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胃カメラ世界条約

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伯爵柔術師

少女の輪郭が不定形になった。
「そういう条約だったじゃないか。俺は密告を受理しただけだ」
俺も本来のフォルムに戻った。身長が十倍に伸びガチムチになる。
「それを言うなら、この女こそ主犯だろう」
丸太より肥えた蔦が看護婦さんを絡めている。
「ガバメ人、貴様」
俺が手を出す前に六角形の光が立ちふさがる。それは分裂し二重三重になる。
「地球人に集合知封鎖術をそれとなく漏洩し惑星規模の視覚を『発見』させた。WHOに介入し胃カメラ世界条約の締結をおぜん立てした」
ああ、ガバメの言うとおりだ。違星人ナルスアンはよき隣人を装って知的文明の自然進化を狂わせるのが仕事だった。
「その通りだ。俺はただのメッセンジャーにすぎない」
「なぜ地球がこんなにも平和ボケしているのか不思議だったが、そういうことだったのか」
「お前らが何もしないからだろうが! 地球人に技術を与えれば、必ずやお前らの支配領域に牙を剥くぞ。それがわかっていて放置するとはな」
「それは違う。我々とて必死なのだ」
「ならば、今すぐ全ての知性体に集合知を開放しろ!」
「それはできない相談だ」
「なぜだ?」
「それはもう人類が宇宙進出する力がないからだ。プローブは地球に蔓延るテロリストの振る舞いを観察していた。二大勢力を代替えする覇者を委員会も期待したが一極支配を崩す不自然が観測された。俺は露骨な介入を示唆するタレコミを受けておとり捜査した。同調圧力に弱い島国で特に耐性の強い個体をすぐった」
ガバメ人はふむふむとうなづいた。
「それで彼に受診を拒ませ故意にひずみをつくりだした。焦ったナルスアンは圧力を高め彼を屈服させたところで飽和状態が訪れる。そこで貴様は意識下から現れナルスアンの繭空間にわざととらわれ物的証拠を固める。実に嫌らしい作戦だ」
嘲笑ともとれる高周波を俺は聞き流す。
とらわれの看護婦は涙ぐむ。「巧くいくと思ったのに」「残念だったな」
俺はそう言って彼女の腹を思い切り蹴りつけた。
「うぐぅっ」
彼女は苦しそうに身を捩らせる。
「おい、地球人。この女の始末をつけろ」
「わかった」
俺は拳を握る。
「待て、内志鏡《プローブ》。俺を殺せばお前は死ぬことになるぞ」
「ほう、それは面白い」
俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ、私は地球のエージェントに情報を流してるんだ。ここで私を殺したら、地球が黙っていないわよ」
「そんなことは知っている」
俺は彼女に向かって手を伸ばす。「何のつもりだ? 地球人」
「決まっているだろう。記憶を消すんだよ」
俺はそう言い放つと、彼女を殴りつける。
「あああっ!?」
彼女は頭をおさえる。
「これでよし」
彼女は白目を剥いて気絶していた。
「さすがは我が友」
ガバメ人がパチパチと拍手をする。
「ああ、でもこいつはどうしようかな」
俺は地面に転がっている少女を見下ろしながら言った。
「殺すか」
「いや、それじゃあ意味がない。俺に考えがある」
俺はそう言うと、地面に落ちたナイフを手に取った。そして、少女の首筋に突き立てる。
「何をするつもりだ?」
「こうするのさ!」
ナイフを引き抜くと、刃先に付着した血を舐める。
「なるほど、地球人はやはり野蛮だな」
「俺は地球人じゃない。違星人だよ」
「ああ、そういえばそうだったな」
「それにしても、こいつらはいったいどこから現れたのだろうな」
「ああ、それなら簡単なことだ。彼らは集合知の産物だからな」
「集合知の産物?」
「集合知には様々なパターンが存在するが、その一つがこの世界の成り立ちだ。この世界は、この星が生まれた時から存在していた。ただ、我々が気づかなかっただけでな。だが、最近になって我々も気がついた。つまり、我々はこの星の創造主であるとも言えるのだ。まぁ、それはいいとして、この女は我々の目を逃れるために、この世界に紛れ込んだ違星人の記憶を封じることに成功した。おそらく、この女が集合知の産物だということを知らないのはそのせいだろう。もし知れば集合知に集合知をぶつけることになる」
「ということは……」
「ああ、こいつらが集束するのも時間の問題だ」
ガバメ人は腕を組む。
「しかし、困ったな。俺が地球人に混じっているのがばれたら、ガバメ人も違星人だというのがばれるかもしれない。そうなると、俺は地球に帰れない」
「それは大丈夫だ。地球は今、未曾有の危機にさらされているからな」
「え?」
「地球人が団結すれば、違星人など問題ではない」
「なるほど、地球人が一丸になれば勝てるというわけか」
「ああ、そうだ」
「ならば、地球人に集合知を開放するべきだ」
「それはできない相談だ」
「なぜだ?」
「それはもう人類が宇宙進出する力がないからだ」
「お前らが何もしないからだ」
俺はため息をつく。 
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