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Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~

作者:読名斉
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Lv69 イシュマリア魔導院

   [Ⅰ]


 アヴェル王子達と別れた後、俺はイシュマリア城の1階にあるシャールさんの研究室へと向かった。
 しかし、その足取りが重かったのは言うまでもない。
 やはり、あんな感じで意味ありげに言われると、不安になるからである。
(王子とウォーレンさんの態度を見る限り、行かない方が良い感じだったな。あ~あ……なんだか、行きたくなくなってきたなぁ。アヴェル王子に理由を聞いたら、奥歯にモノが挟まったような歯切れ悪い言い方だったし……。ただ、研究熱心なお方だからそれに付き合わされる時は注意したほうが良いとは言ってたが……。もしかすると、結構無茶な実験でもするのかもしれない。まぁいい……行けばわかるか。一体、なにが待ち受けているのか知らんけど……)
 そんな事を考えながら城内を進んでいると、アヴェル王子にこのあいだ教えてもらった宮廷魔導師達の職場・イシュマリア魔導院へと到着した。
 王子やウォーレンさんには休息中に城内の事を色々と聞いていたので、それなりに各部署の位置関係はわかってきたところだ。
 イシュマリア魔導院は入り口に扉が無いので、城内にいる者なら誰でも入れる所であった。
 入ってすぐは広いホールのような空間になっており、そこには幾つかのテーブル席が設けられている。テーブル席には魔法の法衣を着た宮廷魔導師達が何人かいた。見たところ、談笑や相談などをしているようであった。
 また、イシュマリア魔導院は城内の他の部屋と同様、高級感のある赤いカーペットが敷かれ、照明に煌びやかなシャンデリアが吊られていた。だが、魔法関連の専門部署というだけあり、壁は沢山の書物が並ぶ本棚によって埋め尽くされていた。流石に、宮廷魔導師の職場といったところだ。
 その為、場所は広いのにもかかわらず、やや窮屈な雰囲気が漂う所であった。
(このあいだ、ウォーレンさんと一緒に来たけど、やっぱ魔導師ばかりだな。さてと……シャールさんの部屋はウォーレンさんの話だと確か、あの通路の先だったな。とりあえず、行ってみるか)
 ウォーレンさんに教えてもらった通路を進んでゆくと、奥の壁の突き当たりに木製の黒い扉が見えてきた。
 見たところ他に扉は無いので、恐らく、あれがシャールさんの研究室なのだろう。
 扉に魔法陣のようなモノが描かれているのもあってか、城内の他の扉と比べると、明らかに雰囲気が違う。流石に魔法の研究室といった感じだ。
 ちなみにシャールさんは、アルバレス家という数々の高名な魔導師を輩出した名家の娘さんであり、このイシュマリアでは主席宮廷魔導師の補佐的な立場らしい。早い話がナンバー2の宮廷魔導師のようである。
 まぁそれはさておき、俺は扉をノックし、中に向かって呼びかけた。
「シャール様……コータローです。仕事が片付いたので、お伺いしました」
 程なくして中から声が聞こえてきた。
「あら、ちょうど良かったわ。どうぞ、入ってくださる」
「では失礼します」
 俺は扉を開いて中へと足を踏み入れた。
 扉の向こうは、20畳くらいありそうな広さの四角い空間となっており、沢山の魔導器が置かれた棚や本棚が壁に並ぶ様相をしていた。それらに囲まれるようにシャールさんの座る書斎机が真ん中にあった。
 書斎机の近くには作業台らしきものがあり、そこには大きな壺みたいなモノが置かれている。
 また、その作業台の周囲や床にはフラスコみたいなモノや魔導器らしきモノが散乱しており、中は結構ごちゃごちゃした感じであった。
 まぁはっきり言って汚い部屋である。
 高級そうな部屋が台無しといった感じだ。
 綺麗な女性なのに、整理整頓とは無縁のようである。
(お、おう……なんか知らんけど、どっかの大学の小汚い研究室って感じだな。まぁでも、天才肌の方らしいから、熱中しだすと他のことは気にならなくなるのだろう……たぶん)
 室内を見回したところ、部屋にいるのはシャールさんだけのようであった。
 ちなみにシャールさんは今、アシュレイアとの戦い時に着ていた赤いドレスのような法衣姿で、分厚い書物を手に持ち、壺を眺めているところであった。何かを調べている最中のようである。
 まぁそれはさておき、俺は散乱している魔導器を踏まないよう、足の踏み場を探しながらシャールさんの前に行き、話を切り出した。
「ご苦労さまです、シャール様。色々と研究なさってるんですね。ところで、要件は何でしょうか? 先日は聞きたいことがあると仰っておられましたが……」
 シャールさんは書物からゆっくりと顔を上げる。
 そして、長いブロンドの髪をかき上げ、俺に麗しく微笑んだ。
「ウフフフ、待ってましたよ。ようやく、ゆっくりと話せそうですね」
 お美しい方だが、ちょっと怖い笑顔であった。
 たぶん、王子達の忠告が影響してるのだろう。
「そ、そうですかね。ナハハハハ……」
「さて……ではとりあえず、まずはこうしましょうか」
 シャールさんはそう言うと、魔導の手を装備した右手を扉に向けたのである。
 その直後、カチャリと鍵の掛かる音が室内に響いたのであった。
 俺は思わず、後ろを振り返る。
 すると扉付近には宙に浮く鍵らしきモノがあり、程なくしてシャールさんの手へと収まったのだ。
 どうやら閉じ込められてしまったようである。
 このいきなりの行動に、俺は思わず生唾を飲み込んだ。
「あ、あのぉ……シャール様、なぜ鍵を?」
 シャールさんはそんな俺を見て、不敵に笑うと、優雅に足を組んだのであった。
 逃がさんぞという雰囲気がありありと発せられているのは言うまでもない。
「ウフフフフ……さて、これで逃げられませんわよ。貴方には色々と訊きたかったことがございますので、暫く付き合ってもらいます。まずは、このあいだ見せていただいた空間に保管する魔法について教えて頂こうかしら」
 有無を言わさぬ怖い雰囲気であった。
 これはもう、答えるまで監禁されそうな展開である。
 俺は観念する事にした。
「は、はひ……」
 そして俺は彼女から質問攻めを受ける事となったのである。

