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味音痴の夫

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第二章

「本当に」
「今日は成功したけれど失敗した時もそう言うでしょ」
「失敗してる時あるんだ」
「あるわよ、それでもあなたいつも美味しいでしょ」
 そう言って食べているというのだ。
「それが困るから」
「困るんだ」
「失敗しても美味しいとか残念よ」
「いや、何でも美味しいなら」
 夫は今度はナポリタンと一緒に出されているサラダを食べつつ言った。
「それでよくない?」
「そう?」
「だって僕残さないし」
 出されたものはというのだ。
「しかもいつも美味しいなら」
「それならなの」
「僕幸せだし奥さんだってまずいって言われるよりも」
「美味しいって言われる方がなの」
「いいんじゃない?」
「そう言われたら」
 妻は夫の言葉を受けて考える顔になって答えた。
「そうかしら」
「うん、僕が味音痴でもね」
 それが事実でもというのだ。
「誰かに迷惑かけてるかな」
「それはないわね」
「だったらいいよね、誰にも迷惑かけていないなら」
 それならというのだ。
「いいよね」
「そうなるかしら」
「うん、僕もいつも美味しいと思えて」
 そしてというのだ。
「奥さんもそう言ってもらって残さない」
「そう言われると悪いことないわね」
「味音痴でも美味しいと思ったら勝ちだよ」 
 妻に笑ってこうも言った。
「何処かの新聞記者やその親父の陶芸家みたいに文句ばかり言ってる人間なんて嫌だよね」
「絶対にね」
「僕もああした人達にはなりたくないし」
「ああした人達になる位なら」
「味音痴の方がずっといいよ」
 こう言って満面の笑顔でナポリタンを食べる、そのナポリタンは亜久里が食べても美味しく粉チーズをかけるとさらにそうなった。
 この時から亜久里は夫の味音痴について言うことは言わなかった、だが夫そっくりの息子が生まれると彼には失敗した時はまずいと言われた、それで味音痴は遺伝しないということを知ったのだった。


味音痴の夫   完


               2022・6・27 
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