。入ってきたのはマリーの父だった。三人は驚いて立ち上がった。
「お邪魔します……。みなさん、お揃いでお待ち頂いて申し訳ありません……。実は、娘の行方について新しい情報がありまして、皆さんにも聞いていただきたいと思いましたので……」
彼は沈んだ声で言った。
「どういうことですか?」 
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