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展覧会の絵

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第五話 愛の寓意その五

「その二つをちゃんとしてこその武道家じゃない」
「それはそうだけれど」
「わかったわね。それじゃあ空手の方もね」
「わかってるよ。修業も今まで以上にするから」
「口だけじゃ駄目だからね」
「だからわかってるって」
 猛は困った顔で雅のお説教に応えていた。そうしながらこの日は帰った。そうしてだ。
 雅は次の日入塾試験を受けた。そうしてだ。
 数日後猛にだ。明るい笑顔で語ったのだった。
 猛の道場の稽古前だ。二人は準備体操でストレッチをしている。雅は身体を伸ばしながらそのうえでだ。アキレス腱を伸ばしている猛に言ったのである。
「塾のテストだけれどね」
「うん。どうだったの?」
「一緒のクラスになったわ」
 笑顔でだ。こう猛に言ったのである。
「猛とね」
「あっ、じゃあ塾でも一緒なんだ」
「そうよ。一緒になれたから」
 本当に明るい笑顔だった。心配が完全に消えた。
 その笑顔のままでだ。猛に言うのである。
「同じクラスで勉強もね」
「頑張ろうね」
「勉強の方は互角だけれど」
 それでもだとだ。雅は猛に話す。
「御互いに勉強し合えば成績もあがるわよ」
「切磋琢磨ってこと?」
「そう。それよ」 
 こう話す。そしてだ。
 雅は手首のストレッチもはじめた。前と後ろにだ。手首を伸ばす。
 そのうえでだ。彼女は話すのだった。
「八条大学に行くのよね」
「そのつもりだけれど」
 所謂エスカレーターだ。だがそれでも勉強は必要だ。猛はそのことを忘れていなかった。
 その猛にだ。雅は言った。
「それで法学部ね」
「弁護士になる訳でもないわよね」
「弁護士には興味がないよね」
「特にね。それに公務員にもね」
「興味ないわよね」
「うん。道場を継ぐからね」
「それでどうして法学部なの?」
 少し怪訝な顔になってだ。雅は猛に尋ねた。
「そこがわからないけれど」
「法律に興味があるからね。とはいっても今は全然知らないけれど」
「法律のことは」
「これからだね。勉強するのはね」
「法律は知っておいたら力になるわね」
「そうだね。そのこともね」
 こう話してだった。二人はだ。
 空手をした。そちらは雅の圧勝だった。雅は満足の中で空手をした。そしてだ。
 塾にも通いはじめた。そこでも猛と一緒だった。その塾の中でだ。
 雅は十字を見た。彼は国公立の最上級のクラスに向かう。その彼を見てだ。 
 隣にいる猛にだ。こう言ったのだった。
「あの金髪の子って」
「あっ、転校生の」
「そうよね。確かイタリア人とのハーフの」
「佐藤君だったかな」
「佐藤十字っていったかしら」
 その彼を見つつだ。雅は猛に話す。
「凄い優等生だっていうけれど」
「天才って言われてるけれどね」
「しかも美術部でもホープっていうわね」
「彼もこの塾に通ってるんだ」
「それも一番凄いクラスだけれど」
 こうだ。雅は十字が入ったクラスも見た。国公立の最上クラスだ。だから言ったのだった。
「八条大学どころか東大もいけるんじゃ」
「だろうね。この塾から国公立に入る人も多いから」
「阪大とか京大が多いのよね」
「そうだよ。あと神戸大ね」
 関西の国立大学の名門だ。どれもだ。
「東大よりそうした大学に入ることが多いね」
「そうだよ。東大は行けても行かない人が多いね」
 この辺り関西だった。関西の予備校では東大より阪大や京大なのだ。これは名古屋も同じで名古屋大に入ることの方が多いようである。地域色であろうか。
「この塾からはね」
「そうなのね。関西なのね」
「そうだよ。関西だからね」
「阪大に京大ね。私には無理ね」
 雅はそうした大学は諦めていた。最初からだ。 
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