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馬上 

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第二章

「狙いは定まらぬ、弓は腕や指だけでは放てぬ」
「はい、足腰でしかと踏ん張りです」
「そうして放つものであるな」
「左様であります」
「それならじゃ」
「馬に乗っている時に馬がふらふらしていては」
「狙いは定まらぬ、だからお主は馬に乗っては弓は不得手じゃ」
 そうなるというのだ。
「それも道理であるな」
「そうでありますな」
「うむ、そういえばじゃ」 
 ここで為義は語った。
「異朝の関羽将軍であるが」
「後漢の頃の」
「あの将軍殿も図体があってのう」 
 為朝の様にというのだ。
「乗っている馬が痩せておったという」
「左様でありましたか」
「それで後に大きな馬に乗ってな」
 そうしてというのだ。
「存分に戦えたという」
「そうでしたか」
「呂布将軍が乗っていた馬に乗ってな」
「確か赤兎馬でしたな」
「西域の馬だというな」
 その赤兎馬はというのだ。
「他にも西域には汗血馬もありな」
「名馬の産地ですか」
「それで知られておった、異朝もそうであるが本朝も馬は小さい」 
 為義はこのことを話した。
「それでお主の様な馬を充分に乗せる馬はな」
「本朝にはありませぬか」
「本朝の何処を探してもないであろう」 
 それこそというのだ。
「最早な」
「ではどうすればよいでしょうか」
 為朝は父に難しい顔で問うた、二人共まだ馬上であるが確かに彼の馬は痩せている。
「一体」
「お主弓を使う時は馬から降りよ」
 為義ははっきりと告げた。
「幾ら弓が得手でも狙いが定まらぬのであな」
「いけませぬか」
「それでは意味がない」
 それこそというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「弓を使う時は馬から降り」 
 そうしてというのだ。
「使え」
「馬上での弓は武士が出来ねばなりませぬが」
「そうであるがな」 
 それでもというのだ。
「弓は当たって射貫いてこそじゃ」
「意味がありますか」
「そうであるからな」
 それでというのだ。
「それが出来ぬのであれば」
「馬から降り」
「そして使うのじゃ、特に戦の場ではな」
「敵を倒せねば意味がありませぬ」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「そうせよ」
「これからは」
「そして勝て」
 戦にというのだ。
「よいな」
「それでは」
 為朝は父の言葉に頷いた、それで以後はだった。  
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