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少女は 見えない糸だけをたよりに

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2-3

「カナミ 店長って 不思議な人でしょ」と、暁美さんが言ってきた。

「そうですね でも 上品で感じの良い人ですね 若いのに大人の雰囲気」

「でしょう? 店長って4時になると必ず、出て行ってしまうでしょ よそで働いているみたいなのよ 割烹のお店 大学の時かららしいわ それにね ここのお店のオープン前に、ちょこちょこ年上の男の人が来てね いろいろと、調理場のこと指示してたわ あれは、パトロンよ あー 店長には、このこと内緒ね」

「暁美さん パトロンってなんですか?」

「へぇー 知らないんだー あのね 男と女の関係になって、お金出してもらうことかなー」

「男と女の関係?」

「そうよ 男に抱かれるかわりに、お金出してもらうの ここの開業資金だってわかんないわよ」

 暁美さんは、店長があの大きなお屋敷の娘さんだってことは、知らないのだろう。私は、店長はそんな人じゃぁないわと思ってけど、私が、あのお屋敷に呼ばれたことは内緒にしていた。

 5時少し前になって、お店はくるみちゃんとふたりだけだったんだど

「来たわよ ねぇ カナミ あの人 絶対、カナミ目当てだから カナミ 奥へ行ってみな 一回とおりすぎるから― 奥を覗く様にしてね そして、又、戻って来るヨ 注文はいつもランチョンミートとチーズ」 

 私は、店の奥から見ていたら、大きな人。肩なんかも、盛り上がっている。確かに、お店の前を通り過ぎて行った。奥を覗くように・・。私、眼が会ってしまった。そして、戻ってきて、注文していた。ランチョンミートとチーズの組み合わせ。

「どうぞ 寒いですから お店の中で食べて行ってください」と、くるみちやんが誘いをかけた。

「うー いいです 恥ずかしいから」と、見かけによらず小さな声で・・

「今 誰も居ないですよ どうぞ」と、くるみちゃんはしつこかった。

 ても、「失礼します」と、その人は入ってきた。私は、お水をコップに入れて、持っていって「外は 寒いでしょう もう、暗いしね」と愛想良くしたつもり。その人は下を向いて「はぁー」と、言った切りだった。くるみちゃんは、焼けたクレープをわざわざ私に「ほれっ」と渡してきた。

「どうぞ ごゆっくり」と、言ったものの、食べるのをみていちゃぁ悪いと思って、私は、流し台を必要もないのに洗っていた。

「うまい ですね コレ」と、突然、声を大きくして、その人がしゃべった。誰に向かってだろう。私と、くるみちゃんは驚いたように目を見合わせていた。くるみちゃんは、私に向かってあごをしゃくるように・・「なんか 言いなさいよ」と、言いたげだった。

「あっ ありがとうございます」と、言った時には、もう、食べ終わるみたいで

「もうひとつ もう一つ 注文してもいいですか」と、大きな声で言ってきた。

 又、くるみちゃんと眼を見合わせて・・あごをしゃくってきた。

「ありがとうございます お好みに合ってます?」私は しまった余計なことを・・

「うん 好きなんだよ うまい」やっと、普通にしゃべってくれた。そして

「あのー 君は この店 1ト月くらいかなー」と

「えっ そう もう2か月以上になりますけど・・」

「そうかー もう それっくらい経つんだよな 僕が、丁度 怪我した辺り 最初 お店の前で見た時 男の子かと思った 刈り上げでね 可愛かったんだ 天使に見えたんだ 自分でも、その趣味があるんかなって・・アハッー 失礼だけど やっぱり、女の子なんだよね 声を聞くと・・ だけど、少し髪の毛が伸びたね」

 その時、くるみちゃんにクレープを渡された。私がそれを持っていくと

「その頃なんだよ 最初 僕が 店の前で何にしようか迷っていたら 君が 甘いのお好きですか と それで 甘いのはちょっとー と、言ったら、コレを勧めてくれたんだよー それから、ちょこちょことね」

「あー 思いだした ごめんなさい ごめんなさい 私 あの時 まだ 入りたてで お客さんに必死で・・ 顔もまともに見れなかったんです だから・・恐そうな人には もっと いぇ 違うんです だからー やだー 私 何言ってるんだろう ごめんなさい」

「いいんだよ 言われるのに 慣れっこになっているから それに、自分も男の子って思っていたんだから おあいこだよ」

 この人、何だろう。三口ぐらいでクレープを口にほおり込んで食べちゃった。

「うん うまかったぁー また 寄せてもらってもいいですか?」

「ええ どうぞ お待ちしています」と、私はカウンターの前に出てお辞儀をしていた。そして、表に出てからも。

「カナミ グッド なぁーんだ ぶりっこぶっちゃってさー これで、あの人はあなたの虜よ 男を惑わす妖精めー やるのー カナミ ウチも見習おーっと」

「くるみ そんなー つもりじゃー 無いよ」
 
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