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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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準決勝開始!!

 
前書き
更新するの忘れてました…… 

 
莉愛side

キンッ

センターとライトの間を抜けていく打球。それを放った背番号20は楽々二塁ベースへと到達する。

「最後は地力の差が出たね」

控え室前の通路から試合の様子を確認している私たち。六回の常成の攻撃も三人であっさりと終わり、再び東英の猛攻が始まろうとしていた。

「瑞姫、調子は?」
「投げてみないとわかんないけど、特に問題ないかな」

試合前とは思えないほどリラックスしている瑞姫。そんな彼女を見ると、少しからかいたくなってしまう。

「鎌倉さんには何を打たれたの?」
「……」

まるで何も聞こえていないように振る舞う瑞姫。それが面白くて隣でずっと問い続けていたら頭に拳を落とされた。

「お前ら、最後の東英の守り見ておけよ」
「なんでですか?」
「もしかしたら佐藤が明日も投げてくるかもしれないからな」

この日もロングリリーフだったが一発勝負の高校野球。連投とか球数とか気にしていられないのが実情。二人の投手で勝ち抜いてきた東英ならどちらが出てきてもおかしくないだろう。

七回の表にも2点を取り勝敗はほぼ決してしまった中、マウンドには大きな背番号を背負った少女が向かう。

「6番からか。点差的には多少点数を与えても問題ないけど……」

初球は外角低めへのストレート。点差など気にした様子はない完璧なボール。早いテンポから投じられた二球目は打ち気を逸らすかのような緩いボール。バッターはそれを引っ掛けてショートゴロに倒れた。

「球数どのくらい?」
「50くらいだよ。ボール球をほとんど使わないからな、佐藤は」

この人がマウンドに上がってから試合のテンポが明らかに上がった。常に自身のペースで試合を進行しようとしているようで、一切の隙が感じられない。

続く打者もたったの三球で仕留めて2アウト。常成は後がなくなった。

「……」

その様子を見ている監督はただ黙って試合を見つめている。その表情は何かを考え込んでいるようで話しかけることができそうにない。

ギンッ

「セカンド!!」

最後の打者……力ない打球がフィールドへと転がる。笠井さんがそれを軽く捌き送球、一塁へとヘッドスライディングするバッターよりも早くファーストの鈴川さんがそれを受けた。
















第三者side

整列と校歌斉唱を終えた東英学園。その間常成学園の少女たちの目に涙はなかった。

「結局東英が勝ってるじゃん!!カミュの負けぇ!!」
「人を指さすな」

周辺にいる人全員に聞こえるのではないかというほどの大きな声で話すソフィアとその手を下ろさせるカミューニ。その様子を見ていた選手たちは苦笑いを浮かべることしかできない。

「はいはい、もうすぐベンチ入るから準備して。リュシーとソフィアはすぐキャッチボールいけるようにね」
「はい」
「了解です!!」

蜂谷の言葉でそれぞれが荷物を手に取り準備を行う。カミューニはタメ息を付きながら先頭に着くと、スタンドへの挨拶を終えた常成学園がベンチに戻ったところを見てグラウンドへと一礼して入る。

道具を片付けている常成の選手たち。それを見守る監督と目が合った青年は軽く会釈をし、老人もそれに応える。

黙々と片付けと準備を行っていく両校。そんな中、常成学園の部長がカミューニへと近づく。

「なんで何も言わないんですか?」
「ん?何が?」

白々しいその態度に明らかに怒りの感情を浮かべる女性。そのまま彼女は顔を真っ赤にして詰め寄った。

「あなたの指示で私たちは負けたんですよ!!わかってるんですか!?」

その怒声はあまりに大きくて周囲にいた全員の視線が集まる。それに彼女は気付いていなかったのか相手の回答を待っていたが、彼は深いタメ息を付いて言葉を発した。

「お前、スコアブック最後まで把握してないだろ?」
「え……」
「ちゃんと指示通りに動いてれば6対4でお前たちが勝ててた。途中で欲が出てそれを捨てたのはお前らだ。勘違いすんなよ」

