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今ならキーホルダープレゼント殺人事件

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「もう絶望ですか」
マリーは万能検索機九官鳥に乞うた。
「私は違法な再発行のことは、わかりませんが恐らく不可能です」
「なぜ?」
諭すように九官鳥は告げた。
「実は文鳥には文鳥番号という神様が付与した特別のナンバーがあるからです。文鳥番号は、再発行できません。この事実をご理解ください」
「でも迷い鳥の里親がいるじゃない」
「シリアルと違い文鳥番号は一羽ずつ違います。だから、たとえ里親がいたとしても、その人が持っているナンバーと私の知っているナンバーが一致しなければ、私には再発行のことはわからないのです」
「では、迷い鳥が二羽以上いたらどうなるの? 三羽いたら?」
「その場合は、文鳥保護センターの職員で対応します」
「でも……」
「お気持ちは察します。しかし、これは規則なんです」
「それなら、迷子になった小鳥を保護したら、文鳥保護センターで預かりなさいよ。そうすれば、迷子になっても大丈夫でしょう」
「残念ながら、それはできません」
「どうして!」
「保護された動物が飼い主のところに戻った事例はありませんし、それに文鳥は、この世にたった百七十羽しか存在しない希少種です。とても貴重な存在なんですよ。だから、そんな簡単に保護することはできないんです」
「でも、今、目の前にいるわよ。目の前に一匹いるわよ」
「それが問題なんです」
「どういうこと?」
「実はですね……」
九官鳥は、ためらいがちに話し始めた。「迷い鳥の中には、ペットショップやブリーダーから逃げ出して、野生化した個体もいるようなんです」
「えっ! そうなの」
「はい。そして、そういう個体は、たいてい野良文鳥として人間を恐れず平気で人前に現れるようになりました。それで、先ほども申し上げましたように、迷い鳥を保護することはできないんです。だって、迷い鳥を保護した場合、文鳥保護センターの職員であるあなたが、自分の判断で勝手に野鳥を飼っているわけですからね。そんなことが許されるはずないですよね」
「じゃあ、どうしたらいいの?」「諦めてください」
「そんなぁ……」
マリーは肩を落とした。
九官鳥の声が聞こえなくなった。マリーは、ゆっくりと顔を上げた。そこには、もう誰もいなかった。
「おい、あんた!」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこに警察官の姿があった。
「あっ、はい」
マリーは返事をした。
「さっき、そこで、あんたが、九官鳥と話しているところを見ていたんだが、何の話をしていたんだ」
「別に……何も……ただ、話をしていただけです」
「どんな話だ」
「えーっと……」
マリーは言葉を詰まらせた。
「言えないのか」
「いえ、言います。あの、迷子の文鳥を探していました」
「迷子か」
「はい」
「どんな迷子なんだ」
「それが、ちょっと事情があって詳しくは説明できないんですけど、とにかく困っているみたいだったので助けようと思って」
「それで、その迷子は見つかったのか」
「はい。見つかりました」
「どこにいたんだ」
「この公園の中にいました」
「なんという種類の迷子だったんだ」
「種類って?」
「文鳥の種類だよ」
「えーっと、確か……オナガとか言ってました」
「オナガだと!」
警察官の顔色が変わった。「それは本当なのか?」
「はい」
「本当にオナガなのか?」
「間違いありません。確かにオナガと言っていました」
「なんてことだ……」
警察官は頭を抱えた。「オナガなら、迷子になるはずがない」
「どういう意味ですか」
「オナガはな、迷子にならないんだよ」
「どうして?」
「あいつらはな、飼い主のところに必ず戻ってくる習性を持っているからだ。だから、飼い主がいなくなったり、家出をしたりしても、必ず飼い主のところに戻ることができるんだ。だから、迷子になることなんかあり得ないんだよ」
「でも、現にここにいますよ」
「どこから来たんだろうな……」
「わかりません」
「飼い主の名前はわかるか?」
「それが、わからないんです」
「どういうこと?」
「実は……」
マリーは九官鳥と話したことを全て警察官に話して聞かせた。
「なにぃ! 飼い主の名前がわからないだとぉ!」
「はい。すみません」
「それは、いつの話だ!」
「ついさっきです。今朝方、迷い鳥を保護したので、相談に乗ってもらおうと思って連絡しました」
「ということは、まだ、この辺りにいるかもしれないということじゃないか!」
「はい」
「早く探せぇーっ!!」
警察官の怒号が公園内に響き渡った。
9 公園のあちこちを警察官たちが走り回っていた。だが、なかなか見つからないようだ。マリーも一緒になって探し回ったが、やはり見つからなかった。「どうしよう……」
マリーは途方に暮れていた。「このままじゃ、保健所に連れて行っちゃうわよね」
「そうだろうな」
「そんなの可哀想すぎるわ」
マリーの目から涙がこぼれ落ちた。「せっかく、飼い主のところに帰れるチャンスなのに」
「そうだな」
「なんとかならないかしら」
「飼い主の名前さえわかればなぁ……。でも、無理かもなぁ……」
「諦めちゃだめよ。最後まで頑張ってみましょうよ」
「ああ、もちろんだ」
警察官は力強く答えた。「だけど、一体、どうやって見つければいいんだ?」
「それは、私にもわからないです」
マリーは首を横に振った。「ただ一つだけ言えることは、飼い主さんがオナガに名前を付けているかどうかがポイントだと思うんです」
「なぜ、そんなことが言い切れる」
「だって、オナガには名前が付けられていないのに、迷い鳥として保護されていますからね。それに、迷い鳥の中には、文鳥保護センターの職員である私が勝手に野鳥を飼ってはいけないという理由で、飼い主が名乗り出てこないケースがあるんです。きっと、そういう場合は、名前を付けていると思います」
「なるほど。そういうものなのか……」
警察官は納得した様子で大きく肯いた。「よし、わかった。もう少し粘ってみるよ」
「お願いします」
マリーは深々と頭を下げた。「それともう一つ、質問があるので、教えてください」
「なんだ?」
「あの九官鳥は何者なんですか?」
「九官鳥?……あっ、あれね」
警察官は少し驚いた表情を見せた。「あれはな、迷い鳥を捕まえるための罠だよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。あれを仕掛けておけば、迷い鳥は必ず引っかかるんだ」
「へー、知らなかった」
「普通は、捕まえた後に処分するんだけどな。今回は特別だ。どうしても、あのオナガを見つけたいんだろ。だから、見逃してやるよ」
「ありがとうございます」
マリーは何度も礼を言った。
それから数時間後。
日が暮れてきた頃、ようやく警察官が戻ってきた。そして、疲れ切った顔をしながらマリーの前に座ると、一枚の写真を差し出した。写真を見た途端、マリーは驚きの声を上げた。
「あーっ、この人です!」
「本当か?」
「間違いないです」
マリーは大きく首肯した。そこには、オナガと一緒に写っている若い女性の姿があった。
10
「本当に、この人が?」
警察官は信じられないという顔をしていた。
「はい。間違いありません」
マリーは自信を持って答えた。「そうか……」
警察官は複雑な表情を浮かべながら、もう一度写真を見直した。 
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