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展覧会の絵

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第五話 愛の寓意その十二

「絵は次から次にです。描いてくれれば有り難いです」
「そうですか。では」
「佐藤君は名画の模写ばかりですが他には」
「自分の絵も描いています」
 それもしていると答える十字だった。
「ですからそれはです」
「そうですか。描いておられるのですか」
「それもまたですね」
「はい、独創性もまた重要ですから」
「こうした模写ばかりでなく」
「そうです。絵はただ模写だけではなくです」
「自分の絵を描くことも大事ですね」
 わかっている言葉だった。そしてだ。
 その絵を描きながらだ。また言うのだった。
「次の絵はそうさせてもらいます。明日から」
「明日からですか」
「この絵は今日描き終わります」
「早いですね」
「描くことの速さには自信があります」
 やはり淡々としながら答える十字だった。
「ですから」
「確かに速いですね」
「ではこの絵を今日終わらせて」
 そうしてだというのだ。
「僕の絵にかからせてもらいます」
「ではその様に」
「それで、ですが」
 絵の話をしてからだった。そのうえでだ。
「僕は今塾にも通っていますが」
「あっ、そのことは聞いています」
 塾の話にもだ。先生は応えた。ここでも紳士的な笑みである。
「清原塾ですね」
「はい、あの塾に」
「何でも国公立のトップのクラスだとか」
 このことも知っている先生だった。
「凄いですね。あのクラスに入られるとは」
「そうですか」
「実はあの塾の生徒さんはうちの学園にも多いのです。それに」
「それにですか」
「料理部の顧問の清原先生ですが」
 この男のことをだ。先生は何気なく、しかも気付かずに話に出した。
「あの先生は清原塾の理事長さんの甥御さんなのですね」
「そうみたいですね。何でも」
「理事長さんの妹さん、あの塾の副理事長さんの妹さんでもあられますが」
「その方のですか」
「息子さんでして。妹さんは教師畑ではなく御主人と一緒に八条科学研究所に勤めておられます」
「八条科学研究所、ですか」
「所謂科学者ですね」
 それがその清原一郎の両親の職業だというのだ。
「長男さん、一郎先生のお兄さんもそこにおられまして」
「お兄さんがいるのですか」
「お兄さんと妹さんがおられますよ」
 先生は十字の目の光が変わったことにも、そして彼が自分の言葉に顔を向けている、絵から顔を離してそうしていることにも気付かないまま話していく。
「妹さんはこの学園の生徒さんですよ」
「清原雪子さんですか」
「御存知でしたか」
「名前だけは」
 何故知っているのか、彼女について調べていることもだ。十字は隠して先生に応える。
「聞いています」
「お兄さんが顧問の料理部にいまして」
「料理部にですか」
「料理部のホープなのです」
「そこまでお料理が上手なのですか」
「何でいたら召し上がられてはどうでしょうか」
 先生は十字の真相を知らずに彼に提案した。 
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