 シャールさんは、フォカールや中の道具類の事、それと魔法関連の事、ヴァロムさんとどういう経緯で師弟関係になったのか等々……今までの事を根掘り葉掘り訊いてきた。
 異世界の人間というのは伏せてはおいたが、ヴァロムさんと出会った経緯がかなり特殊なので、そこは首を傾しげていた。まぁしょうがないところだろう。とはいえ、俺もいきなりの転移現象だったので、ヴァロムさんには詳細をある程度話したが、流石に現状を把握した今は迂闊なことは言えない。
 まぁそんなわけで、アマツクニからの旅人が何者かに拉致され、ベルナ峡谷に捨て置いていったのかもしれない……という風に話しておいた。それでも半信半疑という感じだったが、これで納得してもらうしかないだろう。

「――というような事があったんですよ。まぁそういうわけで、私はヴァロムさんに拾われて今に至るわけです」
 シャールさんは足を組んだまま顎に手を当て、思案顔になった。
「へぇ……まぁ大体の経緯はわかりました。ですが、妙ですね……拾われたという部分はともかく、洗礼の儀式でデインを得たという事が引っかかります。ヴァロム様が慎重になるのも無理有りませんわね。私が知る限り、イシュマリア王家以外でこの魔法が扱えるのは、ラミナス王家くらいですから。ですが、現実問題、貴方が使えている事を見ると他にもいるのでしょうね。そういう風に考える事としましょう」
 どうやらラミナス王家の者も使えるみたいだ。これは初耳である。
(ということは、サナちゃんも使えるのだろうか? 以前聞いた使える魔法にデインは無かったと思うが、俺と同様に隠していた可能性はあるから何とも言えん。……まぁいい、今度訊いてみよう)
 俺がそんな事を考えていると、シャールさんは椅子から立ち上がった。
「しかし……ヴァロム様も老いたりとはいえ、色々と暗躍してますわね。私に何の説明もなくそういう事をしていたのが残念ですわ。私って信用無いのかしら……」
 シャールさんは目尻を下げ、不満そうに溜息を吐いた。
 一応、少しフォローしておこう。
「そんな事はないと思いますよ。恐らく、魔物達にバレないようにそうしていたのだと思いますから。魔物達は、この国の中枢にまで深く入り込んでいたので生半可な手段では事態を変えれないと、ヴァロム様は考えたのだと思います」
「そうかもしれませんが、こんな面白そうな事から私を除け者にするなんて……あぁ、残念です。最初の段階から関わっておきたかったわ」
「お、面白そうな事……ですか?」
 するとシャールさんは、俺に鋭い視線を投げかけてきた。
 そして俺を指さし、やや怒り気味に口を開いたのであった。
「そうよ! こんなに面白い事に私が関われなかったのは、ハッキリ言って不服以外の何物でもありませんわ!」
「そ、そう言われてましも……」
「国が魔物に襲われたという事より、貴重な古代の遺物や魔法に、貴方とアレサンドラ家の小娘とヴァロム様だけが触れられたことが、ただただ残念でなりませんわよ。なぜ私がその場にいなかったのか……ハァ……」
 この人、ちょっとヤバいかもしれない。
 古代魔法を研究していると聞いたが、その為には国難なんぞどうでもいいのだろう。
 それはさておき、シャールさんは残念そうにしていたが、程なくしてケロッとした表情になった。
