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銀河を漂うタンザナイト

作者:ASHTAROTH
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アスターテ星域会戦②

 
前書き
アスターテ会戦第2話です、前回の最後の方で被弾したレオニダス。果たして我らはがオリ主君は生き残っているのか? 

 
アスターテ星域 自由惑星同盟軍第4艦隊旗艦レオニダス 艦橋

「くそっ、一体どうなっているんだ?誰か報告せよ!」

クロパチェクは悪態をつくと、状況を確認すべく艦橋内で声を張り上げたが、弱弱しい返事が一つ二つ帰ってきただけだった。

「だめだ、みんな死んでるのか……」
「うぅ…」
「おい、大丈夫か?しっかりするんだ」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「礼なら後で良い。それより状況を教えてくれ。いったい何があった?」
「は、はい、それが……」

艦橋内にあった非常用電源によって最低限の照明が確保されていたが、そのせいもあってか視界が悪く、また艦内の状況も混乱を極めていたこともあり、クロパチュクはなかなか事態を把握することができなかった。そのためクロパチェクは近くにいた士官の話を聞き終えるまで、少なくない時間を要した。

「幕僚団だけでなく艦隊司令官のパストーレ閣下まで戦死されただと…」
「一応確認できただけで1,2人ほど生き残っていますが、状況が状況ですのでちゃんとした確認ができていないのです」
「ふむ、まあいい。それで他の生存者はどこにいるんだ?」
「はっ、現在艦内に残っていた生存可能な人員を艦内の各部署に配置しています」
「そうか……分かった」

クロパチェクはその話を聞いて、一瞬目を閉じた後に再び口を開いた。

「残念だが、この船は放棄する。総員退艦命令を発令したい。艦内放送用マイクはどこにある」
「はっ、こちらです」
「そうか、助かる」

クロパチェクは士官から渡されたマイクを受け取ると艦内に放送した。

『本艦はもはや戦闘に耐えられる状態でないため放棄する、各乗員は速やかに退艦せよ』

この命令は即座に実行され、各部署に配置されている生存者たちは脱出用シャトルに乗り込んだ。

「よし、これでいいだろう。さて、我々も脱出するとしよう」

そう言ってクロパチェクは脱出用シャトルに向かうべく、走り出した。

「それにしても本当にひどい有様だ」

クロパチェクはあたりを見回した。

「これではもう戦争どころではないな」

クロパチェクの目に入った光景はまさに地獄絵図そのものといったありさまであり、彼は思わず顔をしかめた。
そしてこの惨状を引き起こした原因に思い当たる節があり、そのことについて考えていた。

(やはり今の同盟軍艦艇の防御力には疑問符が付くな、生きて帰れたら意見具申書を出すか)

そんなことを考えつつ、クロパチュクは脱出用シャトルへ乗り込むと、直ちに旗艦レオニダスから退艦し、付近を航行していた分艦隊旗艦リューリクに収容された。そして司令官を始め幕僚団の大半が死亡したことあり、現在の第4艦隊の指揮官は一時的に分艦隊司令官であるセルゲイ・パノフ准将が務めていた。

「パノフ准将、クロパチェク大佐をお連れしました!」
「ご苦労、休んでくれ。あとは私が引き継ぐ」
「はっ、了解しました!」

クロパチェクを連れてきた士官は敬礼すると、自分の持ち場に戻っていった。

「さて、分艦隊司令官パノフだ。クロパチェク大佐、よく来てくれた」
「いえ、とんでもないことです」

二人は互いに敬礼を交わした後、現状の確認を始めた。

「まず最初に聞きたいことがあるのだが、艦隊首脳部はどうなったのかね?」
「はい、生き残ったのは私を含め数名だけという有様でして、ほぼ壊滅したといっても過言ではありません」
「そうか……それはお気の毒に……」