顔を近付け鋭い眼光で睨み付ける。それにより怯んでしまった彼女は後退りした。

「人の期待を裏切りやがって……調子に乗んなよ」

それだけ言って選手たちへキャッチボールの準備をさせるカミューニ。ようやく正気を取り戻そうとした彼女は再度彼を呼び止めようとしたが、後ろから老人に止められる。

「やめなさい」
「でも……」
「先生」

女性の後ろから声をかける少女たち。彼女たちの表情は晴れやかだった。

「私たちはあの人を恨んでなんかないです」
「むしろ感謝してます」
「だって……」

先にグラウンドを去る東英学園。彼女たちを見た後、少女たちは思いの丈を述べる。

「東英学園にこんないい試合ができたんですから」

実力の差はあった。しかしそれを最善の策であと少しのところまで追い詰めたのは彼の助言があったから。

「先生たちもありがとうございました」
「最後まで私たちを信じてくれて」
「っ……」

深々と頭を下げる少女たち。それを見て女性は抑えていたものが込み上げてきたのか、両手で顔を押さえていた。
















「お疲れさん」
「どうも」

その頃一塁側ベンチでは真田と町田が選手たちを横目に言葉を交わしていた。

「ずいぶん手こずったな」
「あんなに奇策をされるとは思いませんでしたよ」

明らかに疲労しているのがわかる青年に苦笑いを浮かべる。しかし彼はそれよりもこれからのことが気になっていた。

「あのガキ……相当の手練れだぞ」
「やっぱりあいつが裏で手を引いてたんですね」

三塁側ベンチ前でノックバットを手にしている赤髪の青年。彼は二人の視線に気付いたのか、小さく笑みを浮かべていた。

「気を付けてくださいよ、このまま荒らされっぱなしは性に合わない」
「わかってるよ。この試合であいつの鼻っ柱をへし折ってやる」

そう言って気合い十分の真田は町田とすれ違うようにベンチ前へ出る。それを見ていた青年は無言で彼を見た後、残念そうな表情でカバンを手に取る。

(あんたが痛い目見なければいいがな)














莉愛side

「瑞姫、キャッチボールいこっか」
「そうだね」

手早く荷物を置きキャッチボールへと向かおうとした私たち。すると……

「あれ?瑞姫じゃん!!」

瑞姫を呼ぶ声がする。それが聞こえた瞬間、彼女がこの世の終わりのような顔をしていたことが気になった。

「わぁ!!久しぶり!!覚えてる?」
「まぁ……一応……」
「よかったぁ!!今日もしかして投げるの?」
「そうだよ」
「いいなぁ、私なんかまだ公式戦投げさせてもらってないのにぃ」