「ですが、ま、なってしまった事は仕方ないですわね。今からまだまだ古代の謎が垣間見れる機会はあるでしょうし、それに期待する事としましょう」
 喜怒哀楽の激しい人なのかもしれない。
 シャールさんは椅子に腰を下ろして足を組むと話を続けた。
「それはそうと……ヴァロム様も自分で蒔いた種とはいえ、大変ですわねぇ。城内のゴタゴタに加えて、イシュマリア魔導連盟でしたっけ? あんな妙な連中に崇拝されてたなんて、不思議な事もあるモノね。初めて聞きましたわよ、イシュマリア魔導連盟なんて……」
「イシュマリア魔導連盟? 王家に脅迫めいた抗議の書簡が届いたとかいうやつの事ですか?」
「ええ、そうよ。貴方、何か知ってるのかしら?」
 以前、ミロンにラヴァナの案内頼んだ時、言っていた話の事だろう。
 だがそれに関しては、恐らく、ヴァロムさんの自作自演な気がするので、そう問題はないに違いない。
 つーわけで、俺はシャールさんに言った。
「それなら大丈夫だと思いますよ。あれはたぶん、ヴァロム様の自作自演だと思うので」
 シャールさんは目を丸くしていた。
「え? どういう事? なんで自作自演する必要があるのかしら?」
「あれは書簡を出した事による結果を見ると、凡その見当は付きますよ。恐らく、今回の騒動を見越したヴァロム様は、兵士や騎士達を目的の場所に配置する為、ああいう書簡を出したんじゃないでしょうか。実際、あの書簡が出されたことにより、街は厳戒態勢になりましたしね。なので私は、イシュマリア魔導連盟という組織は存在しないと思っております」
「なるほど……確かに、そうね。貴方の言う通りだわ。街の要所に兵士は配置されてるし……ふぅん、そういうことね」
 このシャールさんの様子を見る限り、ヴァロムさんは皆に話してないのだろう。
 味方を欺いた方法なので、ヴァロムさんも言い出しづらいのかもしれない。
 まぁそれはさておき、シャールさんはそこで俺に微笑んだ。
「貴方……やるじゃない。しかも、なかなか切れ者のようね。あのアシュレイアとかいう魔物も、貴方の事が嫌になるわけだわ。さて……では謎も解けたところだし、もう1つの用事も済ます事にしましょうか。コータロー君……ちょっとここへ来てくれるかしら?」
 シャールさんはそう言って、書斎机の隣にある作業台の前を指さした。
 作業台には今、一抱えはありそうな大きな茶色い壺が置かれている。上部の方に蔦のような模様が幾つも施されているが、表面がざらついているので、あまり高級感はない。
 結構使い込まれているのか、ところどころにシミみたいなモノがある。まぁそんな感じの壺である。
 気になるところと言えば、壺の口に妙な黒い布が掛けられ、縄のようなモノで頑丈に縛られているところだろう。
 それ以外は、この国のどこにでもある素焼きの壺といった感じだ。
 俺は言われた通りそこに行くと、シャールさんは次の指示をしてきた。
「では、その壺の封を解いてくださるかしら?」
「はぁ……それは構いませんが、この壺は何なのです?」
「それを今から調べるのよ。さ、封を解いてちょうだい」
「わかりました」
 なんか釈然としなかったが、俺は言われた通り、縛られた縄を解いて黒い布を捲った。
 するとその直後であった。