パノフは心底同情するかのようにつぶやいた。

「しかし、パストーレ閣下をはじめ多くの将兵が亡くなったのだ。せめて彼らの冥福を祈るとしよう」
「えぇ、そうですね」

クロパチェクはうなずくいた後に話し出す。

「一応幕僚団で生き残ったのは私と後方勤務参謀のリアコフ少将、それと副参謀長のアブラハム少将の三名のみとなります。しかし、2名とも重傷を負っておりこの状況ではまともに指揮できるかどうかは微妙です」
「そうだな……それで今後の方針なのだが……」
「はい、いったん戦線を離脱すべきかと思います。そして態勢を整えてから味方艦隊と合流すべきかと考えます」
「確かにそれしかないな。問題は誰が指揮を執るかだが……」

パノフは少し考えるような仕草を見せた後、クロパチェクに問いかけた。

「君はどう思う?」
「階級からして閣下が指揮をとられるべきかと思いますが…」
「いや、私は無理だ。とてもじゃないがこの状況下で冷静に指揮を取れる自信はない。むしろ君が指揮を執ったほうがいいと思うがね」
「……」

クロパチェクはしばらく考え込んだ後、首を振った。

「申し訳ありませんが、参謀や1艦の指揮を執るならまだしも、1個艦隊は私も自信がありません。それに参謀とはいえ佐官クラスが1個艦隊の指揮を執るというのはおかしいですので、やはりここは閣下にお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ、まあそういうことなら仕方がない。引き受けよう」
「ありがとうございます」

クロパチェクはパノフの言葉を聞きながら内心で安堵のため息をついた。

「よし、ではこれより我々は一時撤退を開始する。その後、他の艦隊と合流するぞ」
「はっ、分かりました」

こうして、第4艦隊は一旦撤退することを決めたのだったがその状況はあまりいいものではなかった。なぜなら、その時には帝国軍が包囲網を形成しつつあったからだ。

「これはまずいな……」

クロパチェクは小さくつぶやくと、これからの方針について考えた。

(敵は我々を包囲しようとしているのか?だとしたらこのままでは袋叩きにされるだけだ……)

彼が思案していると、パノフが話しかけてきた。

「クロパチェク大佐、何か策はないのか?もしあるなら聞かせてもらいたい」

クロパチェクはパノフの顔を見ると、ためらいがちに口を開いた。

「あります。ただ成功するかどうかは五分といったところでしょうが」
「どんな内容なのだ?」
「実を言うと今目の前で展開している敵艦隊ですが、どうも見た限り動きがやや鈍い感じがするので、あの当たりに火力を集中して一点突破を図るのはどうでしょうか?」

クロパチェクはそう言い終わると、パノフの反応を見た。パノフは腕組みしながら、じっと考えていたがやがてゆっくりとうなずいた。

「分かった、やってみる価値はあるだろう。それで具体的にどうすればいいんだ?」
「はい、まずは敵艦隊に全火力を叩きこんで、敵がひるんだすきに高速で突入し突破口をこじ開け、速度を保って離脱…というのはいかがでしょう?」
「ふむ、ベターな手だが悪くない、それでいこう」

クロパチェクの提案を受けたパノフはすぐに行動を開始した。

「よし、全艦砲撃準備!目標前方の敵軍!」

パノフの命令に従い、同盟軍第4艦隊は一斉に主砲の照準を合わせる。
そして、クロパチェクから提案された作戦案の元、自分達から見て前方左翼方向に展開する帝国艦隊-フォーゲル分艦隊-にありったけの火力を叩き付けた。

「主砲斉射三連、ファイヤー‼」

その命令と同時に同盟軍の艦艇から無数のビームやミサイルが放たれ、帝国軍の艦艇に命中していく。


フォーゲル分艦隊旗艦バッツマン 艦橋

「砲撃来ます!!」
「くそ、叛徒どもめ!反撃だ!ファイエル!」

フォーゲル分艦隊司令官であるフォーゲル中将は、部下たちに命令すると自らも旗艦による射撃を開始し、応戦した。しかし、死に物狂いの同盟軍の猛攻により、フォーゲル分艦隊はすでに先手を取られており、対応が後手後手に回っていた。

「全艦、左回頭しつつ応戦せよ!!」
「閣下、それでは陣形が維持できません!」
「構わん、撃ち続けろ!」

フォーゲルはそう叫ぶと、必死になって回避運動を行いつつ、反撃を行った。しかし、それでも約3000隻と約8000隻という圧倒的な数の差の前には焼け石に水であり、徐々に劣勢に立たされていった。

