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矢の一念

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第三章

 矢は風よりも速く空を切り裂く音を立ててだった。
 虎を射抜いた、すると誰もが喝采した。
「お見事!」
「流石は李将軍です」
「虎を見事倒されるとは」
「まさに将軍は虎をも倒す英傑です」
「天下の弓手です」
「いや、待て」
 だがここで皇帝が言った。
「あの虎はおかしくはないか」
「?そういえば」
「全く動きません」
「射抜かれても叫び声一つあげませんでしたし」
「死んだにしてもその前のあがきがありませぬ」
「おかしいですな」
「うむ、近くに寄って見るのだ」
 ここはとだ、皇帝は周りに話した。
「そうしようぞ」
「わかりました」
「それではです」
「その様にしましょう」
「ここは」
「うむ、虎にしては明だからな」
 皇帝はまた言った、そうして皆虎の場所に赴いた、すると。
 それは虎ではなかった、大きさはそれ位であったが。
「岩!?」
「岩ではないか」
「これは」
「岩に矢が突き刺さっている」
「これは李将軍の矢だが」
「実に深く突き刺さっているな」
「弾き返されもせず」
 皆岩に突き刺さっている矢を見て驚いた。
「何ということだ」
「将軍は岩を射抜かれたのか」
「これは虎を射抜くよりも凄いぞ」
「矢で岩を射抜かれるなぞ」
「恐ろしいまでだ」
「ただ矢を放っただけで岩を射抜くなぞ出来るものではない」
 皇帝も驚きを隠せない顔で述べた。
「到底な」
「はい、それは」
「幾ら何でもです」
「無理なことです」
「それが出来たのだ」
 李広、彼はというのだ。
「これは」
「将軍の弓がどれだけ素晴らしいか」
「ただ狙いが確かなだけでなく」
「矢に念を込めて石すら射抜く」
「そのこともですな」
「素晴らしいことだ、このことは書き残しておくべきだ」 
 皇帝はこうも言ってだった。
 実際に李広のこのことを書き残させて後世に伝えることにした、そうして実際にこの話は今も残っている。
 李広が名将であり弓の名手であることは伝わっている、それが為に岩さえ射抜くことが出来た。これが矢の一念岩をも通すということだ。今も残っているこの言葉のはじまりである。


矢の一念   完


                   2022・1・12 
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