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ボロディンJr奮戦記~ある銀河の戦いの記録~

作者:平 八郎
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第64話 【別視点】前線の宙(そら) その2 

 
前書き
日に日に語彙力と作文能力が低下していくのを自覚しております。

陸戦は本当にこう盛り上がらないのは、筆者があんまり慣れてないからだと思います。
この二次創作の基盤の一つがボーステックの銀河英雄伝説Ⅳexと言うのもあってか、
陸戦のシチュエーションがカプチェランカかヴァンフリートⅣ-2しかないっていうのも
あるのかもしれません(想像力の低下)

はやくサクラスターオーに会いに行きたいです。 

 

 宇宙歴七八九年 五月一一日 エル=ファシル星域エル=ファシル星系 惑星エル=ファシル


 一〇日の夜が来た。

 二三〇〇時。既に部隊は消灯と夜間配置についているが、その中で中央空港よりかなり外れた箇所に向かって出発する車列がある。装甲車両は前後二両のみ。歩哨隊には叛乱軍前哨基地への強行偵察と説明されている。あんな装備で大丈夫かと、この夜の警備を担当する中佐の一人が私に質問したが、私は首を振って問題ないと答えている。

 私は今、四日前同様に空を眺めている。星空には大きな変化がある。兵士達も気が付いたようで、時折士官を通じて質問が飛んでくる。はっきりと天体観測の邪魔であった叛乱軍の艦影が、この数日間で軌道上からさっぱりと消えているのだ。

『増援が来ているのではないか?』と期待が籠った声。だが私の部下達はある程度理解している。宇宙空間を攻撃する術のない地上部隊を封鎖するのには大規模な艦隊は必要ないし、奴らはいつでも好きな時に攻撃を仕掛けることができるのに、我々が立て籠もる市街地には攻撃を仕掛けてこない。それは奴らの作った街を壊したくない故に。統括官達が連れてきた将兵はともかく、私の部下達は十分すぎるほど理解している。

「レッペンシュテット閣下!」

 副官の一人が慌てた表情で、屋上で空を見上げる私に駆け寄ってきた。まだ若い。私と同じ平民出身で統括官と同い年の大尉だ。

「空間観測班からの報告です。この都市南部に向けて大気圏突入する艦影あり。数四」
「艦影? 叛乱軍の突入降下艇か?」

 統括官達を逃がすための巡航艦があっさりと見つかったのは仕方がない。全長六〇〇メートル近い。そんなものが大気圏に降下すれば、赤い尾を引くのだから誰の目にもわかる。だがしばらくはごまかし続けなければならない。最低限あと五時間。

「申し訳ございません。夜間の為、はっきりとは。ただ、東と西の両基地からはワルキューレが発進するとのことです」
「そういえば今夜は前哨基地への強行偵察が大隊規模で行われるんだったか」
「左様です。閣下、当基地も援護にワルキューレを出しましょうか?」
「いや、大隊に帰還通信を送るだけでいい。このままでは敵弾に飛び込むようなものだ。ワルキューレも対空ミサイルも出さなくていい。距離が近すぎて、むしろ同士討ちを招きかねない」
「承知いたしました、閣下。各隊に伝達いたします」

 敬礼し駆け出していく大尉を他所に、私は南の空へ向ける。もう肉眼でもはっきりとわかる。真っ赤な火球が四つ。狂いなく見事なロッテを二つ組んでこちらへと向かってくる。一〇〇〇隻の陽動部隊が協力したとはいえ、かくも見事に惑星へ強行突入できるとは相当な腕の持ち主達だ。望むべくはその数が一〇倍であれば、多少無理はしても地上軍将兵を全員収容できただろうに。

「『制宙権がない場所での地上軍は蟻同然』か」

 第八艦隊の参謀になった若造の一人がそう言っていたのを私は思い出した。私への嘲りを含めてのことだろうが、真実は真実だ。せめて軌道砲があれば話は違っていただろう。

 〇一〇〇時。再び副官が屋上で横になっていた私を起こしに来た。

「東西のワルキューレ部隊、全て撃墜された模様です。不明の飛翔体はこの基地より三〇〇キロ南の平原に降下し、設営作業に入っている可能性が高い、とのことです。閣下、すでに司令部要員全員起床のうえ、司令室に集まっておりますが」
「わかった。叛乱軍どもは無粋な輩だな。どうせ攻めてくるなら昼間にすればよかろうに」
「……まったくです」

