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今ならキーホルダープレゼント殺人事件

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「何か気になる点でもあるのですか?」
「いや……ちょっと待ってくれ……」
警察官はしばらく考え込んだあと、「なぁ、あんたが言っていた迷子のオナガの特徴は何だった?」
と尋ねた。
「特徴ですか……えーっと……」
マリーは口ごもった。「確か、オナガにしては珍しい黒い色をしていたと言っていたな」
「はい」
「もしかしたら、その女性の特徴と一致するんじゃないか?」
「えっ!」
マリーは思わず大きな声を出した。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
マリーは慌てて取り繕った。
「まぁ、いいか……」
警察官は不思議そうに首を傾げた。「それで、他に特徴はなかったのか?」
「他には特に……」
「ふむ……」
警察官は再び考え込むような仕草をした。「それじゃ、これはどうだ。この女性は、どこにいると言っていた」
「それが、この公園だと言っていました」
「この公園だと!?」
警察官の顔色がさっと変わった。「まさか、この公園にオナガがいるというんじゃないだろうな!」
「はい、います」
マリーは即答した。「でも、どうしてわかるんですか?」
「どうしてって、そりゃ、ここが俺たちの縄張りだからだよ」
警察官は不機嫌そうな声で答えた。「もし、ここにオナガがいたら、すぐに捕獲しないと保健所に連れて行かなきゃならなくなる。それは困るんだよ。俺は、まだ仕事が残っていて、これから帰らないといけないんだからな。悪いけど、ここは俺に任せてくれないか」
「それは無理です」
マリーはきっぱりと答えた。「無理って……どういう意味だ?」
「実は、このオナガの飼い主が見つかったんです」
「なんだと! それは、いつの話だ?」
警察官は大きな声を上げた。
「つい先程です」
「ついさっきだとぉ!?」
警察官は呆気に取られた表情になった。「そんなバカな……」
「でも、事実です」
「うーん、そうかぁ……。それは、確かに残念だなぁ……」
警察官は深いため息をついた。「だが、仕方がないな。飼い主が見つかってしまった以上、こちらとしては引き下がるしかないだろう」
「すみません」
マリーは頭を下げた。「私のせいで、こんなことになってしまって」
「別に謝ることじゃないよ。こっちだって、オナガを保護してあげたかったんだからね。それにしても、飼い主が見つかるなんて運が良かったじゃないか」
警察官は優しい口調で言った。「まぁ、こういうこともあるよ。人生っていうのは、そういう風にできているもんさ」
「ありがとうございます」
マリーはもう一度頭を下げた。「あの、最後に一つだけ教えてください」
「なんだ?」
「この公園には、どんな種類の野鳥がよく来るのですか?」
「そうだなぁ……」
警察官は顎に手を当てた。「大体、カラスとかスズメ、ハト、ムクドリ、ヒヨドリあたりが多いな。でも、最近は、アオサギやカルガモ、シギなどの大型の水鳥もよく見かけるよ。あっ、そういえば、一度だけだけど、オオタカが来たことがあったな。もっとも、あいつは、オナガなんか見向きもしなかったけどね」
「へー、そうなんだ」
マリーは感心したように肯いた。「わかりました。いろいろとお世話になりまして、ありがとうございました」
マリーは深々と頭を下げると、自転車に乗って走り出した。
11 家に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。マリーは急いで夕食の準備に取り掛かった。そして、食事が出来上がる頃、玄関の方から音が聞こえてきた。どうやら、誰かが帰ってきたようだ。
「ただいまー」
ドアを開ける音と共に元気の良い声が響いてきた。そして、足早に廊下を歩く音が聞こえると同時にリビングの扉が開かれた。
「あーっ、疲れたー」
現れた人物はソファーに倒れ込むようにして座ると、大きく伸びをした。
「おかえり」
マリーは料理を作りながら、振り返らずに声をかけた。
「うん、今帰ったところ」
その人物――美沙子は答えると、ゆっくりと起き上がった。「ねぇ、お腹すいたんだけど……」
「もう少し待ってて。もうすぐできるから」
マリーはフライパンを振りながら答えた。
「わかったわ……」
美沙子が渋々といった感じで肯く気配を感じた。
それから、少ししてテーブルの上に出来上がったばかりの料理が並ぶと、二人は向かい合って席に着いた。
「いただきます」
マリーは手を合わせると、早速食べ始めた。
「それで、どうだったの? オナガちゃんのこと、何か手がかりは見つかった?」
美沙子はすぐに尋ねた。
「ごめんなさい。結局、何も見つからなかったの」
マリーは申し訳なさそうに首を振った。「本当に迷惑をかけてしまって……」
「いいのよ、そんなこと気にしないで」
美沙子は優しく微笑みかけた。「それより、早く犯人を捕まえないとね。このままじゃ、オナガちゃんが可哀想だもの」
「ええ……」
マリーは暗い顔で肯いた。「でも、どうやって探せばいいんだろう?」
「やっぱり、警察に頼るしか方法はないんじゃないかしら?」
「でも、警察は当てにならないと思うの」
マリーは不満げに唇を尖らせた。「何しろ、私たちの話をまともに聞いてくれないんだから」「でも、他に方法があるかしら?」
「うーん、それが思いつかないのよね」
マリーは腕組みをして考え込んだ。「そうだ!」
突然、大きな声を出したので、美沙子の身体がビクリと震えた。
「ど、どうかしたの?」
「私、いいことを思いついたの」
「どんなこと?」
「それはね……」
マリーは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
翌日、マリーはいつもより早めに起きた。朝食を食べた後、身支度を整えてから、マンションを出た。今日は日曜日なので学校は休みだ。しかし、朝早くから出かける予定があった。それは、オナガを探すためだ。
昨夜、マリーが考えた作戦は、オナガを探している振りをするというものだ。つまり、実際にオナガを探してみるということだ。もし、それらしい人物が公園にいた場合、マリーはわざとらしく、あるいは、不自然に、何度も同じ場所を行ったり来たりすることで、その人物に気付いてもらえるかもしれないと考えたのだ。だが、これはかなりの博打になるだろう。何故なら、その人物が自分の方に向かって歩いてきたとしたら、その時点でアウトだからだ。もちろん、オナガの姿など何処にも見えない状態で、しかも、ずっと見張っているような状況であれば怪しまれる可能性もある。しかし、仮に、ほんの一瞬だけ見かけた場合ならば大丈夫ではないだろうか。それに、もし、見つかればラッキーぐらいに考えて行動すれば、それほど危険ではないだろう。とにかく、今は、一刻も早くオナガを見つけ出さなければならない。マリーは公園に着くと、注意深く周囲を見回した。まだ、誰も来ていないようだ。とりあえず、ベンチに座って待つことにした。しばらくすると、遠くの方で人影が見えた。その人物はキョロキョロと辺りの様子を窺いながら公園の中に入ってきた。そして、マリーの姿を目にした途端、驚いた表情になった。それは、オナガを保護してくれた警察官だった。
「やぁ、君か。こんなところで会うなんて奇遇じゃないか」
警察官は愛想笑いを浮かべながら近づいてくると、親しげな口調で話しかけてきた。
「こんにちは」
マリーも笑顔で挨拶を返した。 
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