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Fate/WizarDragonknight

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怪鳥

「ありがとうございました」
「ありがとうございましたッ!」

 ハルトと響は、医者へ礼を言って病院を出た。
 手を振って病院に戻る医者を後ろ目に、ハルトと響は治ったマシンウィンガーに跨った。
 朝焼けの時間帯。まだ太陽が昇りきっていないが、医者のところに長居するのも忍びない。
 そう判断したハルトは、眠気が冷めてない夜明けに彼のもとから出発することにした。
 医者になけなしの現金を渡したハルトは、そのまま見滝原南の大地を駆けていく。

「ハルトさんは今日どうするの?」

 マシンウィンガーの上で、ハルトの背中にしがみつく響が尋ねた。

「……変わらないよ。蒼井晶を探す」
「昨日、狂三ちゃんにあんなに忠告されたのに?」
「うん」

 ハルトは深く頷いた。

「それにフォーリナー……時崎狂三があの医者の所に来たってことは、そのマスターである蒼井晶だって近くにいるんじゃないかな」
「そうだけど……」

 響は、眉を八の字にしている。

「蒼井晶って人を助けたいのは分かるけど……でも、そのために狂三ちゃんと戦うことになるのは嫌だよ。やっぱり、手を繋げるのを諦めたくない」
「……」
「ハルトさんがいつも、誰かを助けるために頑張ってるのは知ってるけど……でも、救えない人を切り捨てるくらいなら、わたしは最初から誰一人としても諦めたくないよ」
「前も言ったけど、響ちゃんは、そうやって人を守ればいい。俺は……」

 ハルトはマシンウィンガーのハンドルを握る力を強める。

「多くの人を守れるためだったら、俺はどんな泥だって被るって決めているんだ」
「泥……」
「……ごめん。あまり詳しくは言えないかな」
「そうなんだ……」

 ハルトの意見に、響は静かに口を噤んだ。
 しばらく、響は何も言葉を発することはなかった。
 そして、あらかた周囲を探しただろうかと感じ始めた時。

「待ってハルトさんッ!」

 響の声が、耳を刺す。

「止まってくださいッ!」

 ブレーキを踏んだ。
 マシンウィンガーが静止し、響はマシンウィンガーから飛び降りた。

「君、どうしたのッ!?」

 響が駆け寄った先。
 無数のごみ袋が積みあがる場所で、紫の布が投げ捨てられていたのだ。
 布。だが、ただの布とは思えない。
 中心にふっくらと膨らみがある。そして、布の端には、薄灰色の毛むくじゃらが見て取れた。

「大丈夫ッ!?」

 響は、その布に話しかけ、剥ぎ取った。
 布の下には、少年の姿が横たわっていた。あの薄灰色は、少年の髪のようだった。

「ねえ、大丈夫?」

 響が彼の肩を揺らす。だが、少年の反応は言葉ではなく呻き声。
 青ざめている表情に、ハルトもマシンウィンガーを降りる。

「響ちゃん、ちょっと診せて! ……これ」

 唇に手を当て、額から体温を測る。

「衰弱してる……」
「どうしよう……? ちょっとだけだけど食料はあるよ?」
「そんなものだけじゃ足りないでしょ」

 ハルトは、少年を背負う。
 おそらく九、十歳くらいの少年。だが、ハルトの背中にのしかかった重さは、明らかに平均のそれを下回っていた。

「ハルトさん?」
「軽い……急いであの医者のところに連れて行こう」
「うん」

 響を下ろしたまま、ハルトはマシンウィンガーに跨る。バイクの車輪を百八十度転回させ、走らせる。
 方角は合っているはずだと祈りながら、ハルトはバイクを急がせるが、見覚えのある場所には辿り着けない。

「……ねえ、ハルトさん」

 響がおそるおそる尋ねた。
 少年を挟んで、ハルトの後ろに座っている響。一人用のマシンウィンガーに三人乗りという定員オーバーだが、響は気にしない。

「何?」
「なんか、皆すごい勢いで走ってない?」

 響の言葉に、ハルトは初めて周囲を見渡した。
 誰も彼もが、鬼気迫る表情で走っている。中には、走って来た方を振り返る者もいる。

「確かに、みんな何かから逃げてる?」
「何から逃げてるんだろう?」

 やがて、逃げる男性のうち一人がハルトに掴みかかって来た。ボロボロの服装と長いひげから、まさに浮浪者といった風貌の彼は、目を見張りながらハルトを見上げた。

「どうしたの?」

 だが、ハルトにしがみつく男性は、ハルトへ訴えた。

「鳥だ! 鳥だ!」
「「鳥?」」

 鳥と聞いて、ハルトと響は同時に野鳥公園の光景を思い浮かべた。実際、ハルトがよく訪れる見滝原公園はバードウォッチングのスポットとしても人気である。
 そして。
 奥の建物、その天井が弾け飛んだ。