【シャァァァ】

 奇声のような金切り声を上げ、壺が飛び跳ねたのである。
 壺は意思を持っているかのように高く飛び跳ね、床に着地した。
 そして暗闇が覆う壺の口に、サメのように鋭利な歯を沢山携えた赤い口と、黄色に光る眼が浮かび上がってきたのである。
 俺はそれを見た瞬間、ある魔物の名前が過ぎった。そう、ドラクエで定番のトラップモンスターである。
「こいつは悪魔の壺か……チッ」
 シャールさんの軽い声が聞こえてくる。
「あら……この壺、魔物だったのね。何かあると思ったのよ」
「シャールさん……一体この壺どこで手に入れたんですか?」
「どこって、ヴァロム様と貴方が閉じ込められていた地下牢の中よ」
「え!? 俺達がいたあの地下牢ですか、って!?」
 と、その時であった。
 悪魔の壺は近くにいるシャールさんに体当たりをかましてきたのである。
 俺は思わず、シャールさんを押し倒していた。
「危ない!」
「キャッ」
「どわぁぁ!」
 そして俺はシャールさんの代わりに、悪魔の壺の体当たりをモロに受け、フッ飛ばされたのであった。
 フッ飛ばされた俺は、壁際の本棚に激突した。
 まさに痛恨の一撃といった感じだ。
「イタタタ」
 俺はすぐに立ち上がり、身構える。
 悪魔の壺はピョンピョンと飛び回り、また作業台の上に着地した。
 すると次の瞬間、奴はあの嫌な呪文を唱えてきたのである。

【ケケケケ……マホキテ】

 その直後、壺全体が紫色に怪しく輝いた。
 そして俺はここで、悪魔の壺の特性を思い出したのであった。
(これは不味い……魔法は厳禁だな。ザキを使われちまう。ン?)
 などと思ったのも束の間であった
 なんとシャールさんがお構いなしに呪文を唱えたのである。
「メラミ!」
「え! ちょっ、ちょっと待って!」
 だが俺の静止もむなしく、魔法は発動する。
 大きな火球が悪魔の壺に向かって放たれたのだ。
 火球は悪魔の壺に直撃した瞬間、壺の中へと吸い込まれるように消えていった。
 そして、それと連動するかのように、悪魔の壺はニヤリと笑い、白く輝いたのであった。
 どうやらMPの調達が完了してしまったようだ。残念。
 悪魔の壺は今の攻撃に喜び、ピョンピョンとバッタのように素早く飛び回っていた。

