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胃カメラ世界条約

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8時だよ10兆縁

「なるほど、だいたいわかりました。胃カメラ世界条約の陰にそんな陰謀が潜んでいたのですね。しかし裏事情がどうあれ私には関係のないことです。胃カメラ受診は断固拒否しま」」「あー! 待ってください! 待ってください!」
再び立ち去ろうとする俺の腕を、先ほどの看護婦さんが再び掴む。
「なんです? もう話は終わりましたよね?」
「まだ終わっていませんよ! むしろここからが本題です!」
「本題……ですか」
俺は首を傾げた。
「はい。実はあなたにやっていただきたいことがあるのです」
「私ができることならいいですよ。なんでも言ってください」
「ありがとうございます。それではさっそく――」
看護婦さんは俺の耳元へ口を近づけた。
そして小声で囁く。
「あなたの胃の中にいる寄生虫たちを退治してください」
「えぇ……!? ど、どういうことですか?」
予想外の展開に思わず声を上げる。
すると看護婦さんは慌てて口を押さえてきた。
「静かにして下さい。今から説明するので」
「わ、分かりました……」
看護婦さんの勢いに押されてコクコクとうなずく。
彼女は手を離すと、コホンと咳払いをした。
「まず最初に確認させてもらいますけど、あなたは虫垂炎を患っていますね?」
「そうみたいですね。でも私は健康診断では何も言われていませんよ」
「それは当然でしょう。だって虫垂炎だと分かったのはつい最近の事だから」
「最近? 一体何があったんですか?」
「あなたは3日前に、近所の病院に行きましたね。そこでレントゲン撮影やCTスキャンを受けたはずです」
「はい、確かに行きましたけど……。それが何か?」
「その病院で、あなたはある検査を受けませんでしたか? 内視鏡を使った検査を」
「ああ、受けました。先生から『これは間違いなく虫垂炎だ』と言われまして」
「その時、医者は何と言いましたか?」
「確か、お腹の中が真っ黒だったとかなんとか……」
「それで間違いありません。その黒い部分は、あなたの体の中で増殖したウイルスのせいです」
「ウイルス? どうしてそんなことに」
「アルカイダの仕業です。最近は渡航歴のない人にも感染が広がっているらしく、世界中で大騒ぎになっているんですよ」
「アルカイダが……まさか」
「はい。その通りです。アル・カダルイダの連中が、世界中にウイルスを放ったせいです」
「なんてことを……許せない!」
怒りのあまり拳を握りしめると、看護婦さんが心配そうな顔を向けてきた。
「落ち着いてください。気持ちはよくわかります。だけど怒っていてはいけません。アル・カダルイダの連中につけ込まれるだけですから。奴らは狡猾で残忍な性格をしているんです。絶対に騙されないでください」
「……分かりました。肝に命じておきます」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、改めて質問をする。
「それで俺はどうすればいいんですか?」
「世のため人の為に胃カメラ検診を受けてください。まさか、嫌だとは言いませんよね?放っておいたら貴方のからだからウイルス兵器が拡散して、テロリストの思うつぼです。貴方にも大切な人がいるでしょう? 彼らの命を守るためにもぜひ協力してください。」
「……わかりました。協力します」
「良かった。これで世界の命運も救われる」
看護婦さんはほっとした様子で胸を撫で下ろした。
「あのー、ところで一つ気になることが」
「なんでしょうか?」
「どうして私の病気がアル・カダルイダによるものだってわかったんですか? レントゲンを見ただけでは分からないと思うのですが」
「私は白衣の天使ですよ。何でもお見通しです」
「そっ、そうですか。それはどうも」
俺は彼女の怪しげな色目線に気づきそそくさと退散したのだった。その夜は彼女のあですがたがチラついて眠れなかった。しかし悶々としていると胃に鈍痛をおぼえる。やはり胃カメラを体が怖がっている。
だが、ここで逃げては男が廃るというものだ。俺は覚悟を決めると、翌日再び病院を訪れた。そして胃カメラの世界条約に加入する。
こうして俺は晴れて胃カメラ受診者となったわけである。


※ さて、胃カメラの世界条約に加入し終えた俺は、看護婦さんに連れられて手術室へとやって来た。
そこには巨大なカプセル状のベッドが置かれており、中には銀色の液体が入っている。
「この中に入るのですか?」
「ええ、そうよ。服を脱いで横になってちょうだい」
「わっ、分かりました」
言われた通りに全裸になると、銀色の液の中に体を浸ける。ひんやりとして少しだけ肌寒い感じがした。看護婦さんは俺の体に電極のようなものを取り付けると、なにやら機械を操作し始めた。すると頭上からシューッという音が聞こえてくる。
見上げると、天井の一部が開いており、そこから蒸気のような気体が噴き出していた。 
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