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ケチな梨売りの因果

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第一章

                ケチな梨売りの因果
 明代初期のことである。
 古都として知られている西安の街に梨売りがいた、この梨売りの名前を助米という。
 実に卑しい顔をしている、細い目で汚い歯がいつも見えていて他人を馬鹿にしきった様な笑みを浮かべている。やや面長で頬は細く顔だけでなく雰囲気全体に卑しさが見えている。
 その卑しさが見える外見の通りにだった。
 助米は強欲でそれでいて吝嗇で自分さえよければよく誰かの為に何かをすることは一切なかった。感謝もせず恩なぞ返さない。
 そんな彼だが今大いに儲けていた。
「さあさあ梨はこっちだよ」
「何でこの西安で梨を売ってるのはあいつだけなんだ」
「あいつが全部買い占めたからだよ」
「だから梨はあいつから買うしかないか」
「最近空気が乾いて喉が渇きやすいのにな」
「梨はそんな時にもいいんだが」 
 水気が多いからである。
「それなのにな」
「梨はあいつから買うしかないか」
「それを知ってあいつは思いきり値を釣り上げてるからな」
「本当に欲が深い奴だ」
「欲深にも程があるだろ」
「しかも人は助けないしな」
「自分さえよければいいからな」
「何時か痛い目見ろ」
「天罰を受けろ」
 西安の者達は彼を忌々し気に見ながら梨を買っていた。
「この西安は水も悪いしな」
「梨を水代わりにもしているが」
「あれだけ値を釣り上げられると」
「腹が立つな」
 こう言いつつもだった。
 彼から梨を買ってだった、そのうえで。
 助米は暴利を貪っていた、それで彼は高笑いをあげていたがその彼の店の前にふらりと一人の年老いた道士が来た。
 見ればかなり酷い道服を着ている、そうして助米に弱々しい声で話した。
「梨を一つ欲しいのですが」
「おい、足りないよ」 
 助米は道士が出した銅貨を見て即答した。
「それじゃあうちの梨は買えないよ」
「そこを何とか。これだけしかないのね」
「ああ、駄目だ駄目だ」
 助米は意地悪い笑顔で応えた。
「ビタ一文まけないよ」
「そうなのですか」
「そうさ、買いたかったらもっと持って来るんだ」
 今度は馬鹿にしきった笑顔であった。 
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