【キャキャキャ】

 その姿は最高にハイってやつだと言わんばかりであった。
(あ~あ……吸収しちゃった。なんか、アシュレイアの時もこんな展開あったような気がするな。まぁそれはさておき……ヤバいぞ。今ので、ザキに必要な魔力は得られたはずだ。もはや、なりふり構ってられない。コイツを速攻で仕留めないと……でも、コイツってほとんど攻撃魔法効かなかった気がするぞ……という事は、取れる手段は物理攻撃オンリーやんけ……)
 俺がそんな事を考える中、シャールさんは首を傾げた。
「あら、メラミが消えちゃったわ。どういう事かしら」
(この人……色んな意味で怖いわ)などと思いつつ、俺は彼女に言った。
「メラミは消えたのではなく、奴に吸収されてしまったんですよ。奴が使ったマホキテという呪文は、自分に放たれた魔法を魔力として吸収してしまうんです。ですので、魔法は厳禁ですよ。奴に全部吸収されてしまいますから」
「へぇそうなの……貴方、物知りねぇ。アシュレイアとの戦いの時も、魔物の使った魔法を知っている風だったし……」
 シャールさんはそう言うと、流し目を俺に向けてきた。
 確実に何かを怪しんでる視線であった。
 ちょっと喋りすぎたようだが、今はそれどころじゃない。
「その件については後で話します。今は奴を倒すのが先決です。早く倒さないと死の魔法が飛んできますから」
 俺はそう言って奴を見た。
 悪魔の壺は今も尚、はしゃぎながら飛び回っている。
「早く倒さないと死の魔法ねぇ……仕方ないから、そうしてあげるわ。で、どうやって倒すの? アイツはすばしっこそうだから、ちょっと面倒だわよ」
 俺はそこで魔光の剣を手に取り、ライトニングセーバーを発動した。
 ピシューというあの起動音が室内に響き渡る。
「今の奴は、これで始末するしかありません。これは魔法じゃないので効果がある筈です……多分」
「なら、ここは貴方に任せるわ。私は何をすればいい?」
 俺はそこで意外なお願いをする事にした。
「では奴にもう一度、メラミをお見舞いしてやってもらえますか?」
「えっ? 貴方今、魔法は厳禁だって言ったじゃない」
「奴にはもっと喜んでいてもらいましょう。その隙に始末しますので」
「ああ、そういう事ね。わかったわ。じゃあ行くわよ、メラミ!」
 悪魔の壺にメラミの炎が襲い掛かる。
 だが、先程と同じく、炎は壺に吸収されてしまった。
 悪魔の壺は【キャキャキャ】と笑い声を上げながら、更にハイテンションになって飛び上がっていた。
 俺はその隙に奴に接近し、魔光の剣を袈裟に振るった。
 だが、奴はピョンと飛んでそれを躱す。その動きはまさに、ゲーム同様の回避能力であった。
 俺は更に踏み込み、今度は横に薙いだ。しかし、奴はそれも垂直に飛び上がって躱した。
 だがこれも想定の範囲内であった。次がトドメの一手だからである。
 俺はそこで柄を握る手を逆手に持ち替え、あの剣技を奴に繰り出したのであった。
(跳ねるかいそこで……捉えたぞ。燕返しィィィ!)
 奴が万有引力の法則にしたがい床に降りてくる瞬間を狙い、俺は逆袈裟に一気に斬りあげた。
 その刹那、悪魔の壺に光の刃が一閃する。
 そして奴は真っ二つになって、断末魔の悲鳴を上げたのであった。

【ギャァァァァァ】

 壺は床に落ちると共に割れ、その中にあった黒い何かが霧散していった。
 するとその直後、チャリンという音と共に、金色の小さい何かがそこに落ちてきたのである。
 見たところ、コインのようなモノであった。
 俺はそこで魔光の剣を仕舞い、コインを拾った。
(なんだこの小さいコインは……妙なオッサンの顔が彫られてるし……お金か? いや、でもこの国の貨幣ではないな。なんだろ……もしかして、小さなメダルというやつか? つか、この世界にそんなシステムあんのかよ……)
 ふとそんな事を考えていると、シャールさんの声が聞こえてきた。
「貴方……なかなかやるわね。あの素早い魔物を簡単に仕留めるなんて」
「いや、そうでもないですよ。ヒヤヒヤモノでしたから。シャール様が奴に隙を作ってくれたので、簡単に行けただけですよ」
「ヒヤヒヤねぇ……そういえば貴方、死の魔法がどうのとか言ってたわね。それの事?」
「ええ、まぁ……」
 するとシャールさんは腕を組み、不敵に微笑んだのであった。
「ウフフフフ……まだまだ貴方には訊かなきゃいけない事がありそうね」
「そ、そうすかね。ところで、さっき地下牢で壺を見つけたと言いましたけど、どういう事ですか? 我々がいた時にはあんな壺ありませんでしたけど……」
「それがね……牢番の者が言うには、床に『アホが見る』と書かれたところに置かれていたそうよ」
 俺はそれを聞き、魔物達へ悪戯(いたずら)した事を思い出したのであった。
 ちなみに書いた文字は勿論、この国で使われてるモノだ。
(そういや地下牢にいた時、アヴェル王子達に死んだら見といてくださいって言ったの思い出したわ。どうせ魔物達が見るからと、悪戯したんだった。忘れてたよ)
 どうやら俺が原因のようだ。
 奴等なりの仕返しなのだろう。 
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