一方、クロパチェクの提案した攻撃目標はまさに効果てきめんだった。というのも、この攻撃によってフォーゲル分艦隊は混乱に陥り、一時的に統制が取れなくなっていたのだ。更にフォーゲル中将が回頭命令を下したのが混乱に拍車をかけた。
その結果、フォーゲル分艦隊は隊列が乱れて密集状態となり、そこに同盟軍の攻撃が集中した。結果、いくつかの戦艦や駆逐艦が爆沈し、多くの艦艇が戦闘不能に陥った。

「えぇい、何をやっているのだ!?反撃せよ!」
「閣下、今がチャンスです」
「よし、今だ!!突入、敵艦隊を食い破れ!!」

パノフの号令の下、第4艦隊は一気に突撃する。
そして、そのままフォーゲル分艦隊の横腹に喰らいつくと、猛烈な砲火を浴びせた。

「撃って、撃って、撃ちまくれ!敵の戦力を削り取れ!」

パノフはそう叫びながら、さらに艦隊を加速させる。そして、ついにフォーゲル分艦隊の中央部深くに食い込み、突破に成功しつつあった。
当然のことながら帝国軍も黙って第4艦隊が逃げ出すのを見逃す気はなかったが、敵が味方艦隊の奥深くに食い込んでいたため誤射を恐れて発砲を控えざるをえなかった。
そのため、パノフたちはほとんど損害を受けることなく、フォーゲル分艦隊を突破しつつあった。

「フォーゲルは一体何をやっている!?こんな無様な戦い方で勝てると思っているのか!?」

ラインハルトは目の前の戦況に苛立ちを隠せなかった。彼はすでに味方艦隊が敗走しているという報告を受けており、彼自身もそれを目のあたりにしていた。
彼の視界には逃げる味方艦隊の姿と、それを追うように追撃をかける同盟軍の姿が映っていたが、この時ラインハルトは味方の敗北を完全に認めていた。

「まったく、何たるざまだ!!フォーゲルの無能め、包囲網の構築も満足にできないか!」

ラインハルトは舌打ちと共に吐き捨てるように言うと、すぐに通信兵に命じた。

「ファーレンハイトとメルカッツの両艦隊を急行させてフォーゲルを掩護させろ」
「了解です」

ラインハルトの命令を受けて、オペレーターは両艦隊の提督に回線を開く。そして、事情を説明し命令を伝えた。

「なるほど、そういうことか。分かった、すぐに向かうと伝えろ」
「分かりました」

ファーレンハイトは副官のザンデルス中佐に対し短く答えると、すぐさま命令を実行に移した。そして、メルカッツもまた同様の行動をとった。

「閣下、どうされますか?」
「うむ、敵艦隊はフォーゲル分艦隊の中央に位置しており、下手に発砲しては同士討ちになる恐れがある。素早く近づいて宙雷艇とワルキューレで攻撃する」
「はっ」

メルカッツの言葉に副官シュナイダー中佐はうなずくと、各艦に指示を出す。
こうして、帝国軍は同盟軍が離脱しつつあるフォーゲル分艦隊中央部に対して宙雷艇とワルキューレによる攻撃を開始した。帝国軍の攻撃に対し、同盟軍は果敢に反撃を行う。幸い同盟軍にとって幸運だったのは、この段階で帝国軍は同士討ちを恐れて火力を一点集中するのではなく、散開させていたことだ。
結果として同盟軍の被害は比較的軽微に抑えられた。ただ、それは帝国側も同様であった。しかし、同盟軍の突撃によって帝国軍は一時的に勢いを削がれてしまう。

「閣下、今が好機です。あのポイントに全火力を叩きめば完全に突破できます」
「よし、今だ!全軍、一斉射撃!!」

パノフの号令の元、同盟軍の第4艦隊は再び火力を叩き付けるべく帝国軍に向けて突進した。それに対して帝国軍は何とか応戦しようとするが、帝国軍の艦隊運動は同盟軍に比べてやや拙劣であり、その動きは完全に鈍りつつあった。更に帝国軍フォーゲル分艦隊にとって不運なことに分艦隊旗艦バッツマンに砲撃が命中し、司令官であるフォーゲル中将が戦死してしまった。その結果、フォーゲル分艦隊は組織的抵抗能力を失ってしまった。