 一呼吸おいて大尉は応えると、背筋を伸ばし、私の前に立って司令室へと導く。市街への爆撃がないおかげで私の司令室は屋上直下の層だ。副官が司令室の扉を開けると、そこには第八艦隊以来ずっと付き従ってきた私の部下達が不敵な顔を並べて、私を見ている。

「叛乱軍はようやく気概を見せてきたぞ」
 私の言葉に、部下達はお互いを見やり、無言で頷き合う。
「今夜の突入は小手調べだ。東と西のワルキューレが叩き落とされたというから、大気圏内戦闘艇も発進している可能性が高い。だがたかだか四隻だ。経験上、これらに搭載できる戦力は多く見積もっても一個連隊規模でしかない」
「こちらには本土から持ってきた長距離砲があります。三〇〇キロなど指呼の距離です。そのくらいは叛乱軍でも知っているでしょう。閣下のお見立て通り、これは奴らの示威行動かと」
 参謀の一人が応える。
「考えるに奴らの意図は可能な限りワルキューレを潰して制空権を掌握すること、こちら側の砲撃応戦能力を調査すること、でしょうな。夜間偵察に出て行った部隊は統括官の連れてきた部隊でしたか? 運が悪かったですな」
「仮にも味方だ。そう悪く言うものでもない。だがまずはコマンド潜入の可能性がある。夜通しで悪いが市街外周に設置したセンサー網をチェックしろ。朝が明けたら、ワルキューレを出して降下した場所を偵察。どうせ夜明け前には奴ら宇宙に逃げているだろうがな」

 夜が明ければきっとそれどころではない。東西の基地に取り残された将兵が事実確認の為に、この中央都市に連絡してくるだろうから。

「副官。私はここで少し横になる。何かあったら知らせてくれ」





 〇八〇〇時。七時間前に集まった同じメンバーが、こんどは夜とは正反対の表情で顔を並べている。

「東と西の各部隊から、連絡がありました。統括官及び複数の軍士官が、昨夜の内に逃走したそうです」
 メンバーを代表してなのか、それともババを引いたのか、副官が直立不動で私に報告する。
「今朝発進したワルキューレからの報告も入りました。着陸したのは叛乱軍の突入降下艇などではなく、我が軍の巡航艦だった模様です」
「……ワルキューレがそう判断した理由はなんだ?」
 私は三〇秒ほど目を閉じた後、問い返した。
「足跡でも残っていたのか?」
「はい。我が軍の巡航艦が使用する地上固定用のアンカーと形状が一致しました」
「つまり、昨夜出て行った統括官の部隊は、そのまま味方の巡航艦に収容されて本国に逃げ帰ったと?」
「はい。ここにいる参謀全員はそう判断しております」
「つまり、我々は取り残されてバカを見たと?」
「大変申し上げにくいことながら……東西両都市に取り残された地上軍の指揮官達からは、レッペンシュテット閣下への指揮権移譲手続書が残されていたとのことです」

 なるほど、どうやら子爵はそのあたり馬鹿正直にしっかりと『証拠』を残して言ってくれたわけだ。私は何となく腹の底から可笑しさを覚え、自然と笑わざるを得なかった。その笑いに、部下達の顔には困惑が広がり、さらにそれがよりおかしく思えてならない。だが鍛えた部下は私を軍医に見せるような真似はせず、笑いが収まるまで微動だにしなかった。

「では卿ら。取り残された我々がなすべきことは何かな?」
 笑いで出た涙をぬぐいつつ、私は参謀の面々に問いかける。
「我々は敵中で孤立している。補給線も通信線も既に絶たれている。巡航艦四隻が来てくれたおかげで、叛乱軍の攻撃は厳しく、空間・軌道包囲はより一層厳しくなるだろう。降伏するかね?」

 私の問いかけに、参謀達は応えない。彼らも分かっているのだ。捕虜になった叛乱軍将兵の取り扱いの酷さと、叛乱軍に降伏した将兵の家族に対する国家の仕打ちを。それが我が身だけでなく、家族にまで降りかかってくると考えれば、容易に降伏などとは言えない。

 故に子爵たち貴族士官は容易に前線から逃亡できる。一時的な転進などという話は、たいていがそんなオチだ。帝国を支配する貴族階級。彼らに能力を売って利権にありつこうとする平民。そんな平民の一人である私は、今回たまたま売られる側になったというだけだ。

