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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
スー
  浅瀬の祠

 スー族のいる大陸を出発してから約二週間後。
 最後の鍵があるという浅瀬の祠は、このだだっ広い海のど真ん中にあるらしい。今は干潮なので浅瀬の祠の目印と言われる岩も見やすいはずなのだが、海は広くなかなか見つからなかった。
 それでも晴れ渡った空の下、私たち三人が甲板でひたすら水平線に浮かぶ岩を探していると、操舵しながら海原を見ていたヒックスさんが叫んだ。
「皆さん、それらしい場所を見つけましたよ!」
 どうやら『鷹の目』が使える船員が見つけてくれたようで、私たちは急いでヒックスさんの方へと向かう。
「ここから西北西に岩礁が見えますので、今からそちらに向かいます」
 船の進路を変え、 ゆっくりと西北西に進むと、彼らの言うとおり、いくつかの岩がぽつぽつと海面から突き出ている場所を見つけた。近くまで船を寄せると、ユウリはヒックスさんに下船の準備を頼んだ。小舟を用意してもらい、かけてもらった縄ばしごから下りて順番に小舟に乗る。
「私もご一緒しましょう。小舟に誰か一人残った方が安全です」
 ヒックスさんも小舟に乗り、私たちが祠に行っている間、残ってくれるという。海に詳しい人が傍にいてくれれば心強い。
 早速小舟で浅瀬まで近づくと、岩礁を見下ろしたユウリは、渇きの壺を持って舟の縁の近くに立った。
 壺には蓋がしてあり、エドの言うとおり蓋を開けてみる。吸った水がどこに行くのかはわからないが、とにかく今はここの浅瀬の水を引かせることが先だ。
 するとほどなく、海面に小さな渦が生まれ始めた。そして渦の中央が壺に向かって引っ張られていき、あっという間に海水が壺に吸い込まれていく。そしてどんどん岩肌が露になってきた。
「なんか、すごい光景だね」
 隣で眺めていた私が誰にともなく呟く。
 やがて、海の底まで見えてきた。どうやら壺を向けた場所だけを干上がらせるようで、その様子はまるで岩礁の辺りだけ海水を切り抜いたかのようであった。
「よし、早速降りるぞ」
 壺の蓋を閉め、渇きの壺をヒックスさんに預けると、私たち三人は順番に小舟から降りた。
 柔らかい砂の上だったので到着するまでは問題なかったが、目の前にあるその祠は、長年海の底にあるだけあって、いつ崩れてもおかしくないほど朽ちている。そんな危険が伴う中、入り口らしき場所から中を覗いてみると、真ん中にぽつんと一つ、宝箱が置いてある。まるで、取れるものなら取ってみろと言わんばかりだ。
 そして不思議なことに宝箱自体には傷一つついておらず、むしろ神秘的な光を放っていた。
「一応警戒はしておけ。罠かもしれない」
 そうユウリは注意するが、なんとなくこの宝箱からは、私たちに害を及ぼすようなことはしないという根拠のない自信があった。
 彼が宝箱に近づき、手を掛けた瞬間、光が霧散していく。それに動じることなくそのまま蓋を開けると、中には銀色の鍵が一つ入っていた。
「これが最後の鍵……」
 いたって普通の鍵に見えるが、装飾部は人の目のような独特な形をしており、真ん中に大きな赤い宝石が一つ埋め込まれている。淡く輝く宝石は見れば見るほど底知れぬ魅力を放っており、不思議な雰囲気を醸し出していた。
「これでやっとオーブに一歩近づいたね!」
 声を弾ませる私に対し、ユウリはどこか腑に落ちない顔をしている。
「何か、問題でもありました?」
 ルカも気づいて尋ねるが、ユウリは小さく首を横に振る。
「いや、鍵はいいんだが、どうもこの辺りに俺たち以外の気配がするんだ」
「え!? だってここ、さっきまで海の底にあったんだよ!?」
「ああ、だから、人間以外の何かが……」
「わああああああ!!」
 その言い回しに既視感を感じた私は、あわてて大声で叫びながら耳を塞いだ。
「どうしたんだよ、アネキ」
「そそそその展開、前も似たようなことがあったよね!?」
 ユウリに尋ねときながら、しっかり自分の耳を塞ぐ私。もうこの時点で言葉と行動に矛盾が生じている。
「なんだ、気を遣って口に出さずにいたのに。そんなに知りたいのか」
「ごめんなさいやっぱりいいです!!」