「よし、今だ!全艦、前進せよ!」
「はい、閣下!」

パノフの号令の下、同盟軍は最後の攻勢に出る。そして、ついに帝国軍の包囲網を突破することに成功した。

「友軍残存艦艇9割近くが離脱に成功、残るは我々だけです!」
「よし、これで我々は自由の身となった。後は我々が撤退するだけだ。ランチャーに残ったミサイルを打ち尽くせ!撃ちまくって敵を混乱させるんだ!」

パノフはそう叫ぶと、自らも座上艦リューリクの主砲を撃ち放った。同盟軍のミサイル攻撃は帝国軍に大きな損害を与えたが、それでも帝国軍は粘り強く反撃を行い、同盟軍の離脱を食い止めようとした。しかし、ミサイル攻撃によって元々乱れていた隊列が、更に乱れていたことに加えて、同盟軍の執拗な攻撃により、徐々に後退を余儀なくされた。
一方、同盟軍も無傷という訳にはいかなかった。多くの艦艇が被弾し、損害を被っていた。そして何より損害を受けたのが、最後まで踏みとどまって味方の離脱を掩護したパノフ准将麾下の直卒部隊60隻だった。

「あとは我々だけだ、わが艦も後退、離脱するぞ」

パノフは部下たちに命令すると、自身も旗艦とともに後退しようとしたが…。

「敵弾来ます!」
「回避!」
「ダメです、間に合いません!」

パノフの部下たちはそう叫んだ瞬間、リューリクの船体中央部に1発のウラン238弾が命中。船体を大きな振動が襲った。

「アグゥ!!」

クロパチェクは苦痛の表情を浮かべると共に、形容しがたい悲鳴を上げてシートから放り出される。そして、そのまま床に叩き付けられた。

「…痛ッ!」

右手の薬指と小指あたりから激烈な痛みが伝わってきた。反射的に視線を向けると、そこには鮮血に染まり指が2本なくなっている自分の手と床に落ちた薬指があった。

(これは、まずいな)

彼は激痛の中で一瞬だけ冷静に考えると、ハンカチで傷口を覆った。そして、とっさの判断でオペレーターに命令を下す。

「ダメージコントロール急げ、負傷者を後送しろ!」
「はっ、了解です」
(って、本来ならこれは艦長の仕事だったな)

クロパチェクは苦笑しながら、同時に安堵の感情を抱いた。自分が負傷してもまだ冷静でいられるだけの余裕があるのだ。
しかし、それはつかの間のことだった。

「閣下、パノフ准将殿しっかりしてください!!」

オペレーターが叫ぶ声が聞こえた。

「何だと!?」

クロパチェクはすぐに立ち上がって、周りを確認する。すると彼の視界に重傷を負ってわき腹を抑えながら指揮官用シートにうずくまるパノフ准将の姿が確認できた。

「閣下、ご無事ですか!?」
「ああ、何とかな。…それより貴官の方が重傷じゃないか…」
「いえ、私は大丈夫です、たかが指の1本や2本程度…」
「そうか…」

パノフはかすかに笑うと、すぐに痛々しげな表情になった。

「すぐに軍医と衛生兵を呼べ。それとだ、クロパチェク大佐、現在艦隊の指揮を執る能力があって、なおかつ階級が高いのは貴官のようだ…。命令だ、貴官が我が艦隊の指揮をとれ」
「え、はっ…、了解…」

クロパチェクは一瞬戸惑ったが、すぐに命令を受け入れると、直ちに艦隊に命令を下した。

「全艦へ通達、これより我が艦隊は戦場を離脱し第2艦隊と合流する。また司令官パノフ准将閣下重傷により私、アラン・クロパチェク大佐が指揮を執る。以上だ」

こうして、帝国軍艦隊を何とか振り切った同盟軍第4艦隊の残存兵力約7000隻近くは、無傷の第2艦隊と合流すべく進路をとったのであった。 
 

 
後書き
うーん、相変わらず微妙過ぎる。もういっそのこと転生者設定はなしにします。次回もアスターテの話です。 
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