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白犬の思い出

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第一章

               白犬の思い出
 葉月家では白い雄の柴犬を飼っていて名前はシロという、毛の色が白いのでそう名付けられたことは言うまでもない。
 夫の明信も妻の靖子も息子の雄大も彼を可愛がっていてだった。
 いつもご飯を食べて散歩をしてブラッシングをしてもらっている。基本室内飼いだが外に犬小屋もある。
 そんな彼を見てだ、垂れ目で茶色の髪の毛を短くしている夫は笑顔で言った。
「シロがいていいね」
「そうよね」
 妻も応えた、黒髪をショートにしている切れ長の目ときりっとした眉と小さい唇を持っている。すらりとしたスタイルで一六七の背で夫より十センチ程低い。
「いいわね」
「これからもずっと一緒だよ」 
 父親そっくりの茶色の髪の毛と垂れ目の息子も言ってきた。
「シロとはね」
「そうだね、柴犬は長生きだしね」
 父は息子に話した。
「あと十五年はだよ」
「シロは生きてるんだ」
「十七年かな、シロはまだ一歳だからね」
 彼の年齢のことも話した。
「雄大が大人になってもだよ」
「シロと一緒なんだ」
「そうだよ」
「そうなんだ、じゃあシロずっと一緒にいようね」
「ワンワン」
 息子はシロにこう言って抱きついた、するとシロも嬉しそうに尻尾を振って鳴いて応えた。一家にとって彼はまさに宝だった。
 そのシロと休日一家一緒に散歩に行っている時にだった。
 ふとだ、前から来た鋭い目で顎鬚を生やした黒髪をオールバックにした一八〇以上の背の男がシロを見て言ってきた。
「白の柴犬か」
「はい、そうですが」
 夫が彼に応えた。
「うちの愛犬です」
「そうですか、いい子みたいですね」
「とてもいい子ですよ」
「雄ですか?雌ですか?」
「雄です」
 夫はこのことも答えた。
「とても優しいんですよ」
「雄で白い柴犬って優しいんですよね」
 男は夫に微笑んで答えた。
「本当に」
「ご存知ですか」
「ええ、実はです」
 男は彼に話した。
「子供の頃白い雄の柴犬を飼っていたんです」
「そうでしたか」
「十九年生きてくれて」
「それはまた長生きですね」
「子供の頃家に来てくれて大学を卒業するまで」
 まさその時までというのだ。
「うちにです」
「いてくれてですか」
「家族でした、その子を思い出しました」
「うちのシロを見て」
「ええ、今は結婚してペットを飼えるマンションに住んでますが」
 男は寂しそうに笑って話した。
「夫婦二人だけで」
「他の家族はですか」
「いないんですよ」
「そうですか」
「それでも何とも思ってなかったですが」
「それがですか」
「今その子を見ていると」
 シロ、彼をというのだ。
「うちで飼ってだ。サブっていったんですが」
「その子のことを思い出されたんですね」
「結構やんちゃでよく吠えてご飯をいつもねだる奴でしたが」
 男は懐かしむ笑みで話した。
「凄くよかったです」
「そうした子だったんですね」
「ええ、犬っていいですよね」
「はい、本当に」
「特に雄で白い柴犬は」
 優しい顔にもなった、そうしてだった。 
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