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ウルトラマンカイナ

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過去編 ウルトラクライムファイト

 
前書き
◇今話の登場ウルトラマン

小森(こもり)ユウタロウ/ウルトラマンクライム
 別次元の地球を守護している宇宙警備隊の一員であり、遥か遠くの世界から新人ウルトラマン達を見守っていたシルバー族のウルトラ戦士。銀色を基調にネイビーの紋様が入った身体の持ち主であり、必殺技は拳を握った右腕を突き上げ、そこから右腕と左腕をX字に交差して光線を放つライズアップ光線。ザイン達が居る地球に訪れた際は、現地の警察官・小森ユウタロウの身体を借りていた。
 ※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。
 

 

 テンペラー軍団の襲来から、約4年前。怪獣や宇宙人から絶えず狙われ続けていた地球の命運は、当時のBURKとウルトラマンザインに託されていた。

 そのザインに変身し、地球を守り続けていた青年――当時18歳の椎名雄介(しいなゆうすけ)は。人間の負の感情から発生し、怪獣を生み出すことすらある「マイナスエネルギー」の脅威を、その身(・・・)で味わっていた。

「そん、なッ……! どうして、こんなッ……!」

 ――双頭怪獣「パンドン」がその二つの嘴から猛火炎を放ち、東京の街を火の海に変えて行く。マイナスエネルギーを帯びたその個体は、従来種よりもさらに強大な火力を振るっているようだった。
 その光景を、遠方の高層マンションの外廊下から目撃していた雄介は――鮮血の染みが広がっている腹部を抑えながら、手摺に寄り掛かっていた。

「ひ、ひどい怪我だよね、雄介先生。そんなにひどい怪我なら、もう戦えるわけない、よね? 私だけの雄介先生で、居てくれるよね……!?」

 そんな彼の眼に映っていたのは、街を焼いているパンドンではなく。
 ザインに変身しようとしていた自分を包丁で刺した、教え子(・・・)の少女だったのである。

 震える手で包丁を握っている彼女は、自分の「行為」をまともに受け止められずにいるのか。光を失った眼に愛する男の姿を映し、ぼろぼろと涙ぐみながらも力無く笑っている。

 ――毒ヶ丘有彩(ぶすがおかありさ)、15歳。都内在住の中学3年生だったが、現在は不登校。そして、家庭教師のアルバイトをしていた雄介の教え子だ。
 146cmという小柄な体躯に反した、推定Iカップの爆乳を持つ絶世の美少女。そんな彼女の類稀な容姿は、羨望、嫉妬、欲情、好奇、虐めだけでなく。ストーカーや誘拐未遂など、不登校に至るほどの「災厄」を呼び込んでいたのである。

 その災厄を糧に生み出された莫大なるマイナスエネルギーが、今まさに東京を燃やしているパンドンの発生源となっていたのだ。
 包丁を握る彼女の全身には、パンドンにあるものと同じ、どす黒いオーラが纏わり付いている。ウルトラマンの力を持つ雄介にしか視認出来ないそのオーラは、ますます強まろうとしていた。

(有彩のマイナスエネルギーがあの怪獣を……!? ここまで濃く(・・)ならないと、ウルトラマンの俺ですら気付けないなんてッ……!)

 腹部の傷を抑えながらも、有彩とパンドンを交互に見遣り状況を把握しようとする雄介。その眼は傷の痛みに構うことなく、怪獣を倒さんとする鋼鉄の意志を宿していた。
 そんな彼の様子を目にした有彩は、信じられないと言わんばかりに眉を吊り上げている。

「えっ……雄介先生、まさか、まだ戦うつもりなの……!? そんなの、そんなこと出来るわけないじゃん! だって先生、私にお腹刺されて……ひどい怪我してるんだよ!? そんな身体で戦うなんて無理だよっ! だって私、そのために先生をっ!」
「有彩……」

 マイナスエネルギーは怪獣を生み出すだけでなく、発生源の人間が持つ負の感情をより増幅させて行く作用がある。自我が無くなるのではなく、自我がより強く先鋭化されたものが行動に顕れるのだ。
 つまり雄介を刺したという有彩の行為は、マイナスエネルギーだけのせいだとは一概には言い切れないのである。雄介という「男」を欲する、「女」としての倒錯的な愛情。それこそが、有彩をこの凶行に走らせた真の原因なのだから。

