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選んだ後継者

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第四章

「これもまた」
「そうですか」
「こうすればです」
「鉄の鍬の上に座れば」
「貴方の統治は平和な時は鉄で鍬を耕し」
 そうしてというのだ。
「そして戦になれば」
「その鉄で、ですか」
「そうです、剣や鎧、盾にして」
「戦ってですか」
「勝てます、ですから」
「今はですか」
「鉄の上で」
 その鍬のというのだ。
「座ってお話しましょう」
「わかりました」
 ビシュミスルも頷いた、そうしてだった。
 実際にそうして話をした、女王は跡継ぎになる彼にさらに言った。
「鉄がある限り畑を耕すことが出来て」
「実りがもたらされてですか」
「そして戦にも勝てます」
「それを私が行うのですね」
「はい、ですが鉄は手に持っておくことです」
 リブシュはこのことは絶対とした。
「何があっても」
「そうなのですか」
「敵に奪われてはなりません」
 こう言うのだった。
「断じて」
「そうすれば敵の武器となり」
「敵に実りをもたらすので」
 そうなるからだというのだ。
「決してです」
「鉄は奪われてはなりませんか」
「そうです、そして貴方はこれよりです」
 女王はさらに言った。
「これより城に入ります、その時に二つのものを渡しましょう」
「それは何でしょうか」
「鞄とサンダルです」 
 この二つだというのだ。
「菩提樹の皮で作った」
「その二つですか」
「城のそれで作った」
 菩提樹のというのだ。
「それをお渡しします」
「何故その二つなの?」
「えらく質素だけれど」
 共に座る姉達はリブシェに問うた、居並ぶ貴族達も怪訝な顔だった。
「跡継ぎの贈りものには思えないわ」
「とても」
「何故そうした質素なものを贈るのかしら」
「それはどうしてなの?」
「質素だからです」
 リブジェは姉達に答えた。
「この質素さなものをいつも見て質素さを忘れない」
「王として」
「そして贅沢に溺れない様にするのね」
「はい、質素さを忘れ贅沢に溺れると」
 リビジェはさらに話した。
「傲慢になりそこから王として大きな過ちを犯すので」
「そういえばローマも」
「そうだったわね」
 姉達はこの国のことも思い出した。
「どうしてああなったか」
「東西に分かれ西は滅んだか」
「それはやはり」
「贅沢に溺れたからだわ」
「そして傲慢になり」
「滅んだわ」
「そうなりました、ローマの様にならない為にも」
 まさにその為にというのだ。
「私達は質素さを忘れてはいけません」
「それは私の後もですね」 
 ブシュミスルは応えた。
「左様ですね」
「そうです、ではその二つも渡します」
「それでは」
「全ては予言のまま、これからは女性の慈悲と寛容に加えて」
 そうしてというのだ。
「男性の強さと厳しさ」
「その二つもですね」
「チェコは兼ね備えます、そして末永く栄えます」
 こう言ってだった。
 リブジェは姉達と共にブシュミスルを自身の居城に迎え入れ二つの贈りものをしたうえで跡継ぎとした。そして自分と姉達が世を去った後のチェコを任せた。
 チェコはそれからブシュミスルの統治の下で繁栄し今も中欧の重要な国としてある。全てはこの聡明な女王の予言からであった、この国に伝わる古い話である。


選んだ後継者   完


                 2021・11・18 
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