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冥王来訪

作者:雄渾
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ミンスクへ
ソ連の長い手
  燃える極東 その1

 ソ連・ハバロフスク 19時

 既に日の落ちたハバロフスク
市内某所にある臨時の赤軍指揮所
そこには国防省本部から脱出していた赤軍最高司令部の面々が密議を凝らしていた
 上級大将の軍服を着た老人は、勢いよく机を叩く
「たかが一機に、何時まで手間取っているんだ」
一向に変化のないゼオライマーへの対応に苛立った国防大臣
男は声を荒げ、周囲の者を叱責する
「この上は、ヴォールク連隊を持って対応する。
一刻も早く、ゼオライマーを鹵獲しろ」
食指を、傍らに立つ赤軍参謀総長に向ける
「同志大臣、御一考を……」
彼は、大臣の面前に体を動かす
「我がソ連邦には、ブルジョワ諸国の様に精強部隊を遊ばせておく余裕はない……」
じろりと両目を動かし、参謀総長の顔を覘く
「君は、もっと物分かりの良い男だと思っていたのだがね……」
言外に参謀総長へ、揺さぶりをかける

「ハイヴ攻略は……、如何(どう)なさるおつもりですか」
椅子に踏ん反り返る国防大臣は、彼の方を()めつけ(なが)ら応じる
(やかま)しいわ!黄色猿(マカーキー)共が作った大型機(マシン)とやらを捕れば、如何様(いかよう)にでも出来るであろう。
君の意見ではそうではなかったか……」
男の言葉に、参謀総長は苦渋の色を滲ませた
「ゼオライマーに関し、今まで君に一任してきたが何一つ成果が上がらなかったではないか。
本件は、これより私の采配で自由にさせてもらう」
再び右手を挙げて、食指を指し示す
「生死の如何は問わぬ。木原マサキを引っ立てて参れ!」
ゼオライマーの鹵獲(ろかく)命令が下った
参謀総長は挙手の礼で応じた後、()()れぬ思いを胸に抱きながらその場を後にした


 ハバロフスク空港内にある空軍基地
会議室に集められた衛士達に、声が掛かる
「総員集合!」
整列する彼等に、強化装備姿の部隊長からの訓示がなされた
空襲警報が鳴り響き、遮音加工の施された室内まで聞こえる
「これより日本野郎(ヤポーシキ)の戦術機を鹵獲する。
市中への着弾被害は無視しても良いと政治委員から助言があった」
一人の衛士が、隊長に尋ねる
「隊長、鹵獲が困難な場合は……」
隊長は、苦笑交じりに答えた
「操縦席ごと打ち抜いてよいとの許可は既に下っている。
相手は一機だ、存分に暴れろ」

 管制ユニットに乗り込もうとした時、胸にある十字架が風に揺れる
思わず手で掴み、考え込む
 BETA戦を戦い抜いてきた手練れの兵士、その投入に疑問を覚える者はいなかったのか……
そう自問しながら、顎につけられた通信装置を起動し、網膜投射を作動させる
男は、視野を通じて脳に伝達される情報を確認する
駐機場より滑走路に機体を動かす
 敵の武装は未だ不明……
一説には、小型核を装備した大型戦術機との噂を聞いたほどだ
日本野郎(ヤポーシキ)共が作った大型機(マシン)……、どの様な物であろうか
撃破すれば、十分な解析も出来よう
 跳躍ユニットの推進装置を吹かしながら、滑走路上で匍匐飛行の準備を取る
勢いよく離陸すると、揺れる座席の中で静かに神に祈った


 (よい)の口、市街地に向かって飛ぶ40機余りの戦術機の編隊
市内で立ち竦むゼオライマーの姿を一瞥すると、手に構えた突撃砲が呻らせた
暗闇の中を標的目掛けて雨霰と砲弾が降り注ぐ
曳光弾が、まるで一条の光が線を引くかのごとく駆け抜けていった
 市街地の大半は、既に火の手が回り、列をなして逃げ回る避難民の群れが道路を埋めていた
乗り捨てられた乗用車やバスを気にせず突っ込んできた戦車隊は、所かまわず盲射する
唸り声をあげながら火を噴く、重機関銃
彼等は、ゼオライマーではなく市民に向けて発砲したのだ
斃れた市民を踏みつける様にして、戦車隊は市中へ前進する



 東部軍管区ビルの屋上に、やっとの思いでたどり着いたマサキ達
その場所より市街の混乱する様を、弾薬納より取り出したダハプリズム式の双眼鏡で眺めていた
思わず、ふと苦笑を漏らす
退避する市民が居てもお構いなしに対空機関砲や突撃砲を連射するソ連軍……
 前世に於いて、富士山麓でゼオライマーに乗り、八卦ロボと戦った時を思い起こす
敵の注意を引くために避難民が居る中で戦闘をしたことがあった
自分も決して他者の人命を尊重する方ではないが、この様には他人事とは言え、呆れ果てた
 
 飛び交う弾丸に身を屈めながら、彼は周囲を伺う
砲声はいよいよ近くなって、時々思いもかけぬ場所で炸裂する音が響き渡る
盲射するソ連赤軍の弾は、間近に落ちてきている
何れは、ここにも着弾しよう……
脇に居る鎧衣に、声を掛けた
「茶番は終わりにするか……、ここから飛ぶぞ!」
男はその様な状況の中で顔色一つ変えず、マサキの方を伺う
手早く双眼鏡を弾薬納に戻したマサキは、顔を上げて脇に居る鎧衣を一瞥する
頭から粉塵を被りながらも、身動ぎすらしない……
思い出したかのようにひとしきり笑った後、こう告げた
「ソ連赤軍の包囲網の中央を踏破するか……、久しぶりに沸々と血が(たぎ)る」
つられるようにして彼も哄笑する
「貴様には、こんなしみったれた場所で野垂れ死にされては困る。
俺を玩具にしようとしている馬鹿共……、例えば将軍や五摂家、武家。
奴等にゼオライマーの恐ろしさを余すところなく伝える義務があるからな」
 彼はそう言うと、ズボンのベルトに手を掛けた
ベルトのバックル部分に内蔵した次元連結システムの子機から光が広がる
閃光と共に彼等の姿は一瞬にして消え去った
 
 

 
後書き
 ゼオライマーの全長は53メートル、50メートルと媒体によってバラバラなのです。
OVA発売終了当時の公式資料を見ると50メートル越えなので53メートルが正しいのかなと考えてます。
 昭和版ゴジラの全長と変わらない大きさなので、今の摩天楼の高さだと拍子抜けする大きさです。
(この30年で都心の高層ビルは100メートル越えが当たり前になった事実に時の流れの速さを感じています……)


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