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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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霊峰編 決戦巨龍大渓谷リュドラキア 其の十一

 体当たりを放つための勢いすら迎撃に利用した、4本の撃龍槍。その刺突が完全に決まり、老山龍の悲鳴が天を衝く。
 手応えは、確かにあった。

「おいおい……いい加減に倒れてくれよ……! でないと、俺達の武器じゃあ……!」

 だが。それでもなお、老山龍は倒れてはいない。激しい咆哮を上げ、のたうち回りながらも――ラオシャンロンは引き下がることなく、アーギルの眼前で攻撃を再開していた。
 その暴走により城門の周辺はさらに激しく崩壊し、その瓦礫によって撃龍槍の発射口も塞がれてしまう。これではもう、「切り札」は使えない。

「そん、な……! 撃龍槍でも、仕留め切れないというのかッ……!?」

 これまで、どんな窮地に立たされても屈することなく争い続けて来たエレオノール達も。その無情な光景には、ただ言葉を失うばかりであった。

 上位という高みを目指し、その昇格を果たすための試験に臨んでいた彼らには、確かに「必勝の信念」があった。
 だが、今の自分達が「下位」であるという現実から目を背けていたわけではない。本来ならば、このような大難に駆り出されるような立場ではないことを、理解していないわけではない。

 狩猟設備というアドバンテージも無しに、この巨大な老山龍を屠るということが、どれほど困難であるか。それが分からない彼らではないからこそ、この光景には絶望せざるを得ないのである。

 そんな無謀が罷り通るのは、御伽噺のような逸話を残して来た、あの「伝説世代」くらいのものなのだから。

「もう……ダメ、なのッ……!?」

 いつも勝ち気な言動が絶えなかったジェーンから、絞り出されたその一言。彼女のその言葉に、全員の無念が詰まっていた。もはや、これまでなのかと。

「皆、何を立ち止まっているのッ!」
「……ッ!?」

 すると――その時。凛々しく気高い姫騎士の絶叫が、この砦に響き渡る。

 その艶やかな声にハッと顔を上げたエレオノール達の視線の先には、家臣の想い(ディフェンダー)を背負うクサンテ・ユベルブの姿があった。

「城塞の大砲も、撃龍槍も撃ち尽くしたッ! もう使える狩猟設備は残っていない……! ならば今こそ、私達の刃が! 私達の弾が! あの老山龍を討ち果たす時が来たということではないのッ!? あなた達が今持っている、その武器こそがッ! この巨龍を屠るために鍛え上げられた、『真の切り札』だということではないのッ!?」
「クサンテ……!」

 骨折の痛みに可憐な貌を歪めながらも、決して屈することなく前だけを見据えるアロイ装備の姫騎士。そんな彼女の言葉は、諦めかけていたエレオノール達の眼に再び光を灯していた。

 それぞれの武器を握る彼らの手に、力が篭っていく。まだ戦いは終わりではない。それは、こちらにとっても同じなのだと。

「奴に挑める余力を残していないハンター達は、瓦礫の下敷きにされている防衛要員達の救護に当たりなさいッ! 後の者は――」

 やがて、震える両手で慣れない大剣を引き抜いたクサンテは。全身を襲う痛みにも、暴れ狂うラオシャンロンの巨躯にも怯むことなく。
 気高き双眸でただ前だけを見据え、啖呵を切るのだった。

「――このクサンテ・ユベルブに続けぇえぇえッ!」

 その凛々しき絶叫と共に。無謀の権化たる未熟な姫騎士は、家臣が残した大剣を手に、ラオシャンロン目掛けて突撃して行く。

 全ての狩猟設備が尽きた今、頼れるのは己の心技体と装備のみ。下位だろうと関係ない。己の身命を賭して、必ずやこの老山龍を討つ。
 その信念を体現し、先陣を切るかの如く。彼女は獰猛なまでに勇ましく、ディフェンダーを振り翳して老山龍に迫ろうとしていた。

「……ふっ、ふふふ、はははっ! 言ってくれるではありませんか、クサンテ姫! 皆ッ、聞いての通りだ! ここまで来たからには我々も……地獄の果てまで付き合おうではないかッ!」

 そんな無謀極まりない彼女の姿を見せ付けられてもなお、絶望したままでいられるようなハンターなど、この場には1人もいない。
 清々しいほどにまで愚直な姫騎士の突撃を目の当たりにしたエレオノール達は、諦めることすら馬鹿らしく思えていた。

 全ての策が潰えたなら、後はもう馬鹿になるしかないではないか。あの姫騎士のように。やがてその結論に至った全てのハンター達は、短い苦笑を経て――走り出して行く。

 彼女の言う通り、まだ戦いは終わってはいないのだから。
 
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