背番号14を着けている金髪の少女。よく見たらさっきの試合スタメンで出てた人だとすぐにわかった。

「さっきも途中で代えられるしさぁ、悪いのはお姉ちゃんなのに」
「はいはい、わかったわかった」

なおもマシンガントークをしていく金髪の少女と適当にあしらう瑞姫。相手の反応など気にしていないようにも見える彼女だったが、後ろから二人の少女が彼女に声をかけた。

「ちょっと千紗!!」
「明宝はこれから試合だから!!」

千紗と呼ばれた少女と同じく試合に出ていた二人の一年生。申し訳なさそうにしている二人のうち、鎌倉さんと瑞姫の目が合いました。

「「……」」

睨み付けるような瑞姫に対し鎌倉さんは怯えた様子で千紗さんの後ろへと隠れる。二人は何も言葉を交わさないまま、瑞姫が外野方向へと走り出したので私もそれに付いていく。

「いいの?」
「何が?」
「何か言いたいことあったんじゃないの?」

中学で対戦したことがあるならそれなりに面識もあるだろうし、あの間はそんな感じの印象を与えた。

「いや、今は試合に集中したいし」

それだけ言ってキャッチボールに入ろうとする瑞姫。冷静と言うか冷めていると言うか……そんなところが彼女らしいので何かを言うつもりはないんだけどね。
















第三者side

「何々さっきの子!?めっちゃ睨んで来てたんだけど!?」

その頃足早にベンチ裏へと下がった東英学園の一年生トリオは鎌倉が怯えた様子で二人の後ろに張り付いていた。

「望美……まさか瑞姫のこと覚えてないの?」
「瑞姫?」
「さっきの睨んでた子」
「え?私会ったことある?」

キョトンとした様子の鎌倉に呆れたような表情を見せる今野と後藤。それを見て自分が間違っていることに気づいた彼女は懸命に記憶を辿るが全く記憶にないことで首を振る。

「去年シニアで対戦したじゃん」
「そうだっけ?」
「覚えてないんだ」
「そんなすごい子だったの?」
「あんた以外はみんな抑えられたからね」

それを聞くとなんだぁと嬉しそうな表情を浮かべる鎌倉。その理由がわからなかった二人は顔を見合わせる。

「私、対戦相手は自分と同等以上の人しか覚えてないから」

笑顔でそんなことを言い出す彼女に苦笑いを浮かべることしかできない。全く悪気がないだけに手に負えないその少女の発言は二人としてどうすればいいのかわからなかったのだ。

「でも決勝はどっちが来てもいいよねぇ、坂本さんもバルザックさんもいいピッチャーだし」
「そ……そうだね」

準々決勝を共に見ていたはずなのに陽香のケガのことを覚えていない彼女にタメ息が止まらない。どう説明すればいいかと考えていたところ、先を行く先輩たちに呼ばれて三人は慌てて駆け出したのだった。
















「相手のスタメン……指名打者だけ変わった感じか」

蜂谷と共に明宝のスタメンを見ているカミューニ。二人の目に映るのは六番に名を連ねている三年生。

「こいつの公式戦の記録は?」
「秋は代打で二打席ありましたけど、春、夏は出場なしです」
「ふ~ん」

それを聞いた途端一瞬で興味を失ったような反応を見せるカミューニ。それに気付いた蜂谷とスコアラーは苦笑いしていた。

「でもそのままの打順で入るってことは期待されてるってことなんじゃ……」
「だったら二回戦で指名打者を坂本にしないだろ」

明らかに力が落ちていることを察知した彼はラッキーと言わんばかりの余裕綽々ぶり。しかし進学校であるために頭のいい少女たちは不安な気持ちを抑えきれずにいた。

「渡辺さんと東さんの後を打つバッターです。警戒しておいた方がーーー」
「いらねぇ。むしろ予定通りこの二人だけ警戒してくれればいい」

敵を舐めているのかとも思える言動だったが、彼の人を見る目は確かであることをよく理解している彼女たちは何も言えない。それよりも彼が気になっているのはブルペンで投球練習を行う少女だ。

「ソフィアの調子は?」
「いつも通りですね。球も来てますし」
「冬場もずっと走らせてたからな、このくらいじゃバテないか」

安心したように笑みを見せる青年。しばらくすると、まもなく試合開始の時間になるため、選手たちを集める。

「今日の相手は日帝大と違って守備力に比重があるチームだ。でも何も心配ねぇ、お前らなら最低でも6点は取れる」

何を基準にその点数が出てきたのかは伝えないが、ここまで彼の予想が外れたことがないため少女たちはその言葉を信じ切っている。そのことが表情から感じ取れることでカミューニは小さく頷いた。

「いつも通り守っていつも通りに打つ。それをできれば勝てるからな。あと二つ、勝って行くぞ、全国」
「「「「「はい!!」」」」」

まもなく始まる試合に向けて整列の準備へ入る桜華学院。それと同じように明宝学園も円陣を組んでいた。

「今日の試合……早めに点取って瑞姫に楽に投げさせてやりたいな」

陽香が登板できない今、瑞姫一人で二日間を戦い抜かなければ明宝学園の優勝はあり得ない。それを考えれば打線の爆発が何よりも重要な課題となってくる。

「上位打線……特に三年生は死に物狂いで打てよ。後輩を助けてやれ」
「「「「「はい!!」」」」」

両校がベンチ前に並ぶと審判員が出てくる。この中で真ん中にいた男性の合図で全員が中央へと集まる。

(さてさて……面白い試合にしてくれよ)
(まずは立ち上がり……頼むぞ、瑞姫)

あくまで余裕を見せ続けるカミューニと期待と不安が入り交じっている真田。真逆な両指揮官の思考をよそに準決勝第二試合が開始された。




 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
ようやく明宝学園の準決勝です。
ちゃんと思い描いている通りの試合になるのか!?
不安半分やる気半分くらいですww 
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