「降伏はできないと、考えます」
 やはり昨夜進言した参謀の一人が、一歩前に出て言った。
「ただ望みというか、細い希望は残されていると小官は考えます」
 
 我々に残されているのは意地だけではないか。不毛な持久戦を頭の中で構築していた私にとって、参謀の一言は意外だった。

「ほう、言ってみたまえ」
「はっ。統括官共の所業は帝国政府としても帝国軍人としても許せるものではありません。奴らの……失礼、彼らにとって我々の存在自体が弱みであります。故に彼らとしては、我々がここで全滅して死んでくれることが望みであると考えます」
「……続けたまえ」
「ですが少なくとも彼らが仮に帝国に帰投できたとして、彼らは政府や軍上層部に『救援』を要請せざるを得ません。でなければ軍法に則り彼らは逃亡罪で銃殺されるからです。貴族の方々に対する法規はだいぶ緩いようですが、それだけに形式だけは整える必要があります。これが一つです」
「他には?」
「巡航艦と統括官達はどうやって連絡を取っていたのでしょうか。現時点でも叛乱軍の妨害は極めて強く、恐らくは中継衛星も撃破されていることでしょう。ですが巡航艦は来た。我が軍の索敵・潜伏任務を帯びた艦が、この星系に残っていること疑いありません」
「なるほど」
「そして叛乱軍の地上降下作戦は奇妙に鈍いままです。昨夜の逃走劇が小手調べと誤解されるほどに。余程彼らはこの都市を壊したくないのでしょう。つまり籠っているだけで、我々は増援を待つ時間を稼げるのではないかと」

 参謀の言葉に他の参謀達の顔色も良くなっていく。確かに物事は道理に則っている。が、いずれも希望的な観測に過ぎない……だが

「参謀。卿は土いじりができるかね?」
「は?」
「私はヴェスターラントの自作農出身でね。一応一通り小麦の作り方は知っている。卿はどうだ?」
「申し訳ございません。小官はオーディンの経理役人の子でして……」
「卿の言うことが正しいとすれば、かなりの長期にわたっての持久戦となる。補給など望むべくもないから、武器も食料も自分達で作らねばならない。この地には幸い農耕器具も畑もあるが……まずは扱えるように叛乱軍の言葉を学ばねばなるまいよ」
「は、はい」

 参謀の言の通り僅かな希望。それが伝染したのか、他の参謀達も顔色を元に戻しつつある。その中でただ一人、副官だけが私に対して不思議な視線を向けていた。それが気になったので参謀達に東西の基地にいる部隊の中央への回収と、逃走劇で空いてしまった職責の補充、動揺している全部隊への思考拘束の為の一時的な戦闘準備を指示し追い出すと、副官とこの部屋で二人っきりになってから問うた。

「何か言いたそうだったが、もう参謀達はいない。遠慮することはない。言ってみたまえ」
「閣下。レッペンシュテット閣下。もしかして統括官達が逃げ出すのを、事前にご存じだったのではないですか?」
「どうしてそう思った?」
「冗談があまりお好きではない閣下が、昨夜から今朝に限って何度か口に出しておいででした」
「卿が考えているほどに私は戦場ではまじめな男ではないよ」
「四日前に、幕僚会議が開かれておりました。その場でシェーニンゲン統括官から伺ったのではないですか?」

 その事実と私の言動だけで推論できるだけの知性が副官にはある。私は椅子に深く座りなおすと、若い副官に向き合って言った。

「そのことについて、私は卿に何ら回答するつもりはない」
「……」
「一つだけ言えるとすれば……自分の部下に死んでほしいと願う指揮官など、この世の中にそれほど多くはいない。そういう事だ」
「閣下」
「副官。この話はこれで終わりだ。余計な口は開かぬように」

 私が厳重な口止めを副官に命じると、何故か副官は感動したような視線を向けて私に敬礼する。実戦経験の乏しい彼のことだ。どれだけ私が彼を欺いているのか、真実を知れば私など唾棄すべき存在だと理解できるだろう。神がいるというならば、私は救わなくて構わないのでどうか彼らを救ってほしい。そう切に祈らざるを得ない。

 そんな哀れな願いが通じたのか、ムキになった叛乱軍の爆撃や上空示威飛行などを見せつけられた四日間のあとに福音が届いた。超光速通信という形で。
 
 

 
後書き
2022.05.22 更新 
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