 ――不登校に陥ってからも、成績を落としたくはないと悩んでいた優等生の有彩にとって、雄介は単なる家庭教師という枠には到底収まらない大きな存在となっていた。
 都内最優と評判の家庭教師だった彼は、深刻な男性不信に陥っていた有彩の心をも少しずつ解きほぐし、やがては家族のような絆を育んでいた。有彩の窮状を儚んでのその行動が、結果として「仇」となったのである。

 雄介を家庭教師としてではなく、「男」として見るようになっていた有彩は、いつしか「女」としての自分を求めて欲しいと願うようになっていた。

 そして、教師と生徒としての日々を共に過ごす中で、雄介が現役(いま)のウルトラマンであると知っていた彼女は。雄介を戦いから遠ざけたいという想い故に、彼を包丁で刺したのである。
 当初こそ純粋にウルトラマンとしての彼を応援していた有彩だったが、戦いの日々が激しさを増して行くにつれて、不安を募らせるようになっていた。その不安こそが、莫大なマイナスエネルギーの源泉となったのである。

 言葉で止められないのなら、戦えない身体にすればいい。
 そんな暴挙に出るほどにまで、マイナスエネルギーにより自制心を失っていた彼女は、短絡的な衝動を抑えられなくなっていた。

「ダメだよ……ダメだよダメだよそんなのッ! 雄介先生はもう、ウルトラマンなんてやらなくていいのッ! これからもずっと、私だけの雄介先生でいてよッ! あんなところになんか、もう行かないでよッ! なんでBURKが居るのに、雄介先生まで戦わなくちゃいけないのッ!」

 不登校となり、外との繋がりを持てずにいた有彩にとって、雄介は家族を除けば唯一とも言っていい拠り所。
 その雄介を危険な戦地に行かせないために刺す、という矛盾の極致は、彼女の心をさらに混沌の奥へと沈めている。耐え難い罪悪感に狂いながら包丁を振り回し、怯えたような表情で雄介を凝視する有彩の言動は、ますます常軌を逸していた。

(……俺のせいだ。俺が有彩の気持ちを知らないままだったせいで、彼女を追い詰めてしまった……! マイナスエネルギーの発生源が彼女だと気付いてさえいれば、こんなことになる前にいくらでも手が打てたのにッ……!)

 一方、雄介は自分を刺した有彩を責めようとはせず、むしろ罪悪感すら覚えていた。彼女から発生していたマイナスエネルギーに気付けなかったことだけではない。
 彼女をここまで追い詰めたのは自分1人だけではないが、最後の最後で「溢れさせた」のは間違いなく自分なのだと。

 そんな彼が、震える足に力を込めて立ち上がろうとする姿に、有彩は胸を打たれ――再び包丁を握り直していた。

「……あ、あはは、そうか、そうなんだ。雄介先生は、お腹刺されたくらいじゃ諦めてくれないんだ……! そりゃあそうだよね、今までずっと私達を守ってくれていたウルトラマンなんだもん……! これくらいで止まってくれるわけなんてないッ……!」
「有彩……!?」
「ごめんね先生、気付かなくて。先生を止めるなら……足の腱を切ればいいんだって!」

 怪獣の発生を止められなかった責任だけは、ウルトラマンとして取り返さねばならない。そんな雄介の力強い意志をその眼差しから察していた有彩は、彼の足を動けなくしようとしていた。

「そこまでだッ! 大人しくしろ、毒ヶ丘有彩ッ!」
「あうッ!?」

 だが、その刃が雄介の足に届くことはなかった。この外廊下に駆け付けて来た1人の警察官が、有彩の手から包丁を叩き落としてしまったのである。
 その警察官――小森(こもり)ユウタロウ巡査は、鮮やかに有彩を投げ飛ばすと、瞬く間に彼女の両手に手錠を掛けてしまった。

「うあぁっ!」
「小森巡査……!? いや、あなたは……!」

 ユウタロウとは以前から顔見知りだった雄介だが、その時の彼は普段とはあまりにも雰囲気が違い過ぎていた。間違いなく自分が知っている小森ユウタロウだというのに、顔付きが明らかに「別人」だったのである。

「全く……詰めが甘いぞザイン。灯台下暗し、とはよく言ったものだが……注意深くこの娘を見ていれば気付けていたはずだ。女心に鈍いからこういうことになるのだと知れ」
「クライム教官……なのですか!?」

