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胃カメラ世界条約

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サリドマイド百姓

「それじゃあ始めるわね」
「お願いします」
「いい返事よ。そのまま楽にしてリラックスしていてね」
「はい」
俺は大きく息を吐くと、目を閉じた。やがて意識が遠のいていく―――。



「……ん」
しばらくして目が覚める。なんだか頭がぼんやりする。視界が霞んでよく見えない。それに全身が痺れているようだ。
「あら、起きたようね」
声の方を見やると、いつの間にか隣に看護婦さんがいた。
「ここは……?」
「手術室の隣の病室よ。貴方は今から三日間入院してもらうことになったわ」
「そうですか……」
なぜだろう? 妙な違和感がある。何か忘れてはいけないことを忘れてしまったような……。
「うふふ」彼女は妖艶な笑みを浮かべると、俺の上に覆い被さってくる。
「ちょっと何を!?」
「いいじゃない。私達もう恋人同士になったんだし」
「まっ、待ってください! 僕はそんなつもりでは……」
必死に抵抗するが、手足が麻痺して力が入らない。
「大丈夫。優しくしてあげるから」
「いや、やめてください!」
「そんな恥ずかしがらないで。ほら、ここがこんなに大きくなってる」
「あっ……そこはダメです!」
「可愛い。食べちゃいたいくらい」
「い、いやぁああああああああああ!!!!」


「……ハッ!」
気が付けば朝になっていた。時計を見ると朝の6時を指している。外はまだ薄暗く、辺りには誰もいない。
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、昨夜の出来事を思い返す。
「夢……か」
そう呟いて安堵の溜息をつく。どうやら悪い夢を見ていたらしい。
俺は額に浮かんでいた汗を拭いながら、ゆっくりと起き上がる。
「……ん?」
そこでようやく異変に気づく。何かがおかしい。具体的に何がとは言えないが、とにかく変なのだ。
「あれ? どうして裸なんだろうか?」
不思議に思い自分の体を見下ろすと、胸から腹にかけて大量のキスマークが付いているのが見えた。
「まさか、また悪夢が現実に?」
俺は慌てて服を着ると、部屋を出てトイレへと向かう。しかし、個室の扉を開けるが、なぜか中には何もいなかった。
「どういうことだ? 誰か入っているのか?」
俺は首を傾げながらも用を足すと、手を洗って廊下に出る。すると前方に看護婦さんの姿があった。
「おはようございます」
挨拶をして通り過ぎようとするが、腕を掴まれてしまう。
「ねえ、どこに行くつもり?」
「えっと、顔を洗いに行こうと思いまして」
「嘘つき。貴方はこれからここで一生暮らすのよ」
そう言って微笑む彼女の瞳の奥に狂気の色が宿っていた。
「……そうか、そういうことだったんですね」
俺は彼女の言葉に全てを理解すると、小さく嘆息した。
「お手上げだな」
俺は観念すると、大人しくベッドに戻ったのだった。

※それから一週間後。俺は病院の中庭にあるベンチに腰掛けていた。空は青く澄み渡り、心地よい風が吹き抜けていく。絶好のお散歩日和である。しかし、気分はどんより曇り模様である。
「はあ」
思わず溜息が出る。どうしてこうなった。どうして俺はこんなところで油を売っているのだ? そう自問するが答えは出ない。
「……まあ、いっか」
俺は考えるのをやめた。人生とは諦めが肝心である。
「さて、そろそろ戻るかな」
そう独りごちると、立ち上がって病室に戻ることにした。今日も退屈な一日が始まる――はずだった。
だが、俺の運命を変える出会いが訪れることになる。
それは突然のことだった。
「危ないっ!」
背後から叫び声が聞こえたかと思うと、凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、痛みに悶え苦しんでいると、今度は何者かに踏みつけられた。その正体を確認すると、そこに立っていたのは一人の少女であった。
彼女は血走った目でこちらを見下ろしている。そして手に持ったナイフを振り上げると、躊躇なく振り下ろす。ザクッという音と共に激痛が走る。見ると、腹部が切り裂かれており、ドクドクと血液が流れ出していた。
「ぐあぁああっ!」あまりの苦痛に悲鳴を上げる。このままでは死んでしまう。なんとかしなければ――。そう思った矢先のこと、俺の中に眠っていたもう一つの人格が目覚めた。「ククク、いい声で泣くじゃないか。もっと聞かせてくれよ」
「なっ!?」
目の前の少女は驚愕の表情を浮かべる。それも当然だろう。先ほどまで瀕死の状態にいたはずの人間が、一瞬にして元気を取り戻したのだから。
「お前は何者なんだ?」
俺の口が勝手に動く。
「内志鏡《プローブ》だ」
少女は凍り付いた。すぐさま「そうか、検査されていたのは我々の方か」
俺は筋肉質の腕で少女の手首をねじり上げた。ナイフが落ちる。
「ああ、気づいてないふりをしているどころか本当に自我を殺していた」
「まさか違星人同士で監視しあう仲になるとはな!」 
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