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イベリス

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第五十三話 雨の東京その四

「剽軽なところもあってよく笑って」
「そうだったの」
「想像出来ないわね」
「作品暗いの多いし」
「タイトルだけで暗いし」
「自殺もしてるし」
「だから鬱の時はね」
 この時はというのだ。
「暗くてね」
「躁の時は明るいのね」
「そうした人だったのね」
「何ていうか意外ね」
「そんな人だったの」
「それでお友達もお師匠さんもいたしね」
 孤独ではなかったことも話すのだった。
「壇一雄とか坂口安吾とか織田作之助とか」
「あれっ、ゲームや漫画で聞いた様な」
「そんな名前ばかりね」
「ちょっと作品読んだことないけれど」
「名前は聞くわ」
「お師匠さんは井伏鱒二でね」
 この作家の名前も出て来た。
「その人にもよくしてもらったらしいのよ」
「何かお友達少なかったイメージもあるけれど」
「どうもね」
「そこも違ったのね」
「実は」
「それで田中英光って作家さんが慕っていて」
 オリンポスの果実で知られている、太宰が書いたお伽草紙のかちかち山の狸は彼がモデルだったという。
「そのお墓の前で自殺してるのよ」
「えっ、それはまた」
「何か凄いわね」
「太宰のお墓の前で自殺って」
「すぐに何処かわかるわね」
「太宰のお墓って命日にはいつもお参りに来る人がいるけれど」
 その桜桃忌にだ、そこまで太宰という作家は人々の心に残っているのだ。
「丁度ね」
「その場所でなのね」
「その人自殺してるのね」
「何かそう思うとね」
「複雑な気持ちになるわね」
「太宰のお墓のすぐ傍に森鴎外のお墓もあるのよ」
 太宰は彼を生涯敬愛していたというのだ。
「最近評判悪いけれど」
「何か実は凄い偉そうだったとかね」
「出世欲強くてね」
「それで脚気でも問題起こしたとかで」
「物凄く頑固で」
「実はいい人じゃなかったらしいけれど」
 このことでも近年有名だという。
「この人もお墓もね」
「太宰のお墓の近くにあるのね」
「それはまた奇遇ね」
「文豪二人のお墓が近くにあるとか」
「それはまた」
「それでこの頃になると」
 クラスメイトは咲達にさらに話した。
「太宰の命日だからね」
「お墓参りあるのね」
「桜桃忌に」
「そうなるのね」
「そうなの、あと七月は芥川の命日があるわ」
 河童忌という、太宰は死んだことによって命日に自分の作品の名前が付けられたがここで彼は終生敬愛していた芥川に並んだのだろうか。
「終わり位にね」
「芥川も自殺してるけれどね」
「美形でね」
「それも若くして」
「何か太宰と芥川って似てるわね」
「そんなところも」
「私もそう思うわ」
 このクラスメイトにしてもだった。 
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