 その正体は――ウルトラマンザインの師匠、ウルトラマンクライムだったのだ。小森ユウタロウに憑依していた彼は、弟子の活動を地球人の視点から視察していたのである。

 怪獣が現れても一向に弟子が駆け付けて来ないことから事態を察した彼は、1人の警察官としてここまで急行して来たのだ。
 彼は暴れようとする有彩を強引に押さえ込み、完全にその暴走を封じている。うつ伏せに取り押さえられた黒髪美少女の爆乳が、床に押し付けられむにゅりと形を変えていた。

「ぅうっ! 離せこのっ、このおぉッ!」
「待ってくださいクライム教官、その子は……!」
「あうぅうッ! 離せ、離してよおッ! 私は、私は……雄介先生を止めなきゃいけないのにぃいッ!」
「……辛い思いをして来たという過去は、今の悪事を正当化出来る免罪符ではないッ! そこを履き違えるなッ!」

 マイナスエネルギーによって凶暴化した人間の膂力は、平常時のそれを遥かに凌いでいる。それを熟知していたユウタロウことクライムは、手加減することなく有彩を押さえ付けていた。

(クライム教官、有彩ッ……!)

 その光景を見ていることしか出来ずにいた雄介は、己の未熟さが招いてしまったこの状況に苦悶の表情を浮かべ、外廊下の向こうに見える怪獣の巨影を見遣る。
 二つの嘴から猛火を放つパンドン。逃げ惑う人々が織り成す、阿鼻叫喚の煉獄。瓦礫の下敷きにされた母親に縋り、泣き叫んでいる子供。

「ぐ、うッ……おぉッ!」

 その全ての景色に追い立てられるように――雄介は腹部を抑えながら、立ち上がっていた。やがて彼はユウタロウと有彩をこの場に残して、走り出して行く。

「……!? おい、待てザインッ! 間も無く救急車と応援の警察官が到着する、お前は安静にしていろッ! 無理に動けば傷が広がるぞッ!」
「先生、雄介先生ッ! お願い、行かないでぇッ!」

 その行動に瞠目するユウタロウと有彩は制止の声を上げるが、雄介は決して立ち止まることなく、ふらつきながらも走り続けていた。
 ユウタロウとしてはすぐさま雄介を追いたいところだったが、有彩が彼に危害を加えようとしている以上、増援の警官隊に引き渡すまでは手放すわけにも行かない。

 そんな2人を置き去りにしたまま、雄介は銀色に輝く鍵状のペンダント――ザイナスキーを握り締めていた。

(すみません教官、ごめんな有彩……! 俺が、俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったのにッ……!)

 燃え盛る街の中を駆け抜け、パンドンの巨体を仰ぐ彼は。誰も責めることなく、ただ己の責任を完遂することにのみ心血を注ごうとしている。

(だからせめて……奴だけは、奴だけは俺がッ!)

 そして、その悲壮な覚悟を胸に。銀色の鍵を胸に突き刺し、ウルトラマンとしての己に「変身」するのだった。

「ザイン――イグニッションッ!」

 やがて光の中から飛び出して来た、レッド族の巨人――ウルトラマンザインが、パンドンの眼前に着地する。その着地点を中心に噴き上がる土砂の勢いが、周辺のアスファルトを跳ね上げていた。

『ジュアアァッ!』

 電子回路状の模様を持つサイボーグウルトラマンは、一気にパンドンの懐に飛び込むと――その機械化されたボディを活かした格闘戦に持ち込んで行く。文字通りの鋼鉄の拳が、双頭怪獣の巨体に減り込んでいた。

『ジュアッ……ァアッ!?』

 だが、有彩のマイナスエネルギーをふんだんに吸収していたパンドンの耐久性は、ザインの見立てを遥かに凌いでいた。
 鉄拳の乱打を浴びながらも、一歩も下がることなく耐え抜いていたパンドンは、カウンターのボディブローをザインの腹部(・・)に叩き込んだのである。

 先ほど有彩に刺された、腹部を。

『……グゥアァアッ!』

 その痛みにダウンし、のたうち回るザインを冷酷に見下ろすパンドンは、追い討ちの蹴りを入れ続けていた。
 ウィークポイントとなっていた腹部を庇おうとするザインは、激しく頭部を蹴られ、額のエネルギーランプを割られてしまう。