「ひ、ひいいいいいいいい!」
「待って下さい! 一体何が……」

 だが、男性はもうハルトの声が届かないほど遠くなっている。
 彼から情報を仕入れることを諦めたハルトは、改めて彼が逃げてきた方向を見やる。
 そして。

「な、何だあれ!?」

 鳥。
 そう呼ぶべきなのだろうか。羽毛がなく、牙がある鳥などいないが、赤いその体は、あたかも返り血で染まったかのようだった。人間とそう大差ない大きさのそれだが、
 そして。
 その凶悪そうな牙に挟まる、ぐにゃりと柔らかい肉片。それを見た瞬間、ハルトと響はぞっとする。
 肉片を丸飲みした鳥___もはや、鳥と呼ぶのもおかしい。怪鳥と呼称すべきだろう___は、その赤い眼で周囲を見渡す。
 ほとんどの人々が逃げ切ったこの場所。残っている獲物は、たった二人。
 ハルトと響(残った獲物)を睨み、吠えた。
 おおよそ鳥類と想像付かない生物。血がべっとりと付着した牙が、否が応でも目に入る

 そして。

「来る!」

 ギャオ、という鳴き声とともに、怪鳥は飛び上がった。一瞬だけ上昇し、マッハにも迫る速度でハルトたちを喰らおうと攻めてくる。

「変身!」

 ハルトは急いで、エメラルドの指輪で変身。
 緑の風が、怪鳥のスピードを殺し、上空へ押し返す。同時に風のウィザードとなり、ウィザーソードガンを身構えた。

「ハルトさんッ!」
「こっちは俺が何とかする。響ちゃん、その子をお願い!」
「うんッ!」

 響が少年を背負って行くのを見送るのと同時に、ウィザードは風に乗って上昇していく。
 ウィザードを敵と見定めた怪鳥は、そのままその牙で食らいついてくる。
 ウィザーソードガンを振り上げ、刃と牙が激突する。ウィザードと怪鳥、両者の蹴りが同時に互いへ命中。大きくその体をのけ反らせた。

「くっ……」

 ウィザードは体を回転させながら体勢を立て直す。
 だが、怪鳥はすぐさま攻撃を続ける。
 その翼を広げ、何度もウィザードへ突撃してくる怪鳥。相手の攻撃を一つ一つ銀の剣で防ぎ、受け流していく。

「なんて素早さだ……一瞬だけでも、アイツの動きを止められれば……」

 ウィザードはソードガンをガンモードに切り替え、怪鳥へ発砲した。
 無数の銀の弾丸が、魔力制御された軌道をもって怪鳥へ降り注いでいく。
 だが、怪鳥は運動性能を遺憾なく発揮し、銃弾を掻い潜っていく。対象を見失った銃弾は、撤去されない瓦礫に命中し、火花を散らしていく。
 怪鳥は再びウィザードへ迫る。
 応戦することを諦めたウィザードは、別の手段として右手の指輪を入れ替える。

『バインド プリーズ』

 魔法陣より放たれた無数の鎖が、怪鳥を捕えようとする。だが、機敏な動きの怪鳥は、それを全て回避し、ウィザードとの距離を詰める。

『ディフェンド プリーズ』

 風の防壁が、怪鳥の動きを止める。その時、怪鳥が痙攣した。

「え……!?」

 さきほどまでの機敏な動きからは一転、苦しみもがいている。
 それは、丁度朝日が昇る時間。
 東から顔を出す太陽が、怪鳥の視界を奪っていく。

「今だ!」
『ハリケーン スラッシュストライク』

 ウィザードは、即座にウィザーソードガンに緑の指輪をウィザーソードガンに読み込ませる。
 ウィザーソードガンの刃が薙がれるのと同時に、緑の風が吹き荒れる。
 怪鳥を巻き込み、竜巻となって上昇していくそれは、やがて怪鳥の体を細切れに切り裂いていった。

「やった……」

 ウィザードはそのまま、地上に降りて行こうとする。
 だが。
 また、聞こえてきた。
 ギャオ、ギャオという雄たけびが。
 それも二重に。
 ウィザードが振り向くと、そこには、二体の怪鳥が牙を向けていたのだ。

「っ!」

 体勢を変えるがもう遅い。
 二体の怪鳥は、迷わずウィザードの両腕にかぶりついた。
 ウィザードのローブを貫通し、肉体にそれぞれ大きな威力の刃が貫いてくる。

「ぐっ……!」

 さらに、怪鳥たちは猛烈な力でウィザードの両腕を引きちぎろうとしてくる。

「ハルトさんッ! 『Balwisyall Nescell』」

 地上より、黄色の歌が聞こえてくる。
 やがて、眩い光が怪鳥たちの視界を覆い、その動きを大きく鈍らせた。

『gungnir tron』

 光とともに、響がウィザードの前に躍り出る。
 響の姿は、さっきまでの黄色と白の服装ではない。黄色をメインとした武装。両腕には大きな籠手が装備され、その首からは白いマフラーがたなびいている。

