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第三章

「穢れを祓う」
「そうするか」
「だからな」
 それでというのだ。
「わしに任せろ」
「先生に無礼は許さぬか」
「流石にな」
「おい、吉田松陰は何処じゃ」
 その清原が言ってきた。
「このわしが会いに来てやったんじゃ、話がある」
「僕にですか?」
 その言葉を聞いてだった。
 松陰自身がひょっこりと出てきた、面長で童顔である。彼は清原の声を聞いて面白そうに出て来た。
「何の御用ですか?」
「先生、出てはなりません」
「相手は藩きってのならず者です」
「そうした者です」
「まして先生を常に悪く言っている者」
「相手にしてはなりません」
「いえ、僕に会いたいならです」
 松陰は自分を護ろうとする弟子達に笑って答えた。
「是非お会いしたいです」
「それでお話される」
「そうされるのですか」
「先生が」
「はい、僕に用事があるのはどなたですか?」
 周りを見回しつつ問うた。
「それで」
「わしや」 
 清原はその松陰に傲慢な態度で応えた。
「わしが自らや」
「来られたのですか」
「話がある」
 こう言うのだった。
「お前にのう」
「先生をお前呼ばわりか」
「それも初対面だというのに」
「幾ら二百石取りの家とはいえ無礼であろう」
「無礼とは聞いていたが」
「これ程までとは」
 塾生達は皆怒った、それは桂も同じで。
 遂に刀を抜こうとした、高杉はおろか久坂も止めようとはしない。だがここで松陰は穏やかにだった。
 清原の前に出た、すると。
 松陰は穏やかなままだった、だが。
 清原は彼と正対すると急にだった。
 態度がせせこましくなりだ、そのでかい図体を縮こまらせてそそくさと立ち去った、そして振り向き様にこう言った。
「また来るわ」
「何もお話していませんが」
「気が変わったわ」
 そのせせこましい態度での言葉だった。
「それでや」
「そうですか、ではまた」
「またはないわ」
 こう言ってだった、清原は駆けてこそなかったが。
 松陰の前を逃げる様に去った、これには多くの塾生達も驚いたが。
 久坂は成程と頷いて言った。
「先生の器に負けたな」
「それでか」
「だからあの男は逃げた」
 こう桂に話した。
「そうしたのだ」
「逃げたのか」
「あの清原という男噂通りの小者だな」
 久坂は笑ってこうも言った。
「先生と話すまでもない」
「そこまでの者か」
「先生の気に正対しただけで飲まれてな」
 そうなってというのだ。
「怖気付いて退散したわ」
「そうなのか」
「それで逃げたのよ」
「しかし先生は争われる方ではないぞ」
 高杉は松陰のその気質のことから話した。
「争いではなく学問を好まれる」
「そうした方であるな」
「左様、だからな」
「別に争うなどということはだな」
「誰にもせぬ」 
「そうだな、しかし清原は違う」
 あの男はというのだ。
「あ奴の頭にあるのは上下だけ、その見せかけの力で従わせるかどうかだけよ」
「そんな奴だからか」
「先生の学究のお心そして誰にでも対して話を聞こうというな」
「そうしたお考えにか」
「全く及ばずな」
 そうしてというのだ。
 
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