「くッ……! あのバカ弟子め、いつになったら私の命令を聞く気になるのだッ!」

 そんなザインの窮地を目の当たりにしていたユウタロウは、有彩を他の警官隊に引き渡した後――即座に現地に駆け付けていた。
 その腰に提げていた白銀の拳銃「クライムリボルバー」を引き抜いた彼は、そこに素早く「ウルトラバレット」と呼ばれる銃弾を装填する。

「クライム・イグニッションッ!」

 そして、シリンダーを回転させながら――その雄叫びと共に天に向けて、引き金を引いた瞬間。
 弾丸のようなオーラと共に「ぐんぐん」と飛び出して来たシルバー族の巨人が、颯爽とザインの前に降り立つのだった。

『シュアァッ!』

 銀色を基調としつつも、ネイビーの紋様が入ったボディを持つ「ウルトラマンクライム」。ウルトラセブンを想起させる顔つきを持つその巨人のカラータイマーは、ウルトラマンメビウスのような形状となっていた。

 彼は着地と同時にパンドンに向かって飛び掛かると、火炎放射を掻い潜りながら素早く組み付いて行く。そして生身のウルトラマンでありながら、サイボーグのボディを持つザインよりもさらに強力なパンチを叩き込むのだった。

『アトミック――クライムッ!』

 ウルトラマンタロウが得意としていた「アトミックパンチ」を彷彿とさせる、大型貫通爆弾の如きストレートパンチ。その一撃は強化されたパンドンのボディすら、発泡スチロールのように容易く貫いていた。
 その衝撃とダメージに絶叫し、激しく転倒する双頭怪獣。そんな光景に生き延びた都民達が歓声を上げる中、ザインはようやく立ち上がっていた。

『クライム教官ッ……!』
『……今さら退けと言っても、どうせお前は聞かんのだろう? ならば最後の一撃くらいは付き合って見せろ、この私に逆らったからにはな!』
『……はいッ!』

 教官の言葉に奮起するザインは、両脚を震わせながらもザインスラッガーを投げ、パンドンの胸に刃を沈ませる。
 さらに、そのままスペシウムエネルギーを凝縮させた二つの光球を合体させ、一つの「弾丸」を形成していく。

 一方、クライムは拳を握った右腕を突き上げ、そこから右腕と左腕をX字に交差していた。さらにその体勢から、ウルトラ戦士の基本技――スペシウム光線の体勢へと移行して行く。

『ライズアップ……光線ッ!』
『ザイナ……スフィアッ!』

 ウルトラマンクライムの最大火力を込めた必殺技、「ライズアップ光線」。ザインスラッガーの投擲に重ねて叩き込む、ザイナスフィアの「ハイパーノックスタイル」。
 その二つが同時に炸裂し、パンドンを跡形もなく消し飛ばしたのはそれから間も無くのことであった。突如として現れた謎の巨人(クライム)の勇姿に歓喜する人々を一瞥し、銀の巨人はゆっくりと弟子に肩を貸す。

『……申し訳ありませんでした、教官。俺は有彩のことを何も……』
『我々ウルトラ戦士の中にもベリアルという者が居たように、地球の人々も決して善き者ばかりではない。……その前提を踏まえた上で、我々は彼らと向き合わねばならん。心して掛かるのだぞ、この地球でウルトラマンと名乗るからにはな』

 厳しい言葉を浴びせつつも、決して弟子を見放すことなく肩を貸しているクライムは、そのままザインと共に遥か彼方へと飛び去って行く。

 家庭教師の青年を包丁で刺したという中学3年生の少女が、警察に逮捕されたと小さく報道されたのは、その翌日のことであった――。

 ◇

 そして、ウルトラマンザインが己の使命を果たし終えた日から4年後。マイナスエネルギーから解放され、贖罪を終えた毒ヶ丘有彩は――さらに美しく成長し、19歳の女子大生となっていた。
 入学当初からミスコン最有力と目されていた彼女は、当然の如く大勢の男達に言い寄られていたのだが、その全てを冷ややかに拒絶していたのだという。芸能界からのスカウトに対しても、それは同様であった。

 その一方で、テンペラー軍団の襲来によって住まいを失った人々のための炊き出しに積極的に参加していた彼女は、いつしか「被災地の聖天使」とも呼ばれるようになっていた。
 そんな彼女が、BURK隊員として視察に訪れていた椎名雄介との「再会」を果たした時。4年前から止まっていた2人の時間も、ようやく「再開」したのである――。

 
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