「たあッ!」

 上空の響は、即座に攻撃に移る。二度のかかと落としで、二体の怪鳥を叩き落とした。

「我流・翔空降破ッ!」

 さらに、響は即座に空中から落下。
 腰に装着されたブースターが火を噴き、彼女の勢いを増していく。
 二体の怪鳥へまとめて放たれた拳。
 だが。
 怪鳥の口から、空気が震えだす。無数の光が、二体の怪鳥の口へ集まっていく。やがて、その口からは、黄色の可視化光線が発射された。

「だとしてもおおおおおッ!」

 響は発破とともに、地上への速度を速める。
 ウィザードが知る響ならば、このまま光線を掻きわけながら進んでいくだろう。
 確かに、響の拳により、怪鳥たちの攻撃は真っ二つに割れ、響の両耳を掠めた。
 すると、響の動きが傾く。怪鳥たちとは見当違いの場所へ落ちていき、そのまま地面にクレーターを作り上げた。

「うっ……」

 地上の響は、頭を抑えながら混乱している。ガングニールの変身が瞬時に解かれてしまう。

「響ちゃん! どうして変身が……」

 だが、ウィザードは驚いてはいられない。
 二体の怪鳥が、脅威から餌にランクアップした響へ食らいつこうとする。
 ウィザードは急いで響へ降下していく。さらに、逆方向へ向き、ウィザーソードガンを逆噴射させる。

『ハリケーン シューティングストライク』

 風の魔力による逆噴射で、風のウィザードの機動力を増す。
 それは怪鳥たちを先回りし、響の前に降り立つ。

 もう魔法を使うのは間に合わない。
 ウィザーソードガンとともに、ウィザードは二体の怪鳥を迎え撃とうと身構える。
 そして。

「ああああああああああああああああああっ!」

 紫の光が、ウィザードの背後から差し込んでくる。
 その正体を確認する必要はない。
 すでに、同じく紫の物体が、ウィザードの頭上を走ったからだ。
 巨体を誇る紫の物体。四肢のみが人間の共通点であり、そのまま二体の怪鳥の頭を掴み、そのまま地面に叩きつける。
 紫の巨体……紫の怪物と言った方がいいだろう。
 がっちりとした肉体に、無数の細かい発光器官やディティールが作り込まれている。さらに、その頭部には紫のゴーグルが付けられており、無機質さを感じさせる。
 二体の怪鳥はそれぞれグエッと悲鳴を上げるが、紫の怪物はそのまま容赦なく動きを続ける。
 両腕に拳を固め、その脳天へ叩きつける。
 だが、即座に復活した二体の怪鳥は、それぞれ上空へ退避した。

「逃がすか!」

 紫の怪物は、そのまま怪鳥の内一体の足を掴み、再び地面に叩きつける。
 背骨を強烈に叩きつけられた怪鳥は痙攣。その時、紫の怪物は怪鳥をマジマジと見下ろすが、首を振った。

「違う……お前じゃない!」

 紫の怪物は吐き捨てて、怪鳥の上に馬乗りになる。
 さらに、その全身の発光部位が紫の光を灯していく。
 そして。
 ほぼゼロ距離で、発光部位より無数の光弾が発射された。至近距離からの無数の攻撃。
 華奢な体形の怪鳥がそれに耐えることなどできず、悲鳴と共に爆発していった。

「すご……」

 ウィザードが、茫然と呟いた。
 だが、怪鳥はまだ最後の一体がいる。爆発し、飛び散った仲間の肉片を咥えた怪鳥。その目的は、仇討ちか、それとも捕食か。
 最後の怪鳥は、紫の怪物へ襲い掛かろうと軌道を描く。
 だが。
 完全に夜が明けた。
 東の地平線より昇る太陽が、ほんのわずかに残されていた闇の世界を掻き消していく。
 すると、怪鳥はその動きを止めた。バサバサと慌てながら、上昇、どこかへ飛び去って行く。

「……いなくなった……」

 ウィザードは、第一の脅威が去ったことを確認し、第二の脅威である紫の怪物を見つめる。

「君は……何者だ?」

 あの怪鳥に、「お前は違う」と言っていた。
 つまり、目的は別のなにか。
 そして、会話が___意思の疎通が可能なのかもしれないということ。
 ウィザードがその疑問を抱くのと同時に、紫の怪物の体が、白い気体に覆われていく。
 そして、気体が消滅すると同時に、紫の怪物の姿が大きく変化していた。
 紫の巨体を持つ怪物から。
 先ほど、響とともに保護した少年へ。

「う、嘘……ッ!?」

 響も言葉を失う。
 少年はハルトたちに目をくれることもなく、その場で倒れた。 
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