 そう。ユウリは第六感が冴えているのか、人間以外……とりわけ幽霊などの存在がわかるらしい。それにしても、彼と出会ってからどういうわけか幽霊と関わることが多くなっている気がするのはなぜだろう。
「あの扉の奥に何かいるな」
 ユウリが指差すその先には、古びた扉があった。今にも壊れそうなほど傷んでいるように見えるが、彼が扉に手を掛けても、びくともしない。
 ユウリは早速最後の鍵を使ってその扉を開けてみる。その間私はルカにすがり付きながら様子を伺っているが、私に拘束され身動きの取れないルカは心底嫌そうだ。
「鍵穴に応じて形が変わるのか。これならどんな鍵も開けられるな」
 ユウリが感心したように呟くが、今の私はそれに同意するほどの余裕はない。
 カチャリ、と控えめな音が鳴り響くと、静かに扉が開いた。小さな祠の奥にある部屋はさらに狭く、人一人入れるのが精一杯の広さだ。だが、問題はそこにいた存在だ。
「……っ!!」
 その凄惨な光景に、私は声なき声を上げた。そこにいたのは椅子に座った骸骨だったからだ。それもただ座っているだけではない。肘掛けには骸骨の両腕が大きな太い釘でつなぎとめられており、両足首は鎖で繋がれている。骸骨の体のあちこちが意図的に損傷しており、それは生前何者かによって与えられたものだとわかった。
 その光景に、私のみならず皆息を飲んだ。私にしがみつかれて鬱陶しそうだったルカも、この光景を見た瞬間逆に私にしがみついた。
「これは……罪人なのか?」
 ユウリがぽつりと呟いた。けれどそれを知っている人などこの中にはおらず、沈黙が続くはずだった。だが、その言葉に呼応するかのように突然骸骨の体が光りだしたではないか。
《私はいにしえを語り伝えるもの。誰かがここへ来るのをずっと待っていた》
「ひっ!?」
 心の中に直接語り掛けるような声。それは以前カザーブで師匠の霊に会ったときと同じような状況だった。
《汝らに伝える。イシスの南、ネクロゴンドの山奥にギアガの大穴ありき。全ての災いはその大穴から出ずるものなり》
 そこまでいうと、骸骨は光を失い、元の状態に戻った。
「ギアガの大穴……?」
 ユウリが眉をひそめる。博識な彼でも知らない言葉のようだ。
「も、もう幽霊いないよね?」
 相変わらず私は幽霊に怯えながら、辺りを何度も見回して確認する。
「ああ。おそらく俺たちに今の言葉を伝えたことで、この骸骨の未練が消えたんだろう」
 それにしても、生前の彼は一体どういう人だったのか。私たちが及びもつかないくらいの長い年月もの間、誰も訪れることのない海の底で、拷問ともよべる仕打ちを受け、一人でただひたすら待っていたのだとしたら、どれ程辛くて苦しかったことだろう。今となってはこの人について知るよしもないが、もし私たちがここに来たことで未練が断ち切れたのなら、少しは救いになったのではないか、そう思いたい。
「ユウリさん!! 下、見てください!!」
 突然ルカの言葉により現実に引き戻され、反射的に下を見る私とユウリ。
 見ると、先ほどまでなかった海水が、足首まで浸かっている。ひょっとしてこれって……。
「渇きの壺の効力が切れてきているのか!?」
 あいにく渇きの壺はヒックスさんに預けてある。恐らく海の水をある程度吸い込んでも、長時間は持たないようだ。
 このままでは皆海の底に沈んでしまうと判断した私たちは、ヒックスさんのいる小舟へと急いで向かった。



「皆さん、早く戻ってください!!」
 小舟に乗っているヒックスさんは、私たちの姿を見た途端切羽詰まった表情でそう呼びかけた。
 言われなくてもそうするつもりだった私たちは、すぐさまヒックスさんが乗っている舟に乗り込む。
「何かあったんですか?」
 私が尋ねると、ヒックスさんはいつになく青ざめた様子で私たちを見回した。
「大変です、この近くに、テンタクルスがいます!!」
「何!?」
 テンタクルス、という言葉に唯一反応したユウリが愕然とした顔でヒックスさんを見返す。それって何?と聞こうとしたのだが、二人とも切羽詰まった様子だったので、私は言葉を飲み込む。
「まずい、気づかれた!」
 それに聞かずとも、このすぐ後の光景ですぐに理解することができた。
 なぜならヒックスさんの声が上がると同時に、海面から大きな水しぶきを立てて『そいつ』は現れたからだ。
 
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